第123話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
国王陛下よりお褒め&労いの言葉をいただき、譲歩の条件にも許可をいただきました。アリステアだけ(中身がバレている?)と冷や汗をかいています。
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その時、控えめに扉が叩かれる。
「よい、私が出る」
側仕えの一人が動いたが、侍従長のラファルがそれを制し外に出る。
国王が面会中にそれを遮る様な行為などありえない。緊急事態である可能性が高い。
それならば初めから自分が対応した方が良いと判断したのだ。
皆が扉の外に意識を向け聞き耳を立てる。
何やら大きな声が聞こえてきた。
(王城の中でこんな大声を出すなんて・・・誰だ?)
キースは気になったが、まさか外に見に行く訳にもいかない。
すぐにラファルが室内に戻ってきた。ある意味緊急だった。
「ラファル、今の声はもしや・・・」
「はい、殿下でございます。視察からお戻りになられて、この面会の話を耳にされたらしく・・・同席をご希望ですが、いかがされますか?」
「しょうのない奴だな・・・まぁ、あ奴にも無関係では無いからな。皆良いか?」
「はい、陛下のよろしい様に」
リーゼロッテが答える。断る理由も無いしその立場でも無い。
「キース、念の為心の準備をしていてくれ」
ティモンド伯爵が少し申し訳なさそうな口調で言う。
「・・・? はい、承知致しました」
(何だ?殿下が部屋に来ると何があるんだ?)
アルトゥールがラファルに頷くと、ラファルは再度部屋の外に出て行った。
しかし、扉は閉まったのとほぼ同時に開いた。すぐ外で待っていた様だ。
「失礼致します」
先程外から聞こえてきていた声とはうって代わり、静かで凛とした声が部屋に響いた。
そのままテーブルに近づいてくる。
身長は、キースより頭一つ程大きい。この歳の女性にしては大きい方だ。『視察帰り』という言葉通り、スラリと引き締まった身体は乗馬服に包まれている。
結われた赤茶色の髪は、髪留めで後頭部に止められ、水色の瞳は潤んだ様にキラキラと輝いている。
目鼻立ちははっきりしており、『美人』と『可愛い』の間ぐらいの印象を与える。
「陛下、ただいま戻りました」
「おう、ご苦労だった。報告は後で聞こう。まずは一息入れよ」
「はい、ありがとうございます。リズおば様、エヴァおば様、ご無沙汰しております。お身体など変わりございませんか?」
「はい、殿下。皆様方のお陰をもちまして、つつがなく過ごしております」
「それは何よりです」
ヴァンガーデレンの夫人達に笑顔で応えると、キース達に向き直る。
「皆さんは冒険者の方ですね?お話中お邪魔します。イングリット・ロウ・クライスヴァイ、クです・・・」
冒険者は一般市民だが、ある意味特殊能力の持ち主達であり、魔石の確保にも欠かせない存在だ。
イングリットは、「知り合いのお兄さん、お姉さんに接するぐらいの感覚で対応する様に」と指導されていた。
「お初にお目にかかります。王都冒険者ギルド所属、銅級冒険者キースとその仲間達でございます。国王陛下のみならず、イングリット殿下にもお目通りが叶うとは、感無量でございます」
「・・・」
イングリットからの反応は無い。キースの顔をポカンと見つめている。全く王族らしくない。
(なんだ、何か変な事言ったかな・・・?)
「国務長官、この方はあの・・・」
イングリットが呟く様に尋ねる。
(やはり気付かれてしまったか。キース、すまん)
「はい、かの『万人の才』こと、魔術師キースでございます」
「あ、あ、やはりそうなのですね・・・」
イングリットは上気した様に頬をピンク染め、より目を潤ませながら、一歩一歩キースに近づいてくる。
その時、大人3人組とリーゼロッテ、エヴァゼリンは気が付いた。
(私の同類だ!)
