第130話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
王都から戻ってきたアリステア達一行。メルクス伯爵への報告も終え、現時点でできる事は終わりました。キースは、遂にエレジーアと話をしに部屋へ移動しました。
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「お待たせしました!よろしくお願いします!」
キースは部屋に入転移するなり、熊のぬいぐるみに向けて大きな声で挨拶をした。
「はい、お帰り。よろしく頼むよ」
しかし、ソファーに座り、エレジーアと向かい合ったキースは、腕を組んで目を閉じる。
「……どうしたんだい?」
「いや~お話したい事がたくさんあり過ぎて、何から話せば良いのか……」
「ふふっ、そうだね。じゃあお互いに自己紹介といこうか。でも、お前さん、私についての本を読んだろう?私の弟子が書いたやつだよ」
「え!?何を持ち出したか判るんですか?魔力でヒモ付けされているとか?」
「もちろんだよ!今やこの部屋の物は、私と一体になっている様なものだからね」
「ふわぁ……さすがですね!では、僕についてお話するので聞いてください」
キースは、生い立ち、家族構成、特性、自分で作った魔法陣、冒険者になってからの事を話した。
エレジーアも、たまに質問を挟みながら、(見た目では判らないが)熱心に耳を傾けた。
「キース、お前さんも大概だね……私が生きていた頃ですら、そこまでの者はほんのひと握りだったよ……本当に、お前さんの作った魔法陣が見られないのは、返す返すも残念だ」
「エレジーアさん、僕が魔法陣の記号や文字の配置を言いますので、それをイメージする事はできますか?」
「ああ!それは良いね!やってみよう」
キースは、転移の魔法陣を広げて外周部分から順番に口に出してゆく。
「……以上です。如何でしょう?」
「なるほどね……右下に༅と◆を置いて、対角の༄と§に対応させているのか……さらに∀で補強して……それは思い付かなかったよ……大したもんだ」
(一度聞いただけで頭の中に魔法陣が描けるのも凄いけどね……)
キースは、その調子で自作の魔法陣を伝え、エレジーアはイメージし続けた。
「どれも工夫されているし、魔力効率もいい。特に着眼点がとても良いね!実用一辺倒でないというのがまた素晴らしい!」
「あ、ありがとうございます!」
キースもあのエレジーアに褒めてもらい目を輝かす。
と、その時、ソファーの前のローテーブルに置かれた『物資転送の魔法陣』が起動する。
薄青い光が消えると、そこには「ユウショクノジカン。スグカエレ」と書かれている。
(チチキトクじゃないんだから……誰だこういう事するの)
「おや、もう帰る時間かい?あっという間だね……」
エレジーアも『物資転送の魔法陣』が起動した事は感知し気がついている。
「はい、どうやらその様です……残念ですが、ここでちゃんと帰らないと、明日以降来れなくなってしまう可能性がありますので、大人しく帰ります」
「ああ、それがいい。何、私とこの部屋はどこにも行かないからね。また明日、楽しみにしているよ」
「はい、今日はありがとうございました!ではおやすみなさい」
キースはエレジーアをベッドの枕元に戻し、挨拶をして倉庫に戻った。
(ほんと孫みたいだねぇ……懐かしい感覚だよ)
キースは『転移の魔法陣』を回収し、外に出る。
そこには、既にアリステア達が馬車を付け待っていた。
「お、ちゃんと帰ってきたな!偉いぞ!」
フランとクライブも頷いている。
「約束ですので!明日以降行かれなくなっても困りますし……」
「今日はどんな話をしてきたんだ?」
馬車に乗り込みながらアリステアが尋ねる。
「はい、まずは自己紹介をしまして、その後に僕が作った魔法陣についてお話しました。『工夫されていて着眼点が良い』と褒めていただけました!」
「それは良かったわね!……でも、ぬいぐるみだから目は見えていないのよね?」
「それがですね、外周部から記号と文字の配置を言っていったらイメージできるか試してみたところ『できる』との事で。うまく伝えられて良かったです」
