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第154話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


イングリットの補佐官3人組は、魔術学院の理事長マリアンヌに面会し『先生』の情報を求めました。ですが、マリアンヌは「殿下がはっきり言わないのにそれを私が明かす事はできない」と拒否。いくつかの情報を出すに留まりました。補佐官達は、その情報を元に独自に調査する事にしました。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


翌日、マリアンヌはイングリットに面会を求め王城の面会受付に来ていた。


すぐに部屋に案内され、部屋の壁に掛けられた風景画を眺めながら待つ。


(さて……何からお話しましょうか……)


『呪文関連の詳細』『セクレタリアス王国が滅んだ理由』『補佐官達の動きと先生』『キースへの結婚の申し込み』『転移他の魔法陣について』とネタは尽きない。


イングリットは忙しい。だが、今後に向けて調整し、決めておかなければならない事もある。


『呪文』の事だけは、昨日のキースの実演の後に使者を出し、更にそこから『物質転送の魔法陣』で直接やり取りをし、新たな指導事項として加える事の許可を貰った。


(キースから預かっている資料がある事柄については、まずは読んでいただいて補足するという形にすれば時間を省けるわね。その他については……)


そこまで考えたところでイングリットが部屋に入ってきた。


「殿下、ご無沙汰しております。お忙しい中お時間いただき感謝致します」


「理事長先生、お疲れ様です。今日はよろしくお願い致します。どうぞお掛けください」


二人が席に着くと、側仕えがお茶とお菓子の用意を整え退室して行った。


「それにしても、昨日のお話はまた凄い内容でしたね!昨夜は楽しみで寝付けませんでした!」


「うふふ、それでは早速お話を始めましょう。まずはこちらをどうぞ。キースから殿下へお渡ししてほしいと預かっている資料です」


マリアンヌは、二冊の写本をイングリットに渡す。


「これは……キース先生のお手製ですか?」


「はい、昨日話した『呪文』についてと、セクレタリアス王国の王都と街が、跡形も無い理由をまとめたものになります」


キースお手製と聞いて写本を眺めていたイングリットが、弾かれた様に顔を上げる。


「あのクレーターができた理由が解ったのですか?」


直径数km、王都跡のものなら10kmを超える、草木も生えず動物も住み着かない謎のクレーター。滅ぶにしても、建物の瓦礫一欠片すら無いというのは明らかに異常である。


その理由が判明したと聞けば、興味を持っている者なら、皆同じ様な反応をするだろう。


「はい、この説を裏付ける資料は無いのですが、ほぼ間違い無いかと」


「あの、理事長先生?資料は無いけど間違い無い、というのは一体……?」


「これはキースから教えられた話なのですが……当時の事を知っている方から話を聞いたそうなのです」


「当時、ですか?」


イングリットは眉間にしわを寄せ首を傾げる。


「はい、セクレタリアス王国が存在していた頃を知っている人物にです」


「……?」


イングリットはますます意味が解らない、という感じだ。


(そうよね、これじゃ分からないわよね)


「殿下もご存知の『北国境の遺跡』、あそこにはこれまで誰も見つけられなかった隠し部屋がありまして。キース達が魔物暴走を鎮めた後に、そこを見つけたそうなのです」


「あの城塞跡にそんな部屋が……」


「はい、扉は魔法陣で隠され、室内は保護の魔法陣の効果で当時のままで残されていたそうです。そして、部屋の主は……あのエレジーアです」


「!? エレジーアの私室がそのままの状態で残されているのですか!?」


イングリットは驚きに目を見張る。


「はい、壁三面は床から天井までの高さの本棚で、そこにはびっしりと本が詰まっているそうです。数は1000は超えるだろうとの事です」


「エレジーアの蔵書がそんなに……凄い……ですが、そこに資料があった、という話では無いのですか?あ、でも、エレジーアは王国中期に存在していた人か、滅んだ理由が分かるものがそこにある筈ないですよね」


「はい、代わりに違う物があった、いえ、これは正しくありませんね。『違う者が居た』そうです」


「……『居た』のですか?まさかそれが……当時を知るという方なのですか?」


「そうです。『居た』のです。意思疎通のできる大きな熊のぬいぐるみが」


「…………は?」


(私も昨日こういう顔をしていたのでしょうね)


「その熊のぬいぐるみには、エレジーアの意識と記憶が移されており、キースは、北西国境のダンジョンを確保した後その部屋に入り浸り、エレジーアであるそのぬいぐるみと様々な知識を交換したそうです。ちなみに、意識と記憶を移す技術に関する資料は見つかっていないとの事です」


イングリットは、キースと大きな熊のぬいぐるみが隣あって座っている姿や、キースが熊のぬいぐるみに話し掛けている絵面を想像して、そのあまりの可愛さに震えた。


「……では、その、熊のぬいぐるみというか、エレジーアがクレーターになった原因を教えてくれた、という事なのですね?」


「その通りです。それがこちらの冊子に書いてあります」


「では、ちょっと失礼して読ませていただきます」


イングリットが手に取り読み始める。マリアンヌは静かに読み終わるのを待つ。


イングリットが冊子を閉じ、大きく息を一つ吐いた。


「セクレタリアス王国というのは、一体どれ程の国だったのでしょうか。魔力が街中に充ちていたなんて……」


「その様な生活、為政者としてはいかが思われますか、殿下」


(……これは答えに気を付けないといけないやつね)


