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第127話

【更新について】


2話同時更新の2話目となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ



【前回まで】


ダンジョン入口の安全と利便性確保の為、『転移の魔法陣』の存在を、国王、イングリット殿下、国務長官、ベルナルに話す事にしました。ベルナルに話した後、王城へ3人に面会を求めに行きます。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


アリステア達が王城の馬車寄せに乗り入れた時、担当者は、先日同様ベテランのトニーだった。


(お、またヴァンガーデレンか。最近続いているな)


箱部分の扉の下に踏み台を置き、転倒などに備え脇に待機する。


ご婦人方はドレスが長く、どうしても足下が危ない。さらに年配者も多い為、万が一に備えている。


しかし、予想に反して、扉が開いて降りてきたのは、魔術師の格好をした小柄な金髪の少年とその仲間達だった。


(!? ……ああ、この間ご婦人達と一緒に来た冒険者か。家紋の入った馬車を使えるという事は、ヴァンガーデレンの専属なのだろうな)


(全員結構若く見えるが銅級か……さすが大家の専属になるだけの事はある)


トニーは勝手に勘違いを進めていった。




(お、あの一団は確か……)


面会受付担当の副責任者であるエリアは、扉を開けて入ってきた冒険者の一団を見て記憶を探る。


(そうだ、ヴァンガーデレンのご婦人方と一緒に来た冒険者だ。確か……お、あったあった)


引き継ぎ用のメモを綴じたものをめくる。


そこには


『【重要】銅級冒険者キースとその仲間達が訪れた際は、国務長官、イングリット殿下、ラファル様に来訪を連絡し、そのまま部屋へ通す事。部屋は『碧玉の間』、使用中であれば『蒼穹の間』とする。対応は、最先任の勤務者が確実に実施する事』


と書かれている。


(いくら銅級とはいえ、この取次先と対応は尋常じゃないんだよな……部屋も最上級だし、どんな案件を扱っているんだ?)


侍従長=国王である。そこにイングリットと国務長官だ。国のトップ3である。


「お疲れ様です。よろしくお願いします」


銅級の冒険者証を提示しながら氏名や面会希望先を記入した用紙を渡す。


口頭で伝えると、周囲の人々に、どこの誰が誰に会いに来たのかが筒抜けになってしまう。貴族的には非常によろしく無い。


「いらっしゃいませ。ご案内致しますのでこちらへどうぞ」


エリアは、もう一人の職員に合図をすると席を立った。



ざわ……ざわ……



待合室にいた人々はその一連の流れを見てざわついた。


貴族への面会など、申し込んでもまず受けてもらえるかも判らない。許可が出たとしても、何時になるかもはっきりしない。


にもかかわらず、待合室に入って来るなり案内されて行ったのだ。どうしても注目を集める。


(あの人確か副責任者だろ?その人が直接案内するのか?)


(冒険者だと思うが……ギルド関連の仕事、面会相手は国務長官とかだろうか?)


居合わせた人々は、いつ呼ばれるともしれない自分達の順番を待ちながら、興味深い集団についてあれこれと考えていた。



アリステア達は先日と同じ部屋に通され、またも落ち着かない気分で待機する。


(ここまで立派な部屋はどうにも落ち着かないな)


しかし、落ち着かない時間は短かった。3人のうち最初の一人が現れたのだ。


最初に入ってきたのはイングリットであった。


(やはり殿下が最初か)


「殿下、この度は、急な申し出にお時間いただきまして誠に恐縮でございます」


先日のリーゼロッテの挨拶を思い出しながら、キースが挨拶をする。


「何を仰います!師であり未来の伴侶予定の方が来て喜ばない者などおりません!ようこそいらっしゃいました!先日いただいた魔法陣については中々時間が取れず、まだたったの4時間づつしか見る事ができていないのです。課題についてはもう少しお時間いただけますか?それにしてもあの文字が浮かび上がるのは素晴らしいですね!しかも、それが自動的に流れてゆくというのがまた……魔法陣も、計算され尽くした美しさというのでしょうか?あぁもう本当にうっとりしてしまいます!あ、別に音楽が流れる方が大した事無いとか、そういう事ではありませんよ?誤解なさらないでくださいませ!そうそう、まだダンジョン確保についてお礼を申し上げておりませんでした!無事の確保、ありがとうございました!心より感謝致します!……でも、先生?ちょっとおかしくはありませんか?日s」


