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第145話

【更新について】


更新したつもりになってました……


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


要指導な冒険者を、王都の冒険者ギルドに『転移の魔法陣』で移送し、ディックが新しいダンジョンの視察を行いました。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


一通り視察を終え、食堂でサイモンと合流したディックは、美味しい料理と(仕事中にも関わらず)ワインを一杯飲んでご満悦だった。今は食後のお茶とデザートをつついている。


「いや、さすがの美味しさだったな。この値段でこのレベルの食事が食べられるなら、俺がここに異動したいぐらいだ」


この食堂の本店は貴族街の近くにある。その立地からも、一般市民にはちょっとお高めな価格設定だが、こちらは客層に合わせ質より量のセットメニューが主力だ。


食材の質自体は落ちるが、料理人の腕はしっかりしている為、それでも十分に美味しい。


「で、どうでしたマスター、ここの施設は」


「現時点ではケチのつけようが無いな。これだけ整っていれば、どの施設も運用開始後の微調整で対応できそうだ。それに、近くにはビアンケの街もあるからな、緊急時に応援をもらう事もできるだろう」


サイモンもその見立てには賛成だった。


「サイモン、しばらく忙しいと思うがよろしく頼む。本当は早く帰ってきて欲しいのだが、まさかルカを放り出す事もできんからな」


「確かに……しかし、戻れる状況になっても、そこからさらに半月ですものね」


「いや、帰りは問題ない」


「……なるほど」


サイモンはディックの言葉ですぐに察した。


「よし、ではルカに見つかる前に帰るとしよう。いや、自分の目で見られて良かった」


「ええ、本当に。キース様様です」


一行はギルド支部の倉庫に戻り、サイモンを残し転移した。



「本当に移動しているんだものな……」


ディックは何とも言えない表情だ。


一瞬前まで間違いなく1500km離れ場所にいたのに、今は見慣れた自分の部屋にいる。さすがに2回目ではまだ馴れない様だ。


「キース、まだ時間あるか?ちょっと色々聞かせて欲しいのだが……」


サイモンから報告を受けた、今後の『転移の魔法陣』の運用についてだけでも大変な事なのに、先程クライブから「北国境のダンジョン以降盛りだくさん」と言われたのだ。この機会に是非聞いておきたい。


「はい、僕もそのつもりなのですが……魔術学院で、理事長先生もご一緒いただきたいのです」


「そうだな、確かに彼女抜きでは進められんだろう。よし、とりあえず行ってみるか」


ギルド所有の馬車に乗り魔術学院に向かう。


キースは、クライブについてもらい馭者台に座る。街中は初めてなのにいきなり王都という事で、かなり緊張している様だ。力が入り過ぎて肩が上がっている。


「キース、もっと力を抜きなさい。はい、深呼吸!スーーハーー、スーーハーー。この人混みだ、速度は出ない。馬もそれは解っている。問題ない」


「は、はい!頑張ります!」


(まず頑張る必要すら無いのだが……)


馬車はパカポコと軽やかな蹄の音を鳴らしながら、ゆっくり進んで行った。



一行は、執務室の続きにある応接室で、理事長であるマリアンヌと向き合って座っていた。


マリアンヌは、キース達の活躍はもちろん知っており、無事の帰還と銅級冒険者認定、北西国境のダンジョンの確保を、自分の事の様に喜んでくれた。


「で、今日はディックまで連れてどうしたのかしら?それに、あなたは北西国境のダンジョンにいると思っていたのだけど……」


「はい、その事も合わせてのお話になります。理事長先生、ディックさん、まずはこちらをお願いしたいのですが……」


キースが魔術契約の書類を出す。マリアンヌは一瞬目を見開いたが、すぐにペンを取りサインし魔石に魔力を流した。


「……おいおい、内容読まなくて良いのか?」


思わずディックが指摘する。


「あなたこそ何言ってるの。キースがそんな無体な約束なんて求める訳無いのだから、そんなものサインしてからで十分よ」


そう言って内容を読み始める。


「……解りました。これからする話は秘密、という事ね!ここまでするなんて何かしら?ドキドキするわ!」


「ディックさんは既に実際に体験されていますから、今更なのですが、他の方にもお願いしている事なので……」


「いや、こういうのはケジメだからな。俺も仲間に入れてくれ」


ディックもサインし魔力を流す。


「ありがとうございます。魔物暴走を鎮圧して、銅級冒険者になってからの事をお話します。魔術師であるお二人には、非常に興味深い話になると思いますのでお楽しみに」


キースは順を追って話始めた。


・北国境の遺跡の中にあのエレジーアの私室が隠されており、膨大な蔵書を部屋ごと譲られた。さらに、エレジーアがクマのぬいぐるみに意識と記憶を移し、今も部屋にいてやり取りが可能。


・蔵書の中から、魔法語による『呪文』を発見。セクレタリアス王国では、呪文を唱えて魔法を発動させていた。今に伝わっているのは『無詠唱魔法』と呼ばれる手段であり、それぞれに長所短所がある。


