第141話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
各自が力を発揮して無事ドラゴンを討伐し、貴重な素材を剥ぎ取って魔石を持ち帰りました。
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翌朝、ライアルとキースの合同パーティは8の鐘に合わせて集合し、『転移の魔法陣』でダンジョンに入った。改めて下層域の探索を開始する。
途中、キースの<探査>で様々な魔物を感知するが、事前に『進路にいるか、下層域に来る冒険者でも危険な、それこそドラゴンの様な魔物とだけ戦う』と決めてある為、ほとんどの魔物には近づかずに無視して進む。
目的はあくまでも状況確認であって、魔物の討伐と魔石回収ではないからだ。
進みながら、ライアルはパーティ全体の雰囲気が昨日までと違うと感じていた。
昨日の探索時、正確にはドラゴンと遭遇するまでのパーティは、どこか弛んだ、緊張感に欠けている様な空気があった。
4年間膠着状態だったダンジョンを確保し、もう間もなく王都に戻る、という状況。
行動を共にするのは、(あくまでも結果としてだが)ドラゴンと遭遇しても倒せてしまう程の力を持った、国内屈指の冒険者達。
そんな状況の中、気を緩ませず集中し続けるのは難しい。
各自自分では集中しているつもりなのだろうが、心のどこかから油断や隙が染み出ていた様だ。
そして、それはライアル自身も例外では無かった。
しかし今日は、全体を取り巻く空気が昨日とは違う。程よくピンと張っている感じがするのだ。
(最初はとんでもない事になったと思ったが、あのドラゴンとの遭遇は、結果としては良い方に転んだのかもしれん)
ライアルは昨日の戦いを思い出す。
(俺の目標は『白銀級』だ。ここまできて死んだり大怪我などしていられん。止まっている余裕など無い)
もう間もなく40も半ばになる。冒険者として活動できるのもそう長くは無いだろう。
もちろん、冒険者の仕事が、ダンジョンに入って魔物と戦い、魔石を回収する事だけではない事は理解している。
指導担当官として後進の育成を中心にしたり、貴族や裕福な商人の護衛を専門に請け負う者もいる。
人それぞれ様々な考えと理由があるのは承知しているが、ライアル自身はどうしても最前線で活動したい気持ちが強い。
正直なところ、ダンジョンが確保できるまでは「なれても金級だろう」と考えていた。
彼の母が、国王直々に白銀級に認定された時、周囲の人々は我が事の様に喜び、どこからも不満の声は聞こえてこなかったという。
もちろん、内心では面白く思わない者もいただろう。100人いて100人賛成、などという事はそう無い。
だが、数々の魔導具、魔導書を始めとする各種資料の発見と回収、ダンジョンの発見と確保、冒険者の教育と支援制度の立ち上げ、という圧倒的な実績の前には、何を言っても無駄と思わせたのだ。
心のどこかでそんな母親の事を「特別な存在」と思っていた。「一応目標とは言うけど、実際には……ね」と。
だが、彼の息子は「僕の目標はお父さんに追い着いておばあ様の様に白銀級になる事」ときっぱり言い切った。
ライアルは最初は嬉しくて感激していたが、ダンジョンを確保し心に余裕が出てくると、何やらモヤモヤしてきた。
冒険者を志す者なら誰もが一度は憧れるであろう、650年間でたった一人しかいない白銀級冒険者。彼の息子は臆面もなくそれになると宣言したのだ。
自分は「あれは特別な存在」と半ば諦めていたのに。
ライアルは、自身の余りの腑抜けっぷりに情けなくなった。
冒険者となって20数年、『エストリア王国筆頭』とまで言われる自分が、冒険者になって数ヶ月の新米に「あなたを追い越して白銀級になります」と面と向かって言われたのだ。
喜んでいる場合ではない。
さらに、今回の功績で銀級となる(可能性が高い)息子なら、本当に先にそこに辿り着かれてもおかしくない事に気が付いた瞬間、ライアルの心には息子に対する猛烈な対抗意識が巻き起こった。
ふざけるな、と。
そんな簡単なもんじゃねぇぞ、と。
冒険者舐めんな、と。
もちろん息子相手に敵対する訳では無いが、ダンジョンにいる間に、気を抜いている余裕などライアルには無かったのだ。
(俺にはキースの様な、状況を劇的に変える様な力は無い)
(ダンジョン確保の報奨で、金級にはなる事ができるだろう。だが、そこから白銀級となると、一体どの様な実績を残せば良いのだろうか)
(だが、無い物ねだりをしても始まらん。余計な事を考えず、常に冷静に、周囲の状況と仲間達の小さな変化を見逃さずに、最適を判断して前進を続ける。俺は俺にできる事を続け、必ず白銀級に到達してみせる!)
