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第146話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


王都の冒険者ギルドのマスター、ディックと、魔術学院の理事長マリアンヌに、銅級冒険者になってからのあれこれを説明しました。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あとねキース、その呪文詠唱からの魔法発動、というものなんだけど、何か資料とかそういう物があるのかしら?授業にも取り入れていかなければならないし、その為には、私達ができる様になっていないといけません。もしあれば借りる事はできる?」


「はい、そういうお話になると思いまして、呪文とその教科書を『転写』で写して作ってきました!ディックさんもどうぞ」


いつもの鞄から、紙を綴じ簡単な表紙を付けた、お手製の教科書を取り出す。学院の指導官は12名いる為、マリアンヌとディックの分も合わせて14冊だ。今は手元に無いが、イングリットとリリアに渡す分も作ってある。


「あぁ、ありがとう!これだけの物をタダという訳にはいかないわ。一冊……そうね、100万リアルぐらいかしら?」


金額を聞いたディックの眉がピクリと動く。


「おい、マリアンヌ!勝手に決めるな!お前さんは学院の予算から出すのだから良いかもしれんが、俺は個人で払うんだぞ!確かに、この世にこれだけしかない貴重な資料だが、100万が大金なのも間違いないだろう!」


とも言えず、何とも微妙な表情になる。


「……一般的な古書店で買えばそれぐらいはするとは思いますが、これは教育用教材ですから、卒業生から後輩達への特別提供価格という事で、14冊まとめて100万リアルという事に致しましょう」


「……もう、あなたという人は……正直助かります。ありがとう」


ディックも内心胸を撫で下ろす。


「マリアンヌ、一度実際に発動してもらった方が良いのではないか?集中して魔力操作をしながら呪文を唱えるのだろう?きちんとできるものなのだろうか?」


『集中→魔力操作→発動をイメージする』という流れは、基本的に黙って行うものとして指導されている。誰もがそこで戸惑うだろう。キースの様に、会話中でも常に<探査>の魔法を発動させている者などいない。


「そうね……キース、お願いばかりで申し訳ないのだけど、見せてもらえるかしら?」


「もちろんです!言い出したのは僕ですので。お任せください!」


「ありがとう。ええと、今が2の鐘の授業が始まったところね……では3の鐘の授業を振り替えて、指導官と生徒を広場に集めます。そこでお願いしようかしら」


魔術学院で『広場』と言えば『共用多目的広場』の事だ。大人数で集まる時は、基本ここである。


「承知しました! あ、後ちょっと気になったのが、この手順は今現在、世界中で僕の周囲の人々しか知りません。エストリアの魔術師の大きな強みの一つになり得ると思うのです。生徒達と指導官方に『この手順を知らない人間に対しての口外禁止』を約束してもらった方が良いと思うのですけど、いかがでしょう?」


(貴族のお屋敷には諜報員が潜り込んでいる事もあるしね)


「そうね!それは必要だわ。魔術契約の書類を作りましょう。名前だけ書き込めば良い様に作って、それを『転写』すればすぐに用意できますね。では、ちょっと連絡してきます」


そう言ってマリアンヌが部屋を出てすぐに、館内に声が響き渡る。理事長の執務室や指導官が集まる部屋からは、廊下や各教室はもちろん、食堂やトイレに至るまで、一斉に声を流す事ができる。


「理事長より、全ての指導官と生徒にご連絡します。本日の3の鐘の授業は中止とします。代わりに、鐘に合わせて共用多目的広場にお集まりください。繰り返します……」


「さて、これでいいわね。では、まずは魔術契約の書類を作ってしまいましょう。ディックも手伝ってくださいな。3人で『転写』すればすぐに終わります。その後は、鐘が鳴るまで本の内容を確認しましょう。お願いしますね、先生」


戻ってきたマリアンヌが、キースのお手製の資料を手に微笑んだ。



「リリちゃん、急になんだろうね?みんなこんなの聞いた事ないって言ってるし」


リリアは同じクラスの女の子と共用多目的広場にいた。同級生より5歳歳上で平均より少し背も高いリリアは、完全に妹の世話をするお姉ちゃんである。


入って来た時から既に魔法が使えたリリアは、途中入学であるにも関わらずクラスの中心人物になっていた。さらに、実家の仕事で磨いた接客スキルもある。一年生の心を掴むなんて訳ないのだ。


