第116話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします(´∀`*)
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【前回まで】
ダンジョンに入った冒険者達が戻って来なくなってしまい、その対応をするフルーネウェーフェン子爵ですが、どうにも上手くいきません。なので自分で対応する事にしました。
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「1、2、・・・25、25名か。そろそろどうでしょうね?」
数え終えたキースが皆の方を振り向く。
「襲撃の時にも、冒険者だけで30名程捕まえたからな。コルナゴスには、もう動ける冒険者はほとんどいねぇんじゃねぇかな?」
腕を組んだデヘントが応える。
コルナゴスの街の規模と、普段から冒険者ギルドの様子を監視させている彼の見立てだ。精度は高い。
「子爵は腕にも自信があるでしょうから、派遣できる冒険者が尽きれば間違いなく出てきます」
「例の噂も『俺が俺が』という気持ちを押してくれるだろうぜ」
デヘントが人の悪そうな顔で笑う。
フルーネウェーフェン子爵の副官であるディエリが報告していた、コルナゴスで流れている『ダンジョンに手強い魔物がいるから皆戻って来ない。管理官では対応できない』という噂は、彼とバルデが流したものだった。
「子爵は、今日の夕方に一旦コルナゴスに戻っている。何か用事があるみたいだな。ダンジョンがこの状況なのに出てきたという事は、子爵でないと対応できない事なんだろう。終わってまた向こうに戻ったらその時に動くんじゃねぇか?」
「では、子爵がコルナゴスを出たら、僕達もまたダンジョンに入りますね」
「おう、報告が届き次第すぐに伝える」
「はい、よろしくお願いします」
(それにしても・・・子爵を確実に釣り出す為とはいえ、ここまでするかね)
デヘントは、倉庫内の、大きく魔法陣が書かれた床を見ながら、何とも言えない溜息を吐く。
そこには、武装解除され下着姿の、25人の冒険者達が寝かせられていた。(一応、女性には薄い毛布が掛けられてはいる)
もちろん生きている。ただ、意識は無い。眠っているのだ。
しかもただの眠りでは無い。
冒険者達は皆、魔法により強制的に眠らされているのだ。
キース達は、ダンジョンに入ってきた冒険者を罠で眠らせ、駐屯地の倉庫へ転移させていたのだ。
昏睡からの拉致監禁と強盗である。
(魔法による起きない眠りか・・・眠りと言うよりまるで呪いだ。完全におとぎ話だな・・・)
デヘントは大きく溜息を吐いた。
人間は誰でも眠くなれば寝る。眠気が限界を迎えれば、自らの意志とは関係無く寝てしまう。
誰かに途中で起こされたり、物音や話し声で意識を戻す事もあるだろうが、心身が十分満たされれば自然と目が覚める。
薬等で眠らされたとしても、一定時間が経過し薬の効果が抜けてしまえば、やはり目を覚ます。
しかし、『魔法による眠り』は、魔力が切れるか、< 解 呪 (ディスペル)>の魔法で魔法自体を打ち消すか、掛けた魔術師本人が解くしか目が覚める事は無い。条件さえ満たせば永遠に眠り続ける。
(そもそも、状態異常を付与する魔法に対する「精神的な抵抗」というのは、「魔法が来る!」と心身共に身構えるから可能なんだ)
(魔術師が目の前で魔法を発動しようとしていれば、誰だって警戒する。「寝たら起きない」という強烈な効果の割に、<眠 り>の魔法があまり使われないのも、理由はそこだ。抵抗されてしまえば相手に魔法を使った事がバレ、ダメージも与えられん)
(しかし、予め魔法陣として用意し、そこに誘導する事ができれば、相手に気付かれずに魔法を掛ける事ができる。他人の前で意識を無くしちまったら何されてもおかしくねぇからな。何ともえげつない手段だ)
デヘントは身体をブルっと震わせた。
(ほんと、綺麗にハマったな・・・子供相手に、『相手の立場に立ってよく考えよう』なんて言うが、まさにその通りだった)
デヘントが身震いする横では、アリステアが最初の冒険者達を捕まえた時の事を思い出していた。
