第12話
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そうして鐘半分程進むと街道沿いに2階建ての建物が見えてきた。
各街道に一定距離ごとに設置されている、治安維持の為の衛兵の詰所である。
(そうだ、あそこで・・・)
閃いたアリステアは詰所の前で馬を止め中に入る。
突然、人が(しかも若い女性だ)凄い勢いで入ってきた事に慌てる衛兵に向けて、銀色の冒険者証を掲げる。
「王都の冒険者ギルド所属、銀級冒険者アリステアです!緊急事態を知らせに王都へ向かっています!替え馬を貸していただきたい!」
銀級冒険者は少ない。エストリア王国全体でも30人ぐらいではないだろうか。
衛兵も、アリステアの顔は知らなくても名前は知っていた。
魔力で紐付けされた冒険者証は魔導具で偽造はできない。完全な身分証明書になる。
「それは・・・どういう話なのだろうか?」
中年の衛兵が尋ねてくる。階級章からしてここの責任者の様だ。
それはそうだろう。
いきなり飛び込んできて「緊急事態だ、馬を貸せ」と言われても困ってしまう。
「トゥーネ川の中洲にダンジョンが生成されています!私は一人だったので、今は無人で放置されている状態です。確保のため、一刻も早く王都に戻り、応援を要請しなければなりません」
予想外の返答に隊長も慌てた。
ダンジョンは国の重要施設だ。
川のこちら側であれば、ちょっかいを出してきても追い払う事ができるが、川の中州ではどちらの国のものとも言えないだろう。早い者勝ちだ。
隊長は部下に指示を出す。
「スティーブン!裏の厩に案内して馬の用意を!アシモフ!お前は緊急事態発生の魔法陣を起動しろ!」
「緊急事態発生の魔法陣」は、起動すると煙状の光が空に湧き立つ。狼煙の魔導具版とも言える。
発動を確認した「同じ街道沿いの、王都側の詰所」も起動させる。
最終的に、緊急事態の発生場所は「その街道沿いの、王都から一番遠い詰所付近」という事になる。
自分の馬を預かってもらい再度出発する。訓練された軍馬は素晴らしい速さで走り出した。
普段は武器を持ち防具を装備した衛兵を乗せているが、今は小柄で身軽なアリステアが乗り、さらに荷物も積んでいない。馬も気持ち良く走っている様だ。
詰所から鐘1つ程で王都が見えてきた。予定よりかなり早い。
王都の門には衛兵は立っているが、一々身分証明書を確認したり、荷物の中身を確認したりはしない。
門の天井に魔法陣が仕込んであるのだ。
門の中の通路は、大人2人が並んで通れるかどうか、という程度まで狭く作られている。
刃物・魔導具・冒険者証を持っている者が通ると自動で魔法陣が起動し、通路の前後が障壁で塞がれ、衛兵がその人物を確認し終わるまで通行止めになる。
アリステアは速度を落とさず門に近づいていった。
衛兵も、速度を落とさない騎馬に気がつく。
「北街道方面で緊急事態発生」の知らせは届いている。
衛兵からしてみれば、そちらからくるこの騎馬は完全に不審者だ。
衛兵は槍を構え誰何する。
「止まれぇい!何奴だ!」
「銀級冒険者アリステア!緊急事態につき失礼する!」
冒険者証を衛兵に向かって下手で、できるだけそっと投げ、荷馬車用の広い通路を駆け抜ける。
衛兵は飛んできた銀色のプレートを慌てて掴む。
夕方の王都の大通りである。さすがに通行人は多く、そのままの勢いでは進めない。
急く心を抑えながら少し速度を落とし、ギルドへ到着する。
(いいや、行っちゃえ!)
馬から降りる手間も惜しいとばかりに、そのまま馬を進めギルドの扉を押し開ける。
皆が突然入ってきた馬の鼻面に呆然とする中、アリステアが叫ぶ。
「マスター!マスター!いるー?」
「なんだアーティ!うるせぇぞ!扉はそっと開けろ!壊したら弁償させるからな!」
カウンターの中で作業をしていたギルドマスターが怒鳴る。
(あんたのがうるさいしその前に馬に突っ込めよ)
と誰もが思った。
アリステアは(まだ馬上で)説明を始めた。
・トゥーネ川沿いにある遺跡付近の中洲にダンジョンができている。周辺の空気も魔素が濃いから間違いない。
・直径10m程の穴が開いている。深さは不明。
・今は無人。
・生成された時に、光の柱みたいなものが立った。ターブルロンド王国(北の川向うの隣国)側でも見にきている者がいるかもしれない。
(さっきの緊急事態発生の連絡はこれか!)