「なんだろうね……理事長先生の声は普通だったから、悪い話じゃないとは思うけど」


(慌ててもいなかったし、声も固くなかった。それに緊急事態なら、こんな悠長に集めたりしないよね)


リリアは先程話しかけてきたユーコに応える。ユーコはリリアでも知っているぐらい有名な、王都に店を構える大商人の末娘だ。しかも、以前から『コーンズフレーバー』にも家族で来ており、会話はした事は無かったが顔はお互いに見知っていた為、教室で顔を合わせた時は2人で驚いたものだ。


「私が気になったのはさ、理事長先生、『全ての指導官と生徒』って言ったよね?それって貴族側の生徒も来るって事なんじゃないかな?」


魔術学院では、基本的に一般市民と貴族は接点がない。というか、接しない様になっている。大人同士ならまだしも、育ち、考え方、価値観全て違う環境で育った子供を、一緒に学ばせる事は不可能だからだ。


「あ~そう言われるとそうだね!さすがリリちゃん!あ、開いた!出てくるんじゃない?」


貴族棟に繋がる扉が開き、生徒達が続々と出てくる。


その姿を見たリリアは静かに大きく息を一つ吐く。


(やっぱり、こちら側とは見た目からして違うわ。キラキラしてるもの)


実際に輝いている訳では無い。頭のてっぺんからつま先まで、服装も含めて洗練されきっちりしており隙が無い、という事だ。


(やっぱり住む世界が違うよね。分けたのは正解だよ)


そんな事を考えていると、生徒達の前に理事長であるマリアンヌが出てきて台に上がる。


「皆さん、今日は急遽集まっていただきありがとうございます。先程、私達魔術師の将来に大きく関わってくる、魔法の発動に関する新しい事実が判明しました。明日からという訳にはいきませんが、できるだけ早く授業に取り入れる必要があります」


そこで一旦言葉を切り、全体を眺める。


「そこで、今日は特別に、この件を発見された当事者であり、冒険者として活躍されている方に実演してもらえる事になりました。私や指導官も、ここにいる人間はまだ誰も実際に目にしていない、セクレタリアス王国期に用いられていた技術です」


「理事長先生、本当にそんな技術があるのですか?セクレタリアス王国が滅んで700年近く経つのに、今更新技術とか……怪しいにも程があります。まだ実際に目にされていないのですよね?そんな話、あんまり真に受け無い方が良いのではありませんか?」


声を上げたのは貴族側にいる男子生徒だった。背が高く風采も良い。5年生を表す肩章を付け、列の一番前に並んでいる。理事長であるマリアンヌ相手にここまで言うという事は、『腕に覚えあり』といったところなのだろう。


「マシューズ・ファンアールト、それは冒険者の言う事など信用できない、という事ですか?」


(ファンアールト……ジュリアン・ファンアールト伯爵の縁者かな?歳の離れた弟とか?それにしても……)


『北国境のダンジョン』で魔物暴走が発生した時に、国軍を率いてきた、同年代のベルナルの事をとても意識している、あのファンアールト家だ。


話をさえぎられた形になったマリアンヌだが、気分を害した様子も見せず、マシューズと呼ばれた少年を静かに見つめる。面白がっている感じすらある。


「いえ、理事長先生。自分の目で見ていないのに盲目的に信じてしまうのはどうか、というお話です」


マシューズは怯まない。マリアンヌの目をしっかりと見返す。


「確かにもっともな発言です。では、早速自分の目で確かめていただきましょう。特別講師、お願い致します」


マリアンヌがキースに呼びかけた。


その瞬間、マシューズの目の前にキースが現れる。もう息がかかるぐらいの距離で、マシューズを見上げている。


「うぉっ!?」


マシューズは思わず声をあげてのけ反り、一歩下がる。両隣の列に並んでいた生徒達も慌てて2人を中心に離れた。


「に、<認識阻害>!?」


(いくら学生とはいえ、指導官も合わせれば100人以上いる中、誰も感知できない程の<認識阻害>だと!? そんなの聞いた事無いぞ!)


