第149話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
『貴族家の長男以外の男子あるある』に悩んでいたマシューズですが、キースのおかげで改めて目標も定まり、めでたしめでたし(?)です。
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「ほんと腹立った!全くなんなのよあいつは!」
「まあまあリリア、もう終わったのですから……」
『コーンズフレーバー』の店内に、マシューズに対して悪態をつくリリアの声が響く。そのあまりの迫力に、宥めるキースの声は弱々しい。
夜の営業前の準備を終え、お茶を前に一息ついているところだ。先程の魔法について色々聞きたいが、学院外で口に出す事ができない為、話題は自然とマシューズの事になる。
「まあ、僕も理事長先生に対する彼の態度にはカチンときましたが……」
「そうでしょう!ほんと貴族なんて禄なもんじゃ無いったら!」
「いい加減静かにおし!いつまで言ってんだい!『悪口は自分に返ってくる』って言うだろ!文句と悪口が多い女は嫌われるよ!」
リリアの母親であるフィーナが厨房から出てきた。
「……だって」
「だってもヘチマも無い!悪口なんてものはね!言ってる本人が気持ちいいだけで、それを聞かされる人間は気分が悪くなるだけなんだよ!そんなに言いたいなら本人に言ってきな!」
(ごもっともです)
その場にいたリリア以外の人々は、フィーナの言葉に心の中で頷いた。
「あ、あ~ど、どうですか皆さん最近は?何か変わった事とかあります?」
キースが話を変える。
「うーん、特に変わった話は無いかな……誰か何かある?」
キースのお土産に持ってきた焼き菓子を摘みながら、リリアが厨房の方を向いて声を掛ける。
仕込み中のアドルが、対面キッチンの隙間から隙顔を覗かせ、首を横に振る。手を止めないのは相変わらずだ。
「そういえば、お客さんが『北西国境のダンジョンが確保された』って話をしているのを聞いたけど……みんなはそこに行ったのだよね?お父さん達に会いに。ちゃんと会えたのかい?」
フィーナがお茶のおかわりを注ぎながら尋ねる。
「はい、無事合流できまして、ダンジョンの確保を手伝う事ができました。その件で、両親も一緒にご褒美をいただける事になりまして」
「あら!凄いじゃないの!ご両親は、息子と一緒に表彰されるなんて嬉しいだろうねぇ!おめでとう」
「私もそれ聞いた!クラスにお父さんが国務省に出入りしている子がいて、その子が言ってたんだよね。あれってやっぱりキース達だったんだ!」
「どんなご褒美がいただけるのだろうね……アリステアさんが見つけた時は、銀級から金級に上がって、今も毎年魔石の売上を貰ってるっていうじゃないか。もしそうなら、一生好きな事だけして暮らせるね!」
(好きな事だけしてたら、片脚無くしたけどな……)
「そうですね。でも、今回は冒険者だけで10人以上が動いていますから、売上の一部というのは難しいかな……でも、予測がつかないだけに、何がいただけるのか楽しみです」
「王城なら色々なお宝もあるのだろうしね!授与式は王城でやるんだろ?そうすると、王女様もご出席されるのかね?王女様は、そこら辺の魔術師なんかじゃ敵わないぐらいの遣い手だっていうじゃないか。キースとは話が合うんじゃないのかい?」
「そ、そうですね……どうなのかな……」
「王女様とお知り合いになってゆくゆくは……なんて事もあるかもしれないよ~?楽しみだね!」
「……」
「お、お母さん、何言ってるのよ!いくらキースが凄いって言っても、一般市民の冒険者と王女様が、なんてある訳ないじゃない!バカバカしい!」
「そうかねぇ?キースの凄さを知って興味を持つ、話が弾んで人柄その他を気に入る、宮廷魔術師として招く、頻繁に顔を合わせているうちに二人は……ほら、ありそうじゃないの」
娘の食いつきっぷりに気を良くしたフィーナが続ける。
「一般市民なのが問題なら、今回のご褒美にお父さんに爵位を与えればいいんじゃないかい?国王陛下は、お世継ぎの事で苦労されているから、王女様のお相手をきちんと決めて安心したいだろうしさ」
「……」
リリアはその様子を想像したのか、真顔になって黙ってしまった。
「こういう事言うと怒られそうだけど、あのお歳なら、朝起きてこなくて見に行ったら……なんて事も十分に有り得るんだから。可愛い曾孫と国の未来が掛かっているのだもの、一日でも早く落ち着かせたいだろうさ」
(フィーナ凄いな……概ね合ってるぞ)
実際には、初めて会ったその場で求婚されているのだが、さすがにそれを想像するのは無理だ。