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デヘントから「準備完了」の連絡が届いたすぐ後、アリステア達は、駐屯地の倉庫に『転移の魔法陣』を設置した。
対になる『転移の魔法陣』は、デヘントとバルデがホブゴブリンとゴブリンを始末した、あの部屋に置かれている。
ダンジョン内に移動し、キースが次の行動を説明する。
「では、どこか待ち伏せに良さそうな場所を探して、罠を仕掛けます」
「子爵が出てくるまで冒険者を捕まえ続けるのだよな?どうするんだ?」
「はい、この魔法陣を使います」
キースは書類筒から魔法陣が書かれた紙を取り出す。
(また何か出てきた・・・もうあの筒が全ての元凶の様な気がしてくるな・・・)
「キース、それはどんな魔法陣なの?」
「はい、これは『眠りの魔法陣』です。直接<眠 り>の魔法を掛けるより即効性は落ちますが、起動した後は魔法が発動し続けます。上で留まっていると、まず間違いなく寝てしまうでしょう」
「確かにそれは凄い効果だが・・・その紙の範囲では、眠るまで乗っていないのではないかな?」
クライブが尋ねる。
「はい、ですのでこれを地面に大きく書こうと思います。それをどこに書くかですが・・・まず、下に降りる階段を見つけましょう」
皆でたまに現れる魔物を倒しながら階段を探す。鐘1つ分程で無事階段を見つける事ができた。
「あっ!すぐ脇に池がありますね!これはツイてます!ここにしましょう」
そう言うとキースは、鞄から、以前北国境の遺跡で使った、「乾くと透明になる塗料」で、池のほとりに『眠りの魔法陣』を書き始めた。
程なく書き上がり、試しに起動させてみると、魔法陣は青白く光った。きちんと作動している。
「うん、大丈夫ですね。後は冒険者が来てくれるのを待つだけです」
キースが満足げに頷く。
「キース、この場所を選んだのは、休憩しやすそうな場所だからという事よね?」
「はい、階段を見つけ、無事フロアの探索を終えたところですぐ脇に池。そのほとりで補給を摂ったり、改めて怪我の手当てをするのにピッタリだと思いませんか?」
「水があると顔や身体はもちろん、汚れた道具や衣服を洗う事もできます。傷口も洗っておいた方が良いでしょう。どんな事でも、綺麗にできるのに汚れたままで良いという人は中々いません」
探索をしていれば、魔物の返り血や泥の汚れ等、どうしても色々付いてしまう。特に返り血は、そのままだと落ちなくなってしまうし、臭いも気になる。
「それに、水際って、なぜか座って一息つきたくなりません?僕だけかな?」
「確かになるな・・・あれはどういう事なんだろうな」
一定以上の広さの公園には、たいてい池があり、その前にはベンチが設置されている。この気持ちは、『人間あるある』といっても良いのではないだろうか。
「キース、ここを使わないへそ曲がりもいるかもしれん。別の場所にも魔法陣を用意したらどうだ?」
「そうですね・・・では、この階段を降りた所にも書いておきますか。降りてから一息入れるという人や、下から戻ってきた人達が引っ掛かるかも」
皆で下に降り、ササッと書き上げる。
「今って10の鐘から11の鐘の間ぐらいだと思うのですが、ダンジョンに入るのって、やはり朝イチでしょうか?」
「そうねぇ・・・まぁ、潜る事が事前に決まっていたなら、そうなるかしら?」
「では、この中途半端な時間では来ないですかね?明日以降かな?」
「そうだな・・・時間的に通り過ぎている可能性もあるな。やきもきしながら待つのもなんだから、もう明日の朝イチ狙いで良いのではないか?」
「そうですね!そうしましょうか」
アリステア達は『転移の魔法陣』で一旦駐屯地へ戻り、翌朝改めてダンジョンに入った。
キースとクライブが出入口の階段から少し離れた場所で待機し、アリステアとフランは、先に下に降りる階段へ向かう。
キースが<探 査>を展開しつつ待機していると、鐘半分程の時間が経った頃、反応があった。
クライブに合図し、木々の間からそっと入口の方を窺う。すると、階段を降りた冒険者達が歩いてくるのが見える。
(おおっ!来た来た!それでは作戦開始!)
