第144話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
ダンジョンの最終確認を終え、無事に戻ってきた一行。メルクス伯爵への報告と、授与式関連の話を終え食堂に行くと、そこには先乗りしてきている少々お行儀が悪い冒険者が。キースが対応しましたが、そのうちの一名がキースの事を知っている様です。
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木製の床に埋まるという、実際に目にしない限り理解できない状態にされた若い魔術師は、キースに促されて答える。
「お、お前『万人の才』だろ?お前が学院に入学した時、俺は5年生だったんだ」
「あぁ、だから気が付いたのですか。それなら納得です」
小柄でサラサラ金髪に緑の瞳、これだけでも非常に目立つのにこの可愛さだ。記憶に残るのも当然である。
「こう言ってはなんですが先輩、なぜこんな人達と一緒にいるのですか?仲間は慎重に選んだ方が良いと思いますが?」
「何と言うか……恩と押し、でな」
ライリーと名乗った若い魔術師は苦い顔で答える。納得して仲間になった訳でも無い様子だ。
まだ所属パーティが決まらなかった頃、酔っ払いに絡まれたところを助けられたという。彼らのパーティには魔術師がいなかった事から、そのまま行動を共にする様になったそうだ。
「だけどもう抜けたくて。どこ行ってもさっきみたいな感じだし。品が無いというか、他人の迷惑になっているのを解っているのに、わざとああいう態度をとるんだよ……別に俺がお上品な訳じゃないと思うんだが、ああいうのはどうにも理解できない」
「あぁ……解ります」
キースは先程の男達の様子を思い浮かべる。あれではどこへ行っても煙たがられるだろう。
エストリアの冒険者は、訓練校を卒業後はもちろん、冒険者になってからも、初心者支援と教育の制度がある為、先輩冒険者やギルドの教育担当者からからも指導を受け続ける。その結果、大抵の者は『真っ当な社会人』に育つ。
人数が少ない魔術師となると、よりその傾向は強くくなる。
だが、一定数は、こうやってはみ出してしまう者もいる。しかも、大抵の冒険者は一般人よりも強い。そこが厄介なところである。
「さて、この3人はどうしましょうねお父さん……そのまま放したらまた同じ事をしそうですし」
「サイモンさんはまだ支部にいるだろうか?こんな時間で申し訳無いが、ちょっと来てもらう訳にはいかんかな?」
という意見がライアルから出て、アリステアがサイモンを呼びに行く。
冒険者ギルドの支部に入ると、案の定サイモンはまだいた。男性職員と一緒に荷物の整理をしている。この男性が、新しく支部長に就任するのだろう。
「サイモンさんこんばんは。忙しいところ申し訳無いのですが……」
と切り出されたアリステアの話を聞いて、サイモンと支部長の男性は怒りを露わにする。
「たまにそういうのがいるのですよね……地方の街の支部だと、支援はまだしも、冒険者と教育担当者が馴れ合ってしまい、指導がきちんと行われていなかったりする様で。全くしょうのない……」
アリステア達が食堂に入ると、ライリーは解放されていたが、他の3人はまだ床に埋まったままだった。
(誰がこの状態にしたのかすぐに判るな……んん?この3人もしかして……)
「サイモンさん、お疲れ様です。やかましいので<沈黙>をかけてあります。解除しますか?」
「ええ、お願いします」
次の瞬間、3人の悪態が食堂に響き渡る。サイモンが口を開こうとするが、口を挟むタイミングが無い。
サイモンが大きく溜息をつくと、ガラリと雰囲気が変わる。顔は気持ち笑顔だが、目は少し細くなり、3人をじっと見つめる。
(あ、これヤバいやつだ)
皆が注目する中、サイモンは3人の方へ歩いてゆく。
そのまま男達の頭上まで来た時
「よいしょっと」
という、軽い声が静まり返った食堂に響いた。
サイモンは、大柄な戦士1の頭に尻を乗せ、戦士2とスカウトの頭に足裏を乗せて座ったのだ。座りやすそうには見えないが、バランスはきちんと取れている様で、ふらついてもいない。
(サイモンさんって、こういう面もあるんだ……)
座られた3人も、あまりにも予想外の状況に押し黙る。
「俺は王都冒険者ギルドサブマスターのサイモンってもんだ。今は、支部立ち上げの手伝いでここに来ている」
銀級冒険者証と、ギルド管理職のプレートが付いた鎖をスカウトの顔の前に垂らす。
(な、なんで王都のサブマスターがこんな所に!?)
