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第118話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ

【前回まで】


ダンジョンに入ったフルーネウェーフェン子爵パーティ。最初は順調でしたが、中層域で大量の魔物に遭遇。一転して大ピンチです。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


フルーネウェーフェン子爵は、女スカウトと共に『洞窟』の床に座り込み、壁に寄りかかって荒い息を吐いていた。


通路の先に魔物の集団が居たため、走って逃げ、隠れたところだ。


これで何度目だろうか。闇雲に逃げているだけなので、完全に方向感覚は無い。


走りながら魔物の相手をしているうちに、仲間とはぐれてしまった為、今一緒なのは女スカウトだけだ。


3方向から魔物が押し寄せてきて逃げた後も、魔物に追い立てられ、逃げ、隠れ、少数であれば戦い、何とか凌いできた。


2人の姿は、汗と様々な汚れに塗れ、全身に無数の細かい怪我を負い、目は落窪んでクマができている。


子爵の後ろへ撫で付けられた頭髪は乱れ、いつもきちんと剃られ、切り揃えられている髭も伸び放題である。


「傷はどうだ?まだ動けそうか?」


「はい、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


背中に刃物傷を負ったスカウトの女は笑顔で答えたが、顔色は良くなく笑顔自体も弱々しい。


(応急処置はしたがいつまで動けるか。動けなくなったらその時は・・・)


その時は置いていくしか無い。背負っていては戦えないし、逃げる事もできない。


そもそも、子爵自身、歩く事すらギリギリなのだ。動けない人間を連れて行くのは自殺行為である。彼女もそれは承知しているだろう。


(携行食と水はあるが、睡眠がとれないのがキツい。そもそも、ダンジョンに入ってどれぐらい経つのだ?2日か3日程か?)


座っている時に一瞬うとうとするだけで、まとまった睡眠がとれない為、魔力が僅かにしか回復しないのだ。


その為、どうにも戦わなければならない時は、魔法を使わずに剣だけで戦い、魔力は<探 査>に使用している。魔物の存在が判れば戦闘自体を回避する事ができるからだ。


だが、余り広くする事はできないし、短時間で済ませている為、先程の様に遭遇しかける事もあった。


(しかし、モヤが晴れて見通しが良くなったのは助かった。魔物の方が夜目は利くだろうからな)


中層域に入り、徐々に濃くなってきていたモヤは、今やすっかり消え失せていた。そもそも、『洞窟』であるのに何故モヤが発生していたのか。ダンジョンは不思議な事が多い。


その時魔物の鳴き声が聴こえ、ハッとした子爵が顔を上げた。


(近い!? 何故気が付けなかった!)


「顔を上げた」事から解る様に、子爵は一瞬意識を失っていた。


慌てて<探 査>を発動させ、魔力を薄く広げてゆく。


(この部屋のすぐ外の通路、15匹はいるな・・・曲がって来なければ良いが・・・)


魔物達はそのまま真っ直ぐ進んでゆく。<探 査>を広げたまま、息を潜めて通り過ぎて往くのを待つ。


部屋の入口を最後尾の魔物が通り過ぎ、ホッとした瞬間、「ドサッ」っと、横で何かが倒れた様な音がした。


子爵と同じ様に、壁に寄りかかって座っていた女スカウトが、意識を失い子爵と反対側に倒れてしまったのだ。


(・・・聞こえたか?)


聞こえてしまった。


魔物達は立ち止まり、訝しげにキィキィと鳴いている。


そのうち、5匹程が集団から離れて部屋の入口へと進んできた。音のした方を確認しようというのだろう。


子爵は<探 査>を切り、腹を括った。


(近付いてくる5匹を不意打ちで倒し、残りの集団へ魔法を打ち込み逃げる、これしかない)


(魔法は、打てても後2発だろう。集団全ては倒せなくても、逃げる時間は稼げる。魔法を恐れ向こうが逃げる可能性だってある)


(俺は最期まで諦めん!絶対に生きて帰ってみせる!)


魔法を発動させるべく意識を集中する。体力も魔力もギリギリ、上層域への階段の場所さえ分からない。


そんな崖っぷちの状態にも関わらず、腹を括ったせいか、子爵の意識は研ぎ澄まされていた。


そして、気配だけで近づいてくる魔物の位置を探り、一列で進んで来ているのを確認する。


(よし、それなら・・・)


イメージを固め、タイミングを見て飛び出し、魔法を発動させた。


「<雷 撃>!!」


不意をつかれ驚き立ちすくむ魔物に向かって、青紫の(いかづち)が飛ぶ。先頭から最後尾まで貫通し爆風が起きる。


目の前の魔物達が吹き飛ぶと同時に、通路の方でも爆発が起きた。


(なんだ!?)


目を凝らすと、何者かが部屋の入口の前を一瞬横切り、すぐに魔物達の断末魔の叫び声が聞こえてくる。


(救・・・援・・・なのか・・・?)