キース達はアリステアとフランの下へ向かった。
「4名入ってきたのを確認しました。僕は魔法陣を起動してきます。<探 査>で位置は把握していますから、もう少し近づいて来たら隠れましょう」
「了解した」
魔物を警戒し、降りる階段を探しながら進んで来るのだ。真っ直ぐにここに来る訳でも無い。時間はそれなりにかかるだろう。
結局、彼らが階段付近まで辿り着くのに、体感で鐘2つ分程の時間がかかった。
キースの合図を受け、それぞれ冒険者達を視認できる位置に隠れる。
(お、見えてきた・・・)
アリステアは近くの木に登り、繁る枝に紛れて監視していた。静かな為話し声もよく聞こえる。
「おい、ジャン!階段があったぞ!脇には池もあるな!」
スカウト系の格好をした男が、後方を進んで来た魔術師の男に声を掛ける。
「ちょうど良いな。よし、では、下に降りる前に一息入れるか」
ジャンと呼ばれた魔術師の男が皆に指示を出す。彼がリーダーの様だ。
彼らは池のほとりの地面に座りだした。
背負い袋から携行食を出し食べる者もいれば、水筒から水を飲んだりと、各自補給を摂る。顔を洗って埃を落とす者もいた。
(まさにキースの言った通りだな・・・さて、魔法陣の効果はどうだ?)
(管理官も代わった事だし、早く設備が整って、街に戻らなくても活動できる様になって欲しいが・・・)
座って水を飲みながらジャンはふと思う。
彼はこのダンジョンが発見されてから、幾度となく潜っていた。ここ2年程は専門と言っても良いぐらいだ。
コルナゴスの街からも近い為、仕事がしやすいのだ。一週間のうち4日間を使い中層までを往復、残り3日はコルナゴスの街で生活している。
前の管理官の時はエストリアの難癖を退けられず、管理事務所と衛兵の宿舎以外の建物を建てる事すらできなかった。
エストリア側の使者と個人的に仲が良く、仕事もせずに馴れ合っている、という噂まで流れた。
しかし、新しく就任した管理官はちょっと違うらしい。魔法剣士としても名が通っている事は聞いているが、地方領主である大貴族、イザギレ侯爵の後ろ盾もあるという。祖父が国王の指導担当官だったという噂まである。
そして、彼は「ダンジョン周辺の整備を進めてゆく」と明言しているという話だ。
(あの管理官ならこの先も期待できる。色々整いさえすれば下層を中心に潜・・・る事が・・・でき・・・るだrし・・・なん・・・だ・・・いsきg・・・)
ジャンはこの先の明るい未来を夢見ながら、仲間達共に眠りに落ちていった。
アリステアは樹上からその一部始終を眺めながら、改めて、孫の人の心を突いた計画に身震いしたのだった。
もちろん、個人毎に精神的な抵抗力が違う為、眠るまでに時間差はあるが、この状況では気にする程の差でもない。
「周りに仲間がいて魔物がいない」という状況は、十分安心でき、緊張感を解くことができる状況だ。
そんな状況で、精神抵抗が必要な魔法が発動しているなんて誰が考えるのか。
以降も、ダンジョンに入ってきた冒険者達は、ことごとくどちらかの魔法陣にかかり、覚めない眠りに入っていった。
眠らせた後は一旦近くの草陰に隠し、荷車に載せ洞窟内の部屋に運ぶ。
こういう力仕事をしなければならない時に、クライブの存在は心強い。
装備品を付けた冒険者はかなりの重さがあるだろうが、何でもない様に荷車に載せ引いてゆく。
女性2人と小柄で華奢なキースでは、3人掛りでもクライブ1人分にもならないだろう。
洞窟内の拠点から駐屯地の倉庫に転移させ、ライアル達やデヘント達も、武装解除と所持品の回収を手伝う。
身柄はいずれ解放するがこれらは返さない。
装備品や魔導具、金、薬類を失えば、冒険者達はすぐに活動を再開する事はできない。
この人数の持ち物だ、処分すれば結構な金額になるだろうし、彼らが戦力にならなければ、それだけでアーレルジ側にはマイナスになる。
こうして、コルナゴスの街を中心に活動する冒険者達は囚われ、倉庫に収納されていったのであった。
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