「イーリー、そなた何を一人で喋っておるのだ。外まで聞こえておるぞ。はしたない」


「殿下、興奮し過ぎでございます。キースが面食らっておりますよ」


扉が開き、アルトゥール王と国務長官であるティモンド伯爵が続いて入室してくる。


「陛下、ティモンド伯爵、この度は、急な申し出にお時間いただきまして誠に恐縮でございます」


(先日のリーゼロッテの挨拶をちゃんと覚えたか。さすがだの)


「おう、キース。よう来たの。まずは礼を言わんと始まらん。ダンジョンの確保、見事であった!心より感謝する!まさか生きているうちにダンジョンを2つも増やす事ができるとは、考えてもおらなんだわ」


「もったいないお言葉、感謝に堪えません。ですが、第一の功は、長年現地で奮闘されてきたメルクス閣下、それに次いで両親とデヘントの両パーティでございますれば」


「キース、陛下は勿論そこは解っておられる。しかし、そなたが現地に行ってから、事態が一気に解決に向けて進んだのも間違い無い。あまり謙遜すると嫌味に聞こえる事もある。功を立て褒められた時は胸を張って存分に誇りなさい。その後驕らない様にすれば良いのだ」


(この国務長官も良い事言うよな……そうなんだ、キースはもっと誇って良いんだ)


アリステアは、心の中で国務長官に拍手を送った。


「はい、ありがとうございます。お言葉心に刻んで、これからも精進致します」


「で、今日はどうした?ダンジョン確保の報告でもあるまい?」


「はい、ダンジョンの今後についてご提案がございます。お人払いをお願いできますでしょうか」


アルトゥールは口髭に手をやり、イングリットは目を見開いた。ディモンド伯爵は片方の眉毛をピクリとさせる。


「……キース、ここには我々以外はラファルしかおらんが、それでもか?」


「はい。ラファル様は陛下と一心同体と存じますが、ダンジョンの運営には直接関与されないお立場でございます」


アルトゥールが口髭を触りながらキースをジッと見つめる。


キースもより背筋を伸ばし、真正面からその目を受け止める。


(ふむ、そこまで言うとはの。一体何を言うのやら。興味が尽きぬわ)


「分かった。ラファル」


「はい、陛下、殿下、御前失礼致します」


ラファルは礼をして部屋を出た。


「して、キース、それ程の話とは何であろうな?」


「はい、基本となるところは緊急時の安全管理について、でございます。まだまだ完全に治まったとは言い難い状況でございますし、アーレルジとの不可侵の約はこれから調整が始まります。王都からの距離ゆえに、緊急時の対応に不安が残ります」


「確かに、それは懸念材料ではある。何と言ってもここから1500kmだからな。馬車で半月、これが軍隊であれば3倍程は掛かるであろうな。アーレルジ側が諦めない可能性もゼロでは無い。だがのぅ、こればかりはどうにもな……」


「ビアンケとその周辺を整備し、一定数の国軍を駐留させる事が可能かという計画もあるが、まだ検証段階でな」


「先生それは……」


イングリットが呟く。先程までとは打って変わった、怖いくらい真剣な顔をしている。


(さっき何か言いかけたし、魔法陣大好きだものね。気が付いたのかな?)


「その距離の問題を解決するご提案となります」


!?


(1500kmもの距離をどうしようというのだ?)


(移動する馬車の改良案とかであろうか?)


(まさか先生は既に?でも……)


「ここから先のご説明の前に、こちらをお願いできますでしょうか?」


キースは、予め用意し膝の上で丸めていた書類を、3人の前にそれぞれ置く。


「キース!そなた、さすがにこれは!」


埋め込まれた魔石に気が付いたティモンド伯爵が声を荒らげる。


それはそうだろう。


国王に魔術契約を迫る冒険者など前代未聞である。


「このご提案には私と周囲の人々の命が掛かっていると考えております。どうかご協力いただきたいと存じます」


キースは動じない。じっとアルトゥールを見つめている。


「解りました。致しましょう」


イングリットが筆記具を持ち、あっという間にサインをし魔力登録をする。


「殿下!軽率に過ぎますぞ!」


「私は先生の弟子でございます。師がそこまで求める提案であれば、それは間違いなくこの国の為になる事であると確信しております」


イングリットは静かに、だが力強く言い切った。


「……イングリットは確かに軽率であったが、ティモンド、まずは読んでからだ。どれ……」


アルトゥールは書類を手に取り声を出して読み始めた。


「1つ、別紙の内容についての口外の禁止。2つ、別紙の内容についての『利用可能状況』は提供者であるキースが判断するものとする。3つ、利用不可と判断された際、その利用を提供者であるキースに強制する事の禁止。ふむ、まぁ普通の内容ではあるな……良いであろう。サインしよう。ティモンド、できればそなたにもして欲しい。この内容であれば問題無いであろう?」


