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第125話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ

【前回まで】


王都→エレジーアの部屋→駐屯地と戻ってきたアリステア達。準備を整えてダンジョン入口を確保する為に出撃です。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


馬車の列は、アーレルジ王国の国境警備兵に先導されながら、ダンジョン入口に向けて進んでゆく。その馬車の中でライアルは、先程見た光景を思い出していた。


本当に、ほぼ真っ直ぐだったエドゥー川の流れが、ダンジョン入口を囲む様に蛇行し、エストリアと地続きになっていた。


(別に疑っていた訳では無いが、話が話だからな)


メルクス伯爵、妻や仲間達と共にこの国境の地にやってきて4年と少し。


(まさかこの日がやってくるとは・・・)


赴いた当初は、両国間で交わした覚書もあるし、多少揉めはしても、そこまで時間は掛からないと考えていた。


対岸ではあるが、土地としてはエストリアなのだから、8:2とか7:3ぐらいの取り分で決まるのでは?などと皆で話し合っていたのを覚えている。


それがまさかの、アーレルジ側の完全しらばっくれ対応により、事態は膠着。確保どころか、相手に工事を進ませない様に圧力をかけるだけで、精一杯になってしまった。


しかし、ここにきて状況は一変、自分達はダンジョンの確保に向かっている。


しかも、その切欠は自分の息子だというのだから、また感慨深い。


魔術学院を首席で卒業し、仲間を連れて遠く離れた自分達の所に会いに来た。自分の事を尊敬し、誇りに思うと言ってくれた。


(あんなに小さかったのにな・・・)


4年前、出発前に挨拶を交わした時の事を思い出す。


(・・・今もあんまり変わらんか)


ライアルはふふっと笑った。


「どうしました?」


急に笑ったライアルを見て、隣に座っているマクリーンが尋ねる。


「いや、俺達の息子は本当に凄い奴だと思ってな」


「ええ、本当に。人としても魔術師としても、それに可愛さでも、間違いなくエストリアの歴史に刻まれる人物になるでしょう。というか、もうなっていそうですが」


魔物暴走の鎮圧、魔法語による呪文を用いた手順の発見、そして数々のオリジナル魔法陣の開発。その中でも、やはり『転移の魔法陣』は特別だ。


「あんなにすごいのに、可愛くて素直で優しくて気配りもできて、全然偉そうにしない。そこもいい」


シリルが会話に入ってきた。


馭者台にいるニバリも頷いている。箱と馭者台を繋ぐ小窓を開けてあるのだ。


「どう育てたらああなるの?カルージュの3人のせい?」


「それは間違いなくあるだろうな。私達はどうしてもいない日が多かったからな」


ライアルが遠くを見るように、腕を組んで宙を見つめる。


「いつかライアルとマクリーンが冒険者を引退したら、私はキースのパーティに入れてもらう。いい?」


「もちろんよ!あなたの人生はまだまだ続くのですから、自分の良いようにしてちょうだい。それに、あなたが一緒なら心強いわ」


マクリーンも笑顔で賛成する。


「わかった。じゃあ後でキースに伝えて予約しておく」


「ええ、よろしくねシリル」


そこまで話をしたところで馬車が止まった。目的地に着いたのだろう。


皆の表情と気配がガラリと変わり、和やかだった馬車の中の空気は一瞬で張り詰めた。


「よし、冒険者になったばかりのひよっ子に、これ以上良いところを持っていかれる訳にもいかん。行くぞ!」


「「「おう!」」」


この地に赴いて4年余り、『エストリア筆頭』とも謳われる銀級冒険者、ライアルとその仲間達は、遂にダンジョンの入口に足を下ろした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

エストリアの一行が到着する少し前。


フルーネウェーフェン子爵の副官を務めるディエリは、この3日間、子爵の代行として各種事務処理に追われていた。


(よし、後は閣下でないと処理できないものだけだな・・・)


予定では、もう間もなく子爵もダンジョンから戻ってくる。そうなれば代行としての自分の仕事は終わる。


(毎日これ以上に仕事をされているにも関わらず、余裕を作りダンジョンにまで入られるのだからな・・・とんでもないお人だ)


代行を務めて、ディエリは改めて子爵の処理能力を認識した。


それでいて、剣も魔法も一流なのだ。まさに物語の主人公の様である。


(あの方はこの先もっともっと上まで登っていかれるだろう。私もお供できれば良いが・・・)


しかし、それには、今起こっているダンジョンの問題を解決しなければならない。


内部で何が起こっているのか、冒険者達はなぜ誰も戻ってこないのか、噂される様に、下層域でも活動できる冒険者達でも敵わない様な、強力な魔物が生息しているのか。


(全ては閣下が戻られれば解決するとは思うが・・・とにかく、ご無事であります様に)


その時、部屋の外から大きな足音が聞こえ、扉が強く叩かれた。


(何だ一体・・・まさか戻られた閣下の身に何かあったのか?)