キースは慌てふためくマシューズを後目に、歩きながら<浮遊>の魔法を発動させて朝礼台にふわりと上がった。マリアンヌの隣で振り返ると、にっこり笑いながら一般市民側の列に向けて小さく手を振った。



キースがマシューズの度肝を抜いていた時、リリア達一般市民側の生徒は、何が起こっているのか把握できていなかった。列が右から小さい学年順に並んでいた為、一番遠い位置だったのだ。


「リリちゃん、向こう側で何かあったみたい!見える?」


一緒にいるユーコが懸命に背伸びをしている。だが一番遠い位置で、小柄な一年生では全然見えない。


「うーん、ダメ、私も見えない」


リリアは早々に諦めかけた。が、その時、人と人の隙間から、何かキラリと輝くものが見えた様な気がした。


(何?今なにか光った?)


しかし、次の瞬間自分の目に入ってきたのは、まさかの人物だった。


ふわりと浮かび上がった小柄で華奢な、金髪の人物の後ろ姿、それは間違いなくあの日見送った、自分と家族と店の恩人の姿だ。


「キース!!!」


リリアの頭からは今の状況などきれいさっぱり消え、台上のキースに向かって叫んだ。


その声はざわつく中でも十分に届いた様で、キースは振り返り、リリアに向けて笑顔で小さく手を振る。


さらに、一般市民側の、2年生から5年生までの生徒が地鳴りの様な歓声をあげる。1年生は上級生の反応に戸惑っている。


「うわああキースさん!キースさんだ!」

「『万人の才』が帰ってきた……」

「もう銅級のプレート付けてるよ!?なんで?なんで?」


もう収集がつかない。その時、キースが左腕を伸ばし手のひらを一般市民側の生徒達に向け一言つぶやくと、一切の音が消え辺りは沈黙に包まれた。


貴族側の生徒達が驚きに目を見張る。


(<沈黙>は個別対象の魔法だろ!?全員に対して掛けた挙句に魔法抵抗を抜いたのか?)


(<沈黙>を範囲指定で発動させた!? そんなことできるのかよ……)


まだ学生とはいえ、魔術師の端くれだ。すぐに状況の分析に掛かる。


(さっきの<認識阻害>といい、何なんだ一体……『万人の才』って言ってたけど、まさかこの子供が?俺達よりまだ小さいだろ!?)


貴族の生徒達は、『万人の才』の数々の伝説はもちろん知っているが、接する機会が無かった事から、直接目にした者はいない。


その為、『万人の才伝説』については、『ちょっとデキの良かった生徒の話を盛っているだけ』と考えている者がほとんどであった。


しかし、一部の生徒は、この2つの魔法で「あれらの話は事実であったのでは?」と認識を改めつつあった。


だが、自分達が鼻で笑っていたあの「とんでも話」の数々が事実だったというのは、それはそれで大きな衝撃を与えた。


2種類の沈黙に包まれ静かになった生徒達に向けて、キースが口を開く。


「こんにちは!昨年度の卒業生で、王都冒険者ギルド所属、銅級冒険者のキースといいます。1年生と貴族側の生徒の皆さんは初めまして!2年生から5年生のみんなは久しぶりですね!」


音は聞こえないが、一般市民側の生徒達は、手を叩き拳を振り上げている。


「先程理事長先生からもありました通り、セクレタリアス王国期のとある遺跡で、魔法語で書かれた書物を発見しました。同時に発見した他の書物と合わせて読み解いたところ、大変な事実が書かれていたのです」


話し始めるとすぐに、一般市民側の生徒達も大人しくなり、静かに話を聞く体勢になった。まだ学生とはいえ魔術師を志している者達だ。それに、あのキースがわざわざ学院に来て未知の技術に関する話をしている。聞き逃す事はできない。


静かになったのを見計らって、<沈黙>を解除する。


「その本には、魔法の発動手順が書かれていました。セクレタリアス王国期は、『呪文』という詩のような文章を唱えてから魔法を発動していたのです。呪文には魔法のイメージを助け、魔力効率と効果を向上させる効果があります。その手順で発動させた魔法は『詠唱魔法』と呼ばれ、皆さんが今学んでいる、呪文を唱えずに発動させる手順は『無詠唱魔法』というものなのだそうです。ここまではよろしいでしょうか?これからその手順で魔法を発動させます。ぜひその流れに注目していただきたいと思います」


