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第15話

【更新日時について】


書き溜めが尽きるまでは、毎日5時・11時・16時に更新いたします。


通勤・通学、お昼休みのお供としてぜひどうぞ。


【度量衡について】

この世界では皆さんの知らない単位・呼び名がされていますが、読まれている皆さんが混乱したり、一々計算し直したりしていてはお話に集中できませんので、作者の方で勝手に分かりやすい単位に変換しました。


外来語や和製英語等が出てくるのも同様です。予めご了承ください。


お金だけは簡単なのでそのままです。


1リアル=5円



待合室は一瞬で沈黙に包まれた。この場にいる誰もが(4名を除く)余りの内容に反応できてなかった。


いくらか立ち直りが早かったデズモンドが口を開く。


「それは・・・国王陛下がご提案されたのですか?」


「そうだ。俺も直に聞いた」


ギルドマスターは、王城で直接国務長官に報告する事もある為、就任中に限り爵位が与えられている。


今回は現場対応の責任者でもあった為出席した。


「他の皆さんは反対されなかったのですか?」


「もちろんした。財務大臣を始めその場にいた全員が反対した。国務長官以外は」


国務長官は反対しなかった?


確かに冒険者ギルドは国務省の管轄だが、だからといって冒険者を贔屓している訳では無いだろう。


評判を聞く限りそういう事をする人物とは思えない。



「それに対し国王陛下はなんと?」


「お前らはケチくさいな、と仰られた」



!?




皆の呆けている時間が延長した。


ギルドマスターが、国王が褒賞を発表し、財務大臣始め各大臣が反対したところから、やり取りを説明する。



財務省の官僚が資料を見ながら説明を始める。


「昨年一年間の魔石の総産出量は、3箇所のダンジョン合計で20t、昨年は1kg当たりの販売額を50万リアルと設定しておりましたので、100億リアル相当となります。そのうち50%を国内消費用、10%を緊急用の備蓄に、残りの40%を輸出しております。輸出用には関税が20%乗せてありますので、総額108億リアル相当となります」


さらに国務省の役人が続く。


「新たに発見された北国境のダンジョンですが、2ヶ月程の調査の結果、魔石の産出に関しては良好な状態であり、年間6t~7tは見込めるのではないか、という報告が届いております」


ざわ・・・ざわ・・・


会議室がざわつく。


kg50万で売れる物が最低6t、30億リアル。


その1%でも3000万リアルである。


一般人の平均年収が100万リアル程だ。


冒険者であればもちろん一般人より稼ぎは多いだろうが、かなりのお宝でも見つけ出さない限り、1000万リアルには到達しないだろう。


やはり1%は多過ぎる、誰もがそう思った。


「ふむ、皆は件の冒険者に1%の褒賞金は多いと言うか・・・では尋ねるが・・・」


国王は口髭を触りながら、会議用のテーブルに着いている各省の大臣、関連部署の役人を見渡す。


「ダンジョンが確保できていなかったら、我々には何%手に入ったのだ?」



皆押黙る。



「産出量が低く見積もっても6t相当であれば、1%で60kgだな。60kg引いてもまだ5940kg残るが、ダンジョンを確保できていなかった場合、我らは何kg手に入れられたのだ ? 答えよ財務大臣 」


財務大臣は返答に窮したが、国王の問に無言は許されない。


「ゼ、0でございます・・・」


「そうだな、0だ。しかしそれだけではあるまい。そなたらのところにも、今回の件の報告書は回覧されておるであろう? 」


皆が頷く。


「発見した冒険者が、出発後たまたま後ろを振り返らなかったら、現場の対応が鐘数回分遅かったら、ターブルロンド側に抑えられていた訳だ」


国王は口髭を触りながら続ける。


「こちらが得る6t・30億リアル相当をターブルロンドが取る。こちらは0だ。しかも、このダンジョンがあれば、我らから輸入する必要も無くなるな。昨年ターブルロンドが我らからどれだけ魔石を輸入したか知っておる者はいるか?・・・おらんのか?4t・24億リアル分だ」


何人かがハッとする。


(気がつくのが遅いわ!)


国王は心の中だけで叱責する。


「ダンジョンからの産出分で30億リアル、輸入分が24億リアル、合計54億リアルだ。こちらにはそれが入らず、相手の懐にそれだけの金が残る。ダンジョンの魔素が尽きるまで毎年だ。これはどれだけの差になるのだ」


ダンジョンの魔素が尽きた、という現象は今のところ確認されていない。即ち事実上の「永遠」である。


「輸入する必要が無ければ、こちらの顔色を伺う必要もない。その他の交渉も強気になってくるであろうな」


ターブルロンド側は輸出してほしいが、エストリア側は別に輸出しなくても良いのだ。


他に売る相手もいるし、備蓄しておいても腐る訳でも無い。


「それが、あの鐘数回分の時間の中に全て詰まっておったという事だ。発見者は今幾つだ?24だったか?仮に後50年生きたとしても払うのは・・・15億リアルか。しかし、冒険者だからな。もしかしたら来年には死んでしまう可能性だってある。そうなれば支給は終わりだ。で、54億を50年分は幾らになるのだ?」


