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第150話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


今週は少し忙しくて遅くなりました……


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ



【前回まで】


実演が終わった後、『コーンズフレーバー』でフィーナが『キースが王女様に見染められる可能性について』を語り、アリステアは冒険者ギルドの元ギルドマスター、ハインラインのところにお邪魔しています。そこにもう一人のお客さんがやってきました。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


入ってきたのは細身で背の高い男だった。杖はついているが、腰も真っ直ぐに伸びており、眼差しも力強い。ハインラインよりかはいくぶん若く見える。


(……雰囲気は変わらないね)


「おはようございます、男爵。お邪魔いたします」


「おう、悪いな朝っぱらからわざわざ。どうしてもって言うからよ」


「年寄りの朝は早いですからな、問題ありません。で、こちらがお話の……」


アリステアをチラリと見る。歳は取っていても、油断とは無縁な雰囲気を漂わせている。


「……ふむ、見た目は似ても似つきませんが、何と言うか……そんな感じは致しますな」


そう言いながらソファーに座る。


(私の周りの年寄りは凄いな……何をそんなに感じてるんだ?)


アリステアは、外しておいた白銀級の冒険者証と恩賜の短剣をテーブルに置く。


「ふん……これを出されては信じざるを得まい。で、お前そんななりで何やってるんだ?アーティ」


男は、アリステアも散々世話になった、銀級冒険者である魔術師のデズモンドだった。


ハインラインから『まだ生きていて王都に住んでいる』という話を聞いて、一度挨拶したいと思っていたのだ。


「ご無沙汰だねデズモンド。ちょっと色々あってさ。魔導具の身体で活動してるんだ」


アリステアはキースの家出からこれまでの流れをざっと話した。


「そういえば、そんな事もあったな。『遺跡なんて二度と行かない!』と喚いていたのを覚えているぞ。まあ、その三日後には行っていたがな」


デズモンドはふふっと笑ってお茶を飲む。アリステアはちょっと恥ずかしそうだ。


「魔物暴走の件や、北西国境のダンジョンが確保された話は聞いてる。まさかお前やその孫が関わっているとはな。息子夫婦もいるのだろう?つくづくダンジョンに縁があるな」


「親子三代でダンジョン二箇所確保か……とんでもねぇ一族だ」


デズモンドとハインラインも感心しきりである。


年間の魔石取引額だけで50億~60億リアル(※1リアルは5円換算。一般市民の平均年収は100万リアル)にのぼる。それが国に毎年入るのだ。


「それに、お前さんの孫の話は少しだが聞いた事がある。『万人の才』だったか?大層な二つ名だと思ったが、そうか……本物なんだな」


「うん、あんな魔術師見た事も聞いた事も無い。おとぎ話の魔術師の方がまだ居そうだもの。で、これその孫からなんだけど」


アリステアは、背負い袋から書類筒やら色々取り出す。


「おいおい、なんだよ。随分な荷物だな」


二人とも目を丸くする。


「今日デズモンドに会うって言ったら、渡して欲しいと持たされたお土産だよ。あの子は昔からデズモンドのファンだからさ。全部あの子のお手製だから他所では手に入らないお宝だよ!魔法陣なんて目ん玉飛び出るぐらいの金額で取引されてるのもあるんだから!」


「ほほぅ……そいつはありがたいが……俺のファンっていうのは何なんだ?」


「それもあたしのお陰だね」


アリステアは、キースの子守りをしている時にしていた、昔話の事を説明する。


「ははっ、そうか。それは確かにお前さんのお陰だ。俺はそこまで大した魔術師ではないからな。ありがとうよ」


(大した魔術師じゃない?何言ってやがる)

(謙遜しすぎでしょ……)


『銀級冒険者・魔術師デズモンド』と言えば、魔法はもちろん、魔法陣の作成、作戦立案からの部隊指揮、果ては、書類作成などの事務仕事までこなす魔術師として、王都冒険者ギルド史に残る人物だ。


『北国境のダンジョン』が発見され確保に向かった際も、先発隊の指揮を任され、現場へ向かう道中で警備の計画を立て、到着後すぐに指示を出しきっちり確保を果たした。


アリステアが『新人冒険者の支援』を言い出した時にも相談に乗り、アリステアの口から出るふんわりとした提案を整理し、企画提案書という形にまとめ仕上げた。


他にも、『この人がいたから何とかなった』という事柄は多い。


「まずはこれね」


そう言いながら、先程取り出した荷物の中から冊子を取り出す。写本の様な、紙を綴じ表紙を付けたものだ。


「そこに古代王国、セクレタリアス王国の街がクレーターになった理由が書いてあるよ」


「「はぁっ!?」」


二人の声がハモった。


(まあそうなるよね)