イングリットは、キースの横まで辿り着くと、何とその場に跪いた。そして、膝の上に置かれた手を取る。この後どうなるのか。あまりの超展開に誰も動けない。
そして、その手を両手で包む様に握りしめ、とんでもない爆弾を落とした。
「キース様、私と結婚してください!」
部屋の中は水を打ったように静まり返った。
次代の王が、冒険者の少年に求婚しているのだ。
「え、あ、で、でんか、えーと、け、けっこんでございますか?」
「はい。私の王配として、魔術の師として、ぜひ王家にお迎えしとうございます。も、もちろん、魔術師としてのお力だけが目当てなのではございません。だ、男性としても、とても素敵です・・・し・・・」
最後は顔を赤くし俯き気味だ。
「・・・イーリー、一人で話を進めるのはやめなさい。そもそも、相手にも都合というものがある。見てみなさい回りを」
イングリットが周囲を見渡すと、皆驚きに目を見開き口を開けてポカーンとしている。誰も着いてきていない。
「あら、これは・・・実際に『万人の才』とお会いできて、舞い上がってしまった様です。失礼致しました」
悪びれた様子も無く、頬を染めホホホと笑う。
「すまんなキース、原因は私なのだ」
ティモンド伯爵だ。
「『影の兎』の魔法陣を手に入れた際に、殿下にお見せしたのだ。それ以来、非常に興味を持たれ、ぜひ一度会いたいと仰せでな・・・。卒業式の時も、私と話をしているそなたの姿を馬車から見ておられたのだよ」
(だから今もすぐ気がついたんだな)
「私も魔術師の端くれ、あの様な素晴らしい魔法陣を生み出される方に、ぜひお話を聞かせていただきたかったのでございます!あの時は叶いませんでしたが、目の前にいらっしゃるなんて!少しだけお時間いただけないでしょうか?」
(こりゃ受けないと帰してもらえそうに無いな)
「陛下、皆様方さえ良ければご説明致しますが」
「そうか?すまんのぅ。何でも気に入ると一直線でな。こうなると中々治まらん」
(何か聞いた事あるな・・・)
皆がキースをじっと見る。
「ありがとうございます!『影の兎』の魔法陣の、兎の動きの制御に関してなのですが・・・私、5時間程ずっと見ていた事がありまして、兎の動きに法則性が全く見い出せなかったのですが、あれはどの様な仕組みになっているのでしょうか?」
!?
(あ、ただ可愛いとかじゃ無くて、こういう方なのか。これはこっちも切り替えないと)
(確かにあれは不思議で可愛いが、5時間見続けるとは尋常ではないな)
(やはりキースと同じ方向性みたいね)
「では、実物を見ながらご説明致しましょう」
予め出して置いた魔法陣をテーブルの上に広げる。
「私は、右上のここの空間に入っているこの図形と、対角線上にあるこれが対応しているのではないかと考えたのですが」
「右上の部分は正解でございます。対になるのは対角のそれでは無く、こちらのここなのです。これで、動きの種類は36通り、次にくる動きはランダムになります」
「あ~こっちか・・・そうなんだ・・・あ、だからここが広くなっているのかな?」
魔法陣に気を向け過ぎているのか、口調がかなり砕けている。
「その通りです。ここを広く取りませんと、干渉してしまいうまく動きません」
それからも、イングリットの質問は続き、キースも一つ一つ丁寧に答えた。
「うーん、やっとスッキリしました!ありがとうございます!」
「とんでもございません。こちらこそ、これ程までに興味を持っていただき嬉しく思います。作った甲斐がございます」
言葉だけで無く、キースは心の中で舌を巻いた。
(今までこの魔法陣を見て、ここまで突っ込んだ話をしてきた人はいなかった。現時点でこれならば、将来、魔術師としてかなりの域まで辿り着けるんじゃないかな)
(あ、でも、国王になられるのだから、そんな時間は取れないか・・・)
既に非常に忙しい身である。即位後はさらに忙しくなるだろう。ちょっともったいない気もするキースだった。
「イーリー、もう良いか?キース達はまた北西国境まで戻らねばならぬ。時間の余裕は無いのだ」
「はい、キース先生、皆様、お話し合いの最中にお時間とっていただき、ありがとうございました」
(先生とか・・・やめてほしい・・・)
