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第155話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】



『呪文』とその指導官、補佐官達の件とキースとの今後等について、イングリット殿下とマリアンヌ理事長で話し合いを行いました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



マリアンヌがイングリットと面会している頃、アリステアとキースは、ヴァンガーデレン家の屋敷で、エヴァンゼリンとリーゼロッテに面会していた。


ウォレイン男爵こと、王都冒険者ギルドの元マスターであるハインラインを、北西国境のダンジョンの管理官として推薦する際の口添えを頼みに来たのだ。


「確かに、あの役職の調整については難航しているという話は聞いています。陛下も殿下もご不快に思っているとも」


「陛下ともの繋がりもございますし、現役時のお役目からも、ウォレイン男爵なら適任と言えるでしょう。口添えは問題ありません。ですがキース」


エヴァンゼリンが一旦言葉を切り、キースをじっと見つめる。


「男爵が元冒険者で並外れた丈夫さをお持ちとはいえ、流石にこのお歳で北西国境のダンジョンへ赴任させてそこで暮らせ、というのはいかがなものでしょう?」


「そこにはタネと仕掛けがございまして」


そう言いつつ書類筒から紙を2枚取り出し、二人の前に置く。魔術契約書だ。


「いつもお願いばかりで恐縮なのですが……」


キースは申し訳なさそうに小さくなっているが、二人は一読するとサインをして、魔力登録をする。


「お母様、遂に私達も本当の仲間に加えてもらえた様でございますね」


「ええ、待ち焦がれていましたよ。移動に関する秘密を教えていただけるという事で良いのですね?」


キースは軽く目をみはる。


「……お気付きでしたか」


「おかしいとは思っておりました。北西国境と王都の距離を考えると、頻繁にこちらに来過ぎではないか?と。一日二日ならまだしも、何日分も誤魔化すには少々無理がありますよ?」


「ご指摘の通り、私達は『転移の魔法陣』で移動しておりまして、北西国境のダンジョンとは、王城内と冒険者ギルド本部で繋がっています。ゆくゆくは一般利用もできる様にと、話が進められています」


「おお……やはり……キース、貴方という人は……」


魔術師でもあるエヴァンゼリンは、興奮のあまり両手で口を覆い、頬を紅潮させ目を潤ませる。


対して、リーゼロッテは静かだ。表情もほとんど変わっておらず、顔色はどちらかといえば白い。


(何か気になる事でもあるのかな?)


「リズ様、ご懸念を聞かせていただけますか?」


「……世紀の発明と言っても過言ではありませんし、素晴らしい事だとは思うのですが、運用と開始までの準備と手間の事を考えたら、冷静になってしまいました」


王城で仕事をしていた頃は優秀な文官だった、リーゼロッテらしい理由だった。


「ご懸念はごもっともです。実際に運用できる様になるには、まだまだ時間が掛かるでしょう。中途半端な状態での稼働は混乱の元。もちろんその辺は陛下も殿下もご理解されていますが」


「となると、『新しい部署ができるらしく人が集められている』という噂は、これに繋がるのですね。既存の部署だけでは対応しきれないでしょう」


「私達もその様に聞いております。それで、内緒のお話にはまだ続きがございまして……」


キースは、『呪文』、『セクレタリアス王国が滅んだ理由』、『エレジーアの部屋』、『各種魔法陣の契約』についても、自作の冊子を用いながら説明した。


「……『転移の魔法陣』の魔法陣といい、今年は歴史の転換点となった年ですね」


エヴァンゼリンは大きく息を吐いて、お茶を飲む。


「お母様、未来の人々が今年の出来事をまとめた記録を見たら、きっと書き間違えだと思うでしょうね。『これだけの事が全部同じ年に起こっているなんて有り得ない!』と」


「ええ、長生きはするものです。この歳になってこれだけの『初めて』が経験できるなんて。それでキース、ウォレイン男爵の件は、この後すぐに話をしに行くのですか?」


「まずは、ウォレイン男爵とデズモンドさんと合流し、理事長先生にデズモンドさんの指導官希望の話をしてまいります」


「キース、デズモンドとはあの銀級冒険者のデズモンドですね?」


「はい、エヴァ様はあの方にご縁がおありですか?」


「直接話をした事は無いのですが、アリステアが現役だった頃からその名は響いていましたからね。そうですか……まだ生きていらしたのですね」


「『呪文』に興味を持っていただけた様で、指導官役を快諾していただけたという事です。私も、小さい頃から憧れていた方なのでお会いするのが楽しみです。王城へ向かうのは昼食後と考えておりますが、ご都合いかがでしょうか?」


