第126話
【更新について】
本日2話同時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
皆でダンジョン入口に乗り込み、無事無血開城となりました。
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ダンジョンの入口を確保して10日程が経過した。
初日にディエリと側仕え以外を追い出している為、とても静かで、はっきり言って暇である。
アーレルジの王都は、横に長い国土の中でも西寄りにある為、東の国境であるここからでは非常に時間が掛かる。
コルナゴスの街の代官や衛兵隊長達の間では、「書類筒だけ物質転送の魔法陣で送れば、状況だけでも伝わるのではないか?」という意見も出たが、『一晩で川の流れが変わり、ダンジョンはエストリアと地続きになった』という報告書と、エストリア側からの提案書が届いても、説明が無かったら理解できんだろう、という意見により『送るだけ無駄』という結論に落ち着いた。
アーレルジ側の返答が届くまでは3週間を見込んでいる。状況が動くまでまだ時間が掛かるだろう。そうなってくると、じっとしていられない人物が一人いる。
キースである。
「皆さん、そろそろエレジーアの所に行ってきたいのですが・・・」
上目遣いで、両手の人差し指の先をくっつけネジネジしている。可愛い。
「いいんじゃないか?向こうからの返答はまだ来ないだろうし、何かちょっかい出してくるとも思えんしな」
「ライアルさんに許可を取れば大丈夫じゃないかしら?」
「とりあえず一度話してこないと、気になって他の事が手に付かんだろうしな」
「ありがとうございます。それともう一点ありまして・・・ここと王城を転移の魔法陣で繋ぎたいのです」
部屋の中は沈黙に包まれる。
「……大丈夫か?」
アリステアはこの一言に複数の意味を込めたが、キースもそこはきちんと理解していた。
「はい、先日国王陛下、イングリット殿下、国務長官のティモンド伯爵に直接お会いした訳ですが、あの方達なら大丈夫ではないかと。それに」
「これからここは色々な工事が始まり、ますます忙しくなりますよね?ダンジョンは特殊で無尽の価値がある資源です。やってきたのは返答では無く、冒険者の大集団でした、となるかもしれません。緊急事態が発生しても、ここは王都から遠過ぎます」
「転移の魔法陣は、僕しか起動できませんから、王城に置いたからといって、誰彼構わずここに来れてしまう訳ではありません。物質転送の魔法陣で済む時はそちらを使い、どうしても人の行き来が必要な時だけの使用に限定する、という事でどうかなと」
「それがきちんと守られるなら良いけど……」
フランも心配そうに首を傾げる。
「御三方には『口外禁止。※署名をした者を除く』『利用可能な状況は僕が決める』『利用可能状況時以外の使用要請自体の禁止』を魔術契約でお願いしようと思っています。それこそ不敬罪で捕まりますかね?」
「いや、キースの身を守る事に繋がる。それは絶対条件にするべきだ。渋る様ならやめた方がいい。……よし」
「まずその話をしに王城へ行くよな?この話をするなら私達も一緒に行く。帰る時に、キースはエレジーアの部屋に留まり、私達だけここに戻ってくる、という流れにしよう」
「分かりました。よろしくお願いします。では、ちょっと両親にも話をしてきます」
キースは部屋を後にした。
暫く閉じた扉を見つめた後、3人は顔を見合せ大きな溜息をついた。
「よくもまあ次から次へと思い付くものだな……」
「本当に……年寄りには着いていくだけで精一杯です」
「ですが、ワクワクしてくる気持ちも否定できませんな!」
「そうなんだよなぁ」
「そうなのよねぇ」
自分達の自慢の孫が、エストリアという大国を動かし未来を握っているのだ、全世界に自慢したいぐらいである。
3人は誇らしい気持ちを胸に席を立ち、出発の準備を始めた。
両親からもアリステア達と同じ心配をされ、同じ説明をし、同じ様に許可が出た。
準備を終えた3人と合流し、馬車で駐屯地に向かう。
「もう一つ考えている事があるのです。いい加減ベルナル様に黙っているのも無理があるかなと」
「あぁ……そうだな。あの方なら違和感を覚えていてもおかしくないな」
「はい……設置はしませんから、とりあえず『口外禁止』の魔術契約をお願いしてみようかと思います。後、遺跡のエレジーアの部屋についても一緒に話します」
「あの方なら大丈夫でしょう。それに、漏洩事件の事もあります。こちらの不利になる様な事はしないでしょう」
「では、転移の魔法陣の件は、国王陛下、イングリット殿下、国務長官、ベルナル様の4人にお話するという事でいきたいと思います」