「2700億です」


国務長官が答える。国王の話の流れから既に計算していたのだろう。


「支払うのは最大でも15億。得られる見込みは2700億。2685億の黒字だ!それを思えば年3000万ぐらいの褒美など何だと言うのだ!ケチくさい事を言うな!」


「という訳だ」


皆言葉も無い。


「解った。そこまでお考えなら有難く頂くよ。でも、使い道に関してなんだけど、マスター後で相談に乗ってよ。前から考えていた事があってさ」


「ふん?承知した」


話の区切りが着いたところで、男がひとり前に出てくる。


「ちょ、ちょっとええか?さっきの短剣を見させてくれねぇか?」


前に出てきたのは、ギルド所属の鑑定士であるマッケイ爺さんだ。


職業訓練校を卒業後ずっとギルドで鑑定士をしているというから、60年にはなる。


国内のギルドにいる鑑定士は、ほぼ全員が、この人の弟子か孫弟子であるという。


とんでもない逸品が出てきて辛抱たまらなくなったらしい。


手袋をしてそっと手に取り、ためすがえす眺める。完全に仕事の時の眼差しだ。


「ふん・・・この鞘のデザインからして、王国中期頃ぐらいか・・・だいたい1000年~900年前ぐらいの物だな。鞘にも『保護』の魔力付与がされておる・・・あと、この柄の形、指に合うように少し波形になっているじゃろ。オーダーメイドで作ったものだったのかもしれんな」


鞘から抜いてさらに眺める。涼し気な音が鳴る。まるで楽器のようだ。


「魔力付与も・・・この魔法陣は『鋭利化』と『硬化』だな。かなり強く掛かっている様だ。これならダンジョン深層の魔物でも、バターの様に切れるだろうし、刃こぼれもしねぇな」


「おいおいマッケイ爺さん、まだ途中なんだ。続きは終わってからにしてくれ」


ギルドマスターも苦笑いだ。


「おっと、すまねぇ。あんまりにもすげえ物ががでてきたもんで、ついな・・・。邪魔したぜ」と言いながら短剣をトレーに戻し、後ろへ引っ込んだ。



咳払いをしながらギルドマスターが言う。


「では、最後にこれはギルドからの褒賞だ。ダンジョンは俺達の飯の種だ。それを増やしてくれたお前さんに対する感謝の表れだ。アーティ、目をつぶって手のひらを出せ」


目を閉じて素直に手のひらを上にして出す。


すると、何やら硬く冷たい感じの、板の様な物が手に載せられた様だ。


「よし、開けていいぞ!」


ゆっくり目を開けると、手には金属製のプレートが載っていた。


プレートの表面には大きく「アリステア」と彫られ、その下には小さく出身地が、裏にはギルドの紋が刻印されている。


「冒険者証」だ。


しかし金色だ。


(金の冒険者証!)


そんなもの見た事が無い。


(吟遊詩人のお話の中だけだと思ってた・・・)


アリステアが呆然(今日3回目だ)としていると、ギルドマスターが口を開く。


「前述した3つの功績により、エストリア王国王都冒険者ギルドマスター ハインラインは、銀級冒険者アリステアを、金級冒険者に認定する事を宣言する!以上だ!おめでとうアーティ!そしてありがとう!これからもよろしくな!」


待合室は今日一番の歓声に包まれ、拍手、口笛が鳴り響く。謎の3人組(笑)も立ち上がり笑顔で拍手している。


笑顔のアリステアの目からは涙が溢れこぼれる。


金級冒険者は、王国600年の歴史の中で、過去に2人だけ認定されたことがあるという。


1人は350年前、当時西の国に住んでいた蛮族の侵攻に対して、隕石を召喚する「メテオ」の魔法を唱えその軍勢を退けた魔術師。しかし、極限まで精神力を振り絞った事により廃人になってしまった、「心が壊れた魔術師 アイザック」


もう1人は、180年前、素材採集の為に出向いた山で洪水の予兆を察知し、下流の町の住人400名の避難誘導を行い、自身はそのまま行方不明になってしまったという薬師。薬を用いず皆の命を救った「無薬の薬師 クーンツ」


どちらも、吟遊詩人の歌の題材として定番の人物である。



アリステアは、一つ気になった点をマスターに尋ねる。


「私、死んでないけどもらってもいいの?」


「・・・別に死んだから認定するというわけじゃねえぞ。それはたまたまだ。その功績にふさわしいかどうかということだ。いらねぇなら仕方ねぇが・・・」


「い、いるよ!いります!ありがとう!」


慌ててその胸に押し抱く。


(みんなありがとね。大事にするよ・・・)


いつの間にか、あの謎の3人組(笑)の姿はなくなっていた。結局何者だったのか、それは謎のままだ。


その日アリステアは、部屋に帰ってからも、冒険者証を取り出す→眺める→触る→布で拭く→仕舞う→ミスリルの短剣を取り出す→眺める→抜く→拭く→仕舞う→冒険者証を取り出す→をひたすら繰り返していたのだった。



ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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