第139話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
合同でダンジョンの最終確認に来たライアル&キースパーティ。下層域まで順調にやってきましたが、出現した魔物はなんと『ドラゴン』!自分達がやらないと他の冒険者が被害に遭うし、そもそもダンジョンが機能しません。急いで作戦を立てて戦いを挑みます。
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「……という事でよろしくお願いします。各自がそれぞれの役割を果たせば、そこまで心配しなくても大丈夫だと思いますよ?」
「魔物としてダンジョンに出てくるという事は、下位種であるレッサードラゴンです。竜語魔法もブレスも飛んで来ませんから!これで僕達も『ドラゴンスレイヤー』です!やったね!」
(何が大丈夫だと言うのか……)
一人テンションの高いキースを、皆がジト目で見つめる。
「ダンジョンに出てくる以上はレッサードラゴン」というキースの言葉は、ドラゴンは『幻獣』に分類されており、世界のどこかに生息している点を根拠としている。野生動物と一緒なのだ。
『魔物=ダンジョン内で生み出された、魔素により構成された生物』である為、今回登場したドラゴンは、いつかの時代のどこかで倒された事があり、ダンジョンに魔物として現れた、という事になる。
『古龍を倒した』という記録は確認されていない為(あったとしても酔っ払いの与太話ぐらい信憑性が無い)先程の「ダンジョンに出てくる以上はレッサードラゴン」という発言に繋がるのだ。
(まあ、多少はマシかもしれないけど、ドラゴンはドラゴンだろうに)
どの攻撃も即死級である。キースの言葉を受けても、全く気が楽にはならない。
ドラゴンは、地上に降りてきてしばらく辺りを見渡していたが、今は翼を折りたたんで丸く蹲っている。
「……それでは皆、心の準備はいいか?そろそろ始めるとしよう」
その声から察するに、さすがのライアルも緊張している。なんと言っても相手は下位種とはいえ『最強の幻獣』だ。
「では始めます」
そう言って皆の前に出てきたのは、フランとマクリーンだ。
二人は先程の段取りを思い出す。
(フランは全員に<身体強化>の加護を、お母さんは、<尽きぬ戦神の勇気>の加護をお願いします)
フランが『海の神 ウェイブルト』に、マクリーンが『戦の神 エヴェネプール』に祈る。
全員の身体が、海の神を顕す黄色い光と、戦の神を顕す赤い光に包まれた。
<尽きぬ戦神の勇気>の加護は、心を勇気と高揚感で満たし、戦いへの恐怖心を無くし普段通りの力を発揮させてくれる。
よって、『咆哮』に対して精神的な抵抗に失敗したとしても、『恐慌』効果を打ち消す。
後は、怪我人の発生に応じて<回復>が与えられる様に待機である。
加護が掛かったのを合図に、シリルが上位精霊の召喚を始め、キースが、先日発見した<魔力付与>専用の呪文を唱え出す。
『数多の武器を鍛えし 鍛治の神よ
その槌をもて 我が輩護る盾を打ち
何者も切り裂き貫く刃を鍛え
我らの敵を滅ぼす力を与えたまえ!
<エンチャンテッド・ウェポン>! 』
呪文で効果が増した<魔力付与>が掛かった武具は、眩しいくらいに青白く輝き出す。
(僕が皆さんの武具に<魔力付与>を掛けると、ドラゴンがその魔力に反応すると思います。それを合図にお父さん、アーティ、クライブは、ドラゴンを牽制して、シリルの召喚が終わるまで注意を引いてください)
事前のキースの言葉通り、丸くなっていたドラゴンが首をもたげ、皆が集まっている方を眺める。
<尽きぬ戦神の勇気>の加護に護られた3人は、躊躇いなく森の中から飛び出し、<身体強化>の加護とも相まって、ドラゴンとの距離を一気に詰める。
だが、武器が届く距離までは近付かずに、周囲で大きな声を挙げ、武器を振りかざす。
ドラゴンは、周囲でうろちょろする小さい生き物に苛立ったのか、身体を起こし後脚で立ち上がった。
身体を回転させて尻尾を振り回してくる。
そして、付近に一際強い風が吹いた次の瞬間、シリルの正面には、上半身だけで口髭を生やした大きな男性の姿が浮かんでいた。
召喚に応じて現れたのは、風の上位精霊である『ジン』だ。
「久しいな森の子よ。我が力が必要か?」
直接頭の中に響く様な厚みのある声だ。だが圧力などは全く感じない。初夏のそよ風の様な爽やかな印象すら受ける。
「あのドラゴンの魔力が風に干渉できない様にして」
「……ふむ。飛べぬ様にしたいのだな?分かった。容易い事だ。それだけで良いのか?」
「あそこの彼の魔法に合わせて、ドラゴンの翼に一撃入れてほしい。できる?」
「造作もない。空は我が領域、風は我の産物。あの様なトカゲが、我が物顔で好きにして良いものでは無い」
ジンが、ドラゴンの方を向き右手をかざす。
「これでもう空は飛べぬ」
ジンはシリルへと向き直り、あっさりと告げる。
シリルはジンの言葉に頷くと、ドラゴンの周囲で牽制している3人に向かって、魔法で声を飛ばす。
「もう飛べない。攻撃して」
その声を聞いて3人は視線を交わし、その一瞬で意思疎通をする。
(行くぞ!)