「「「了解!」」」
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駐屯地全体と例の倉庫の中を確認し、変わった点が無い事を確認した後、『物質転送の魔法陣』を使い『駐屯地・倉庫内異常無し』と書いたメモを送っておく。
倉庫の扉はキースしか開ける事ができない。来た時ぐらい確認してもバチは当たらないだろう。
「エレジーアさん、こんにちは!」
自室からエレジーアの部屋に転移し、熊のぬいぐるみに向かって挨拶をする。
(小さい子がぬいぐるみで遊んでいるみたいね)
「おや、来たね。用事は済んだのかい?」
「先日の用事には一段落着きました。状況が変わるにはまだ時間が掛かるので、先に別の用事を済ませてしまおうと思いまして。で、大変申し訳ないのですが、ちょっとまた王都に行かなければならないので、戻ってきた時にゆっくりお話という事で良いですか?」
「もちろん構わないよ。生きている人間は色々と忙しいからね。気をつけて行っておいで」
「はい、ありがとうございます。僕も早くお話したいです!それでは失礼します」
(かなりの力の持ち主だろうに、調子に乗った感じもないし、言葉の端々から性根の良さが伝わってくるね……大したもんだよ)
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アリステア達はベルナルの執務室で向かいあってソファーに座っていた。
ローテーブルには、アンリが淹れていったお茶が、芳醇な香りで室内を染めながら湯気を立てている。
目の前に座っているベルナルは、最初に『ダンジョン無事確保』の話をしたまでは普通だったのだが、続けて『転移の魔法陣』と『エレジーアの部屋』ついての説明を聞かされ、無表情で固まっている。
(まあそうなるよな……どちらかだけでも大変なのに……うちの孫が申し訳ない)
アリステアは心の中で謝った。
「……確かに先日も思ったのです。『なぜ王都に行くのにここを通るのか?ここから戻るのか?』と。まさかそういう仕組みだったとは……」
「それで、一つお願いがありまして……こちらが勝手に聞かせたのに申し訳ないのですが、『転移の魔法陣』と『エレジーアの部屋』について、私のいないところで口外しない、という魔術契約をお願いできますでしょうか?」
「解りました。これだけの話ですものね……心配するのも当然です。それに、私なら話しても良いと判断してもらえたのでしょう?素直に嬉しいですね」
「恐れ入ります。ではこちらにサインと魔力登録をお願いします」
ベルナルは躊躇いなくサインし、魔石に魔力を流した。
「王都ではどなたに話をするのですか?陛下と国務長官でしょうか?」
「はい、お二人とイングリット殿下にもお話しようと思っています」
「ほう!殿下にもですか!確かに、既に国内業務全般に携わっておりますし、もう間もなく陛下から全て引き継がれる訳ですから、知っておいた方が良いでしょう。それにしても……」
「まさか『転移の魔法陣』とは……いや~本当に言葉もありません。将来的には、社会に完全普及を目指すのですか?」
「そうできたらとは考えていますが、影響が大き過ぎて、解決しなければならないことが多すぎます。何処から手を付けたらいいものやら……といった感じです」
「あぁ……確かに……」
二人同時に腕を組んで目を瞑る。
国の管理下で運用するのか、民間でも自由に使える様にするのか、魔法陣自体は売るのか、許可された人物に貸与とするのか。物流関係の仕事も大きく変わるだろう。
王城や貴族の屋敷は、魔法陣を設置されてしまったら、侵入され放題になってしまう。防衛手段も示す必要があるだろう。
『作って配って後は知りません』というのは余りにも不誠実である。
「まぁ、まだ私専用なので、他の方でも使える様にするのが最優先なのですが」
「でも、キースさんならそのうち成し遂げてしまうでしょうからね。漠然とでも今から考えておいて良いと思いますよ」
「そうですよね……その時は、ベルナル様もぜひご協力よろしくお願い致します」
「ええ、私で良ければいくらでも!大規模な計画になるでしょうから、それ専用の部署が作られるのではないかな?そうなったら、そこへの異動を希望します!」
「ありがとうございます!頑張ります」
今日も馬車を借り、まるで暴れ馬が引いているかの様な勢いで、北街道を突っ走る。
すぐに衛兵の詰所と雑貨屋、そして、ログリッチの食堂が見えてくる。
(ログリッチさんのお店にも寄りたいな……)
あの堪らないお菓子とお茶を思い浮かべながら、キースは王都を目指した。
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