呆然とする子爵に向かって、3つの人型の影が近づいてくる。子爵は油断せずに剣を構えた。爆煙の残りと土煙で、まだよく見えないのだ。


「アーレルジ王国、フルーネウェーフェン子爵とお見受け致しますが、いかがでしょうか?」


3つの影うち、小柄な人影から声が掛かる。


「そうだ!そなた達はディエリに派遣された者か?」


「・・・はい。ディエリ様の差配の下、救援目的のパーティが複数ダンジョンに入っております。あぁ、ご無事で何よりでした」


「そうか・・・手数を掛けた。奥にもう一人いるのだ。背中に怪我をしており動けぬ」


「承知しました。神官もおりますので、<癒し>を与えましょう。閣下はお怪我は如何でしょうか?」


「私はかすり傷だから後で良い。先に彼女を頼む」


「承知致しました。では神官が奥へ参ります」


(・・・大した方だ。自分の怪我より冒険者を先に診させるとは)


ほぼ収まりつつある土煙の中から、法衣を着て錫杖を手にした神官の女性が姿を現した。小走りで部屋の奥へ進む。


さすがの子爵も、極限の状態だったところから一転して助かった事に、安堵と喜びの気持ちが溢れてくるのを抑えきれなかった。


ようやく土煙が晴れ、子爵は自分を助けてくれた冒険者達を目にする事ができた。


先程の女神官と筋肉の壁の様な大柄な戦士、そして、小柄で華奢な、まだ訓練校に通っていそうな年頃にしか見えない、魔術師の格好をした少年。


部屋の入口からもう一人、双剣を装備した女も入ってきた。


(随分と特徴的な者達だな・・・)


「閣下、奥に居るのはスカウトの女性でしょうか?」


子爵が所属と名前を尋ねようと口を開いた時、魔術師の少年が尋ねてきた。


「ああ、そうだが」


「そうですか。それはようございました。はぐれてしまわれた戦士2名と魔術師は、既に保護されております。皆さんご無事で何よりでした」


「そうか・・・それは朗報だ」


子爵は素直に喜んだ。一時的にとはいえパーティを組み、共に命を預けあい苦労した者達だ。それに、管理官という立場から見ると、彼らはこれからも戦力として十分期待できる。主力と言っても良いだろう。


無事を聞かされ安心したのか、子爵はふらついてしまい、壁にもたれ掛かる。慌てて魔術師の少年が駆け寄り支える。


「閣下、既に諸々尽きる寸前とお見受け致します。どうか、この者の背におぶさりくださいませ。お運び致します」


子爵を支えながら、魔術師の少年が大柄の戦士を呼ぶ。


「いや、さすがにその様な姿で戻る訳にはいかぬ。気遣いは不要だ」


「ご承知のとおり、このダンジョンは今回『森林』と『洞窟』でございます。見通しは悪く、周りにいるのは私共だけ。知らない事は無かった事と同義。どうぞお気を楽になさいませ」


魔術師の少年は、まるで子爵が断るのが分かっていたかの様に説得し始めた。


「それに、そのまま外には出ませぬ。お運びするのは出口までとなります。そこからご自分の足で歩いて出られれば、『自分の足で歩いて帰ってきた』という事になるではございませんか」


その言葉を聞き、子爵は一瞬キョトンとした顔になり、声を出して短く笑った。


(格好つけても仕方がない、か)


「分かった。事ここに至って見栄を張っても仕方あるまい。今にも倒れそうなのも事実だ。世話になろう」


「はい、では<癒 し>を掛けてからに致しましょう」


奥から戻ってきた神官の女性が、子爵に<癒 し>を与える。子爵の全身は、黄色味を帯びた暖かな光に包まれ、傷口は塞がった。


「閣下、この軽量化の魔法陣を腰のベルトに挟んでいただけますでしょうか。彼は剛力の持ち主ですが、閣下の様な立派な体格の方をここから出入口までとなりますと、いささか苦労致しますので」


魔術師の少年は、書類筒から魔法陣が書かれた紙を取り出し、子爵に手渡す。


「うむ、承知した」


フルーネウェーフェン子爵は、左腰の辺りに紙を挟み込み、魔法陣を起動させる。


(普段の彼なら、名前も知らない相手から渡された魔法陣など、手も触れんだろうに。すっかり心を許す存在になっているな)


大柄な戦士の男は、軽々と子爵を背負い、スカウトの女性は、子爵と同様に魔法陣を付け、女戦士が背負う。


「お二人共、どうぞ目を閉じて休んでください。やつれたお顔では今後に支障が出ます。少しでも回復して、良いお顔で堂々と戻らなければなりません」


(そう言われては、子爵としては休まざるを得ないだろうな。まぁ、疲れ、眠気、安心感から起きていられんだろうが)


「そうだな。それではよろしく頼む」


背負われた子爵は、大柄な戦士の背中に顔を寄せ体重を掛ける。あっという間に意識を無くした様で、寝息が聞こえてきた。スカウトの女性も同様だ。


「では早速」


寝息を確認した魔術師の少年は、大柄の戦士の背中に手を触れ「起動」と一言発声した。


背中の中心辺りが青白く光る。女戦士へも同様だ。


服の下に仕込まれた『眠りの魔法陣』により、子爵とスカウトは覚める事のない夢の世界へと旅立っていった。


「確保完了だな」


「はい!上手くいきました」


フルーネウェーフェン子爵とその仲間達は、駐屯地の倉庫へと運ばれていった。


自分達を救出した者達こそが、魔物をけしかけ窮地に陥らせた張本人とも知らずに。


ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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