「正直、さぞかし快適で便利だったのだろうと思います。ですが、結局それが理由で滅んでしまいました。人の身には過ぎた力だった、という事ですよね?それは私の目指すところとは違います」


「はい、この仕組みを作り上げ稼働させる為の知識と人材、とても今のエストリアでは無理でございましょう。キースが100人ぐらいいれば可能なのかもしれませんが」


(先生が100人!それだけいたら、一人ぐらい王城に住んでくれるかしら)


などと思ったが、口から出たのはさすがに別の事だった。


「それに、費用が大変な事になりそうです。どれだけ掛かるのか想像すらできません。それを考えれば、もっと違う事にお金を使った方が良いでしょう」


「はい、遠い未来ならもしかしたら、という可能性はあるのかもしれませんが、当時の設備に関する資料が残っていない以上、現代では全くの未知の技術です。全てを一から作り上げて完成し稼働するまで何年掛かるのやら……50年、100年で済むとはとても思えません」


マリアンヌは左右に首を振る。


「その辺りは未来の子孫に期待するしかありませんね……それで、こちらの冊子が昨日のお話の『呪文』というものですね」


嬉しそうに手に取り、表紙を撫でる。


表紙には『誰にでもできるやさしい魔法 初めてでも解りやすい入門書の決定版! 未来の大魔術師は君だ!』と書かれている。セクレタリアス王国の魔術師に敬意を表し、原書のコピーをそのまま採用したが、それはキース達以外は知らない。


「理事長先生は、その、詠唱からの発動をご覧になったのですよね?いかがでしたか?」


「いくつか発動してくれたのですが、そのどれもが尋常ではありませんでした。まあ、発動しているのがキースですから、どちらにしても大変な効果なのですが……ですが、あれは確かにエストリアの秘術と定めても差し支えないかと」


「そうですか……また一つ先生の功績が増えましたね。それで、これを学院で指導をするというのが昨日のお話ですよね?」


「はい、その予定です。ただ……現在の課程を削る訳にもいきませんので、課外後の自由参加という形を取らざるを得ません。後は、教える側の問題もございまして……」


「人手不足、ですか?」


「はい、はっきり言ってしまうとそうなります」


通常の指導その他に加え、自分が呪文を使いこなせる様練習し、更にそれを生徒に教える。これは大変な事だ。


「呪文専門の指導官を勤めてくれる方を探そうと考えていますが、果たして、そう簡単に見つかるかどうか……」


マリアンヌが頬に手を当て溜息をつく。


「確かに……全く新しい手法ですから、指導開始は早ければ早い方が良いと思いますし」


「はい、5年生にも卒業までにきちんと発動できる様になってもらいたいですから。もちろん私も取り組みますが」


「国務長官から冒険者ギルドに指示を出して、手隙だったり、最前線から引退を考えている魔術師がいないか、確認してもらいましょう。もう辞めようと考えているけど踏ん切りがつかない、という方とかきっといると思うのですが」


イングリットが対応をメモに控えながら言う。


「それはありがたいですね!それと、既に引退されている方でも良いと思うのです。魔術師は好奇心や知識欲の塊みたいな人が多いですから。自分の知らない発動手順があるなんて知ったら、我慢できないに決まっております」


「それは確かに!私も似たり寄ったりでございますし」


「同じくでございます」


二人で笑顔を見合わせる。


「では、指導担当者が見つかりましたら、その都度ご連絡いたします。各学年交代要員を含め2名いればと十分かと。それでは次のお話なのですが……」


マリアンヌが切り出すと、イングリット呼び出しのベルを3回振る。すぐにお茶の用意を整えた側仕えが入ってきて、お茶を入れ替えていった。先程とは茶葉が違う様で香りが違う。


「昨日、補佐官の方達が『先生』という人物については心当たりがないか?と訪ねて参りましたよ」


「ああ……さすが私の補佐官達ですね。その日のうちに理事長先生に確認行く事を思い付くなんて」


イングリットも苦笑いだ。


「『殿下が仰らないのに私が言う訳にはいかない』とお断りしましたが、なんの害も無い人物だから心配するな、とだけは言わせていただきました。納得したかどうかは分かりませんが……」


「そうですか、お手数お掛けしまして……ありがとうございました」


「……皆さんとても心配されておりましたよ?言ってしまっても良いのではありませんか?」


「別に、彼らに内緒にしようと思っている訳では無いのですけど……何というか……」


何やら歯切れが悪く、煮え切らない。イングリットらしくないとも言える。


(あぁ、これは……なるほどね)


