第14話
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国軍及び複数の冒険者パーティは、翌日午前中、「9の鐘」に到着した。なんと2大隊200名という大所帯だ。
国務省が、どれだけ新規ダンジョンの確保に力を入れているか解ろうというものだ。
どこかで見ているはずの、ターブルロンド側へのアピールもあるだろう。
森を切り開きテントを設営していくと同時に、中洲にもテントを建てていく。
森と中洲に部隊を分け、司令部及び仮眠は森側、中洲には前線指揮所と一時休憩所を設置し、交代で警戒にあたる様だ。
国軍と一緒に到着した冒険者達がダンジョンの調査をするという。
確保に動いた冒険者の一部からは不満の声も出たが、誰も入った事の無いダンジョンに最初に入るのは勇気がいる。どんな状況なのか判らないのだ。
それをギルドマスターに指摘されると黙らざるを得ない。
それに何より、第一発見者が気にしていないのだ。文句を言う筋でもない。
ギルドマスターが国軍指揮官と引き継ぎを行い、皆でまとまって帰路につく。
アリステアは替え馬を借りた詰所に寄り、軍馬を返し自分の馬を引き取る。
「無事ダンジョンは確保できました!隊長さんありがとうございました」
アリステアが頭を下げる。
「いやいや、こちらこそ!役に立てて何よりだ」
隊長も嬉しそうである。
馬はアリステアを労る様に鼻面を擦りつけた。
さらに、北門の衛兵詰所によ寄り、冒険者証を受け取らなければならない。
門の前で立哨していたのは、ちょうど昨日の衛兵だった。責任者にも合流してもらう。
「急いでいたとはいえ、馬走らせたまま投げちゃって・・・すいませんでした。これ皆さんで休憩の時にでも食べてください」
アリステアは頭を下げお詫びの差し入れを渡す。最近のお気に入りの店の新作焼き菓子だ。
「これはこれはご丁寧に・・・ダンジョン発見はまさに緊急事態です。それに、私も銀級冒険者証なんて触ったこと無いですから、よい記念になりました」
衛兵は笑顔で答える。
「そう言っていただけると助かります・・・」
平身低頭である。
ダンジョン発見から2ヶ月後、アリステアはギルドマスターに呼び止められた。
「ダンジョン発見の褒賞の話なんだが・・・」
「お!?待ってました!」
「王城で授与式を行う事になった」
「は・・・!?」
周りも騒然とする。いくら銀級とはいえ冒険者は一般人だ。王城で国王に直接会う機会などまず無い。
「国に多大な利益をもたらしたお前さんに、国王陛下御自ら褒賞を渡したい、との仰せだ」
「いや、そういうのはちょっと・・・」
「たまにはドレスでも着てみちゃどうだ?お前さんなら似合うだろう?」
「勘弁してほしいわ・・・」
アリステアはゲンナリだ。
「ま、そう言うだろうと思って、式典はお断りしてきた」
「マスター!あなたが神か・・・」
「神はやめろ。恐れ多いわ。で、作戦参加者への褒賞金はギルド経由で渡せと預かってきている。各自受付で受け取ってくれ」
参加した冒険者が数名居たようで、嬉しそうに受付へ向かった。
「でだ、第一発見者であるアリステアには、褒賞金以外にもご褒美をいただいている」
「! こういうのって、お金以外だと何が貰えるのかな?」
「庭付きのお屋敷とか!」「アーティ食べるの好きだから、お食事券よきっと!」「領地!」
皆が適当に囃し立てる。
「よし!じゃあちょっと雰囲気出すか。みんな、テーブルを壁際へ寄せて椅子だけ残してくれ・・・そうそう。で、椅子は入口側に向けて縦横合わせて綺麗に並べて置くんだ。アーティは一度外へ出ろ。合図をしたら入ってこい」
皆が椅子に座り、入口の方へ向く。
その時、カウンターから建物の奥に続く扉がそっと開き、中から男性が2人、女性が1人出てきた。
口髭をはやした50歳前後の男性、30代後半程の女性、40代半ばの男性だ。最後の男性だけ剣を佩いている。
3人はそのまま、カウンターの中にある打ち合わせの用のテーブル席に座った。
職員達もカウンターの外に出ており、入口側を向いて授与式に気がいっている為、気が付いていない様だ。
3人の身なりは「大店の商人(その夫人)が着る平服」といったところだが、明らかに醸し出す雰囲気が一般人ではない。ギルドマスターがチラリとそちらを見て、わずかにニヤリとする。
「それでは!これより新規ダンジョン発見に伴う褒賞の授与式を執り行う!まずは主役の入場だ!みんな盛大な拍手で迎えてやってくれ!」
授与式会場(いつもの待合室だが)に拍手と口笛が響き渡る。
アリステアが入口から入ってきた。少しギクシャクしている。
(お、思った以上に照れくさい・・・)
「いよっ!アーティ!おめでとう!」「さすがは銀級冒険者!」「今日もかわいいぞ!」
様々な声がかかる。
「よし、では進めるぞ。だいたい解ってはいるとは思うが、まず、なぜアーティだけ個別に褒賞があるのか、そこをはっきりさせておく」
褒賞金を貰った冒険者の中に、もしかしたら(なんでアイツだけ余分に貰えるんだ)と不満を抱く者がいる可能性もある。皆の前できちんと発表し、それを広める事が目的だ。
「1つ、ダンジョンを発見した事。まあ、これは運もあるが、運も実力のうちだ。2つ、報告がとにかく速かった事。知らせてくれなきゃ対応ができねえ。何よりも大事なことだ。3つ、ターブルロンド側の冒険者を発見、捕縛した事。余計な情報は渡せねえからな。以上だ。国王陛下も国務長官も、とにかく報告が速く届いた事を評価されていた」
アリステアとしては、詰所を見てとっさに「替え馬」を思い付いた、あの時の自分を褒めてやりたい。
「それでは、褒賞の品を授与する。まずはこれだ」
袋の中の物を取り出し、布が敷かれたトレーの上に置く。
(あんなのいつの間に用意したんだよ・・・)
皆が心の中で突っ込む。意外に凝り性なのだ。
トレーの上には青白く光る一振りの短剣が置かれていた。
短剣としては長く、ショートソードと言うには短い。
アリステアが今使っているものとほぼ同じ位の大きさだろう。
鞘にも細かく凝ったデザインが彫られており、誰が見ても素晴らしい逸品だとわかる。
皆が息を呑む。
「見ての通り、ミスリル製の短剣だ。褒賞の品を何にするかという話になった時に、今使っている武器をお伝えしたところ、国王陛下が自ら宝物庫に赴かれこれを選ばれた」
参列者からどよめきともため息ともとれない声が上がる。アリステアも余りの品物に口を開けている。
「まだ終わりじゃねぇぞ。これは目録でいただいているので代読する」
脇にいる職員に手渡された紙を受け取る。
「では・・・この度発見されたダンジョンから、一年間に産出された魔石の1%相当の額を、年一回本人が生存している間支給する」
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