「そ、そうですな……要するに『秘密を守り使用に関して無理強いしないでほしい』という事ですな?確かに通常の契約内容と言えます。承知致しました」


アルトゥールがサインし魔力登録を済ませた後、ティモンド伯爵もそれに続く。3人との魔術契約は成立した。


「皆様、不敬とも取れる行為でありますのに、ご理解ご協力、感謝に堪えません。それでは説明を始めさせていただきます。こちらが条項にあった『別紙』となります。まずはこちらをご参照ください」


魔術契約書と魔力で紐付けてある『別紙』を配る。


(さあ、どんな反応をするのやら。心の底から驚くがいい)


アリステアはちょっと人の悪い事を考えながら、3人の様子を注意深く見守る。



最初に反応を見せたのはイングリットだった。食い入る様に書類を読んでいたかと思うと、書類をテーブルに置き両手で顔を覆ってしまった。


(まさか、本当に、本当に、お作りになられていたなんて。移動している日数が合わない訳です。北国境の遺跡まで行けば着いたも同然なのですから。ああもう……この方はどこまで……)



(さて、ここまで手順を踏ませるとは、一体どんなものであろうな。どれ……)


後に続く文章を読みその内容を理解した瞬間、三度国王に即位し、合計60年という在位期間を誇る百戦錬磨のアルトゥールでも、余りの衝撃に目を閉じ大きく溜息をついた。


(アリステア……そなたの孫はどれだけ人を驚かせれば気が済むのだ!この歳でこれは心臓が止まるぞ……)


アルトゥールはちらりと他の二人を見る。


イングリットは手で顔を覆っているので見えない。ティモンド伯爵は笑顔である。衝撃の余り笑い出してしまった、というところか。



3人共暫くの間そのままだったが、最初に口を開いたのはイングリットだった。事前に『もしや?』と思っていたのと、柔軟性のある若者&魔術師というのもあるのだろう。


「先生、あなたという方は……だから日数が合わなかったのですね……」


「殿下、どこでおかしいと感じられましたか?」


「はい。最初に感じた違和感は、なぜ皆さんが面会に来た翌日に、ビアンケの街から『ダンジョン確保』の報告が届いたのか、という点です」


イングリットは順番だてて説明してゆく。


「これだと、皆さんが王都を出て2日目に動いて確保した、という事になります。アーレルジの冒険者達と管理官、フルーネウェーフェン子爵、でしたか?、それらは既に捕縛済みな訳ですから、そこまで急ぐ必要はありません。皆さんなら5日で戻れるのですから、それを待ち万全を期し最大戦力で行くべきでしょうし、あのライアル殿であればきっとそうするのでは?と考えました。ですが、その時点では、まだそこまで強い違和感ではありませんでした」


「そして今日、皆さんはまた王城に現れました。さすがにこれはおかしいと感じました。どんなに急いでも5日掛かる行程であるのに今日現れたのでは、向こうに着いた後またすぐに出発したという事です。10日間ずっと馬車で走っている?そんな理由は不合理ですし、どうしても戻る理由があったとしても、一日ぐらいは間を空けるでしょう。ですので、これはもしや……と」


「この魔術契約書の条項は、世に公表するには余りにも影響が大きすぎるから、という事でございますね?」


「はい。『転移の魔法陣』は、使い方次第で大抵の悪事を遂げる事ができてしまいます。時間を掛けて様々な状況を想定し、法律なども整備する必要があるでしょう。ですので、口外できない様に魔術契約をお願いしました」


「そして、現時点では私の魔力でしか起動する事はできません。一見するとこの事自体が『使用制限』にも思えますが、私自身又は周囲の人々を拘束し命を盾に取る等脅迫する事で、使用を強要する事ができてしまいます。『人型転移魔法陣起動装置』になってしまいます」


(そなたとその周囲を拘束する?どうやって?)