ライアルは、気持ち新たに白銀級を目指して進む事を心に誓った。
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下層域の探索は順調に進んだ。
ここまで降りてくると、たとえゴブリンであったとしても、体格、筋力、体力、素早さ、体表や筋組織の硬さなどの各種能力は、上層域とは比較にならない。集団で現れると非常に危険な相手となる。
だが、この合同パーティは、その程度では障害にもならぬと進んでゆく。
なんと言っても<探査>で魔物の位置が分かる事が大きい。避けて進むも不意を突くも自由自在だ。
たまにオーガやギガース(巨人の仲間)、タイラントリザードの様な大物も出るが、『草原と森』という今の下層域の地形上、草原でさえ出会わなければ問題無く不意が打てる。
そして、下層域に入って3つ目の階段を降りた時、遂に景色が変わった。深層域に入ったのだ。
階段の正面には大きな門があり、その先には複数の建物が建っているのが見える。
「<探査>を目一杯広げてみます。少々お待ちください」
降りてきた階段の脇でキースが周囲を探る。
皆が見守る中<探査>の範囲を広げてゆくが、何やら様子がおかしい。眉間に皺が寄り、首を傾げている。
キースが閉じていた目を開け、困惑した表情で皆を見渡す。
「……2つ、かなり大きな反応がありましたが、それだけです。他には反応がありません。で、その2つなのですが、何だろうこれ……魔物の反応では無いと思うのですが、ちょっとはっきりしません」
いつも明快なキースにしては珍しい答えである。
「その場から動かないのか?寝ているのだろうか?あぁ、でも魔物らしくは無いのか……何だろうな」
ライアルも首を捻る。
「遺跡にいる『守護者』の様な、自動人形だろうか?キースは見た事無いよな?」
「そうですね、僕の遺跡経験は北国境の遺跡だけですから。ふむ、『守護者』ですか……」
「2つの反応の距離は近いのか?」
「はい、だいたい……30mぐらいかと」
「で、他には反応無しか……よし、ではここで休憩を入れよう。下層域も休憩無しで一気に抜けたからな。しっかり休んで仕切りなおそう」
『転移の魔法陣』を設置する為、門の脇の建物に入る。
「衛兵の詰所ですな……」
クライブの言葉に皆が頷く。同じ事を考えた様だ。
「となるとここは街でしょうか? ちょっと楽しみですね」
キースが目を輝かす。そのまま入っていってしまいそうな勢いだ。
(ダンジョンの深層域で、得体の知れない大きな反応が2つあるというのに、うちの息子は本当にいつも通りね)
息子大好きのマクリーンも、流石に呆れ顔だ。
「ほらほら、中は休憩してからだ。身体も心もゆとりを持って行動しないと、碌な事にならんからな」
まだ名残惜しそうにしているキースが『転移の魔法陣』を床に置き、皆で固まって転移する。
「よし、今が1の鐘と2の鐘の間か……では、4の鐘に合わせて集合してくれ。お疲れ様」
アリステア達が管理事務所を出ると、同じタイミングで隣の冒険者ギルド支部からも人が出てきた。
その顔を見て、思わず声をあげる。
「サイモンさん!」
「おおっ!? どうも皆さん、ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」
王都の冒険者ギルドのサブマスター、サイモンだった。
「サイモンさんも立ち上げ準備で来られたのですか?」
「ええ、ここの支部長に就任する者が、初めて支部の責任者を任される者でして。準備の手伝いとしばらくの間応援と指導を」
「そうなんですね!遠路遥々お疲れ様です!」
「ふふ、まあ、たまには出張も良いものです。気分も変わりますしね。それより皆さん、ライアルさん達と一緒に大活躍だったそうではありませんか。さすがですね」
「え、あ、いや~、はい、ありがとうございます」
照れくさそうに頭に手をやる。可愛い。
(褒められても謙遜せずに素直に受け止めたな。良い傾向だ)
大人3人組は視線を交わす。
「先日銅級になったばかりですが、王都の冒険者達の間では『銀級間違い無し』の声も多くあがっていますよ」
「そ、そんな事に……?ありがたい話ですが、それは確定ではないですよね?」
「いや、まず間違い無いと思いますよ?ダンジョンを確保したのに級が上がらないのでは、夢がありません」
国(=国務省=冒険者ギルド)にしてみれば、ダンジョン一つで莫大な金が国庫に入る事になるのだ。銀級ぐらいまでならいくら上げても惜しくない。もちろん乱発する事は無いが。
「皆さんは、まだしばらくここにいるのですか?」
「そうですね……まだちょっとはっきりしないのですが。今、両親のパーティと一緒にダンジョンの状況確認中でして。今も深層域に入ったところで、休憩に戻ってきたところなんです」
「ほほぅ!それは随分と豪華なメンバーですね……休憩の為に深層域からわざわざ戻ってきたのですか?」
「……外ではちょっと。どこか人のいない所が良いですね」
キースがキョロキョロと辺りを見回す。
(もしかして……アレか?)