「お前ら、ピナンレロ所属のハーデン、パット、ジェームズだろ?まさかここで会えるとはな……」
3人は座られたままビクリとした。
「ギルド支部から何件も訴えが届いているぞ。ご丁寧に似顔絵付きでな。とぼけても無駄なのは解っているだろうし、なんの事を言われているのかも解っているはずだ。おめぇらは前にも同じ事をして『指導』を受けたのに、まだやってやがるとはな」
怒りで赤かった3人の顔色が、サーっと白くなる。
「おめぇらの冒険者証を回収するのは簡単だ。だがよ、お前らみたいな奴は冒険者をクビになったら、間違いなく犯罪者になる。それじゃ世間様に迷惑になるし、身内の恥をさらす様なもんだ。だからよ、今度こそお前達が『真っ当な冒険者』になれる様に、王都の冒険者ギルドで『指導』を受けてもらう。社会の、人様の役に立てる冒険者になる良い機会だ。楽しみにしておけ」
3人の顔色は白を通り越して青っぽくみえる。
サイモンは「拘束の魔導具を取ってきます」と言い残し食堂を出る。
「『指導』って……どんな事をするのでしょうね……アーティ、ご存知ですか?」
キースはサイモンの後ろ姿を見送りながら呟く。
「さあな……冒険者ギルドは様々な技術を持った人々の集まりだ。色々ノウハウがあるのだろう」
もちろんアリステアは、全てではないが知っている。だが、わざわざ教える必要も無いと判断した。
「普通に冒険者をしている者には関係無い。それに、世の中には知らない方が幸せに、心安らかに暮らせる事もあるからな」
「はい、お父さん。僕は自分でも『知りたがり』という自覚はありますので、その辺特に気を付けて生きていこうと思います」
アリステアとライアルはちらりと視線を交わす。知らない事の吸収に貪欲なキースにしては、珍しい反応だ。
サイモンが戻ってきた為、一人づつ床から出して拘束の魔導具を付け、3人を数珠繋ぎにして別れて逃げられない様にする。
「とりあえず今日の夜は倉庫に放り込んで、明日から肉体労働でもさせて、頃合を見てここから王都に戻る馬車に乗せようと思います」
サイモンが青い顔で床に座り込む3人を見る。捨てるに捨てられないゴミでも見るかの様な目だ。
「ですが、ここに置いておくのも手を掛けなければいけませんし、馬車に乗せても半月掛かります。ちょっと面倒ですし、馭者に迷惑かけたり、途中で逃げられても……ですので、もういっその事……」
そこまで言ってニヤリとしながらチラリと見る。
3人はその可愛い笑顔に震え上がった。どう見ても子供のなりなのに、王都のサブマスターであるサイモンと対等に話をしているのだ。先程の魔法といい得体が知れない。
「そこで、こういうのはどうでしょう? ここに来て散々やったので、僕得意なんですよ」
キースがサイモンに耳うちする。
「いや、まあ確かにそれなら手間も掛かりませんが……良いのですか?」
「ダンジョンの最終確認は終わりましたし、3日後の報奨の授与式までは急ぎでする事もありません。サイモンさん達はお忙しいのですから、こんな事は暇人にお任せください。ちょっと王都で済ませたい用事もありますし」
サイモンはアリステアとライアルに目線を送り確認する。2人は笑って頷いた。
「では……お手数ですがお願いします」
「はい、行ってきます!」
キースは胸を張って元気良く応えた。
翌日昼前、キースと大人3人組は、王都の冒険者ギルドの、ディックの執務室でお茶を飲んでいた。
移動ルートは、いつも通りに『北国境のダンジョン』経由である。
王城に『転移』した方がもちろん近いのだが、設置にあたり魔術契約まで結ばせたのに、まさか自分がぽんぽん使う訳にもいかない。
勝手にアルトゥールやイングリットの私室の近くに立ち入る、さらに挨拶も無しというのはあまりにも失礼、というのもある。
何より、『王配』の話をされても面倒だ。キースとしては会うのは必要最低限にしたい。
「で、ここと向こうを『転移の魔法陣』で繋いで、そいつらを運んでくれるのか?正直、それは非常に助かる。だが、あの3人に『転移の魔法陣』の存在が知られてしまうのでは無いのか?」