ドラゴンの左脚目掛けて、3人が前と左右から殺到した。
3人の中で一番素早いアリステアが、双剣に魔力を思い切り込めながら駆け寄る。
ミスリル製で、元々『鋭刃化』と『硬化』の付与がされ極上の切れ味を誇るところに、更にキースの<魔力付与>まで乗っている。
双剣は、ドラゴンの鱗をもろともせず鍔まで易々と突き刺さった。
(ドラゴン相手だというのに、手応えがまるで無い。水に突き入れたみたいだ)
その切れ味に驚嘆しつつ、突き刺した双剣を×を描く様に動かし左右に切り裂いた。
アリステアから僅かに遅れてライアルが位置に着く。
今日の武器は、狭いダンジョンでも使いやすいサイズである、気持ち短めの黒鋼製バスタードソードだ。
それを両手で持ち、アリステアとは反対側から突き立てる。アリステアの双剣程の切れ味は無いが、武器の重さとライアルの勢いと体重も乗って深々と突き刺さり、十分に威力を発揮している。
さしものドラゴンも、脚に走った鋭い痛みにより一瞬動きが止まった。
それを見たクライブは、走りながら空中に飛び上がった。頭上に振り上げた黒鋼製の巨大なメイスを、魔力と落下の勢いと体重を思い切り乗せて、爪の付け根を目掛けて振り下ろす。骨を折るのが目的だ。
「ゴギン」という太く鈍い音が辺りに響き渡る。
クライブが体勢を立て直して離れた後には、3本の折れた爪が転がっていた。クライブのメイスは、見事にドラゴンの脚の甲の骨と爪を叩き折った。
左脚を徹底して痛めつけた結果、ドラゴンの身体は右に傾いていた。もう体重を掛けることができないのだ。
これでは地上を走り突進したりという事もできず、噛み付いたり尻尾を振り回すのがせいぜいである。
本能で命の危険を感じたドラゴンは、一旦仕切り直す為に空へと飛ぼうとした。魔力を展開し翼を動かす。
だが、いつもの様に身体が宙に浮かんでいかない。
さすがに慌てながら、より魔力を展開し羽を慌ただしく動かすが、その大きな身体が浮かび上がる事は無い。
左脚を襲う激痛と、飛びたくても飛べない苛立ちに怒り狂ったドラゴンは、息を大きく吸い込んだ。
それを見たシリルが全員に魔法で声を飛ばす。
「『咆哮』!備えて!」
次の瞬間、ドラゴンが怒りの気持ちと魔力を思い切り込め『咆哮』を放つ。
辺りの木々を震わし揺るがす程の大音量だったが、<尽きぬ戦神の勇気>の効果と、シリルの声で構える事ができた事により、恐慌状態に陥った者はいなかった。
ドラゴンは変わらず動き回る小さい生き物の姿に、更に苛立った。
森から草原に出てすぐの辺りでは、ニバリが魔法の準備を整えていた。
ダンジョンを確保してからこの2ヶ月半の間、ニバリはひたすら呪文詠唱からの発動を練習し続けた。
キースが発動させた凄まじい効果を目の当たりにしたから、というのも間違い無いのだが、何よりも『呪文そのものが格好良いから』であった。
元々ニバリは、キースが呪文の訳を披露した時に(魔法を発動する時、前口上として言ったら格好良さそう)と考えていたのだ。そういった感性は、キースと同類と言える。
彼が呪文詠唱からの発動に拘るのも当然の流れだった。
生真面目で無口な為若干影が薄いが、国内最高峰のパーティに所属する魔術師である。相当な実力者なのだ。
そんな彼がみっちり修行した結果、ニバリは見事に呪文詠唱からの発動をものにした。
(我が成果の披露に相応しい相手だ)
そう考えながら、ニバリは呪文の詠唱を始めた。
『永劫に燃え盛る居城に住まう炎の公爵よ
我はここに其に願う
全ての災い浄化する
火生の如き力手に
其と我らに仇なす者を
灰燼へと帰し 永劫に火途を歩ません事を!
<ファイヤー・ボール>!」
発動と同時に、ニバリの頭上には二階建て住宅をも飲み込みそうな、巨大な火球が生み出された。
しかも3つである。無詠唱では、どう頑張っても一つが限界であっただろう。
膨大な魔力消費の反動に意識が飛びそうになる。
(ここで堪えずにいつ堪えるのだ!)
気力を振り絞り、ニバリが両手をドラゴンへ向けて振りかざす。3つの巨大な火球はドラゴンの頭を目掛けて飛んでゆく。
それに合わせて、ジンも複数の大きな風の刃を羽めがけて射ち出した。
ニバリの生み出した巨大な火球は、見事にドラゴンの頭に炸裂し、魔力による保護を打ち破りその瞳を炭に変えた。
ジンの放った風の刃は右の羽を付け根から断ち切った。
ドラゴンは、顔と背中を襲った痛みに叫び声をあげ、身悶える。
風への干渉を封じられ、羽も落とされたドラゴンは、完全に飛行能力を失った。
前衛3人がドラゴンの左脚を切り刻み、ニバリの渾身の魔法が炸裂する直前、キースが次の呪文を唱え出す。
風属性の魔法効果を増す、一番最初に見つけ訳したあの呪文だ。
集中を始めると、青白い光がキースの身体を包み、取り巻く魔力が渦を巻き始めた。
握り合わせた両拳をドラゴンに向け、脚を前後に大きく広げ半身になり、反動に備えた姿勢を取りながら詠唱を始める。
『古より舞い踊る
大いなる風の神の娘よ
我はここに其に願う
現世の禍事打ち払う
風巻の如き力手に
其と我らに仇なす者を
原初の塵へと返さん事を!
<ウィンド・ブレード>!」
その合わせた拳から、風の属性を含んだ魔力の塊である、帯状の不可視の刃が飛んだ。
余りの反動で、打ち出した腕は頭上に跳ね上がり、身体は後ろへ倒れ込み尻もちをつく。
キースの放った不可視の刃は、ドラゴンの太く逞しい首と頭の境い目に当たり、見事ドラゴンの頭を高々と刎ね飛ばした。
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