「それで構いません。私達も午後一番に出られる様に準備を整えておきます。王城へ向かう際に寄ってください」


「承知致しました。お手数おかけしますがよろしくお願いいたします」



アリステアとキースは、ヴァンガーデレン家の屋敷を出てそのままウォレイン男爵の屋敷へと向かった。


「キース、そこの店がダンジョンの食堂の本店みたいだな」


「ほんとだ!看板に『フローリア』と書いてあります!……入口の前に何人か並んでますけど、まさか開店待ちでしょうか?まだ鐘1つ半ぐらいありますよ!?凄いな……」


キースが目を丸くする。星の数程飲食店がある王都では、これはとても珍しい光景だ。


「ダンジョンの食堂の料理人もかなりの腕達者だと思うが、その師匠や先輩達が作っているのだものな!ぜひ一度皆で行きたいところだ」


美味しいもの好きのアリステアが目を輝かせる。


「そうだ!授与式の後に、3パーティ合同で打ち上げとかいかがでしょう?」


「それは良いな!だが、これは何度も打ち上げをする事になるのではないか?『コーンズフレーバー』にも行かないとだろうし」


「それに、ヴァンガーデレン家からもご招待を受ける気がします……」


「あぁ、十分に有り得るな……」


アリステアは『キースあーん事件』を思い出し、ちょっと憂鬱になった。


管理官就任について口添えをお願いしている様に、拒否反応はだいぶ薄れてはきているが「あの二人相手に気を許すと、あっという間に取り込まれる」と今も思っているのだ。



ウォレイン男爵の屋敷に辿り着き、外壁沿いに歩いてゆくと、外壁の飾り格子の向こうに目当ての人物の姿が見えた。


今日も腕を大きく振り、早足&大股で歩いている。


「キース、あれがウォレイン男爵こと、王都冒険者ギルド元ギルドマスター、ハインラインさんだ」


「あの方があの……」


勢い良く歩く姿にキースの目が輝く。


他の冒険者と共に『北国境のダンジョン』を確保し、『新人教育』の制度の確立と、長年に渡りその制度の管理と適正な運用を果たした、伝説のギルドマスター。


ギルドマスターは、在職中に限りその業務の特性から爵位を与えられるが、彼は引退する際に、その功績を称えられ男爵位を賜った。


「おはようございます男爵!」


アリステアが挨拶の声を掛けると、足を止め振り返ったが、明らかに驚いた顔をしている。


(……挨拶と言葉遣いか。キースがいるのだから仕方が無いだろう)


「……おう、おはよう。門から入ってくれ。デズモンドもさっき着いたぞ」


「承知しました。お邪魔します」


一緒に食事をした事もあり、すっかり打ち解けたマルゼに案内してもらい応接室に入る。そこには、ソファーに座り、冊子を片手にブツブツ呟いているデズモンドの姿があった。集中している様で、二人が入ってきた事に気が付いていない様だ。


(あれ『呪文』の指導書だ!あ、あのデズモンドが僕の作った本を見て勉強している!)


感激の余り、目を潤ませ震えるキースを横目で楽しみつつ、アリステアはデズモンドに声を掛ける。


「デズモンドさん、おはようございます」


「……おはよう。すまんな、全然気が付かなかった。<隠蔽>の魔法か?」


「そんなもの掛けていませんよ。集中されていたからでしょう。いかがですか『呪文』は?」


「非常に興味深いな。まだ発動には至っていないが、手応えは感じている。発動だけなら、そう遠くないうちにものにできそうだ」


デズモンドはそこで言葉を切ると、感激しっ放しで頬を赤く染めるキースに視線を向ける。


ローテーブルに指導書を置き、ソファーから立ち上がるとキースに向かって歩いてくる。


「はじめましてキース先生。銀級冒険者、デズモンドです。よろしくお願いいたします」


キースの目の前まで来ると右手を差し出しながら挨拶した。


「~~~~!いえ、あのっ、先生だなんてそんな!いやっ、デズモンドさんに、えっ、どうしよ」


その手を両手で握り返しながら、まさかの『先生』呼びに慌てふためく。


「あなたが作成した指導書を読んで学んでいるのです。『先生』と呼ぶのが当然です」


「ま、まぁ、それは確かにそうかもしれませんが……」


「魔法陣も拝見しました。どれも緻密で美しく、それでいて凄まじい。感服しました」


「あぁ、もう……アーティ、どうしましょう……あのデズモンドさんが……嬉しすぎてどうにかなりそうです」


キースは浅い呼吸を繰り返し、その顔は、色々な所から出てきた液体で大変な事になっていた。


「おいキース、過呼吸になるぞ!息を止めろ!……よしよし、ゆっくり吐け……大丈夫大丈夫」


アリステアが背中を擦りながらハンカチで顔を拭く。


「はぁ…………大丈夫です。ありがとうございます」


「待たせたな……何やってんだお前達?」


着替え終わったハインラインが部屋に入ってくる。


「いえ、ちょっと挨拶を」


「挨拶といえば、まだしていなかったな!久しぶりだなキース!活躍は聞いているぞ!大したもんだ!」


「あ、はい、ありがとうございます……?」


「男爵、前回キースに会ったのは赤ん坊の頃だと言ってましたよね?『久しぶりだな』と言ったって憶えている訳ないでしょうに」


「まぁそうだがよ!一応な!」


そう言いながら高らかに笑う。声も大きく大変な迫力だ。


(ほんとこの国の年配者はみんな元気だよな……)


アルトゥールとハインラインが90半ば、エヴァンゼリンとデズモンドが80半ば、アリステアや『コーンズフレーバー』のイネスが約70歳と、キースの周りにいる高齢者はまだまだ元気な人ばかりである。


「よし、じゃあ早速行くか。理事長の都合は分からんがとりあえず学院で待っていれば良いだろ」


「ええ、馬車を回してきますのでお待ち下さい」


アリステアが馬車を取りに行き、キースがアリステアの監視の下馭者を務め、魔術学院へと向かった。

ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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