・「管理官交代」の話を聞き、6日で駐屯地まで走って行った。両親のいる駐屯地に着いた途端、アーレルジ側の冒険者に襲撃を受けたが、無事退け捕縛。


・アーレルジ側の冒険者と管理官を釣り出して捕え、その隙に魔法でエドゥー川の流れを変える事でダンジョンの入口を地続きにし確保。


・ダンジョンの状況確認の為、両親のパーティと共に入ったところ、下層域にドラゴンがおりそれを討伐。


・深層域にはセクレタリアス王国の施設が構成されており、素材を持ち帰った。セクレタリアス王国では、魔石から魔力を抜き出して保存、王都と各街で多くの魔導具を動かす為に使用していた。王都や街がクレーターになっているのは、その施設で爆発が起こった為(エレジーアの予想)



ここまで話したところで、キースは一息つこうと温くなったお茶を飲む。


お茶のカップ越しにディックとマリアンヌをチラリと見ると、マリアンヌはほぼ無表情、ディックは眉間にシワを寄せ首が傾いている。


「この先に、魔術契約に触れる話が出てきます。その時には、また言いますので」


二人揃って「えっ!?」という顔になる。もう始まっていると思っていたのだ。


(そう思うよな。すまんな二人とも。まだまだここからだ)


アリステアは気の毒そうに二人を見る。


「ここまでの話は誰が知っても特に問題はありません。既に事実として終わった事、過去の事ですから。ここからは魔法陣と未来の話になります。ではいきます」



・『影の兎』『音楽』『文字が流れる』『転写』『反発』の各種魔法陣を国王陛下、イングリット殿下、国務長官に献上、作成に伴う契約をした。


「殿下と国務長官は特にお忙しいから、転写の魔法陣は喜ばれたのではないの?私も本当に便利に使わせてもらっているわ。ありがとう」


「キース、戻る前に後で俺にも売ってくれ」


「分かりました、用意しておきます。今あげた魔法陣のうち、『反発』というのは、魔法陣同士が魔力で反発しあい、宙に浮くという代物です。馬車の車軸などに付ける事で、揺れと衝撃を完全に無くせます。これは既に国務省で量産体勢に入っていて、一枚作成する毎に1万リアル入ってきます。『転写』も、金額は違いますが、同様の契約をしようと考えています。で、ここからが魔術契約に触れる部分です」


「はい、どうぞ。お願いします」


マリアンヌが笑顔で姿勢を正す。


(ふふ、笑っていられるのも今のうちだけだぞ、マリアンヌ)


ディックは知っているだけに余裕だ。


「もう一つ、新しい魔法陣があります。それは『転移の魔法陣』です」


マリアンヌの顔から笑顔が消え、先程以上の無表情になった。


「お見せした方が早いと思いますので、実演しますね」


キースは席を立ち、扉の前に『転移の魔法陣』を置いた。そのままマリアンヌの隣に座り、足の下に対になる魔法陣を置く。マリアンヌの方を向き、目を合わせる。


「それでは行きます。起動」


キースはマリアンヌの隣から扉の前に転移した。


マリアンヌが口を開いたのは、キースが転移してから、3分程経ってからだった。


「あなたには散々驚かされてきたけど、本当にこれは最大級のものね!魔術契約を、というのも解ります」


キースは笑顔で頭に手をやり「えへへ」と笑う。可愛い。


「なあ、そういえば、これも他の魔法陣と同じ様に何らかの契約をしているのか?」


「はい、現時点では、転移1回50万リアルです。王城の中から北西国境のダンジョンに転移できます」


「キース……まさか、陛下や殿下にも先程の魔術契約をしてもらっているの?」


「はい。自分と家族と仲間達を守る為に必要だと考えましたので。そこに国務長官も入ります」


「王族に魔術契約を結ばせた冒険者なんて、エストリアの歴史上、間違いなく唯一の存在ね……はあ、何かもう胸がいっぱいになってきたわ」


マリアンヌは深呼吸を繰り返した。


「現時点では、まだ『転移の魔法陣』を国としてどの様に運用してゆくのかを検討する、という段階ですが、この先人が集められて専門の部署ができる見込みです。ダンジョンの中層域以降に降りる際にも使えたら、とも思っています」


「……それなら、先程の魔術契約の書類をたくさん作っておいて、国務長官にでも預けておいた方が良いのではないの?人を集めるにしても、契約無しでは何をする部署なのか説明できないでしょう?キースがずっと王城にいなければならなくなってしまうわ」


「確かに!できるだけ早く作って、『物質転送の魔法陣』で送っておきます。授与式までにはやっておいた方が良いな……あ、最後に、自分で言うのもなんですが、これまた飛び切りなのがあります」