「ときに陛下、北西国境ですか?ダンジョン関連でしょうか?」
「やっとこの話になったな・・・そう、あのダンジョンが間もなくエストリアのものになる。彼らはメルクスの代理として、その話を詰めに来たのだ」
アルトゥールは、キースから聞いた顛末をざっくりと説明した。イングリットに魔法関連の話をすると、また終わらなくなってしまう。
「川向うにあったダンジョンを地続きに・・・?目の前で灌漑工事なんてさせてくれないでしょうに、一体どうやって・・・?」
イングリットはブツブツ呟いていたが、譲渡の提案を聞き頷いた。
「争いの種であったものを確保となると、確かに強い反発があるでしょう。利を分ける事で味方として相手の行動を制限するのですね。とても良いお考えかと。損して得取れ、でございますね」
(頭の回転も早いし柔軟な考え方もできる。後必要なのは経験だけだな。この方ならば大丈夫、と思わせるだけのものをお持ちだ)
「そういう事じゃ。彼らが無事ダンジョンを確保し、アーレルジと約を結び終わったら、王都で報奨の授与式を行うからの」
「それはようございます!4年もの間、多くの方が現地で対応されていたのですから、それぐらい致しませんと!私も楽しみにしております!」
イングリットは手を打って喜んだ。
「よし、それでは他に何かあるか?大丈夫か?特に無ければこれで仕舞いにしよう。朗報を待っておるぞ」
「はい、お任せくださいませ。必ずや成し遂げて参ります。・・・殿下、よろしいでしょうか?」
「はい、何でしょうか先生!」
「・・・本日ご縁をいただきましたので、こちらを献上させていただきます。お仕事の合間に、これでお心を休めていただけたらと存じます」
キースは、用意しておいた『音楽』『文字が浮かび上がる』魔法陣を、『影の兎』と並べて置き、起動させた。
イングリットの目が輝きつつも驚きに見開かれる。
「きょ、曲が・・・晩餐会の・・・文字が・・・アイザック・・・宙に・・・?」
一度に2種類は、さすがの才媛も処理能力を超えた様で、うまく言葉になっていない。
「お時間あれば、ぜひ色々考えてみてください」
「先生からの課題ですね!承知しました!全力で取り組みます!」
「仕事の合間に、と言われたであろう。師だというのなら、その言う事は守りなさい」
アルトゥールはさすがに疲れた様に諭した。95歳では、10代の曾孫の勢いを受け止め続けるのは厳しい。
「先生ありがとうございます!大切に致します。あと、私との結婚も、ぜひ前向きにご検討くださいませ!とりあえず婚約だけでも結構ですので!」
魔法陣を胸に抱きながら、イングリットは満面の笑みで宣言した。
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リーゼロッテが代表してお礼と別れの挨拶をして、面会は無事(?)終了し、アルトゥールとイングリット、ティモンド伯爵は退出して行った。
「いや~なんと言うか、殿下に全部持っていかれたというか・・・勢いもあって、力強い方でした」
かなり押され気味だった事もあり、キースも少々お疲れだ。
「あの方はエストリアの希望です。小さい頃からありとあらゆる教育を受け、補佐役がいるとはいえ、王としての仕事を行ってきました。皆細心の注意を払って指導してきましたが、性格、能力共によくあそこまでのお方にお育ちになりました」
「結婚の話は別としても、一国民として、お助けできる事があればお手伝いしたい、と思わせる方ですね」
「別?キース、お助けするにはあなたが王配になるのが一番なのですから、別にしてしまってはいけませんよ。あなたが隣で公私共に女王を助ければ、大抵の事は成し遂げられるのではありませんか?」
キースは困り果てた。
「お館様、私はそういうつもりはありませんので・・・もうご勘弁ください」
「授与式が終わったらすぐに王都を出て、しばらく近づかない方が良いかもしれないわね。」
「フラン、欠席は無理ですよね・・・?」
「当たり前でしょう。そんな事をするのは、あなたのおばあ様ぐらいよ」
(女王陛下の隣に立つキース、というのもちょっと見てみたいけど、さすがにね)
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