第157話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
魔術学院からヴァンガーデレン家を経由して王城へやってきました。偶然、視察(という散歩)から戻ってきたイングリットと鉢合わせ。昼食後の面会を約束し、一旦別れます。
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案内された談話室で、アリステアとハインライン、デズモンドは、お茶を前にソファーで寛いでいた。
話は、自然と先程会ったイングリットの事になる。
「アーティ、俺はイングリット殿下にお会いしたのは初めてなのだが、随分と、こう……」
デズモンドがお茶のカップを片手に辺りを見渡す。自分達しかいないのは解っているが、それでも言い出しづらい様だ。
「あぁ、うん、解るよ。でも、さすがにあそこまでポンk……可愛らしいのは、キースを相手にした時だけだからな?それ以外では、まさに次期国王に相応しい王女殿下だぞ?」
「あぁ、そうなのだろな……その王女殿下をしても、一人の少女に変えてしまう。お前さんの孫は大したものだ」
「……これに関しては、喜んで良いのか正直微妙だけどね」
アリステアは、基本キースが褒められると無条件で嬉しいのだが、この件については困惑の方が強い。『名誉な事ではあるが、なぜこんな事になってしまったのか』という感じである。
キースの希望である『自由に冒険者を続ける』と、イングリットの希望である『王配として支えてほしい』は、基本的に両立しないからだ。
彼の人生なのだから、自分の求めるがままに生きてほしいとも思うし、女王の隣で存分に腕を振るい、強国であるエストリアを動かす姿も見てみたい。
(今すぐ答えを求められている訳ではないにしろ、数年の間には最終的な返答をしなければならないよな……さて)
そんな事を考えながら、アリステアは窓際へと目を向ける。視線の先では、窓際のテーブルで、ご婦人方の相手を勤めるキースの姿があった。
「皆さん、これは先日討伐したドラゴンの牙を素材に使ったお守りの試作品です。ぜひ使用感をお聞かせ願いたいのですが……」
そう言いながらそれぞれに渡してゆく。
パッと見はごく普通のペンダントだ。トップ部分は縦3cm、横は2cm程の大きさ、扁平の涙型で、肌と接する側に魔法陣が描かれている。
「こんな小さなところに魔法陣を刻むなんて……さすがキースですね」
エヴァンゼリンがトップ部分を手に取り感心する。
「あ、そこはですね……『転写の魔法陣』で写し取った魔法陣を、縮小して貼り付けているのです。なので特には凄くないのです」
恥ずかしそうに頭に手をやり笑う。可愛い。
(その『縮小して貼り付ける』という事が意味不明なのですけど……まあ、そこはキースですし)
マリアンヌは、エヴァンゼリンとキースやり取りを聞きながら、早々に理解する事を放棄した。
「あら!?服の内側がひんやりしてきました!」
早速起動したリーゼロッテが、感激した声をあげる。それを聞いたエヴァンゼリンとマリアンヌも起動した。
「確かに!これは……風では無くて……僅かな冷気がトップから滲み出てくる、という感じでしょうか?とても気持ちが良いですね!」
「ですが、もう少し冷えても良いのではありませんか?夏場は暑うございますし……」
生地の厚さを透けない程度に薄くしたり、素材自体を風通しの良い物にする事はできても、さすがに貴族が半袖半ズボンという訳にもいかない。田舎の農民では無いのだ。
「ふふふ、理事長先生、そこは織り込み済みでございます!ここは屋内なので感じづらいのですが、皆さんの身体は魔力で一枚覆われておりまして、それが熱を遮断しています。冷やしつつ熱を遮る為、冷気自体は少しで十分なのです!」
「キース!素敵です!」
ご夫人達は寄ってたかってキースの手を取り、頭を撫で回した。緩い格好ができない貴族達の、夏の暑さ問題は切実だ。王城の室内や各家の屋敷の部屋の天井に、魔法陣を仕込んだリもしているが、金も魔力もかかる。
「皆さんもどうぞ!ご意見ご感想お待ちしております」
いつの間にか近くに来ていたアリステアやデズモンド、ハインラインにも配る。『転写』で作れる為、かなりの数がある様だ。
「商品化する時はペンダントトップの素材を変えれば、高級路線から廉価版まで作れますね。一般市民にも普及できるのではないでしょうか」
「ミスリルで取っておきの一点物とかどうでしょう?でも、さすがにもったいないか……」
アリステア達がペンダントを首に掛け、服の内側に落とし込んでいると、扉が開いて先程案内してくれた側仕えが入ってきた。
「皆様お待たせいたしました。ご準備整いましたのでご案内いたします」
その声を受けて皆席を立ち、談話室を後にした。
部屋はいつもの『碧玉の間』である。入ると、イングリットだけでなく、アルトゥールとティモンド伯爵も揃っていた。
これも、いつもの様にリーゼロッテが代表して挨拶し、席を勧められる。
「おう、ハインライン!久々じゃのう!元気そうでなによりだ!」
まずはアルトゥールが口火を切った。
「はい、陛下を始め皆様のおかげを持ちまして、何とか細々と命を繋いでおります」
「何が細々とじゃ!お主の命は極太のしめ縄だろうが!」
「これはこれは、何を仰られますか!陛下も似た様なものでございましょうに!」
そう言って高らかに笑いあう。お互い90も半ばになれば、ネタにもしやすい。
ひとしきり笑った後、アルトゥールはハインラインの隣に座るデズモンドに視線を移す。