「彼らは『眠りの魔法陣』で寝かせてあるので、何がどうなって王都に来たのか分かりません。半月経過したら起こせば、馬車で移動してきたのと同じ事になります」
「確かにな……それにサイモンがすぐに戻って来られるもの助かる。正直、あいつがいなくて非常に忙しい。他の者に振れる仕事は振っているのだが、それでもいっぱいいっぱいだ」
「ふふ……お疲れ様です」
キースは、サイモンが「出張もたまには気分転換になって良い」と言っていたのを思い出した。すぐに王都に戻れてしまうと知った時、サイモンはどんな顔をするだろうか。
「では、この続きになっている部屋に置くか。俺の魔力登録がしてあるから、他の者は入れないし」
「それは良いですね!ではそこにしましょう。あ、3人を転移させてからの方が良いですね。3人は倉庫で良いですか?」
「ああ、そうだな。端に置いておいて、『マスター管理』とでも書いた貼り紙でもしておく」
「あ、そうだ。ディックさん、向こうがどんな感じか見てみます?見たくないですか?」
「……見たい。正直、非常に気になっている」
国内初の試みが多数導入されている、最新のダンジョンだ。役職的にも、個人的にもぜひ直に見てみたいとは思っていたのだ。しかし、1500kmは遠過ぎる。どうせ無理だと検討すらしていない。
「……支部の準備状況の確認と、護送の立ち会いをされた方がよろしいのではないでしょうか?お忙しいところ恐縮ですが」
「……まあ、確かにその必要はあるかもしれんな。仕方がない。一緒に行こう」
どちらも酷い棒読みだ。
お互いに顔を見合わせニヤリとする。とんだ茶番である。
「では、さっさと3人を運んでしまいましょう」
倉庫に『転移の魔法陣』を設置し、支部の倉庫に転移、その横に寝かせてある3人を魔法陣の上に乗せて一緒に転移する。
かくして、ハーデン、パット、ジェームズの3人は、本人も知らぬ前に王都に到着した。『指導』が終われば、世の中のお役に立てる立派な冒険者のできあがりだ。
倉庫から魔法陣を設置する部屋に移動し、タイラントリザードの牙で床に固定する。
「ちょっと待っててくれ。外出してくると伝えてくる」
ディックはそう言って部屋を出て、すぐに戻ってきた。
「よ、よし、ではやってくれ」
さすがのディックも表情が固い。何事も初めては緊張するものだ。
「それでは行きます。起動」
ディックが目を開けると、そこは見知らぬ場所だった。まだあまり荷物も無く、がらんとした、何の変哲もない倉庫だ。
「支部に誰がいるのか見てきます。少々お待ちを」
キースが倉庫を出て行った。新任の支部長とディックが顔を合わせるのはまずい。
「どうだディック、1500knを一瞬で移動した気分は?」
ディックの呆然気味の顔を見て、アリステアがにやにやしている。
「いやはやこいつは何とも……凄まじいとしか言いようがありませんな」
「本人からも話はあるだろうが、『北国境のダンジョン』以降、色々と盛りだくさんだからな。心の準備をしておいた方が良いぞ」
なぜかクライブが得意気な顔をしている。
「マジかよ……心臓止まるんじゃねぇだろうな……大丈夫かな」
その時、倉庫の扉が開きキースが顔を覗かせる。
「今はサイモンさんだけです。行きましょう」
連れ立って外に出て、ギルド支部に入る。
「マスター、視察と護送立ち会いお疲れ様です」
「ああ、行うべきだという意見が強くてな。忙しいのだが仕方がない」
2人で口元をニヤリとする。
「ルカのやつはどこに行ったんだ?」
「先に昼休憩を取らせました。食堂にいるはずですから、その間に他の施設を回ると良いでしょう」
「分かった。では、ルカが戻ったらその食堂で合流して、俺達も昼飯にしよう」
「了解です。ここの食堂は美味しいんですよ!出店の権利を取ったのは、貴族街の近くにある、あの『フローリア』ですから」
「ほう!そいつは楽しみだ!ではまた後でな」
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