「ちょっと待ってほしい。ただ発動させただけでは、その手順が本当に効果があるという証明にはならないのでは?」


(……また君か、マシューズ・ファンアールト)


「そうですね。では、従来の『無詠唱魔法』でも同じ魔法を発動させましょう。それで比較してください」


「『無詠唱魔法』の方で魔力消費を減らせば効果も範囲も小さくできる。そうすれば、あなたが見つけたという『詠唱魔法』の方が効果が大きいと見せる事ができるのでは?」


「それは、『その様な事はしませんよ』という、私の言葉を信じてもらうしかありませんね。そんな事をしても、私には何の得もありませんから」


「何の得も無い?それは違う。貴族である私達の前で自分の発見と考えが評価されれば、あなたの将来のに繋がるではないか」


「ははぁ、それは気が付きませんでした。では、マシューズ・ファンアールト殿、伯爵家にお引き立ていただける様に、あなたにその効果と発見の一端をご体験いただきましょう」


「どうぞどうぞ『万人の才』!私達はあなたの力を見た事が無い。多くの逸話が真実であるのかどうかも含めて、ぜひともご披露いただきたいものです!」


(あのファンアールト家に繋がる少年は、先程の<認識阻害>が見破れなかった事を、いたく気にしている様だ。おそらくクラスの中心人物なのだろうな。発言にも『このままじゃ済まさない』という気持ちが溢れている。マリアンヌも止めないし、キースがどうするのか、楽しく拝見するとしよう)


指導官と並んで見守っていたディックは一人ニヤリとする。



(ちょっと何なのよあいつは!何でこんな話になるの!)


リリアはキースに絡んでいるマシューズに腹を立てていた。


裏路地で拐われそうになっていた自分を助け、実家の店に対する嫌がらせを解決し、この学院に導いてくれた恩人だ。さらに異性として、とても、非常に、毎日、常に意識しているという事もある。


「せっかくキースが実演してくれるって来てくれたのに、いちゃもんみたいな事言って!帰っちゃったらどうするのよ!見る前からケチばっかり付けて、あんたに一体何が解るっていうの!」


驚いた周りの生徒が一斉にリリアを見つめる。


「リリちゃん……」


「何、ユーコ?……みんなどうしたの?」


「リリちゃん、もしかして今の無意識で言ってたの?全部口から出てたけど……」


「え?あ?本当に……?あ~そ、そうよ!自分も知らなかった事なのに、それを見もせずにごちゃごちゃ言うのはおかしいでしょって事!みんなだってそう思うでしょ!私達の『万人の才』がバカにされているのよ!それで良いの?」


「た、確かに、キースさんは嘘なんかつかないし、わざわざ自分から売り込まなくたって、近衛騎士団長や国務長官がスカウトに来るぐらいだからな」


「それに魔術師たるもの、まずは黙って見てそれから検証するべきだ!」


「そうだそうだ!」


他の生徒達も続く。うまく周囲を巻き込む事ができ、リリアは胸を撫で下ろした。


一連のやり取りが聞こえていたキースは、一般市民側の列をにチラリと目をやる。興奮と恥ずかしさで顔を紅潮させているリリアを見つけると、一瞬目元が緩んだ。


「発動までの流れとしては、集中→魔力操作までは同じです。呪文詠唱をしながら発動を想像し、呪文の最後に発動語を付けます。『詠唱しながら発動を想像する』という点にピンとこないかもしれませんが、呪文自体が想像を手助けしてくれる構成で作られているとの事です。ではいきます。マシューズ・ファンアールト殿、他の方が見やすい様に、前へお願いします」


マシューズは生徒達の列の前に出てくる。顔には人を侮る様な、自分より立場が下と判断した者を見下す様な表情が浮かんでいる。


(そういえば、ベルナル様はジュリアンの事を『典型的な貴族』と言っていたな。親族なら似た様なものか)


「呪文は、これまでで地水火風4属性、長短2種類の系8種類と、魔力付与専用のもの1種類が発見されています。長い方が高い効果が見込めますが、魔力の消費も大きくなります。どちらを唱えるのか、発動が早い無詠唱魔法を使うのか、状況をよく見極める必要がありますね。それでは始めます。最初ですのでゆっくりやりますね」


キースが目を閉じ集中を始めた。

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お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)ポチリ

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