第114話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
キースの厨二心をくすぐる『格好いい詩』だと思っていたものは、魔法を使う際に唱える『呪文』でした。試しにキースが唱えて魔法を使ってみましたが・・・
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古代王国期の呪文を詠唱した< 炎 の 矢 >の魔法は、見事発動した。魔法語の呪文とキースの魔力により生み出された炎の矢が、広場に集まった皆の視界と顔とを赤く染める。
しかし、その結果は尋常では無かった。
キースの頭上から背後にかけて、固定式のバリスタで用いる矢よりも、更に長く太い矢が浮かんでいるのだ。一本が直径20cm、長さは3mはあるだろう。
それがざっと数えただけで20本程あるのだ。
皆あまりにも非現実的な光景に、頭の処理が追いつかず、口が開きっぱなしである。
(これは・・・まるで「衝角」だな)
ライアルは、衝撃でまだ頭の中がグルグルしつつも、ぼんやりと考えた。
「衝角」とは、攻城兵器である『破城槌』の一部だ。城門に叩きつける先の尖った部分の事である。
キースが指を一つ鳴らすと、次の瞬間、集まっていた魔力は散り、赤々と燃えていた炎の矢は消えた。
キースがゆっくりと皆の方を向く。
その緑の瞳は興奮に煌めき、頬は(炎は消えたにも関わらず)ピンクを通り越し赤く染まっている。
(あ、これヤバいやつだ)
皆様々な経験をしてきた一流の冒険者だ。衝撃で回らない頭でもそれぐらいは解る。
皆がそう思った次の瞬間、興奮に支配されたキースが、怒涛の如く喋りだした。まるで堤防を粉砕した濁流だ。
「皆さん!見ましたか!?見ましたよね!いや~凄かった!あの大きさ!あの数!北国境の城塞の城壁でも防げないんじゃないでしょうか?でも、魔力は無詠唱で発動させた時と同じくらいしか消費した感じがしません!高威力・高効率は間違い無い様です!ニバリもラトゥールさんもぜひ身に付けましょう!『短い呪文』でもあれだけの効果があるのですから、『長い呪文』だったらどうなるのでしょう?お城まるごと消し飛ばせるかも?これは夢が広がりますね!よし、早速試してみましょうか!『永劫に燃え盛る居城に住まう炎の公爵よ 』」
「ちょ、待て待て!キース!待て待て待て!」
アリステアが『長いほうの炎の呪文』の詠唱を始めたキースの肩を掴む。慌て過ぎて「待て」しか言えていない。
「と、とりあえずちょっと一息入れよう。皆着いてこれてないぞ」
アリステアに肩を掴まれ、頭をガクガク揺らしながら皆を見る。
個人差はあるが、大半は処理落ちしたまま、まだ機能していない顔つきだ。
「一旦情報を整理しよう。おい皆、会議室に行くぞ!」
(屋内なら試し撃ちもできんからな)
「ではお茶を準備してきますね」
フランは厨房に向かい、皆はアリステアとキースを先頭に、ぞろぞろと会議室へ移動する。
席に座ってもまだぼーっとしている者もいたが、フランが淹れたお茶を飲むと、ほぼ立ち直った様だ。
「よし、ではちょっと状況を振り返ろう」
ライアルが皆の様子を見て切り出す。
「古代王国期の呪文を詠唱して< 炎 の 矢 >の魔法を発動させた。発生した炎の矢は直径20cm、長さは3m、本数は20本程。消費した魔力は無詠唱の時と変わらない、という事で良いか?」
「はい、そうです」
キースが頷く。
「私は、太さと大きさから破城槌の『衝角』を思い浮かべた」
「ええ・・・あれがまとまって飛んできたら、余程の装備と結界でも張っていない限り、跡形も残らないでしょうな」
クライブはその様子を想像したのか、身震いする。
「でも、詠唱すればみんなああなる訳じゃないと思う。あれはキースだから」
お茶のカップを両手で包む様に持ったシリルが呟く。
