第134話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
ダンジョンから戻ったフルーネウェーフェン子爵は、自分達の行動が、全てキースにコントロールされていた事を察しました。ダンジョンが既にエストリア領内にある事を認め、退去を決めました。
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物見櫓から降りたフルーネウェーフェン子爵は、メルクス伯爵の前に進み出る。
姿勢を正し、伯爵の目を真っ直ぐに見つめる。その目からは、先程までの猛々しい心は感じられず、持ち前の落ち着きと理性が感じられた。
(どうやら納得した様だな)
「メルクス伯爵、先程は大変失礼な態度と発言をしてしまった。謝罪致します」
「いやいや、長いことダンジョンに入り、ギリギリの戦いをされてきたのだ。心も猛り荒ぶるというもの。お気になさるな」
「ありがとうございます。どうやらここは私達が居て良い場所では無くなってしまった様だ。私達はこれにて失礼致します」
「戻る前に、こちらを見て行くのがよろしかろう。このダンジョンの今後について、こちらから提案し先日決まった内容だ」
メルクス伯爵が書類筒を差し出す。
(……もうそこまで決まっているのか。どれだけ手回しが良いのだ)
筒を受け取った子爵は、中から書類を取り出し読み始める。
(……『発見から今日までに掛かった経費全て』か……4年分だ、結構な額になるだろうが、ダンジョンさえ確保できていればそこまで負担になる金額ではない。一回きりであるしな。もう一点は……!?)
思わず目を見開く。
(『一年間の魔石売却額の3%の譲渡』だと!? なぜそこまで?)
子爵はさらに読み進める。
(あらゆる敵対行動の禁止……なるほど、我が国はエストリアに対し完全に牙を抜かれた形になるのか。もちろん進んで戦争したい訳ではないが)
(この『3%譲渡』の約束があれば、国王としては『ただ取られた訳では無い』と格好もつくし、貴族と国内世論を黙らせる事ができるだろう。エストリア側から提案したと言っていたな……完全に『借り』になってしまった)
「……なるほど。よく分かりました。それではエストリアとの友好的な関係が崩れぬ様に、これまで以上に努める事に致しましょう」
書類を筒に戻し、メルクス伯爵に渡しながら言う。
(……定型文の様な返答だの。まあ実際、逆の立場でもそう言ったであろうが)
「それではこれにて失礼致します。またお会いする日まで、ご壮健であります様に」
「いや、こちらこそ。子爵の益々の活躍をお祈り申し上げる」
貴族らしい、全く心のこもっていない空虚なやり取りである。
本当は、フルーネウェーフェン子爵としては様々な事を問い質したい。
だが、真正面から尋ねたところで、相手がまもとに答えるはずが無いのも解っている。下手に反応すれば言質を取られ、不利になるだけだ。
乾いた挨拶を最後に、フルーネウェーフェン子爵は歩き出した。
ダンジョンから出てきた冒険者達は、お互いに顔を見合わせ、戸惑いながらも後に続く。
物見櫓には登っていないが、地上から見える範囲だけでも、川の流れが変わり、東側が地続きになっているのは分かる。
アーレルジ国民にとって『エドゥー川の向こう=エストリア』だ。なぜこんな事になってしまったのかは分からないが、目の前の現実は受け入れるしかない。
整備現場を囲む柵に作られた門から出ると、そこには馬車が一両停まっており、男が1人横に立っていた。
(ディエリ!)