「入れ!」


扉が開き一人の衛兵が入ってきた。酷く息を切らしている。大急ぎで走ってきたのだろう。


衛兵はまだ肩で息をしながら気を付けの姿勢を取り、ディエリに向き合う。


「ふ、副管理官殿、そ、外のエドゥー川が、おかしくて、えっほn、川が、東側が無くて」


川に何か問題がある様だが、何が言いたいのかさっぱり解らない。


(とりあえず閣下に何かあった訳で無い様だが)


ディエリは、机の上に置いてある水差しを手に取り、衛兵の顔めがけて中身をぶちまけた。


「落ち着け!深呼吸を3回しろ!いち!に!さん!」


衛兵はディエリの合図に合わせて深呼吸をし、どうにか落ち着きを取り戻した。


「し、失礼致しました。ご報告ですが、エドゥー川の流れが変わってしまっているのです」


「・・・なんだと?川の流れが変わった?」


「は、はい。東側に川が無く、ここを囲む様に北、西、南の3方向に川が流れているのです」


「・・・」


(どんな状態だそれは・・・エストリアが灌漑工事でもしたというのか?いや、昨日の夜からずっと霧が出ていたし、そもそも一晩でそんな事ができる訳が無い)


「・・・確認に行く!着いて来い!」


ディエリは、先程の衛兵と同じ様に、管理事務所の中を全力で走った。



「ば、馬鹿な・・・これは一体・・・」


物見櫓の上に登りその光景を見たディエリは絶句した。


衛兵の言った通り、東側に川は無く、南から流れてきた川は西へ大きく向きを変え、折り返す様に東へ向かった後、さらに北へ方向を変えている。


見張り担当の衛兵曰く、「霧が晴れたらこの景色だった」という。


(これでは、灌漑工事前の状態と同じではないか・・・)


子爵が着任する直前、コルナゴスの街の代官と打ち合わせをした際に、古い地図を見せられた。


元々は役所の資料室にあり、誰も見向きもしなかったものだが、ダンジョン生成以降、灌漑工事が行われた証拠になってしまった為、代官が執務室の金庫で保管・管理する様になった。


暫くこんな事になった理由を考えていたが、ディエリは気が付いた。


気が付いてしまった。


(アーレルジが川の向こうという事は・・・ここはエストリアではないか!?奴らがこの状態に気が付いたら・・・)


先日も、エストリアのメルクス伯爵との顔合わせの際「古よりアーレルジとエストリアの境はエドゥー川である、それを尊重すべきだ」と言い切っている。


これを見たら、ダンジョンの所有権を主張しに、意気揚々と乗り込んで来るだろう。


それに、この状態は他国に駐留している事になる。許可を得ている訳では無い(そんな事は不可能であるが)のだから、不法入国、不法占拠と指摘されそのまま捕まってもおかしくない。


子爵はダンジョン内、冒険者達もコルナゴスにはいるかもしれないが、ここにはいない。


向こうにはエストリア筆頭とも言われるあのライアル達のパーティがいる。力押しで来られたら敵わない。あっという間に制圧されてしまうだろう。


(閣下が戻られる前に奴らが来てしまったら・・・何とか交渉して時間を稼ぐしかない)


「おい、大至急コルナゴスの街に行き、代官にこの事を伝えて来い!そして、冒険者を集めこちらに寄越してもらえる様、助力を仰ぐのだ!」


「わ、分かりました!」


一緒に物見櫓に登っていた衛兵が慌てて降りようとしたその時、ディエリは見た。


今や地続きのエストリア方向から、4両の馬車と騎馬数騎が連なって進んでくるのを。


(は、早過ぎる!先程霧が晴れたばかりなのに、なぜもうそこまで来ているのだ!?)


その馬車の列は、見張りの衛兵の脇で暫く止まった後、再度こちらへ向けて進み出した。


ディエリは、エストリアの対応の早さに衝撃を受け呆然としていたが、慌てて物見櫓を降り、柵の切れ目に設置された門へ向かった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


メルクス伯爵とディエリは、子爵の執務室のソファーに座り、向かい合っていた。


部屋の中には、メルクス伯爵の護衛を担当する私兵が2名、扉の前と、伯爵とディエリの間に割って入れる位置に立っている。


メルクス伯爵は、悠然と出されたお茶を飲んでいるが、ディエリは手を付けず、しきりにハンカチで汗を拭う。


(責任者不在は大変だのぅ)