「デズモンドもまだ息災であったか。お主とは何年ぶりじゃ?わしが憶えているのは、ハインラインが引退する時の式典じゃが……そうすると30年以上前だの」
「これは……まさか私ごときの事を憶えていただけているとは……感激でございます」
デズモンドは驚きに目を見張り、頭を下げる。
「銀級冒険者は国にとってもそんな安い存在では無いからの。勿論憶えておる」
アルトゥールは唇の端を上げてニヤリと笑った。
「それにしても、今日のこのメンバーはなんなのだ?高齢者ばかりではないか!エヴァ、どうなっておるのだ?」
「一番の高齢者が何を仰いますか。それに、いくらワタクシが老女でも、女性にそのフリは失礼でございますよ」
エヴァンゼリンが静かに、だが力強く抗議する。
(好きな女の子に意地悪をする子供みたいだな……)
そんな事を考えつつキースはお茶を一口飲む。
「そ、それにしても、ハインラインにデズモンドときたら、『北国境のダンジョン』を思い出すのう。あとはアリステアがおれば完璧じゃったのに」
と、話を逸らしつつ何故かアリステアの方を一瞬見る。
(これはやはりバレているのだろうか……)
「して、今日はどうした?このメンバーでは用件が全く見えてこんのぅ」
リーゼロッテがキースを見る。その視線に小さく頷くキースが話を切り出す。
「本日はご提案とご報告をさせていただきます。最初に、以前ここにいる皆様に結んでいただいた魔術契約を破棄いたします」
キースが紙束をテーブルの上に置く。
「事ここに至りましたので、こちらはもう不要でございます。陛下にお話もできませんので。ヴァンガーデレンの奥様方には、先程署名していただいたばかりですのに、申し訳ありません」
「あの場では必要であったという事なのでしょう?気にする必要はありません」
「ご理解感謝いたします」
キースは紙束に手のひらを乗せ、魔力を流し「解除」と呟く。紙束は一瞬青白く光ると、煙となり消えた。
「キースよ、あの魔術契約、破ったらどうなっておったのだ?ほれ、よく言うではないか、カエルや石像になるとか」
アルトゥールが身を乗り出し気味に尋ねてくる。興味津々の様だ。
「……喋ってしまった次の瞬間から24時間、言葉を発する事ができなくなる、その理由も説明してはいけない気分になる、というものでございます」
室内は妙な沈黙に包まれた。アルトゥールを始め、皆ポカーンとしている。
「それだけか?」
「はい」
「なんじゃ、それならそれ程大した事無かったのぅ」
アルトゥールは明らかに拍子抜けしていたが、イングリットやティモンド伯爵は、その状況を想像し青い顔をしていた。
「陛下、これはある意味大変な罰でございます。喋る事ができず、それを説明もできない。どんなに大事な要件があっても、それこそ条約を結ぶ様な式典でも、出席はできても喋らなかったらどうなりますか?」
「もしダンジョンで魔術師が『沈黙』状態になったら……パーティが全滅してもおかしくありません」
「これは、家で引きこもっているしかありませんね」
「い、言われてみれば確かにそうだの……キース、そなたも結構えげつないのぅ」
「お喋りに対する罰でございますので」
キースは爽やかな笑顔を返す。
「すまんな、話の腰を折ってしまった。それでは話を聞こう」
「はい、まずは『魔法の新しい形態の発見とその指導について』でございます」
キースは、『呪文』の発見に至った経緯と、現時点で習得している人物、魔術学院での展示と在校生への教育、指導官の人手不足を説明した。
「……その隠し部屋もじゃが、そんな手順がよくこれまで発見されずにきたものよ……キース、これはまさにエストリアの秘術とすべきものだろう。ぜひ国が主導して習得を進めていきたい」
「はい、私もそう考えます。そして、先日、デズモンド師が指導官にと名乗りをあげてくださいました」
「デズモンド師、ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「とんでもございません殿下。日々無為に過ごしておりますゆえ、この様なお役目と新たな技術を学ぶ機会までいただきまして、感謝するのは私の方でございます」
「冒険者ギルドには、指導官就任を希望する魔術師がいないかどうか、確認する様に指示を出しています。もし集まりきらなかったら、その時は引退済みの魔術師に声を掛けます。冒険者証の個人記録がありますので、比較的容易でしょう」
ティモンド伯爵が国務省の対応を報告する。
「いつまでも最前線で活動するのはやはりしんどい。引退したいが、その後の生活を考えるとできない、という者もおるであろう。そういう者にはうってつけなのではないか?」
アルトゥールの言葉に皆頷く。
「あともう一点、近衛騎士団の魔術師部隊にも習得してもらうべきでは、という意見がでております」
「それは良いですね!これは必須技能といえるのではないでしょうか。ここに騎士団長と副団長に来ていただいて、説明いたしましょう」
イングリットは、面会内容を記録する為に用意していたメモ用紙に何やら書きつけると、側仕えを呼んで渡す。
「これを近衛騎士団長宛に送ってください」
「かしこまりました」
「では陛下、ご両名が来られるまでの間に、こちらの『呪文』の指導書をご覧下さいませ」
キースが指導書をアルトゥールに渡す。
「……何やら凄いタイトルじゃのう……どれどれ……」
アルトゥールはページをめくり出した。
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