エストリアとその周辺諸国に残る「かつて街だった、生き物が寄り付かないクレーター」は、『どうやら王都や街だったらしい』という事がかろうじて判明しているだけで、なぜこの様な状態になってしまったのか、理由は判っていない。残された神殿や城塞の遺跡からも、資料や記録が出てこない。


自分達が生まれる遥か昔から『謎』とされ、ヒントすら全く無いにも関わらず、いきなり理由が書いてあるという資料を出されたら、そういう反応にもなるだろう。


(当時の生き残った人達はどう思った事だろうね)


王都や街との連絡が急に一切取れなくなり、街のある場所に行ってみたら、瓦礫一欠片すら無いクレーターだったのだ。


その衝撃と、その後の絶望感といったらなかったであろう。


(そんな状況で、クレーターになった理由を推測して記録している余裕なんて無いよね)


何で全く残っていないのか?少しぐらい何か見つかっても良いだろうに、と思っていたが、理由を知って状況を考えてみれば、『これは無理だわ』と納得する。


「どれ……じゃちょっと拝見するか……」


二人は冊子を手に取り読み始めた。時間の経過と共に、二人の眉間の皺が深くなり、首がより傾いてゆく。


「こいつはすげぇな……そんな理由だったとは……」


「あの広さの国土の全ての街に、魔力供給の仕組みがされていたのか。とても想像がつかん。それに……この『エレジーア』についてなのだが……これも同じぐらい荒唐無稽だぞ」


横でハインラインも頷く。


「私も自分の目で見ていなければ信じられなかっただろうね。大きな、一抱えもありそうな可愛い熊のぬいぐるみが、キースと楽しそうにやり取りしてるんだよ?理解不能だよ」


3人で大きく溜息をつく。


「で、何がどうなってそうなっているのかは分からないんだな?」


「うん、エレジーアの後輩が考えてきた仕組みらしくて『部屋に資料が無ければ詳細不明』なんだって」


「ある意味不老不死だが……デタラメ過ぎる。同じ人間の発想とは思えん」


「で、この冊子は、エレジーアに関する事を除いて、王城、魔術学院、訓練校に納められる予定だよ」


「だが、これだと明確な証拠示せない訳だが大丈夫か?まさか、熊のぬいぐるみに教えてもらったとは言えんだろう?」


「証拠は出せないけど、じゃあ、これを否定する証拠は?と言ったら何も無いからね。有力な説の一つにはなるんじゃない?」


「ふむ……それなら十分か」


これまでの数百年間、全く何も出てこなかっただけに、いきなり『これが答えだ』といわれても、すんなり受け入れるのは難しい。資料でもあれば別だが、証拠は熊のぬいぐるみの推測だけなのだ。


「話はちょっと変わるが……そうすると、お前さんが昔見つけた照明の魔導具、あれはもしや……」


「うん、型落ちで使われなくなった不良在庫、だね」


「そうか……」


ハインラインは、目を閉じ溜息をついた。そこには、言外に『そんな物の為に片足を無くしちまったのか」という意味が込められている。


それを感じ取ったアリステアが口をへの字に曲げてハインラインを見る。


「ちょっとマスター、何考えてるの。昔の人達にとっちゃ不用品でも、私達にはお宝だったのだからそれで良いじゃん!だいたい、何年前の話だと思ってるのさ」


(それに……あれが色々な切っ掛けになったのだし)


当時の冒険者達に対し、本当に心を開く事ができる様になり、キャロル(フラン)に命を救われ縁ができ、アーサーと結婚し、家族にも恵まれた。


「私は、孫と旅をして息子夫婦とも一緒に活動してる。今、本当に幸せだよ。そして、過去の全ては今に繋がっているのだから。それで良いんだよ」


「ふっ……分かったよ」


ハインラインは目を閉じて笑った。



「次は……あの子が作った魔法陣だよ。動かしてみて」


そう言いながらテーブルの上に並べてゆく。


「ほう……どれどれ……」


デズモンドの眉間に皺が寄り、視線にぐっと力が入る。身を乗り出し、魔法陣の記号に指を這わせながら、何事かを呟いている。


(幾つになっても、冒険に出ていなくても、魔術師は魔術師だよね)