ギルドマスターの決断は早かった。
「よし!今出られる奴はすぐに向かってくれ!大人数で行って確実に押さえる!手間賃や消耗品は国に掛け合って出させる!俺も後から追いかける!さあ行け!」
待合室にいた冒険者達は席を立ち、急いで武器と荷物を持ち外へ出ようとする。ギルドマスターは、そんな冒険者達の中から、背の高い痩せた魔術師の男に声を掛けた。
「デズモンド!俺が着くまで仕切ってもらえるか?」
「承知しました。・・・確保からの周辺警戒、というところでしょうか?」
「ああ、そうだな」
「もし、エストリア所属でない先客がいた場合は・・・」
「可能なら排除だ」
「可能なら排除します」
二人の発言が被り、顔を見合わせてニヤリと笑う。
「では、現地でお待ちしております」
デズモンドも杖を持って外に出て行った。
(夕方で依頼から戻ってきたパーティが多かったのが幸いしたな)
新たなダンジョンがみつかる事など、数十年に一度あるか無いかである。
この様な「お祭り」に参加しないという手はない。
アリステアとギルドマスターを残し、待合室はあっという間に無人になった。
「アーティ、お前はどうするんだ?戻るのか?」
アリステアは今になって疲れがでたのか、馬上で馬の首にしがみついてぐったりしていた。
「遺跡の探索の後に飛ばしてきたからさすがに疲れたよ・・・この子も頑張らせちゃったし」
ねぎらいを込めて首筋を撫でる。
馬は「おれはやったぜ!おれはやったぜ!」とばかりに短くいなないた。
あれだけ走ったのにまだまだ元気そうだ。さすが軍馬である。
「じゃあ、俺と職員たちと一緒に馬車で行くか?国務長官への報告と補給物資の準備をしてからになるが・・・それで良ければ乗っていけよ」
「助かる!ありがと!」
「見つけたのはお前さんだからな、発見者が現場にいないと締まらんだろ!」
と豪快に笑った。
補給物資を載せた荷馬車を連ね、アリステアとギルドマスター(他職員達も)が到着したのは、ちょうど日付が変わる頃だった。
馬車から降りると魔術師の格好をした男性が近づいてくる。デズモンドだ。
「ダンジョンは無事確保できました。全体を3つの班に分け、①ダンジョンの入口自体の監視、②中洲の水際に配置し上陸の警戒と監視、③休憩を鐘1つで回しています。特に北側の水辺には魔術師も配置させて、定期的に<探 査 サーチ>での確認もさせています」
デズモンドからの報告を受けギルドマスターは破顔した。
「了解した!お前さんがいてくれて助かったぜ」
「いえいえ、礼などそんな・・・報酬に上乗せしていただければそれで十分です」
冒険者はお金に細かい。お礼の言葉では腹は膨れないのだ。
「それで、到着後すぐに私も<探 査>で周辺を探ったのですが・・・」
<探 査>は、自分の魔力を広げ、周辺の魔力(人間・亜人間・魔物・自動人形・動物・魔石・魔導具)を感知する魔法だ。
イメージとしては「膜を薄く広げていく」という感じになる。
魔力操作の練習にもなる為、魔術学院でも最初に指導される。
「・・・何かいたか?」
「遺跡の脇の森の中に、おそらく人間が1人。しばらくしたらそのまま範囲の外へ出ていきました」
「ふぅむ・・・やはり光の柱が見えて確認に来た、ってところか」
ギルドマスターは顎に手をやる。
「おそらく・・・」
「よし、ターブルロンド側が斥候を出している事を周知させてくれ。これだけ人数がいるから手を出してくる事は無いとは思うが、国軍が到着して引き継ぐまでは油断できねぇ」
「承知しました。もし捕らえられるようであれば確保してしまっても良いですか?」
デズモンドは不敵な笑みを浮かべる。
「あぁ、それでいい。不法入国者だからな。あと、食料と水を運んできている。休憩に入ったら、各自荷馬車まで取りに来きてくれ。後、休憩の時に中で休めるようにテントも設営する。分けた班ごとに次の休憩の時に建ててもらうか」
「斥候の件と一緒に伝えます。あ~補給なのですが、道中とにかく急ぎましたから、水が足りない者がいる様です。水だけ先に配っていただけると助かります」
「分かった。配置している場所を職員に回らせる」
「ありがとうございます」
「アーティ、お前はどうする?テントで休んでいてもいいぞ」
「じゃあ、ちょっと一息いれさせてもらおうかな」
「おう、少しゆっくりしていてくれ。まだ何があるかわからんしな」
アリステアは、指揮所として使うギルド職員用のテントを建てるのを手伝たった後、衝立で仕切られたスペースの中でクッションを敷き、横になって毛布をかぶる。
興奮していて眠れないかと思ったが、思った以上に疲れていたのか、あっという間に寝息を立て始めた。
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