第132回
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
ドゥーゼール子爵に色々ネタばらしをしつつ、ダンジョンの帰属問題は無事決着しました。整備も進みますが、あの人達を返さないといけません。
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「キース、フルーネウェーフェン子爵達はどうやって返すんだ?」
「はい、ダンジョンで行方不明になった人達ですので、他の場所で見つかると色々と都合が悪いです。なので、ダンジョンに戻そうかと思います」
「装備も道具も無いけど、30人いれば問題無いわね。魔術師もいるし」
「はい、置き場所も最上層にしようと思います。今更死なれてしまってもですし。で、良さげな場所に『転移の魔法陣』を置きに行きたいので、お付き合いお願いします」
「分かった。一緒に行こう」
ライアルに伝えて、4人でダンジョンに入る。幸い、フロアの変化は発生しておらず、上層域は「森林』のままだった。
「これは都合が良いですね!『眠りの魔法陣』を置いた、池のほとりに置きましょう」
道中で見掛けた魔物については倒してゆく。いくら特性もあり、普段から鍛えている冒険者とはいえ、最初のパーティは既に一ヶ月以上寝ている。それだけ日数が経っていれば、起きたばかりでは身体がうまく動かない。事故の可能性は下げておきたい。
『転移の魔法陣』を設置しダンジョンを出た後は、馬車で駐屯地の倉庫に向かう。手の空いていた、デヘントのパーティの、ラトゥールとローハンにも一緒に来てもらえた。力仕事には、大人の男手があった方が助かる。
「では、最初に……」
まずは、床に書かれた『眠りの魔法陣』を無効化しなければならない。
キースが鞄から小瓶を取り出し、中身の液体を魔法陣の一部に垂らす。すぐに液体が掛かった部分が滲みだし、そこを布で拭き取る。
一部が崩れた為、薄青く光っていた魔法陣は効力を失い光を失った。
冒険者達を『転移の魔法陣』の上に動かし数人まとめて転移させてゆく。
「寝かせる姿勢なのですが、いかにも『誰かが並べました』みたいな感じでは無く、できるだけ自然な感じでお願いします」
「確かにそうね。分ったわ!」
うつ伏せ、仰向け、横向きなど、色々な格好をとらせる。
「こんな感じでどうだ?」
全員を寝かせ終わったアリステアが手を叩いて埃を払う。
「はい、ありがとうございます。では、『結界の魔法陣』を置いて……起動と」
キースは、草むらの中に魔法陣を設置する。
「それは寝ている間に襲われない様にだな?」
「はい、後は自然と目が覚めますが、無防備な時間を減らすために時限式のものを置いておきます。では帰りましょう。アーティ、僕とクライブは倉庫に戻って馬車で戻りますので、ここの魔法陣の回収をお願いします。皆さん、お疲れ様でした!ありがとうございました!」
そう言ってキースとクライブは倉庫へと転移した。
「よし、魔法陣も持ったし、私達も帰ろう」
アリステアは歩き出してから振り返り、池のほとりで眠っている、フルーネウェーフェン子爵と冒険者達を見てほくそ笑む。
(さて、目が覚めてどういう反応をする事やら。近くで見られないのが残念だ)
そんな事を考えながら、ダンジョンを後にした。
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地面に寝かされている集団の中で、最初に目を覚ましたのは、やはりフルーネウェーフェン子爵だった。
(ここは……どこだ……?これは、地面、か?)
身体を動かそうとしても、何やら上手く動かない。自分の身体では無いというか、錆び付いてしまった金属部品の様な感じだ。
無理に動かさず、もう一度目を閉じる。
(そうだ、冒険者達を救出にダンジョンに入ったのだ。中層域から魔物が妙に興奮していた……数も多く……)
(だが……そうだ、救援が来たのだ。大柄な戦士、女神官、双剣使いの女、魔術師の小柄な少年……)
(戦士の背に背負われたまでは覚えている。だが、この魔素の濃い空気……なぜまだダンジョンにいるのだ。彼らはどこに……)
フルーネウェーフェン子爵は目を開け、起き上がる為に身体を動かしてみる事にした。
うつ伏せの状態から、ゆっくりと肘を曲げ、肘を付いた腕立て伏せの様な姿勢をとる。
そこからさらに膝を曲げて四つん這いになった。
(3分ぐらい掛かったな……)
そこから足を動かし胡座をかく。気が付いてみれば、装備品はもちろん、服すら着ておらず下着姿である。
(なんだこれは……どういう状況なのだ?)