「……そ、そう。良かったわね」
(どれだけの記号と文字が使われていると思っているのよ……やっぱり似た者同士よね)
翌日以降、キースは朝から5の鐘まで、エレジーアの部屋に通い詰めた。
エレジーアは、自分が死んでからの歴史を知りたがり、キースは判明している限りの事を伝えた。
「私が最後に憶えているのは、セクレタリアス暦398年なんだが、王国、セクレタリアス王国はもう続いていないのだよね?」
「はい、今この辺りはエストリア王国という国が治めていまして、650年程続いています。セクレタリアス王国で最も新しい暦は606年です。滅んだのはその辺りかと思います」
「エストリアが建国される迄の100年間は戦国時代が続きました。セクレタリアス王国時代の建物やその中に納められていた物は、その戦国時代にほとんど散逸してしまった様で、今では一部の神殿跡や城塞が残っているだけになります」
「そうかい……では私が死んでからだいたい200年後ぐらいに終わったんだね……見知った人間が皆死んだ後なのは幸いだったね」
「……以前から不思議だったのですが」
「ん、なんだい?」
「セクレタリアス王国時代の王都と街の遺跡が跡形も無いのです。版図だったこの周辺の国全てです。その代わりに、草木が全く生えてこない、クレーターの様な円形の荒地が点在しています」
「一番大きいとされるのが、ここから2000km程南西に行った所、国境付近にある直径10km程のものです。その他はだいたい1kmから5kmの間ぐらいです。神殿跡や城塞跡に残っていた資料や文献から、このクレーターが王都や街だという事は判明しているのですが、なぜこんな状態になってしまったのか、何かお心当たりありますか?」
「……あるよ。もちろん予想だけどね。でも、それだけの状態になる要素は他に無いだろうから、当たってはいるだろう」
「王国では、『魔石から魔力を取り出し貯めておく』という技術があったんだ。それを動力として魔導具を動かしていたんだよ」
!?
「一軒一軒の家に、魔石から取り出した魔力が行き渡っていたんだ。照明も冷蔵箱も、風呂も、様々な魔法陣も、全てその力で動かしていたんだ」
「遺跡から魔石をはめ込んで使う仕様の魔導具がたまに見つかるのですが、それはどういう事でしょうか?」
「それは、型落ち品の売れ残りだね。私が生まれた頃には、既に個別に魔石を使う魔導具は使われていなかった。想像できるかい?街は裏通りまで夜通し煌々と照明が灯り、人々は酒場でキンキンに冷えた酒を飲みながら目の前のテーブルで肉や魚介類を焼いて食べる。夏は家全体が涼しく、逆に冬は暖かい。魔法陣は使い放題という生活だよ?よほど田舎の村かこういった城塞、神殿以外全てだ」
「……全然想像できません」
「そうだろう?だが、恐らく王都のその仕組みに何らかの不具合が発生して爆発したのだろうね。王都にある大元が他の街の仕組みにも連動していたから、他の街も一緒に巻き込まれたのだろう。純粋な魔力の塊みたいなものだからね。とんでもない破壊力だった事だろう。王都や街の住人達は、死を全く意識しないまま死んでいった事だろうね……」
「だからクレーターには何も無かったんだ……何をどうしたらここまで何も無い状態にできるのか、誰も解らなくて……」
「仕組みが街と一緒に無くなってしまったのだから、分からなくても仕方が無いよ。長い戦国時代もあったのだろう?生き残った人達も、そんな事を伝えている余裕も無かったんじゃないかね。お、そうだ」
「少し前に『呪文』について一生懸命調べていただろう?使う機会はあったのかい?」
「はい!あれは凄かったです!火系統の短い呪文、『炎の騎士~』というやつですね、あれを唱えてから『炎の矢』を発動してみたのですが、普段の倍以上の数と太さの矢が発現しました!」
「後、土系統の長い呪文も、地面に水路を作るのに使いました!やはり魔力消費が少なく感じましたね」
(……確かにこの子ならとは思ったけど、いきなり発動させているとは……やはり素晴らしいね!)