(先生……ちょっと何言っているか解りません)

(そなたの身内は王国最強クラスであろうに……)


3人はそれぞれ感想を抱いたが、キースが言わんとしている事は理解し納得した。


「確かに、モノがモノだけに慎重にもなるのぅ……『夢の新技術』と言っても過言ではないからな」


「実際に社会で運用するとなると、それが可能になるまでの準備にかなりの期間が掛かるでしょう。専用の部署を立ち上げ、取り組む必要があります」


「まずは、先生しか使えない、という点を解決しなければならないのですね。もう少しお時間掛かるのでしょうか?」


「そうですね……できあがってから、改めて研究する時間が取れていませんので、現時点では何とも……」


(……?)


イングリットはじっとキースを見る。


「とりあえずは、『ダンジョン周辺の整備が完了し、周辺の治安が落ち着くまでの間の技術提供』という形をとりたいと存じますがいかがでしょうか?」


「こちらとしては『有り難い』以外の言葉もない。ぜひよろしく願いたい」


アルトゥールが明言する。


「ええ、それ以降の活用については、今決める話でもありません。キース側とも調整しながら計画を立ててゆく、という事に致しましょう」


(これだけの革新的技術に対して『何でも良いからとにかく使わせろ』とはならなかったわね。この3人が傑物というのもありますが、『あの3人は大丈夫』と見極めたキースも大したものです)


フランはすました顔でキースの人物判断を讃えた。




「皆様ご理解いただきありがとうございます。では、どこに『転移の魔法陣』を設置するかを決めねばなりません」


「王城のどこかになるだろうが……知っているのは我々だけだからな。奥の方が都合は良いであろう」


「良い所を思いつきました!わt」


「殿下、それは却下でございます」


「国務長官!?私、まだ何も言っておりませんが!?」


イングリットは気色ばむ。


「仰らずとも解ります。殿下の私室等は不可でございます」


「……」


黙ってしまったという事はそういう事である。


(ほんと、殿下もグイグイ来るな……押し切られたりしないだろうな?)


「ま、魔法陣が置ければ良い訳ですから、小さい物置というか倉庫の様な空間を整え使用する、というのはいかがでしょう?」


「……お二方のお部屋のある区画に清掃用具を仕舞っている小部屋がこざいます。そこを片付け流用致しますか?」


「おお、良いな。よし、ではそこを利用しよう」


「承知しました。では、すぐに指示してまいります」


そう言い残し、ディモンド伯爵は部屋の外に出て行った。



「それにしても、キースよ。そなたまだ冒険者になったばかりであろう?魔物暴走を抑え、ヴァンガーデレンが進んで動く程の利を与え、魔法で地形を変えダンジョンを確保する。さらに『転移の魔法陣』とは……一体どうなっておるのだ?一緒にいる仲間も心労が絶えんのではないのか?」


アルトゥールが笑う。


3人は顔を見合わせアリステアが答える。


「確かに冷や汗をかく事もございますが、『今度はどの様な経験ができるのか』と沸き立つ心を抑えきれぬ日々を過ごしております」


「私共はキースが余計な事に煩わされず、冒険者として活動できる様に手助けするのみでございます」


フランもアリステアに続く。


(正直、ちょっと羨ましいですね……)


返答を聞いたイングリットは、眩しそうに目の前の4人を見る。


「ほう!だが、そなたらもまだまだこれからという年齢であろう?自らの功績などには興味無いのか?」


「陛下、功績などはキースと一緒にいれば望まずとも付いてまいります」


「それに、彼はまだ18歳。功績ばかりを意識する年齢ではございません。本人が望む事を自由に取り組くむ事が許されている年齢と考えます」


「これから国の内外を周り、様々な経験を積む事で、数え切れぬ程の成果をもたらしてくれる事でしょう。陛下もよくご存知の、あのアリステアの様に」


(勝手によろしくやるから、変に手を出さずに黙ってみておれ、という事か。確かに受け取ったわ)


(それは……私に先生を伴侶として求めるな、という事でしょうか?でも、先の事は誰にも分からぬものです!今すぐは無理でも、私は絶対に諦めません!)

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お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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