起き上がった事で、やっと周囲の様子が目に入った。
「なっ、なんだこれは……!?」
冷静沈着な子爵でも、思わず声が出た。そして、大きな声を出したせいで激しくむせた。
それもそのはず、周囲の地面には多数の人間が倒れていたのだから。
「何人いるのだ……30人程か?そもそも生きているのか?」
子爵は、一番近くに寝ている男に近づこうとしたが、立ち上がれずに前転してしてしまった。
あまりの光景に、自分の身体が上手く動かない事すら忘れてしまっていた。
そのまま四つん這いのままで近づき、男の肩を叩きながら大声で呼び掛ける。
「おい、大丈夫か!?おい!おい!」
男の瞼がピクリとし、目が開き始める。
「k、ここh……!? し、子syk様!?え、あ、なんd、k、かrだg」
身体が動かないだけではなく、声をもちゃんと出ない様だ。
「そのまま大きくゆっくり深呼吸をしろ……どうだ?どこか痛む場所は無いか?見たところは怪我も出血も無いが」
数回深呼吸をして、多少頭もはっきりしてきた様だ。
「h、はい、ありがtuござiます。怪gはd丈夫の様ですが、自分の身体では無いkの様に動きません」
「私もだ。まるで寝たきりの病人の様だ……今、お主は私の事を『子爵』と呼んだな?やはり冒険者か?」
「は、はい!コルナゴスの冒険者ギルドに所属しております、魔術師のジャンと申します」
「ふむ……お主は自分達のパーティだけで入ったのか?合同で、救援として入ったのか、どちらだ?」
「わ、私達だけでございますが……」
ジャンは不思議そうに答える。
「そうか、そうなると、お主らが最初に行方不明になったパーティだな。となると、ここで寝ている者達は、後から救援目的でダンジョンに入った冒険者であろう」
ジャンはその言葉を聞き辺りを見渡すと、自分のパーティの仲間を見つけた。
「た、確かに仲間がおります……それに見知った顔も何人か……閣下、その、私達が行方不明というのは……」
フルーネウェーフェン子爵は経緯を説明した。
「では、私達の為に閣下にまでご迷惑を……申し訳ありませんでした」
「いや、そこは良い。自分で行くと決めたのだ。しかし、遭難した者が全員ここにいるというのはどういう事だ?私は救援のパーティと合流したはずなのだが……そうだ」
「ジャンよ、そなた覚えている最後の記憶はダンジョンのどこだ?」
「はい、ここでございます。池がありましたので、降りる前に一息入れようと考えました」
「ふむ……階段を見つけ、近くの水場で休憩して準備を整える。ごく当たり前だな……よし、他の者も起こして話を聞こう。魔法で起こすぞ……<強風>!」
制御された風が、冒険者達の髪と肌を撫でながら通り抜け、吹き続ける。
肌に直接風が当たる刺激で、皆目を覚ましはじめた。皆自分の格好(下着だけだ)や、身体が動かない事に気が付き、呻き声や叫び声が周囲に響き始める。
「皆聞けい!私はダンジョンの管理官、フルーネウェーフェン子爵だ!注目せよ!」
フルーネウェーフェン子爵は何とか立ち上がり、一帯を見下ろしながら声を掛けた。
一瞬で沈黙が訪れ、皆何とか声のした方を見ようとするが、身体が動かない為もぞもぞしている。
「……無理に起きずとも良い、そのまま聞け。ここはダンジョンの中である。周囲にいるのは、先日救援目的でダンジョンに入った仲間達だ。とりあえず安心せよ」
「怪我をしている者、体調が悪い者はおるか?……大丈夫か?とりあえず、ゆっくり身体を動かしてみよ。動ける様になった者は、動けん者を手伝ってやれ」
しばらく待っていると、起き上がれる者が増えてきて、間接の曲げ伸ばしを補助したりと、互いに身体をほぐし始める。
「……よし、そろそろ良いか?各パーティ毎に集まり、自分達が覚えている『ダンジョン内での最後の記憶』を話し合い、私に教えなさい」
話し合いを終えた5人のリーダーから聞いた話は驚くべきものであった。
全てのパーティがこの『池のほとりで休憩した』事までは覚えているが、そこから先の記憶が無いという。
(……どういう事だ。ジャン達も含めて6パーティがここで休み、その後意識を無くしたというのか?)
各パーティのリーダー達も、思わぬ結果に困惑した顔を見合わせている。
「よし、ここに何かおかしな兆候が無いか、皆で周辺を調べよ」
子爵の指示を受け、冒険者達は、まだ動きの鈍い身体で辺りを探り始める。
「閣下、よろしいでしょうか?」
ジャンのパーティのスカウトが手を挙げてフルーネウェーフェン子爵を呼ぶ。それを見てジャンもやってくる。
「これなのですが……これは……何かの記号でしょうか?」
彼がつまみ上げたのは、薄く透明でぴらりとした『༄』だった。
魔術師である子爵とジャンにはすぐに解った。
(魔法陣に使われる記号!)
「地面に魔法陣があるぞ!魔術師以外は地面を荒らさぬ様にそっと離れよ!魔術師は足元を徹底的に調べるのだ!」
子爵と魔術師6人は、一斉に地面に四つん這いになり、重点的に調べ始めた。
『魔法陣がある』と意識し始めたせいか、透明な記号や文字、直線、曲線等の魔法陣を構成する要素がどんどん見つかり始めた。
そして、それぞれが見つかっただいたいの位置に合わせて置いてゆく。魔法陣を再現しようというのだ。
(果たしてどの様な魔法陣だったのか……そしてなぜここに……)
フルーネウェーフェン子爵が並べられた記号類を見つめながら考えていると、子爵の護衛として付いていた中年の魔術師が手を挙げる。
「閣下、私には……この左半分などが『眠りの魔法陣』の様に見えまする。いかがでしょうか?」
「眠りの魔法陣……私も研究書で見た事があるだけだな。誰か他に知っておr」
そこまで口にした時点で一気に閃いた。
(皆この『眠りの魔法陣』の上で休憩したから寝てしまったのか?だから全員ここまでしか記憶が無いという事か?」
(動かない身体……まるで寝たきりの……病人の様な……まさか、身体が動かせなくなるまで寝ていたというのか!?だとしたら一体何日経っているのだ!)
「くっ!急いでダンジョンを出るぞ!我らは半月以上寝ていた可能性がある!着いてこれない者は後から来い!」
(あの状況で半月以上経っていたとしたら、どの様な状況になっていてもおかしくないわ!)
しかし、外は、想像していた以上に酷い状況である事を、彼は知る由もないのであった。
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