子爵は男に対し声を掛ける。
「ディエリ!心配掛けた!済まなk」
そこまで言ったところで、フルーネウェーフェン子爵は言葉が出なくなってしまった。
そこには、子爵が行方不明になった事による心労と、『もっと強く反対するべきだった』と後悔する余り、変わり果てた姿になってしまった副官が佇んでいた。
黒黒とし艶やかだった髪は、半分程白髪になり、全体的に薄くなって頭皮が覗いている。
相変わらず食事がほとんど食べられない為、頬はさらに痩け、目は落ち窪み、瞳は寝不足で血走り濁っている。目の下の隈は、化粧として塗っているのか?という程に濃い。
姿勢は背筋は丸まり前屈みだ。その結果、常に上目遣いになる為、非常に人相が悪い。
「ああ、閣下!よくぞ、よくぞご無事で戻られました!」
「あ、ああ、大事ない。そ、それよりもお主の方が心配だぞディエリ……」
子爵の後ろにいる冒険者達も目を丸くしている。
目の前にいる人物が、気配り上手な『デキる副官殿』と同一人物であるとは、とても信じられない様だ。
「お身体に変わりはありませぬか? 暫しコルナゴスに逗留し、英気を養いましょうぞ」
「そうしたいところだが、今回の件の詳細を報告せねばならん。そのまま王都に戻るぞ」
「……かしこまりました。ではその様に取り計らいます」
フルーネウェーフェン子爵は、ディエリに対してはいつも通りに接する事にした。
自分が行方不明であったからこの様な姿になったのであれば、戻ってきたのだからディエリも元に戻る、と考えたのだ。
それに、自分が普通に接する姿を見せる事で、周囲の余計な雑音からディエリを守る事もできる。
「皆、まだ街まで歩くのは一苦労であろう?まだダンジョンから出てきていない者もいる。私が先に戻り、ここに馬車を向かわせる様に手配しようと思うがどうか?」
子爵は冒険者達に尋ねる。
「お気遣いありがとうございます。ありがたく乗らせていただきます。……」
「……どうしたジャン。何かあるか?今のうちだぞ?」
ジャンは、パーティの仲間と目を合わせると、意を決した様に喋りだした。
「お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「うむ、なんだ?」
「川はなぜあの様になってしまったのでしょう?」
「確かに気になるであろうな。ダンジョンは冒険者の飯のタネでもある。確かにそこを説明しないのは手落ちであった」
フルーネウェーフェン子爵は、過去の水害と灌漑工事、疫病による無人化について説明した。
「では、元々ここはエストリア領内であったという事なのですね?」
「そうだ。ダンジョンが生成された時は周辺は無人であった。その為、そのままアーレルジ領内として押し切る手筈だったのだ。そこにケチがついて頓挫しているうちに、ひっくり返されてしまった。まさか国境たる川自体を動かし、こちらの主張を逆手に取り確保されるとは、予想を越えておったわ」
冒険者達がどよめく。
「やはり……魔法でしょうか?」
「であろうな。メルクス伯爵に尋ねてみたいが、『エドゥー川で灌漑工事は行われていないのでは?そう仰ったのはそちらですぞ?』と返されて終わりであろうな」
「確かに……では、もうこのダンジョンには入れないのですね。残念です」
「うむ……今回は相手が一枚上手であった。皆には悪い事をした」
「いえ!とんでもございません。お答えいただきありがとうございました」
冒険者達とのやり取りを終えたフルーネウェーフェン子爵は、馬車をコルナゴスの街へと進めた。
冒険者ギルドと代官に状況を説明し、馬車の一時的な供出を求め、現地へ向かわせる手筈を整える。
(さて……報告書も書かねばならんな)
貴族たる者、報告書などは自分の立場が悪くならない様に書けなければならない。その為には、『嘘では無いが誇張していない事柄は一つもない』という様な文章を作る技術も必要だ。
(時間は幾らでもある。ゆっくりやるとしよう)
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ダンジョンに関する対外的な部分は片付き、各種施設の完成を待つばかりとなった。
アリステア達はパーティを組んで初めて、のんびりとした日々を過ごしていた。