「こいつは……何かが浮かび上がって動き回る、みたいな魔法陣か?」


「解るの!? 」


「ふふん、まあ、ざっくりとだがな。伊達に歳は食ってない。どれ、動かしてみよう。起動」


魔法陣はデズモンドの発動語に反応して薄青く光った。すぐに影の兎が現れ、追いかけっこを始める。


「おおっ!?なんだこいつは!すげぇな!」


ハインラインは目を丸くしている。


「ふふっ、可愛いな。動きの種類も多いし、不規則性も十分で飽きずにずっと見ていられる。素晴らしい」


楽しそうに分析している。


「イングリット殿下は、これを5時間見続けたんだって」


「5時間!? そいつは凄いが……何と言うか、ちょっと反応に困るな」


国のトップが魔法陣を5時間見続ける。その心の内がちょっと心配になる。


「ちなみにこの魔法陣、貴族への販売価格30万リアルだよ」


「おお……確かに他に無い魔法陣だが、その辺はさすが貴族だな」


「さてお次は……浮かび上がるのは同じみたいだが……文字、いや文章か?起動。お、『アイザック』のお話か!文が流れる速さ、文字の大きさもちょうど良くて見やすいな」


ハインラインは口を開けてポカーンとしている。二つ目にして既についていけていない。魔術師では無いし、彼には無理である。


「こっちは……音が……連続で鳴る……?まさか曲か?そこまでできるものなのか……どれ……おおっ?こいつは確か……『悠久たる時の流れに』だな。晩餐会でよく流れる曲だ」


(歳とって更に知識と経験を重ねた分、若い頃より今の方が色々上回っているんじゃないの?)


「どれも今までに無い、独創的な視点と技術で作られているな!今からこれだけの魔法陣を作っていたら、将来どうなってしまうんだ?『転移の魔法陣』でも作ってしまうのではないか?」


「いや、さすがにそれはいくらなんでも……なぁ?」


ハインラインが笑顔でアリステアに振る。


アリステアはそれには答えず、書類筒から新たな魔法陣を取り出す。


「これは、既に権利関係についての契約が結ばれていたり、この後すぐに結ばれる予定だからお土産にという訳にはいかないのだけど、『反発の魔法陣』と『転写の魔法陣』だよ」


「ほう……どういったものなんだ?転写、というからには写すのか?」


「そう、紙に書かれた内容を、そっくりそのまま写し取って、まっさらな紙に貼り付ける事ができる。同じ書類を一瞬で、大量に用意できるんだ」


アリステアが一連の流れをやってみせる。


「こいつは良いな……できれば現役だった頃に欲しかったぜ……」


ハインラインがしみじみとこぼす。ギルドマスターだった頃は、大量の書類に埋もれる様に仕事をしていたのだ。


「定型文や、報告書や申請書の様な、決まった形式の書類を作るのに特に便利だな。それにしても、よくこういうものを思い付くものだ。作り上げる技術力も凄いのだが、まずこういった発想が出てくる事が驚きだ」


デズモンドは腕を組んで唸っている。


「で、もう一つの『反発の魔法陣』なんだけど……2枚1組で使うもので、魔法陣と魔法陣の間に見えない力場があって、宙に浮いているのだけど、魔力で結びついているからズレないんだ。今は、ある特定の用途で使っているのだけど、なんだか分る?……ってこれだけじゃ分からないよね。ヒントは……国中どこにでもある物に取り付けます。マスターは持ってる。デズモンドは持ってない」


「金か?」


「おい!俺はそんなに持ってないぞ!お前だって銀級の年金も出てるし、金はあるだろうが!だいたい金に魔法陣付けるってなんなんだ!」


「……それは失礼しました」


(予想外に激しい反応だな……図星を突かれて思わず、といったところか?)


「随分な反応がちょっと気になるけど……ヒントその2ね。宙に浮かせる事で、あるものを無効化できます。それが無くなると大変身体に良いのです。速度も出せる様になります」


「……馬車に付ける?」


「お、それは正解。ヒント出し過ぎたかな?」


「国中にあって、速度といったら馬車かと思ったのだが……さて、どこに付けて何を無効化するのか……」


二人で真剣に考えている。結構楽しそうだ。


「……解ったぞ。宙に浮かせて衝撃を無効化するんだ!衝撃が無ければ身体にも良いし速度も出せるからな!」


「おお~、マスターお見事!これを車軸と馬車の箱の接点に貼って宙に浮かせるんだよ。そうすると、衝撃を完全に殺せる。まるで止まっているみたいなんだ!他の工夫も組み合わせれば、北西国境のダンジョンまで6日で走れちゃうんだよ!」


「揺れない馬車か……そいつも良いな!さっき権利関係について契約済み、と言っていたが、どこの誰と、どんな契約になっているんだ?そこに行けば買えるのか?」


「契約は国務省?なのかな?陛下は王城の全ての馬車に付けて、貴族からも希望者を募って販売するって言ってたけど。契約はね、1枚作成する毎にキースに1万リアル入ってくる」


「生涯?」


「生涯」


「そいつはまたはとんでもない額になるだろうな……祖母も孫も大金持ちとは」


「今はまだ馬車で使っているだけだけどさ、他の用途も考えて浸透させていきたいね」

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お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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