第137話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
共同神殿でドッキリはありましたが、無事視察は終わりました。
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視察を終えた一行は、メルクス伯爵の寝室の奥にある『転移の魔法陣』に戻ってきた。
「メルクス、今日は良いものを見せてもらった。皆も護衛ご苦労であったな。感謝する」
「メルクス伯爵、ありがとうございました。各街の代官に『ダンジョンの供用開始』を連絡したいのですが、よろしいでしょうか?」
「一部完了していない店舗もございますが、運用自体には影響ございません。この後、ライアルとキースのパーティで、深層域まで状況を確認しに行く予定となっております。問題無ければ供用開始となります」
下層域から下にはどんな魔物がいるか判らない。とんでもない魔物がいる可能性もある。一度深く潜り、1パーティで対応できない様な魔物がいないか確認し、必要があればそのまま排除するのだ。
「分かりました。それでは、『近日運用開始』とだけ連絡を回しておきます。戻られたらご連絡くださいませ……先生、皆様、くれぐれもお気を付けて」
(せ、先生!?キースは殿下に先生と呼ばれているのか!?)
(殿下が魔術師だというのは知られた話だが……同じ魔術師という立場から見れば、先生呼びもあるか)
ライアルとデヘントは内心舌を巻いた。
「そうだぞ、キース。そなたの身体は、もうおのれのものだけでは無いのだ。十分に気を付ける様に」
アルトゥールもキースをじっと見つめる。
(こ、この展開はまずい!違う話題にしないと!)
『キースがイングリットから結婚を申し込まれた』のは、『ダンジョン確保後のアーレルジへの譲歩』について調整した場での事だ。そこに同席していたアリステア達は知っているが、両親やデヘント達には敢えて伝えていない。
「……陛下、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
しかし、キースが手頃な話題を思いつく前に、ライアルがアルトゥールに尋ねる。
百戦錬磨のアルトゥールは、訝しげなライアルの口調から、自分に何を尋ねるつもりかすぐに察した。伊達に国王を60年も務めていない。
(……なるほどの。まだ伝えておらんかったのか。どれ、イングリットの援護射撃をしてやるか)
「……なんじゃキース、そなたまさか、こんな大事な話をまだ両親にしておらんのか?それはいかんだろう。どれ、ではわしから正式に伝えよう」
(おじい様……棒読み過ぎです。でもありがとうございます!)
(なるほど、外堀から埋めるのですね)
アルトゥールは、キースから視線を移しライアルを正面から見据える。
「ライアル、イングリットは、そなたの息子キースを、是非とも『王配』にと望んでおる。これには、わしやティモンド、ヴァンガーデレンらも賛成している。もちろん無理強いは良くないのでな、あくまでも本人の意志を尊重するが、この様な状況である事は承知しておいてほしい」
「ライアル殿、私、『お義父さま』と呼べる日が来ることを毎日祈っております。どうぞよろしくお願い致します」
イングリットは笑顔で頬を染める。
(王……配……?キースが?……殿下のお義父……さま?)
ライアルは固まってしまい言葉も無い。
メルクス伯爵もデヘントも同様だ。
(……やられた。まさかこのタイミングとは……考えていなかった)
「まあ、この話しはおいおい、な。では皆よ、授与式の日取りと詳細が決まったら連絡する。それまで息災でおれよ。あと、欠席は認めぬからの?そのつもりで。ではキース、よろしく頼む」
「……はい。ではこちらへ」
皆で『転移の魔法陣』に(一名やたらと詰めながら)乗り、王城へ戻る。
「キース、まさかこの目で北西国境のダンジョンを見る事ができるとは思わなんだわ。礼を言うぞ」
「い、いえ、お役に立てて何よりです……」
「なんじゃ、元気無いのう……さっきの話か?安心せいい。先程も言ったが、無理強いはせぬよ。そなたも目標であった冒険者になったばかりだ。まだ他の人生など考えられんであろう。それに、王配など自ら望んでいない者では務まらぬものよ」
「……はい、解りました」
キースは言葉少なに挨拶をし、再び転移し戻って行った。
「……ちょっとやり過ぎたかのぅ?ちゃんと『無理強いはしない』というのを強調したつもりだったのじゃが……」
「意識してほしいという気持ちもございますし、心の重荷になってしまうのも本意ではありません。自分で言い出した事ではありますが、難しゅうございますね……」
「『王配』という立場に魅力を感じていない以上、『王配』となって得るものが、『冒険者』を上回らなければなりません。まだお知り合われて間も無い事でもあります。あまり言い募っても逆効果でしょう」
「そうじゃな。焦れば事を仕損じる。じっくりいくとしよう」
(だが……せめてわしが死ぬまでには何とかくっついてほしいのう……何かよい方法はないものか)
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キースがメルクス伯爵の寝室に戻ると、まだライアルが残っていた。というか待っていた。
(まあそうなるよね……)
「キース、先程の話なのだが……」
「はい、ご説明しますので、知りたい方は休憩室にお集まりいただけると助かります」
「わ、解った。ちょっと待っててくれ」
ライアルは慌てて部屋を出て行った。キースも溜息をつきながら休憩室へ向かう。
席に座って待っていると、続々と部屋に入ってくる。結局、3パーティ全員にメルクス伯爵も来た。
「それではご説明します」
キースは順を追って説明していった。
・ティモンド伯爵が手に入れた『影の兎の魔法陣』に感激したイングリット殿下が、魔法陣の作者に会いたがっていた。
・ティモンド伯爵が、勧誘の為に魔術学院の卒業式に出席した際、殿下もその場に来ており、その様子を見ていた。
・アーレルジへの譲歩の件を調整している時に、殿下が視察から戻られた。その場にいた僕に気が付き「結婚してほしい」と言ってきた。
「という話です。僕としては、冒険者になってまだ半年も経っておりませんし、もっと色々な所に行って様々な経験をしたいのです。そもそも『王配』になりたい、という気持ちがありません」
「キースちゃん、イングリット殿下ご自身の事はどう思うの?」
マクリーンが興味津々なのを隠さずにキースを伺う。母親は、こういう事にはガンガンくるし、一度噛み付いたらそう簡単には離さない。
「どうと言われても……まだ数回しかお会いしていませんし……確かに、き、キレイな方だとは思いますが……」
さすがに恥ずかしそうで、頬をピンクに染める。
(いや、お前も相当可愛いから!)
