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第120話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


キースの呪文詠唱からの魔法により、ダンジョンの入口周辺は、『エドゥー川のこちら側』になりました。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


魔法で地形を変え、川岸から駐屯地に戻ったキースを皆が出迎える。


「お疲れキース、上手くいったか?」


代表してライアルが尋ねる。霧で隠している為、皆にも見えないのだ。


「はい、予定通りです。川と沼を繋いで灌漑工事前の状態に戻しました。ダンジョンの入口はエストリアと地続きになっています」


「そうか・・・何と言ったら良いか、上手く言葉にできんが・・・凄いな」


皆がうんうんと頷く。


「だが、これで俺達はやっと王都に戻る事ができる、ということだ。長かったぜ・・・」


デヘントが『やれやれ』とばかりに肩をすくめて両腕を広げる。


「すぐにという訳にはいかんが、目処が立った事は間違い無いな。よし、では閣下にダンジョン確保をご報告してくる。皆は通常態勢で頼む」


ライアルとデヘントが連れ立って歩き出そうとしたところを、キースが呼び止める。


「お父さん、ちょっとお願いがありまして・・・」


キースがライアルに近づき小声で囁く。


「わかった。お尋ねしてみよう」


「はい、よろしくお願いします」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「これは・・・何というか・・・凄い光景だな・・・」


「フルーネウェーフェン子爵を捕らえた」「地形を変えてダンジョンを確保した」という報告を受け、駐屯地の倉庫に来たメルクス伯爵は、中に入るなり言葉を失った。


それはそうだろう。


魔法陣が書かれた倉庫の床には、フルーネウェーフェン子爵を含め、30名弱の冒険者達が寝かされているのだ。そんな光景を目にする事などまず無い。


「ライアル・・・彼らは起こそうとしても起きないのだな?」


「はい。魔法による眠りですので、特定の手段を用いませんと目が覚めません」


「何とも凄まじいな・・・」


長年に渡り「国家間の交渉」という修羅場を潜ってきたメルクス伯爵だが、魔法に関しては畑違いな事もあり、一般的な知識しかない。


(彼がライアルの息子でなかったら・・・)


もしキースが相手陣営にいたら、この様な無防備な姿を晒しながら、倉庫の床に寝かされていたのは自分だったかもしれないのだ。


その光景を想像し、伯爵はブルっと身震いした


「閣下、この後の交渉事について、息子がお尋ねしたい事があるとの事なのですが、ご都合いかがでしょうか?」


「おう、時間は幾らでもあるぞ。なんと言っても相手がここで寝ているからな」


「では、後ほど息子とお部屋の方にお邪魔致します」


「ああ、いつでも来てくれ」


ライアルとメルクス伯爵は連れ立って倉庫を後にした。



ライアルとキース達がメルクス伯爵の執務室に入ると、既にお茶の用意が整っていた。


「閣下、お時間を割いてくださりありがとうございます」


「いや、こちらこそ礼を言わねばならぬ。ダンジョンの確保といい、子爵の件といい、途方も無い大戦果だ。どれだけ称えても足りぬ」


「お褒めいただき恐縮です。あともうひと踏ん張りかと思いますので、引き続き力を尽くして参ります」


(ここから解決までの目処も立っておるのか・・・何とも言葉も無いわ)


「本日お時間いただきましたのは、今後ダンジョンを確保した後のお話でございまして。本来、国家間の交渉事に口を差し挟むなど以ての外ではございますが、お聞きいただけますでしょうか?」


「ほう?構わんよ。自分とは違う立場からの意見はとても参考になる。ぜひ聞かせてくれ」


伯爵は目を輝かす。


貴族と一般市民、交渉事に携わってきた経験の有無、それによって様々な視点、考え方がある。


経験者だからこそ思いつかない発想もあるだろう。他人の意見は大歓迎だ。


ライアルやデヘント達は、もちろん頭の回転も良いし、知恵も知識もあるが、あくまでも冒険者である。自分の仕事に絡む相談や意見交換をする相手では無い。


「ダンジョンについて、アーレルジ側にある程度の譲歩をご提案致します」


「ほほぅ?なぜそう考える?」


「はい、ダンジョン発見から4年間、こちらと同様にアーレルジ側も手間暇と費用を掛けてきました。これで何も得ること無く、こちらにダンジョンを確保されてしまったら、アーレルジ側は収まりがつかないのではないでしょうか?」


伯爵は無言で先を促す。


「確かに川を挟んではおりますが、エドゥー川は水深も浅く幅もそこまで広くありません。先日の様に、思いっ切った行動を取る可能性も十分にあると考えます」


伯爵もそれは考えていた。


いくら今はエストリア国内にあるとはいえ、微妙な位置にあり、長年主権を争ってきたのだ。


ここで「100%エストリアのもの」としてしまうと、後々まで燻り続ける火種になるのは間違い無い。


「その懸念はもっともであるな。要するに、『ガス抜き』が必要だという事だな?」


「はい、その通りでございます」


伯爵は楽しくなってきた。他人と交渉事についてよ語りあうのは久々である。相手の反応を予測し、それに合わせて様々な計画を立て準備する。こちらの思惑通り事が運んだ時など最高である。