「では、支部の会議室に」
察したサイモンの後に続いてギルド支部に入ってゆく。
まだ片付けきれていない木箱の間を通り抜けながら部屋に入り、扉に鍵を掛ける。
「サイモンさんもご存知の『例のアレ』を使っています」
会議用のテーブル席に座り、すぐにキースが切り出す。
「あぁ、やはり……もしかしたら、とは思いましたが。地上で休めれば、間違いなくダンジョン内よりリラックスできますね。ゆとりがあれば探索の効率も安全性も上がります」
「それで、『例のアレ』の存在を、国王陛下、イングリット殿下、国務長官、メルクス閣下、ヴァンガーデレン家の次期当主であるベルナル様には明かしています。この方々に明かさないと、いつまでもこそこそと使わなければなりませんから。実際、僕達の移動について違和感を覚えていた方もいました」
「なんと……それはまた大変な話になってきましたね」
「で、国家権力から身を守る為に、王城におわす方々には魔術契約をしてもらってから説明したんです」
「……その方々相手に……魔術契約……?」
サイモンが絶句する。
王都冒険者ギルドという大きな組織で、ディックの右腕として辣腕を振るいつつ情報屋まで仕切る、海千山千のサイモンもここが限界だった様だ。
「魔法陣を取り上げられて、闇に葬られる可能性もあるかなと思いまして」
「確かにそれだけのものであるとは思います。ですが、それを実際にやってのけるとは……」
「まだまだ検討段階ですが、国務省管轄で運用手法の立案が進み始めています。僕達の様な、地上から中層域以降へ転移する使い方は冒険者証で本人確認が容易ですし、行き先もダンジョン内限定。これなら各街間より先に導入できるかもしれませんね」
「……ダンジョンでの先行運用を、管理手法や運用の実証実験にする事もできる、という方向で押せばイケますでしょうかね?」
サイモンの言葉にキースはにんまりとした笑みを浮かべる。
「さすがはサイモンさん。ここまでの話を、ディックさんに伝えていただいても良いですか?まだまだ先の事ですが、話だけでも知っておいた方が良いかと思いますので」
「分かりました。報告書を送っておきます。いや、今日ここで会えて良かった」
「いつも人騒がせで申し訳ありません」
(あ、自覚はあるんだ)
大人3人組はそう思ったが、サイモンはどうだろうか。表情や態度からは窺いしれない。
「それでは戻ります。休む時は休まないと怒られてしまいますから」
「ええ、次休める保証などありません。休める時にしっかり休む事は非常に重要ですよ。しかも深層域ですからね。その休憩時間をもらってしまった私が言うのもなんですが」
「はい、ありがとうございます。先程の件についてご意見やご要望あればお願いします。皆が手探りでやっていますので、色々な方からの意見が欲しいです」
「分かりました。この件は魔術学院の理事長先生はご存知無いのですよね?知っていれば、マスターも相談できるかと思ったのですが」
「理事長先生か……そうですね……報奨の授与式で戻った時に僕が直接お話します。ディックさんがどうのというより、人伝はちょっと。来月始まる、という様な話でもありませんし」
「承知しました。先程の、この件を知っている人物名も書いておきましょう。その方々以外他言無用という事で念押ししておきます」
「よろしくお願いします」
アリステア達は、サイモンと別れギルド支部を出た。
「皆さん、中途半端な時間になってしまいましたがどうしましょう?食堂でおやつとお茶でもしましょうか?」
「お、いいな。あそこは料理もお菓子も美味しいしな。ほんと良い店が入ってくれた」
アリステアは常々、「食事ができる回数は人生で決まっているのだから、どうせなら美味しい物を食べなければ損だ」と口にする。要するに食いしん坊である。
「出店の権利は入札だったのですが、王都で人気のお店が権利を取ったそうです。そこで修行していた人が料理長となっているそうです」
フランが聞きつけてきた話を披露する。
「ここがこれからもっと発展して人が集まってくれば、王都の店にも新規のお客さんが入るだろうしな。相乗効果、というやつか」
そんな話をしながら連れ立って食堂に入り、焼き菓子とお茶を楽しんだ。
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