「発動の際、特に魔力を多く込めたのでは無いんだよな?」
ラトゥールがキースに尋ねる。
「そうですね。魔力量については、増減は意識せずに、『普通に』発動させました」
「キースは魔力の絶対量が桁違いだ。一般的な『多い』よりキースの『普通』の方が遥かに多い。だからああなった、というのはあると思う」
ニバリの言葉にラトゥールが頷く。
「しかし、詠唱しての魔法は、確かに凄いものだったな・・・使う時は、込める魔力量と状況をよく見極めないと、味方ごと消し飛ぶな」
「これが古代王国期の魔術師達の基本だったのですね・・・あれだけの領土を得られる訳です」
マクリーンが遠くを見る様な目付きをする。
「しかも、『短いの』であれだからな・・・『長いの』で『魔力多め』だったら一体どうなるんだ?」
アリステアが続ける。
「そういえば、最後の発動語、あれは何だ?『炎の矢』とは言ってなかったよな?」
「はい、解説書に魔法語の単語の意味と発音が少し載ってまして。それを使ってみました」
キースはニバリから預けていた本を受け取り、そのページを開く。
「『ファイヤー』というのは『火、炎』を、『アロー』というのは『矢』を指すそうです。後『ボール=球』とか『ウォール=壁』とか。ですので、『火の玉』なら『ファイヤーボール』、『炎の壁』であれば『ファイヤーウォール』となるそうです。他にもいくつか載ってましたね」
「ほう・・・そこも効果に影響ありそうだな・・・」
「それはあるかもしれませんね!それに何より格好いいです!僕好みです!」
「魔法語の文字の読み方というのは分からないのか?」
「はい、そうなんです・・・本棚のまだ見ていない部分にあるかもしれませんが、見つかってはいません」
キースがちょっと残念そうに笑う。
「そうか・・・長い呪文と発動語を魔法語で唱えて、魔力を多く込めたらとんでもない事になりそうだな!街のひとつぐらい更地にできるんじゃないのか?はっはっは!」
「確かに!これは、魔法語関連の本を見つけ出して試さないといけませんね!また時間ができたら、エレジーアの部屋で探してみます!」
「アリステア、あなたバカでしょ」
シリルが、突き刺さる様な冷たい目をしながら、容赦なく言い放つ。
皆も(余計な事言いやがって)という気持ちを込めアリステアを見る。
アリステアも言ってしまってから気が付いた様で、さすがにバツが悪そうだ。
(お母さんの空気読まない発言も出てしまったし、この話はここで打ち切ろう)
ライアルは話題を変える事にした。
「よし、それでは『呪文の詠唱について』はこれぐらいにして、皆集まっている事もあるから、引き続きダンジョンの対応についての話をしよう」
「連絡した通り、昨日の朝から、デヘントとバルデが測量技師として工事現場に潜りこんでいる。二人から準備完了の連絡が来たら、キース達がダンジョンに入る」
「こちらの準備としては・・・倉庫は綺麗に片付けたし、特段には無いが・・・何か特にある人はいるか?」
倉庫は、先日の襲撃犯達を放り込んであったが、彼らは、ビアンケの街から来た衛兵達と護送用馬車によって連行済みだ。その為、収容スペースは十分である。
「・・・何も無いか?よし、では本日も各々よろしく頼む。また動きがある時は伝達s
ライアルがそこまで言ったところで、会議室の扉が叩かれる。
立って話をしていたライアルが扉を開けると、ビアンケ所属の、警戒支援を担当している冒険者から手紙を渡される。
ライアルが広げると、中には一言、「準備完了」とだけ書いてあった。
手紙で連絡をとる際は、必要最低限の、本当に伝えたい事だけを書けば良い。相手にきちんと届くとは限らないのだから。
「デヘント達の準備が整った様だ。それではこちらも作戦開始といこうか」
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