「ではキース、どの程度譲ってやるべきか、具体的に考えはあるか?」


「はい、私の提案はこちらとなります」


予め出しておいた書類をローテーブルに置く。


伯爵は書類を手に取り読み始める。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


・現在身柄を確保している29人の解放


・ダンジョン発見以降、アーレルジ側が掛けた経費全ての補填


・ダンジョンが黒字化した翌年より、魔石取引額(最大10%程度)の譲渡。※期限を定めるのも考慮する。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


(1番目はまぁ良いだろう。全員殺す訳にもいかんしな。2番目も・・・まぁ普通に採掘できるダンジョンであれば、すぐに回収できる。しかし、3番目は・・・)


「キース、この3番目はどうであろうな?経費を負担し人質を解放するのに、さらにここまでしてやる必要があるのか?という意見が噴出するであろう。どう説得する?」


「はい、この提案はアーレルジを完全に味方にする為のもの、でございます。本来100%の取り分であったものが0になったら、反発は非常に強いでしょうし、アーレルジ国内が荒れてしまう可能性があります。隣国の混乱はこちらにも悪影響を及ぼします」


「しかし、過去はどうあれ、既にダンジョンの入口はエストリアの国内にあります。これを取り返すにはもう戦争をするしかありません。流石にそこまでは考えていないでしょう」


「そこで、こちらで経費をもち人質を返し、分け前を提示する。そうする事で『もうこれで良いだろ。0よりマシだ』という考えに誘導します。恐らく、アーレルジ国王を始め、中枢寄りの方達は混乱を避ける為、提案を受けると考えます」


「この提案を、国内の貴族、世論を押える為の材料として使う事で、アーレルジ側に『貸し』を作らせる事もできるな」


「はい、本来ならアーレルジ側の取り分は0ですが、こちらから提示しているのです。アーレルジ側の賛成派は何とかこの条件でまとめようと、反対派を必死に説得するでしょう」


「フルーネウェーフェン子爵がいない今、このダンジョンに関わる交渉担当には、ドゥーゼール子爵が再任されると考えます。あの方以外でダンジョンに関わっていた貴族はおりませんから。そうなれば、ますます閣下のお力でまでまとめやすいのではないでしょうか?」


「確かにあやつが出てくれば話は早い。説明して『持って帰って検討しろ』で済むからな。だがなキースよ」


「さすがにこの3番目は、私の判断だけでは無理だ。莫大な金額になるし、不戦はもちろん、敵対行為の禁止も約束させなければならない。そうなると条約に等しい。国王陛下の御裁可が必要だ」


「そうですか・・・私共の馬車で往復しても10日は掛かりますし、その間霧で隠し通すのも無理がありますね」


(10日・・・前提がおかしい・・・)


2、3日ならコルナゴスの街と行き来できなくても何とかなるだろうが、それ以上は、霧の中を無理矢理にでも街に行こうとする者が出てくるだろう。ダンジョン入口と街がエドゥー川で遮られている事がバレてしまう。


「分かりました。閣下、私に『閣下の代理である』旨の、委任状をいただけますでしょうか?国王陛下にお目通りをお願いし、ご説明して御裁可をいただいて参ります」


!?


皆が驚きに目を剥く。


「おいキース、村の村長さんじゃないんだぞ?『用があるので会ってください』と言えば会ってくれる相手じゃないのは解っているだろう?」


ライアルが戸惑いながらも息子を諭す。


その時、アリステアはピンときた。


「キース、ヴァンガーデレン家に頼むのか?」


「はい、閣下の委任状があって、ダンジョンに関する事でと言えば会っていただけるとは思いますが、後回しにされる可能性もあり得ます。あのお二人からも陛下に面会を申し込んでいただければ、少しでも早くお時間を作っていただけるのではないでしょうか?」


「それは・・・確かにあの二人なら無碍にはされないだろうが・・・」


ヴァンガーデレン家の当主と「あの」エヴァンゼリンが二人で王城に参内し面会を求める、国王も何事かと時間を作るだろう。


ただ、アリステアはあの二人がキースに関わるのは、個人的に非常に気に入らないところではある。


「まず転移の魔法陣でエレジーアの部屋へ移動します。その後『北国境のダンジョン』で、ベルナル様に馬車をお借りして、王都のお屋敷へ向かいます」


「キース、閣下も転移でお連れして、閣下が直接陛下とお話された方が良いのではないか?」


ライアルが提案する。


「それも考えたのですが、そうすると『閣下が何時どうやって王都まで来たか』という点で説明がつかなくなってしまいます。ですが、僕だけなら何とでもなります」


なんと言っても片道15日だ。その間に起こった事を前提に話ができるのはおかしい。


「解った。キース、お主に任せよう。お主にしかできぬ事の様だからな。皆もそれで納得してくれ」


責任者であるメルクス伯爵がそう言うのであれば、反対できる者はいない。


伯爵は執務机で委任状を書き上げ、伯爵家の花押を押す。


「ではキース、よろしく頼む。首尾よく陛下にお会いできたら、全て終わった後、改めてご報告にあがります、とお伝えしてくれ」


「かしこまりました。それでは早速行ってまいります」


キースが席を立つと、アリステア達大人3人組も一緒に立ち上がる。


「キースを一人にすると色々危なっかしいからな。一緒に行こう」


「閣下の代理として赴くのですから。重要人物には護衛が必要です」


(うんうん)


「分かりました。それでは皆さん行きましょう!」


3人に笑顔で応えると、キース達は伯爵の執務室を後にした。

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お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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