周辺の警戒はしているが、自国領側以外の3方向はエドゥー川である。川と平原で見通しも良い。
それに、アーレルジはエストリアに対し敵対行動をとる事ができない。まだ4年間の経費の分すらもらっていないのだ。安全度は非常に高いと言える。
そんな日々を過ごす事2ヶ月半、遂に全ての施設の建設が終わった。
完成見込みは事前連絡済みである為、各施設で働く人々や必要な物資は既に王都を出発している。この数日のうちに到着し始めるだろう。
管理事務所と衛兵の宿舎は以前からあったが、冒険者ギルドの支部、武器と防具、薬や携行食等の雑貨屋、鍛冶屋、共同神殿、宿屋、集合住宅、食堂兼酒場等、一通り揃っている。これらの施設は全て国営の為かなり安い。
国としては『魔石の安定確保とその継続』を常に追求しており、その一環として『冒険者達をいかにストレス無く稼働させるか』という点にも力を入れている。その為、日常的にギルドを通じて冒険者達から意見を集めてもいる。
この集合住宅なども、冒険者からの意見を反映させたものだ。週単位、月単位で契約でき、その間は完全に個人の部屋として使う事ができる為、ここを仮住まいとし活動するのだ。
アリステアとフラン、クライブは、できあがった各種施設を眺め歩きながら、感慨に耽っていた。
「アーティ、本当に素晴らしい環境ですね。私達が現役だった頃も決して悪くありませんでしたが、さすがにこれとは比較になりません」
フランが目を輝かす。
「そうだな、私が冒険者になった頃は、管理事務所と衛兵の宿舎、食堂兼宿屋ぐらいしか無かった。今思えば、消耗品ぐらい売っていても良かっただろうにな。なんで無かったのだろう?」
アリステアは首を捻る。
「これで国にダンジョンが5つですか……国はより一層、冒険者を効率的に稼働させる事を目指すでしょうな」
「そうだな……現に金はあるだろうし、入る見込みもあるからな。より環境が整ってくるだろう。でも、あんまり待遇が良くなると、勘違いして調子づく者が出そうだな」
「その辺は、日頃の教育が大切ですね。ディックに会ったら言っておきましょう」
「まぁ、みんなその辺は考えているのだろうけどな。リスクをきちんと伝えつつ、それ以上に魅力的で稼げる職業であると示し続けていかないと、なり手がいなくなる。それが一番困る」
あの頃の状況では、それが解消する未来が見えなかった。だから『初心者支援』を提案したのだ。
結果的にそれは成功し、冒険者の立場と待遇はどんどん向上、冒険者自体もより社会に受け入れられ、冒険者は増えていった。
魔石の取引と運用は、国の根幹だ。もし無くなったら社会が成り立たない。冒険者達はそれを支えていく存在だ。それを胸にこれからも活動していかなくてはならない。
それに比べ、かつてのアリステアの様な『トレジャーハンター』的な冒険者は明らかに減ってきた。
魔石はまさに地面から湧いてくるが、遺跡には限りがある。一度取ってしまえばそれで終わりだ。
古代王国(セクレタリアス王国)が滅んで750年、さすがにそろそろ限界だ。
まだ誰も踏み入れていない遺跡など、国内にはもう無い。後は、探索から漏れた品物や、まだ見つかっていない隠し部屋などの発見に賭けるしかない。
「王都や街が残っていないのも痛いよな……」
「はい、消し飛んでしまいましたものね……」
「戦える者ばかりではありませんからな。そういった特性の者達に、もっと活躍の場があれば良いのですが……」
「まぁ、その辺は自分で活路を見出してもらうしかないのだけどな。頑張ってもらいたいところだ。何か思いつけば提案もしていこう」
と、大人3人組がそんな話をしている時、メルクス伯爵の執務室では、伯爵が腕を組んで目を閉じ、口をへの字に結んでいた。
机の上には一枚の紙が置かれている。伯爵を悩ませている原因だ。
そこにはこう書かれていた。
『ご無沙汰しております。各種施設完成ありがとうございます。供用開始前に見学に行きますので、お手数ですが各種手配の程よろしくお願いいたします。『転移の魔法陣』を利用をいたしますのでご承知おきください(尚、キース先生へ利用の可否は確認済み、許可をいただいております)
伯爵にお会いできるのを楽しみにしております。
イングリット』
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