「まだあるのか!」

「まだあるの!」


二人は全く同じ反応をみせた。2人とも60歳をいくつか過ぎている。あまり心臓に負担が掛かると止まりかねない。


「これはちょっと本当に悩んでおりまして……イングリット殿下に結婚を申し込まれています。『王配』として、公私共に助けて欲しいと」


ディックもマリアンヌも口を開けてポカーンとしている。ここまでの話とは、ちょっと違う種類の衝撃を受けた様だ。


「……んん~、もう何と言って良いものやら……」


「殿下……思い切りがよ過ぎますね」


同時に大きく溜息をついた。


キースはイングリットに結婚を申し込まれた時の状況を説明する。


「そうか……魔術師としてかなりの資質をお持ちだ、という話を聞いた事はあったが、そこまでとはな。似た者同士、良い夫婦になりそうな気もするが……だが、受けるにしろ断るにしろ、こればかりは自分で考え結論を出すしかないな」


「そうね。陛下も仰っている様に、無理にお受けするのも失礼です。今の段階で王家に入るつもりは無いのでしょう?」


「はい、僕の目標は白銀級冒険者になる事ですから。ですが『転移の魔法陣』の存在があります。冒険者をしつつ、何かあった時だけ戻る、という事が可能になってしまいました。『それでも良いから』と言われてしまうと、断る事は非常に難しくなってしまうのではないかなと」


「そもそも……キースはイングリット殿下とは結婚したくない、という事なのか?」


「いや、それは……やはり女性から頼りにされれば嬉しいですし、ましてや結婚の申し込みまでされるなんて……ですが、やっと冒険者になれて半年も経っていませんからね。自分の興味の向くままに活動したいという気持ちも強いです」


冒険者になる事は、小さい頃からのキースの目標だったのだ。やっと叶ったそれを簡単に終わらせる事はできない。


「では、結婚自体は問題無いけど、それは今では無い、という事かしら?」


「そう……なのでしょうか?」


以前王都の食堂、『コーンズフレーバー』の娘であるリリアにも尋ねられたが、『ありとあらゆる未知の体験や場所に行きたい』という望みに、果たして終わりはあるのだろうか。


「今では無いし、白銀級冒険者にもなっていない以上は、勘弁してほしい、と」


「う、うん?そうですね……正直、この先王位を継がれる事が決まっていて、僕より年下なのにあれだけ忙しく仕事をされているお姿を見ると、『何とかお助けしたい』とは思います。ですが、それが『自分と結婚』となると……そもそも、結婚なんて想像すらした事無かったので、どう考えて良いものやら……」


「そりゃそうだ」

「もっともね」


二人で頷く。


まだ18歳である。その歳で自分の結婚について考えるのは、それこそ王族や貴族ぐらいなものだ。


「それにですね、いくら殿下ご本人がお望みで陛下も賛成されているといっても、一般市民の冒険者ですよ?こういう方達の結婚となると、家柄とか血筋とか色々ありますよね?問題になりそうですけど、大丈夫なのでしょうか?」


「確かにな……冒険者としてなら超一流の血筋なんだけどな。親子三代でダンジョン2箇所を確保なんて、どこを探してもいないだろうからな」


ディックはそう言って笑うが、マリアンヌには笑顔は無い。


「……そこは正直問題無いと思うわ」


!?


貴族であるマリアンヌがそう言い切るからには理由があるのだろう。皆次の言葉を待った。


「今回の功績で、あなたのお父さんに爵位を与えるのです。そうすればキースは貴族のご令息です。それか、あなた本人に与えても良いでしょう。そうすればあなたが貴族家の当主です」


「そんな簡単で良いのでしょうか……?」


「もちろん簡単では無いのだけど、ダンジョンを国にもたらすという事はそれぐらいの事よ。各種魔法陣の件もあるし、事情をよく知らない貴族も『これなら貴族として国に縛り付けておいた方が良い』と判断するでしょう」


「そういえば、ヴァンガーデレン家と縁ができた、と言っていたよな?ヴァンガーデレンに養子として入りその後王配へ、という流れも有り得るかもしれん。家格的にも何の問題も無い」


キースはリーゼロッテとエヴァンゼリンの顔を思い浮かべる。二人ともキースの事が大好きである。国王から話を持ちかけられたら、断る事は無いだろう。


「なんか……もう逃げ道が無い様な気がしてきました……」


「だが、無理強いもしないし、今すぐ直ちに決めろ、という事では無いと仰っているのだろう? この先状況が変わる可能性も十分にある。『現時点ではお受けできません』という返答で良いと思うぞ」


「そうね。落ち着かないかもしれないけど、『冒険者として活動したい』という気持ちが強くあるのだから、それが最優先です」


「分かりました。お二人ともご意見ありがとうございます。なにぶん勝手が分からないもので、少しでも多くの方から話を聞きたいと思うのですが、内容が内容だけに、ほいほい話す訳にもいかず……」


「まあ、俺達が言ったのも結局『様子見で』というだけの事だからな。何の解決にもなっていない。すまんな……」


「いえ、他の方から『様子見で』と言ってもらえた事がありがたいというか、心強いというか。僕の考えは間違っていないと自信が持てます」


マリアンヌには、そういうキースの顔つきが、先程よりも柔らかくなった様にも見えた。

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