第119話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
窮地を救われたフルーネウェーフェン子爵は、そのまま隔離病棟(?)へ運ばれて行きました。
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※フルーネウェーフェン子爵がダンジョンに入る直前に戻ります。ネタバレ回というやつです。
「フルーネウェーフェン子爵が、コルナゴスの街からダンジョンの管理事務所に向かった」という知らせを受けたアリステア達は、早速「お出迎え」の準備を始めた。
「キース、これに本当にそんな効果があるのか?そこら辺に落ちている石だぞ?」
「はい、これを火にくべると白い煙の様なものが発生し、その煙が魔物を興奮状態にするのだそうです」
アリステア達の足元には、緑がかった乳白色の鉱石が小山を作っている。
これは「緑石」と呼ばれ、ダンジョン内であればどこにでも落ちている。
パッと見は色違いの魔石の様に見えるが、魔力は殆ど含まれていない。
魔素の結晶化がうまくできなかった時に作られるのではないかと考えられているが、現状使い道が無い為、進んで研究する者もいない。
「僕も本で読んだだけなので、ちょっと実際に試してみたいと思いますが・・・あ、いました。南に100m程の所に反応が3つです」
皆で向かうと、そこにはホブゴブリンが一匹とゴブリンが二匹いた。気づかれ無い様に隠れつつ魔法で拘束する。
身動きが取れず怯える魔物の横で薪を組み、焚き火を始める。
(中々意味不明な光景だわ。食べられると思っているかもしれないわね)
火が大きくなってきたところで、焚き火の中心に緑石を入れる。熱せられた緑石がパチンパチンという弾ける様な音を立て、炭の様に赤熱し始める。
すると、木が燃えて発生している煙とは違う、白く半透明のモヤモヤしたものが漂い始めた。
「これがそうなのか?」
「恐らく・・・」
魔物達に掛かる様に、クライブが足を持って風下に引っ張る。
皆で様子を見ていると、魔物達は最初はモヤモヤを浴びて咳き込んでいたが、徐々に目が充血し始め大きく見開き始めた。
歯をむき出しにし、怯えた様な鳴き声だったものが、大きな吠え声になってくる。
遂には、拘束を解こうと地面に転がったまま激しくもがき始めた。
ここで、キースが<光の剣>の魔法を発動させ、魔物達の頭を落とす。魔物達は、小さな魔石を残し消えていった。
「効果は十分の様ですね」
「あんな風になるのだな・・・『狂化』の様にも見えたが」
「あ、そう言われてみると確かに。で、子爵が降りるのに合わせて、これを中層域の複数のフロアで焚きます」
「魔物をけしかけ消耗させるのだな?では、仕掛けたフロアに子爵達が降りたら私達はどうする?」
「2日間ぐらい、中層域から上層域へ戻ってくる階段の付近で待機しましょう。脱出されても困りますから」
「その後、弱ったところを捕まえるのね」
「はい、絶えず襲われる事になりますから、気の休まる暇がありません。寝不足になりますし、寝られなければ魔力の回復もままなりません。だいたい、3日目辺りからしんどくなってくるんじゃないかな?そこからは常に、彼らの位置と周囲の魔物の状況を把握して観察します。できれば死んで欲しくはありませんので」
「それは窮地に陥れば助ける事もある、という事なのだな?」
「はい、もしそういう状況になり助ける事ができれば、こちらの事を信用しやすくなるでしょう。そうすると捕縛のハードルが下がります」
「なるほどな・・・よし、では焚き火の用意をして緑石を燃やしてゆくか」
「はい!お願いします」
アリステア達は、『洞窟』フロアの奥の方の部屋や、通路同士が交わる位置に焚き火を設置していった。
途中魔物に遭遇しても、大袈裟に威嚇するだけで散り散りになって逃げてゆく。彼らにはこれから頑張ってもらうのだ。数は減らしたくない。
だが、そこまで気にする事は無かったのかもしれない。
キース達が冒険者を捕まえていた為、中層域には2週間近く冒険者が入っていないのだ。冒険者が倒さなければ魔物は増えてゆく一方である。
2フロア分の焚き火の設置が終わり、下のフロアの奥に設置された焚き火から火を点ける。
アリステア達は、漂い始めたモヤモヤが魔物に影響を及ぼさないうちに、上層域の階段付近へと戻った。
「ではこれで待機です。後は結果をごろうじろ、という事で」
かくして、魔物達は『狂化』し、フルーネウェーフェン子爵は多くの魔物に絡まれ消耗した結果、キース達に捕縛されたのであった。
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「フルーネウェーフェン子爵という障害も排除できましたので、いよいよダンジョンをこちらのものにします」
駐屯地の会議室に集まった皆の前でキースが宣言する。
「でも、どうするの?入口周辺は工事も行われているし、見張りも多いわ。なにより川の向こうだし・・・」
フランが首を傾げる。
「そうだな。エストリアとアーレルジはエドゥー川を国境とする、という前提をどうするか、だな」
「皆さんそう考えますよね?でも、その前提は変わりません。むしろそれを利用すると言うか」
キースはにんまりと笑う。
!?
(その前提のままどうやってダンジョンを確保しようというのだ?)
