第117話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
アリステア達は、キース作の『眠りの魔法陣』を使い冒険者達を捕獲していました。
フルーネウェーフェン子爵は派閥のボスの遣いと面談です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
フルーネウェーフェン子爵は、面会予定だったイザギレ侯爵の遣いとの会食(という名の侯爵への報告)を終え、翌朝ダンジョンの管理事務所へと戻ってきた。
(これは・・・だいぶご機嫌がよろしくないな・・・)
留守を預かっていた副官のディエリは、朝の挨拶と昨日午後からの報告をしながら、子爵の顔色、様子を見てそう判断した。
相変わらず、ダンジョンから冒険者達は誰も戻ってきていない。
それも不機嫌の要因の一つだろうが、明らかに遣いと会う前より良くない。というより、遣いと会う前は別に悪くなかった。
そういった感情を露わにし他人にぶつける人間で無い為、一見すると普通だが、長年彼の事を見てきたディエリには分かる。
(そっとしておこうかとも思うが・・・色々と大変な状況でもある。発散さえさせてしまえばそこで終わるだろうから、溜め込ませない方が良いであろう)
そう考えたディエリは、敢えて子爵の心を突きにいった。
「閣下、モンディアル子爵とのご会食はいかがでございましたか?」
子爵の左眉がピクリと上がった。
「・・・あヤツめ・・・普段王都でのうのうとしている癖に、偉そうに、訳知り顔で、賢しげに、言いたい放題言いおって!苦労知らずの小役人風情が!!」
(テンションが上がってきた。そのまま全部ぶちまければ良い)
ディエリは、子爵の声が外に漏れない様に<遮 音>の魔法を発動し、程よく相槌を打ち促しながら話を引き出してゆく。
要するに、王都からコルナゴスの街に到着したモンディアル子爵が、ダンジョンに関する事実と噂が混ざった様々な情報を得て、ネチネチと嫌味を言ってきた、という事らしい。
(あの方は閣下とは本当に馬が合わんな)
イザギレ侯爵は、アーレルジ王国内の北寄りの地域に領地があり、フルーネウェーフェンとモンディアルは共に隣接している。その為、当然の流れでイザギレ侯爵が作る派閥に属している。
モンディアル子爵は、王都の財務局内に監査役の役職を持ち、地方出張に合わせて派閥内の貴族と接触、面会し、イザギレ侯爵に当人の話やその地方独自の情報を持ち帰る。
(あの方は、歳下や自分が格下と思った人間に対し、やたら上から目線でものを言うからな・・・侯爵様が閣下に目を掛けるのが気に食わない、というのもあるのだろうが)
頷きと相槌を打ちつつも半分ぐらい聞き流していると、子爵はまだ興奮からか荒い呼吸を繰り返してはいるが、言いたい事は言い終えた様で口を閉じた。
「お気は済みましたでしょうか?大事の前に、些末な事で心乱れたままでは足元を掬われます」
「・・・すまんディエリ。もう大丈夫だ」
「はい、ようございました」
(ふむ、ここ数日より顔つきが良くなられた。罵詈雑言と一緒に他の溜め込んでいたものも出ていったか)
「閣下、ダンジョンへはいつ入られますか?同行者はいつでも出られる様準備は整っておりますが」
「そうだな・・・今も救援を待っている者がいるやもしれん。2の鐘に入口前に集合する様伝えろ」
「かしこまりました。閣下の装備品などは隣の部屋に用意してございます。昼食の後お着替えでよろしいでしょうか?」
「あぁ、それで頼む」
「承知致しました。それでは手配してまいります」
ディエリは執務室を出て、子爵に同行する冒険者達が居る待機所へと向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
デヘントから「フルーネウェーフェン子爵がコルナゴスを出てダンジョンへ向かった」という連絡を受けたアリステア達は、早速ダンジョン内へ移動した。
「キース、子爵はどう対応するんだ?やはり眠らせるのか?」
「ずっと冒険者が入ってきていましたから、上層域も魔物が少ないんですよね。戦いにならないのではあれば、あそこで休憩してくれない可能性もありそうなので、ちょっと違う手段を考えてみました」
「ほう!? どうするんだ?」
「ふふふ・・・皆さんお耳を拝借・・・」
自分達以外誰もいないのに、何故か顔を寄せ合ってこしょこしょと説明する。そういう時は、大抵ろくでもない計画だ。
「子爵閣下はお強いのですから、その実力を遺憾なく発揮していただきましょう」
キースは澄ました笑顔でさらりと言う。
「最終的には回収になりそうだが、そこはどうするのだ?」
クライブが顎を撫でながら尋ねる。
「そこは状況次第かなと。高度の柔軟性を維持し臨機応変に対応する、というやつです。まぁ、そこまで上手くいっていれば、どちらになっても大丈夫ですよ」
(とてもダメな気がするが・・・なぜだろう)
「それでは、最初の準備をしましょう。先日階段を探した時に見つけてありますから、そこに行って回収します」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