その姿を見て、メルクス伯爵は他人事の様に思った。実際他人事であったが。


「で、ディエリ殿、繰り返しになるが、退去を今すぐ、速やかに始めていただきたい。早くせんと日が落ちるでな。暗くなってはそなた達が川を越えられなくなるぞ?」


「メルクス閣下、どうか、暫し、暫しお時間を。もう間もなく子爵が戻りますれば」


「そう言ってから、もう既に鐘2つが過ぎておる。それにな・・・」


メルクス伯爵の、これまでのどこかのんびりとした雰囲気がガラリと変わった。海千山千の、交渉事の達人の顔がチラリと覗く。


「そなたらは、エドゥー川が両国の国境である事をもっと尊重せねばならんのではないか?」


先日言われた嫌味もきちんとぶっ込んでいく。


「ここはエストリアの国土で、そなた達はこちらの了解を得ずに立ち入り、駐屯し、施設の建設をしているのだ。そして、ダンジョンというエストリアの資産を不当に占拠し、勝手に魔石を持ち出している」


「こちらは本来得られるはずであった魔石の売却益も得られず、4年に渡り金銭的、精神的被害を受け続けている。これは紛れもない侵略行為だ。子爵が戻るのを待ち話し合うとか、そういう次元の事では無い」


「・・・はい、誠に・・・何と言いますか・・・しかし、先日まではエドゥー川の流れは・・・」


「それも先程から申しておるが、エドゥー川で灌漑工事などは行われておらん。そちらの国にもそのような記録など無いであろう?先日フルーネウェーフェン子爵も言っておったものな。同席していたそなたは、子爵の言葉に頷いておったではないか。もちろん、こちらにもそんな記録は無い」


エストリアは当初の交渉の席で「覚書」を提示したが、それはフルーネウェーフェン子爵が来る前の話だ。「記録が無い」という言葉を否定する材料にはならないし、そこを主張すると、覚書があった事を認める事になる。


「よし、ではこうしよう。子爵を待つのは認める。だが、ここで待てるのは、そなたと側仕え2名までとする。その他全ての人員は、個人の私物及び国から貸与、支給された物以外は全て置いて、アーレルジ側に戻ってもらう」


「本来、この場にいる全ての者は、不法入国の犯罪者である。その責は問わずにアーレルジ側への退去を認める。もちろん、そなたと側仕えの安全は、私の名に懸けて保障する。以上だ。では動きなさい」


(閣下、申し訳ありません。私ではこれ以上は無理でございます)


「承知致しました。全体にその様に指示致します」


ディエリは肩を落とし、白旗を上げた。


(最初から勝ち目などゼロであったにも関わらず、よくここまで粘ったわ)


メルクス伯爵は心の中でディエリの対応力に感心した。


「うむ、よろしく頼むぞ。日も暮れてしまうし、各自が身の回りを整えれば良いだろうから、鐘一つもあれば十分であろう。それと、これは今後のこのダンジョンの扱いについて、こちらからの提案書だ。アーレルジ国王に届く様に手配する様に」


「はい、確かにお預かりしました。それでは失礼致します」


メルクス伯爵の声を受け、ディエリは主の代わってしまった執務室を出て行った。


(まぁあの者をネチネチと虐めても何の得にもならんからの。あの程度で十分であろう。退去の準備を始めさせる方が先よ)


メルクス伯爵はカップを手に取り立ち上がると、すっかり冷めてしまったお茶を啜りながら、窓から外を眺めた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


現場はかなり混乱したが、基本的に、ここで仕事をしているのは、工事に携わる人足達と衛兵である。


国境警備隊の隊長2名にメルクス伯爵の指示を説明し、各隊の指揮を取らせ、人足達の(かしら)にも同様に説明する。


彼らも、まだ困惑はしているが、川の流れが変わってしまった為、それに合わせて国境線も変わった事は理解している。


「何が起こったのかはさっぱり解らないが、状況的に自分達がここに居られなくなったのは解る」という感じだ。


「では隊長、よろしく頼む。後、この筒をコルナゴスの代官に、この二つの筒はできるだけ速く王都に届く様に手配してほしい。現状の報告書とエストリアからの書簡だ。代官に頼めば手配してくれるだろう」


皆が準備を整えている間に、急いで書き上げたのだ。拙いながらも、周辺の地図も書いた。


(川の流れが変わって国境が動いた、などという事がきちんと信じてもらえるかは心配だが・・・)


「承知しました。ディエリ殿もどうかお気を付けて」


「ありがとう。私は閣下と一蓮托生だからな。側仕えの2人には貧乏くじを引かせてしまったが、無体な話にはならんだろう」


ディエリは、衛兵と人足達を見送ると、管理事務所の執務室に戻って行った。


「閣下、総員退去完了致しました」


「おう、そうか。早かったの。そなたも休んでよいぞ。特にできる事は無いからの。ダンジョンの入口はこちらで見張っている。子爵が戻られたらすぐに知らせよう」


「はい、ありがとうございます。それでは失礼致します」


ディエリは何とか部屋に戻り、ぐったりと長椅子に倒れ込んだ。


(一体全体、なぜこんな事に・・・)


いくら考えても答えの出ない事を考えながら、精も根も尽き果てたディエリは、いつしか意識を失っていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ディエリさんの手書きの地図は、作者よりは上手ですw

ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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