「少々照れくさい、気恥しい、という感じでございますか?」


「はい……知っておいてもらった方が色々スムーズな事は解ってはいるのですが」


「殿下、なぜそうお感じになるか分かりました」


「こ、これだけでお分かりになるのですか?」


イングリットはマリアンヌの言葉に驚き目を見開く。


「はい、理由は二つございます。一つは、殿下が補佐官方の事を『家族』または『家族同然』と思っている事。もう一つは、キースが殿下の想い人だからでございます」


イングリットは目に見えて慌てた。


「え、あ……ご存知……なのですね?」


「はい、先日本人から。まさか殿下が、初対面の男性に結婚を申し込む様な情熱をお持ちだなんて……さぞかし皆さん驚かれたでしょうに。それ程までに気に入ったのですか?」


「気に入ったなんてそんな……正面から顔を合わせて目があった瞬間、『あ、結婚しなきゃ』と思ってしまって……気が付いた時にはひざまづいて手を取っていました。今思い返すともう……」


顔を赤くし俯く。


(こりゃ相当だわね)


「そうでしたか……さすがはキース、と言いたいところですが、彼の事は置いておきましょう。殿下のその、補佐官らに対して照れくさい、気恥しいと感じる心は、殿下ぐらいの年頃であればごく一般的なものでございます」


「そうなの……ですか?」


「はい、彼らとは毎日同じ部屋で過ごし、共に食事を取り、仕事から日常の事まで様々な話をされておりますよね?普段の殿下に一番近くまさに『殿下のご家族』とも言える存在ですし、彼らの年齢的にも孫や娘と言ってもおかしくありません」


「なるほど……そう言われると確かにそうですね……」


「そういった近しい関係の方に、想い人についてのあれこれを知られる。もちろん気にしない人もいるでしょうが、殿下の様に何となく恥ずかしく、進んで言いたくないと思う人もいる、という事でございます」


「良かった……なぜ皆に話す気になれないのか、少々不安ではあったのです。一人で考えるより四人で考えた方が良い知恵が出ると、頭では解っていますのに……」


イングリットは大きく息を吐き、お茶を一口飲んだ。


「殿下も健全に、お年頃の女として成長されているという事でございます。一国民として嬉しく思います。ですが」


マリアンヌは、それこそ孫の成長を喜ぶ祖母の様な笑顔だったが、そこまで言うと真剣な顔になる。イングリットも雰囲気が変わったのを感じ、姿勢を正す。


「できるだけ早く彼らに打ち明け、キースを王配として迎え入れる準備をお進めください」


「理事長先生……ですが先生は……」


「はい、キースは受けるつもりは無い、という事でございますよね?確かに、彼は念願の冒険者になったばかりで、仲間や両親と共に各地を周り、見聞を広めながら旅を楽しんでおります。まだ18歳と歳若い事もあり、殿下との結婚に前向きではありません」


そこで一度言葉を切り、呼吸を整えお茶を飲む。


「しかし、この先の事は分かりません。数年経てば各地を巡る事にも満足し、王城に入る気になるやもしれません。その時に受け入れ態勢が整っていなかったら、次の機会は来ない可能性もございます。いつその日が来ても良い様に、下準備と根回しをして備えるのです」


「なるほど……」


「もちろん、ここ数十年に渡る『お世継ぎ不安』がございますから、5年も10年も待つ事は許されないでしょう。ですが、4年先迄なら何とかできるのではないでしょうか?」


「4年……ですか?あ、もしや『20歳になったら結婚します』という様な?」


「はい、世間や貴族の中には『婚約者だけでもすぐに決めるべきだ。王室が途絶えるぞ』という意見も根強くございます。そういった意見を押さえ込むのに『20歳』という年齢は、その数字の区切りの良さからも、非常に効果があると考えます。もちろん、急かす様な意見が無ければ、しれっと何時までも待てば良いのです」


マリアンヌは人の悪そうな笑顔をみせる。


(そうよね、この人だって長年貴族社会で生き抜いてきたのだもの。これぐらいの事は普通なんだ)


「わかりました。理事長先生、ありがとうございます。授与式までには話をして打ち合わせをいたします」


「はい、それがようございます。私にもいつでもご相談くださいませ」


「ありがとうございます。頼りにさせていただきます。それで理事長先生、下準備や根回しについて、どの様な方向性で進めたら良いでしょう? 今の段階で具体的なお考えはございますか?」


「左様でございますね……まず手始めに……」


二人は具体的な手段について意見交換を進めた。


「これならば授与式の時に一気に済ませてしまえますし、皆も納得するしかありませんね!」


「はい、ケチのつけようがございません。これが上手くいけば、後は祈りながら待つだけです」


「ああ、どの神に祈れば良いのでしょうか。これを叶えてくれるなら、朝昼晩と祈りを捧げますのに!」


「裁きの神か……ある意味戦いですから、戦の神でしょうか?神のお覚えめでたくなる様に、日々のお勤めに励みましょう」


「正直、今のお勤めの量だけでも叶えてくれても良いのでは?と思うのですが……まあ仕方がありません。理事長先生、本日はお越しいただきありがとうございました。心が軽くなりました。これからもよろしくお願いいたします」


「とんでもございません。こちらこそありがとうございました。授与式を楽しみにしております」


「はい!盛り上がる様に準備してまいります。ご期待ください」


二人はその瞬間を思い浮かべながら笑顔を見合わせた。

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