「シリル、ちょっと手伝っていただきたいのですがお願いできますか?」
「ん、分かった」
「まずはですね・・・」
キースは手順を説明し始める。
「・・・という訳です。相手が『両国はエドゥー川を国境とする事を重んじるべきだ』と主張しているのですから、これなら当然ダンジョンはこちらのものです」
会議室は沈黙に包まれていた。
(キースが何かの説明をすると、すぐ静かになってしまうわね)
フランは特性もあって、皆が衝撃を受けていてもあまり動じない。その為、最初に話しかける役になる事が多い。
「確かにそうね。自分達がそう言ったのですから、ぐうの音も出ないでしょう」
「それに向こうは責任者がいませんから混乱しています。代理が来るまでに好きに進めてしまいましょう」
皆は会議室を出て、駐屯地の西端に移動する。そこからは、エドゥー川からダンジョンの入口、さらに、入口のすぐ上にある沼まで見渡すことができる。
この沼は、水害の原因となっていた蛇行部分である。現在の新しい川を掘った際に一部が埋め立てられ、川から切り離された。結果、沼として残っている。
【灌漑工事前】
【灌漑工事後】
「じゃ呼ぶよ」
「はい、お願いします」
シリルが目を閉じて集中しながら腕を前に出し、なにやら呟き出す。何か言っているが意味は分からない。エルフ特有の言葉の様だ。
まだ朝であり気温もそれ程高くないが、シリルの額には汗が浮かんできている。
(・・・?空気が・・・湿っぽい?)
そうキースが感じた瞬間、シリルが閉じていた目を開け、ポツリと呟いた。
「我が召喚に応じよ。来たれ水の王」
次の瞬間、目の前の空中には、半透明の裸の上半身と、水に溶け込んだ様な渦巻く下半身という姿の、見目麗しい青年が浮かんでいた。
(これが水の上位精霊クラーケン・・・姿が人型なのは、人の前に出るからかな?でも・・・何か様子がおかしくない?)
確かに様子がおかしい。非常に不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、シリルをじっと見つめている
「・・・なんだ」
「そこの川の水を使って、周囲を晴れない霧で包んで」
「・・・」
基本的にエルフは風、水の精霊と親和性が高い。その中でもシリルは、風と水の精霊に関しては、上位精霊にも力を貸してもらえる程の力を備えていた。
「やるの?やらないの?」
「・・・」
クラーケンは応えない。腕を組んでそっぽ向いている。
「やらないのね。分かった。じゃあいい」
シリルはクラーケンに背を向け歩き出す。
「もう二度と呼ばないから。帰っていいよ」
「~~~!分かった!分かったよ!やればいいんだろうやれば!」
クラーケンの顔が見る見る紅潮する。
クラーケンは川の方を向くと、その腕を一振りした。
すると、エドゥー川からダンジョン入口、その奥の沼の辺りは、あっという間に霧で包まれた。
(どんどん濃くなってゆく・・・あれじゃ、隣の人の顔さえ見えないんじゃない?腕を振っただけなのに・・・)
「できるならさっさとやりなよ。いつまで拗ねてるの。子供じゃあるまいし」
シリルは容赦ない。クラーケンは下を向いて肩を震わせている。
「もういいって言うまでこのままにしておいて。わかった?」
「・・・」
「返事は?」
「・・・わかった」
「よし、いい子」
僅かに口角を上げて褒める。その顔を見た途端クラーケンは笑顔になったが、それも一瞬だけで元の仏頂面に戻った。
そして、姿が徐々に薄くなり、霧に溶け込むかの様に消えていった。
「シリル」
「なに、キース」
「彼は・・・彼で良いのかな?どういう性格なの?」
「ヤキモチ焼き。それも極度の」
シリルが大きく溜息を吐く。
「あぁ・・・そうなんだ」
シリルによると、昔は普通だったという。
だが、以前(と言っても100年以上前らしい)に一度、魔物との戦いの時に、風の上位精霊である「ジン」を召喚した事があった。
その時に「自分が呼ばれなかった事」に対してジンにヤキモチを焼き、シリルに対しても不貞腐れた態度をとっているという。
しかし、シリルの事は大好きなので、自分から離れようとはしないし、ちょっと褒められればああやって嬉しそうにする。
「一口で精霊といっても、色々なタイプがいるんだね」
「正直面倒だから呼びたくない。でも、悪い奴じゃないし力は間違い無い」
「なるほど、使い方、頼み方次第かな。では次は僕の番ですね。ちょっと行ってきます」
キースは駐屯地のある高台からエドゥー川の土手に降りてゆく。対岸は濃い霧に包まれている。
(よし、この辺でいいかな)
川に沿って左に移動し位置を決めると、魔法を発動する。
「<土の壁>!」
川底が対岸まで盛り上がり始め、そのまま高さ3m・厚さ5m程の壁になり、川の水を堰き止める。
(第一段階終了、ここからが本番だ)
キースは集中し、あの呪文の詠唱を始める。土系統の魔法を増強する「長いほう」の呪文だ。
「悠久の時を耐え忍ぶ 堅牢なる土の巨人よ
我はここに其に願う さかしむ鉾をも受け止める
土塊の盾を鍛え持ち 其と我らに仇なす者から
万事の悪意を防がん事を! <アース・クリエイト>!」
詠唱が終わり、キースが杖を振りかざし地面に向ける。
先程<土の壁>で水を堰き止めたところから、地面がダンジョン入口奥の「沼」に向かって川幅と同じ幅で陥没してゆく。
そのまま沼の端にぶつかり、川の水が新たに掘られた水路に流れ込み、川と沼が繋がった。
その後、おおよそ反対側の位置でも<土の壁>で壁を作り、同じ様に堰き止めた。川だった部分は長方形の水溜りとなった。
さらに、再度呪文詠唱からの<アース・クリエイト>で水路を作る。
こうして、川は65年前の灌漑工事以前の姿を取り戻した。
【キース魔法使用後】
蛇行したエドゥー川の中洲部分にあるダンジョンの入口は、『エドゥー川のこちら側』、すなわちエストリア国土内に存在する事となった。
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