フルーネウェーフェン子爵達のパーティは、順調にダンジョン内の探索を進め、上層域を抜け中層域に入っていた。
救援を目的とはしているが、上層域は階段が見つかり次第次のフロアへ降りている。
上層域には救援対象の冒険者達はいない、と考えている。既に他のパーティが探索済みであるからだ。
もし最初のパーティが上層域で遭難していれば、2番目に入った合同パーティが救出し戻ってきていただろう。
そうなっていないと言う事は、上層域には誰もいなかったのだ。それに、上層域ならばそもそも遭難していないだろう。
どのパーティも中層域はもちろん、下層域でも戦えるだけの力は持っているのだから。
(にもかかわらず何故誰も帰って来ないのか・・・)
子爵は、今回の中層域のモチーフである『洞窟』の通路を進みながら考える。いくら考えてもそこが腑に落ちない。
通路は狭く枝分かれしており、更に、うっすらとであるが白くモヤもかかっている為、見通しは良くない。
(結局、先日の襲撃に参加した冒険者も誰も見つからん。内容は違うが、これだけの人数の冒険者が、誰一人として戻ってこないとはどういう事だ)
冒険者を職業としている者は、複数の特性を持つ者も多い。大雑把ではあるが、基本的に肉体的にも精神的にも「強い」と言っていい。そういう存在が合計で50人以上行方不明なのだ。子爵には不思議で仕方がない。
(『入ったら生きて戻れないダンジョン』などという評判が立ってしまっては、今後のダンジョンの運用にも支障が出る。必ず原因を突き止め解決しなければならぬ)
フルーネウェーフェン子爵は、より一層心に強く誓った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
先程より濃くなってきたモヤの中、曲がり角の先の様子を窺っていたスカウトが戻ってきて報告する。
「十字路の中心が少し広い空間になっているのですが、そこに20から25程の魔物がおります。構成はほぼゴブリン、コボルトで、ホブゴブリンが2、3匹となります」
「またか・・・」
子爵は眉間に皺を寄せ呟く。
中層域に入り、階段を一つ降りてから魔物の数が一気に増えた。
中層域とはいえ個々の強さはまだそこまででは無い。だが、通路が狭い『洞窟』という事もあり、避けて進む事もできない。
避けて進んだとしても、後ろから襲われる事も考えられる。挟まれても面倒であるから、結局倒すしかない。
「閣下、数も厄介ではありますが、少々妙な点がございます」
「ほう、何だ?」
「はい、相対して感じたのですが、魔物がかなり興奮しております」
「そう言われると確かに、先程からこちらを見つけると、我先に襲いかかってきますな・・・」
盾役の戦士の発言を受けて、もう1名の戦士も賛同する。
基本臆病なコボルト、ゴブリン、ホブゴブリンらは、相手の様子を見て、強そうと判断すれば逃げてゆく。
にもかかわらず、興奮し積極的に襲ってくる。
「これは・・・誰も戻って来ない理由の一つになりますでしょうか?」
「結びつくかは不明だが、原因ははっきりさせておきたい。他に普段と何か変わった事がないか、より注意を払え。まずはそこの魔物を片付ける」
「承知致しました!」
手順を打ち合わせ、配置に着く。
魔術師と子爵が魔物の群れの中に魔法を打ち込み、辺りには轟音が響き爆風が吹き荒れた。
それを合図に、土煙で視認性が悪い事など気にもせず戦士達が突っ込み、恐慌状態の魔物達に襲いかかる。
<火の玉>を打ちこんだ魔術師は、続けて周囲を照らす光球を天井付近に飛ばした。
子爵は短杖を片手剣に持ち替え、戦士達の背後を突かせない様に、少し引いたところに位置を取る。
女スカウトは、子爵と背中合わせになりその背中を守りながら、左右を警戒する。
20数匹いたが、不意打ちという事もありあっという間に打ち倒し制圧した。
この4人は、ディエリが用意した切り札とも言える精鋭達だった。
冒険者としての実力、知識、経験はもちろん、人間性も兼ね備えている。子爵の同行者(兼護衛)に選ばれるだけの事はある。
綺麗に片付け一息つこうとしたその瞬間、<探 査>の魔法で周辺を探っていた魔術師が叫ぶ。
「前と左右から魔物が近づいてきています!数え切れません!」
「!? 来た道をもどるぞ!急げ!」
あれだけ事態解決をと意気込んでいたにもかかわらず、瞬時に撤退の判断を下す事ができる。これも子爵がデキる男の証明だろう。
狭い通路を女スカウトを先頭に皆で走る。しかし、進んでいる通路の枝道からも魔物が出てきて襲いかかってくる。立ち止まらずに、切り伏せ殴り倒しながら前へ進むが、何と言っても数が多い。対応に時間が掛かり、勢いが削がれ進む速度が落ちてくる。
(この様な、この様なところで死ぬ訳にはいかぬ!)
子爵達は、より一層濃くなるモヤの中、ひたすら前へと走り続けた。
ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!
お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)