「あれは、あの時代までの魔法学の結晶とも言える呪文なんだよ。難しいものを可能な限り優しく、発動しやすくしたんだ。だからといって、普段からその練習をしていない者が、ほいほい発動させられるもんじゃ無いよ?キース、やはりお前さんは大したもんだ」
「ありがとうございます。あ、お尋ねしようと思っていたのですが、魔法語の発音が書いてある本というのはありますか?後、呪文を全て魔法語で発音したら、より効果は増すのでしょうか?」
「魔法語の発音が書かれている本は……そっちの棚の、下から2番目の段の左から6冊目だね。確かに呪文を全て魔法語で唱えた方が効果はより高まる。けど、きちんと発音しないと失敗するよ。いくらお前さんでも、こればかりは練習しないと無理だ。聞いた事無い言語なのだからね。それに」
「残念ながら、正確に発音できる者がいない。耳で覚える事ができないとなると、かなり難しくなるね」
「エレジーアさんは……?」
「私は魔法陣屋だ!自分で言うのもなんだが、魔法語の発音は怪しい!その練習時間を魔法陣に使っていたからね!」
(堂々と言い切られた……)
「そうですか……ではちょっと優先度を下げて、時間を掛けて取り組む事にしたいと思います」
「ああ、それが良い。そういえば、今の時代は『無詠唱魔法』が主流なのかい?」
「主流というか、『呪文を詠唱する』という手法自体がありません。無詠唱魔法一択なのです」
「ふぅむ……王国が滅んで戦国時代を挟んだ事で、詠唱して魔法を使うという手順が途絶えてしまったのかねぇ……無詠唱の方が余程難しいのに」
「僕は両方使ってみて、詠唱ありも無しも一長一短あると感じました。どちらも使える様になっておくのが肝要かと」
「最もだね。魔術師たる者、そういった向上心と好奇心が何よりも大切だよ」
「はい!それに、呪文の言葉一つ一つがとにかく格好良いですよね!僕ああいうの大好きで……」
「ああ、お前さんはそういう種類の人間かい。あの呪文は皆で知恵を出し合って作ったのだけど、最終的に仕上げたのは私の弟子なんだ。お前さんとはさぞかし気が合っただろうねぇ。ほら、例の私の事が書かれた本を執筆した奴だよ」
「そうだったんですね……お話してみたかったです。そういえば、普通に話をしていますけど、その記憶を残したままぬいぐるみに意識を残すというのは、どういう仕組みなんですか?かなりとんでもない技術だと思うのですが……」
「これはね、私の体調がかなり悪くなってから、もう一人の弟子が仕組みを作って持ってきたんだよ。『ダメ元でやってみます。上手くいったら儲けものぐらいの気持ちでいて下さい』とね」
「だから、何がどうなっているのか、私自身はよく分からないんだよ。お前さんに部屋を引き継いだ後、魔力に反応して意識が浮かび上がってきて、初めて成功している事に気が付いたんだ」
「では、ここに資料が無ければ、失われた技術なのですね……その身体は、一応動く事もできるのですよね?」
「ああ、ゆっくりだけどね。この間は仲間も驚かせてしまって、悪かったね。それにしても……」
そこまで言いかけて、エレジーアは口を噤む。
「はい、何でしょう?」
「ああ、いや、お前さんの仲間も、あの様子だとかなり腕が立つんじゃないのかい?」
「ええ、3人共、腕も経験も十分で素晴らしい先輩達です。僕みたいな駆け出しとパーティを組んでくれて、本当にありがたく思っています」
「そうかい、そいつは何よりだ。魔術師にはどうしても、前に立ってくれる仲間が必要になるからね」
その時、『物資転送の魔法陣』が薄青く光り始め、メモが送られて来た。
「今日は何て書いてあるのかな……?」
キースは、この帰宅を促すメモを見るのが楽しみになっていた。書く人間が日替りらしく、人によってウケ狙いだったり、簡潔に書いてあったりと様々だ。
しかし、今日のメモは毛色が違った。そこには
『アーレルジからの使者が昼過ぎに到着。明日から交渉開始』
と書かれていた。
(遂に来たか……)
「どうしたんだいキース?」
メモを見て固まってしまったキースに、エレジーアが声を掛ける。
「はい、交渉相手の使者が到着したそうです。話がまとまるまで、ちょっとこちらには来られなくなります」
「そうかい。こちらの事は気にする必要は無いよ。私は、お前さんが部屋にいない間は意識が無いからね。やる事を済ませたらまたおいで」
「はい、今日もありがとうございました。それでは失礼します」
エレジーアをベッドの枕元に戻し、キースは転移し帰っていった。
(キースの仲間のあの3人、明らかに魔導具の魔力反応だが、あの子は気が付いていないのかね?そんなはず無いと思うのだけどねぇ……)
エレジーアは、そんな事を考えながら、途絶えてゆく意識の中に沈んでいった。
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