だいたい真ん中を射抜き続けるフィーナの妄想に、店内が微妙な空気で満たされた時、5の鐘の音が聞こえてきた。
「ほら、お客さんが入ってくるよ!夜も頑張っていこう!みんなもご飯食べていくだろう?決まったら呼んでおくれ。リリアはどうする?店の方は無理に出なくても良いんだからね?」
フィーナが腕まくりをしながら尋ねる。
「ん……今日は出る」
(一人で部屋にいてもどうせ集中できないし)
母の的確な妄想(?)に落ち着かない気持ちを抱きつつ、店の手伝いで気を紛らわせようとするリリアだった。
翌朝、アリステアは背負い袋を背に貴族街付近の高級住宅街を歩いていた。
一度来た事がある為、迷わず目当ての屋敷を見つけ、外壁沿いに門の方向へ歩いていると、外壁の飾り格子の向こうに目当ての人物の姿が見えた。
鎧の下に着る様な肌着に近い物を着て、腕を大きく振って大股で歩いている。年齢を考えると、かなり速いペースだ。
(自宅の庭で朝の運動か……この国の年寄りは皆元気だな)
「おはようマスター!」
その場で声を掛け、手を振る。
「おう!おはよう!門に回ってくれ。俺もそっちに行く」
アリステアが現役の頃、王都の冒険者ギルドでギルドマスターを務めていたハインラインである。
二人は門で合流し、ハインラインはアリステアを中に招き入れた。
ハインラインが着替えに行っている間、淹れてもらったお茶を飲む。
淹れてくれたのは、前回来た時に取り次いでくれたあの女性だ。
(彼女とマスターはどういう間柄なんだ?家政婦として雇っているのか?まさか奥さんじゃないだろうな?60歳ぐらい離れているだろうし)
そんな事を考えていると、ハインラインが戻ってくる。アリステアは疑問をそのままぶつける事にした。そういった点で一々気を遣う相手でも無いし、何より面倒だからだ。
「マスター、最初にちょっといい?あの人とはどういう関係なの?」
「ふん、まあ気になるよな。残念ながら彼女とか嫁さんとか、そういうんじゃねぇぞ?」
「じゃあ娘かな?」
「当たらずとも遠からず、だな」
自分で言ったにも関わらず、まさかの返答に一瞬言葉が詰まる。
「……ほんとに?」
「血はほとんど繋がっていないのだがな」
ハインラインが事情を話し始める。
彼女は、ハインラインの従姉妹の孫という、遠縁に当たる娘だった。
ハインラインの出身地の隣村に住み、そこで暮らしていたのだが、数年前、大雨が原因で発生した洪水により彼女以外皆流されてしまった。
家族も畑も無くし、家も水浸しで住める状態では無い。そんな状況で一人残された彼女は、僅かに残った資産を持って、ハインラインを頼りに、馬車を乗り継いで何とか王都までやってきた。
事情を聞いたハインラインは、雇っていた家政婦の代わりに彼女を家に入れ、家屋敷を遺す為に養女としたのだという。
「あの、マスター、それさ……」
「お前さんの言いたい事は解る。『彼女は本当に従姉妹の孫なのか?』という事だろう?」
「……うん」
「確かに、王都に来る前に彼女に会った事は無い。俺の両親は早くに死んじまったから、地元にはもう何十年も帰っていないしな。一応家族の氏名や間柄は確認して合ってはいた。村の洪水被害の件も間違い無かった」
「その従姉妹と彼女は似ているの?」
「……従姉妹は何人かいてな。そもそも全員の名前なんて憶えてねぇから、名前を言われてもどの従姉妹なのか分からねぇ」
「よくそれで家に入れて養女にまでしたね……一応貴族じゃん」
さすがのアリステアもこれには呆れた。
勢いだけで判断する事も多く、いつも皆から突っ込まれる立場のアリステアだが、アリステアには『第六感』の特性がある。イケると思った事は8割方問題無いし、『ヤバい』と感じた事は本当にヤバい事が多い為、無理せず回避する。ハインラインと一緒にはできない。
「貴族たってどうせ一代限りだからな。他に遺す相手もいねぇ。それに、ここに最初に来た時は、着の身着のままでくたびれ果てて、とても放っておけなかった。一度入れちまえば情も湧く。まあ、もし偽者だったとしても、家の事はきちんとやってくれているし、家族構成やら色々覚えた努力賞という事で、金と屋敷はくれてやっても良いかと思ってな」
そう言って高らかに笑った。
その様子を見て、アリステアも大きく一つ息を吐き、笑顔を見せる。
「大雑把というか、豪快というか……まあマスターが良いならそれで良いけどさ」
「おう、そういう事で承知してくれ」
ちょうど話が終わったところで、扉が叩かれる音が響く。
噂の彼女が、今日のもう一人の客を案内してきたのだ。
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