部屋にいる皆の心が一つになった。誰も気がついてはいないが。
「あらあらあら!殿下はキースちゃんのどこがお気に召されたのかしら?」
「ど、どうなんでしょうね……『殿方として素敵』とも仰ってましたから、魔法関係だけでは無いと思いたいです」
「……!」
マクリーンはもう言葉も無い。興奮で顔を赤くし、目を潤ませ、両手で口を覆いふるふるしている。
(何だこの展開は。『冒険者でいたいけど、女の子に素敵、結婚してと言われた事自体は嬉しい』という事か?まあ若者らしいと言えばその通りだが……)
デヘントは盛り上がって振り切ったマクリーンを眺めながら、首を傾げる。
「殿下は魔法陣が大好きで、熱意もおありです。僕が言うのもおこがましいのですが、とても高い適正を感じます」
(キースがそう言うなら相当なものなのだな)
この場にいる誰もがそう考えた。
「確かに、同じ魔法陣を何時間も見続けたりするみたいだからな。そいった点では似た者同士と言えるのかもしれん」
「二人で研究し始めてしまうと、国政が滞りそうですな……」
あの場にいたアリステアとクライブは、魔法陣に関してのやり取りを思い出す。質問の内容は、どれもとても細かく、完全に専門家同士のやり取りだった。
「とにかく、僕は『王配』になるつもりはありません」
「まあ……『旅して色々経験したい』という理由で冒険者になったのに、基本王城にいる『王配』という立場ではな……」
「確かに、難しいよな」
「でも、殿下はお綺麗だしそれもアリなのでは?迷いますね……」
「いや、ローハン、お前さんは選ばれていないから迷わなくても大丈夫だぞ?」
各自思い思いに発言する。
キースが(そろそろ解散で良いかな)と思った時、シリルが難しい顔をしているのに気が付いた。
「シリル?どうしました?」
「……みんな気がついてないの?『旅して色々経験したい』という理由はもう通じない」
一瞬で部屋が沈黙に包まれた。
「それは……どういう事ですか?」
キースが恐る恐る尋ねる。
「ほんとに誰もわからないの?キースはどこに居てもすぐに王都に戻れるって知られてるでしょ。どこにいたって何かあれば呼び戻せる」
シリルの言葉を受け皆がハッとした。
キースの顔色は、白を通り越し青くなった様にすら見える。
「で、ですが、『王配』が王城にいたりいなかったりは、さすがにまずいのでは?」
「向こうはどうしてもキースが欲しいんでしょ?それぐらい譲るかもしれない。油断できない」
さらにシリルは続ける。
「『物質転送の魔法陣』で連絡を取るので、必要な時だけ『転移の魔法陣』で戻れば、常に王城にいなくても良い。用事が終わればまた戻って旅を続けてくれればいい』と言われたら?断れるだけの理由ある?今から考えておいた方がいい」
「確かにその通りです……シリル、ありがとうございます。全く頭にありませんでした」
「この間も言ったけど、キースのパーティに入れてもらう約束だから。ちゃんと冒険者でいてくれないと困る」
日頃ほとんど表情が変わらないシリルが、僅かに口角を上げる。
「……とりあえず、今の段階でできる事は、あの方々がそこに気が付く事の無い様に祈るしかありませんね……では、皆さんよろしいでしょうか?以上で解散いたします。気分を変えて、ダンジョンに集中しましょう!」
皆が席を立ち、休憩室を出てゆく中、一人座ったまま動かない人物がいた。
メルクス伯爵だ。
伯爵は腕を組んで目を閉じている。先程のシリルの発言について考えていたのだ。
(確かにあの方法が認められれば、キースを王配に据える事はできるだろう)
(彼の事をまだ知らない貴族も、キースの力と家系を知れば、多少はみ出していても許容する可能性は高い)
(なんと言っても、殿下が望み、陛下、国務長官、そこにヴァンガーデレン家も賛成なのだ。覆すには相当強い理由が必要だし、この面子を相手に反対論を展開できる者などおらんであろう)
(これを陛下に伝えれば……きっと喜んでいただける)
(だが……今回の私の功と言われているものは、基本、キースありきのものだ)
(これを陛下にお伝えする事は、功を与えてくれたキースに対する裏切り行為であろう)
(しかし、私はエストリアの禄を食む貴族だ。陛下や殿下がお望みなら、それを果たすべく動くのは当たり前のこと)
(さて、どうしたものか……)
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