表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/341

第113話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ

【前回まで】


デヘントとバルデの二人が測量技師として工事現場に潜り込み、測量の仕事をしつつ無事仕込みを終えました。その頃、駐屯地では・・・


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


デヘントとバルデが測量技師として採用された日の夜、オリバーは、駐屯地手前の詰所で夜間警戒の当番に就いていた。


街道から外れた森の中で、何者かが来ても魔導具に引っ掛かるという事もあり、正直そこまで気を張っていなくても勤まる。


夕食後という事もあり、あくびを噛み殺しながら過ごしていると、詰所の扉から「コツン」と音がした。何かが当たり音を立てたのだ。


慌てて外に出ると、扉の下に丸めた紙が落ちている。


魔導具が反応しなかったという事は、その圏外からパチンコの様な物で飛ばしたのだろう。


広げてみると、中には小石が入っており、包んであった紙には


「測量技師として採用。明日朝より作業開始」


とだけ書かれていた。


(こいつはすぐに報告だな。今日は・・・ローハンさんか)


自分と同じ様に、駐屯地で夜勤に従事しているローハンに伝えるべく、オリバーは駐屯地へ向かった。



報告はすぐに共有され、翌朝、この後の動きについて調整する為、ライアルと実際にダンジョンに行くアリステア達が会議室に集まる。


「今日の朝から作業を始めて、夜になったら仕込みの為に動くだろう。キース達がダンジョンへ入れる様になるのは、早ければ明日の朝だな。連絡が来たらすぐ行くのか?」


ライアルがキースに尋ねるがキースはちょっと難しい顔だ。


「行けるなら行きたいのですが、今日準備が終わるか判らないんです。でも、今日の夕食までに目処が立たなければ、今取り掛かっている事は保留にして、ダンジョンへ向かおうと思いますが・・・」


「それは後回しで大丈夫なのか?」


「はい、ダンジョン内では使わないので。ただ、ダンジョンの次の段階で使いたいと考えているので、ある程度見通しを立てておきたいなと思いまして」


「そうか・・・まぁ、その辺は自分達の一番良いタイミングで構わないぞ。工事はまだまだ続くんだ。二、三日は誤差みたいなものだからな」


「承知しました。みんなは準備はいかがですか?」


ライアルに応えた後、キースは自分のパーティの大人3人組に尋ねる。


「私達は特に無いからな。キースの都合で大丈夫だ」


「そうよ。慌てなくて良いから確実にね」


(うんうん)


「ありがとうございます。では、今日もエレジーアの部屋で調べ物の続きをしてきます。本は大好きですが、こうも見つからないとちょっと焦りますね・・・」


いつも前向きなキースにしては珍しい。あの量の蔵書の中から、ノーヒントで自分の望む記述を探し出すというのは、さすがにしんどい様だ。


それに、壁三面分の本棚のうち、半分を探し終えている。果たして、残りの半分の中に目当ての本があるのだろうか、という不安もある。


「キース、ちょっと待ってて。お茶のポットと、何か簡単に食べられる様な物を作ってくるから。持って行って向こうで食べなさい。あなたはどうせ行ったっきりで、お昼に帰ってきたりしないのだから」


「ありがとうございます、フラン。助かります」


うふふと笑ってフランが席を立ち出ていった。


「そういえばキース、あの部屋で何をそんなに熱心に探しているんだ?」


「はい、これなのですが・・・」


先日訳した、『詩』が書かれた紙をアリステアとライアルの前に置く。


「これはまた・・・キースが好きそうな文章だな」


一読したアリステアはフランと同じ感想を述べた。さすがによく分かっている。


「フランにもそう言われました」


頭に手をやり「えへへ」と笑う。可愛い。


「だが、これが何だというんだ?そんなに急いでやらないといけない事なのか?」


ライアルが首を傾げ不思議そうに尋ねる。


「これは、まだ僕の解釈でしか無いのですけども・・・」


キースは鞄から例の『詩集』を取り出し、自分の見立てを説明する。


アリステアとライアルの眉間に皺が寄り、キースを見つめる。親子だけあってよく似ている。


「おい、キース・・・それ本気で考えているのか?」


「はい。この『まえがき』部分を訳してから、もう、そうとしか考えられなくなってしまいました。ですので、この『詩』について解説している本を見つけたいのです。きっとあの中にあるはずです。」


「それに、あれだけある蔵書の中で、『詩』に触れている本がこの『詩集』だけ、なんて思えません。必ず他にもあるはずです。それも見つけたいと思っています」


「もしこの『詩』がお前の考えている通りのものだったら・・・魔術師が全員ひっくり返る様な大事件だな。歴史に残る大発見だぞ・・・」


「まぁ、確かにそうなのですが、その辺は今の時点で考えてもと思っています。まずは『詩』が書かれている他の本を見つける事、そしてダンジョンを確保する事ですから」


その時、フランがバスケットを持って入ってきた。


「はい、お待たせ。焦りもあるだろうけど、煮詰まっている時こそ、一息入れて目線を変える事も大事よ。後、お茶もパンも残さず全部食べる事!帰ってきたらちゃんと確認しますからね!」


フランが指を立てて宣言する。


「はい!ありがとうございます!行ってきます!」


キースは転移の魔法陣を使う為、バスケットを持って自分の部屋へと向かった。


「ほんと夢中になるとまっしぐらだからな・・・」


「ええ、誰に似たものやら」


ライアルとフランがアリステアをチラリと見ながら言う。


「私か?そうかな・・・?まぁ、確かにお前やマクリーンっぽくは無いな・・・じゃあ私か」


(まぁ、キースが自分に似ているというのは喜ばしい事だからな!これはこれで良いか)


キースと絡む事なら何でも嬉しいアリステアだった。




「あーもーやばい。後本棚半分しかない。ほんとにあるんだよな、これ・・・」


キースは目当ての本が見つけられずに嘆いていた。


本棚の最後の一面も半分程調べ終わってしまい、時刻もいつの間にか2の鐘が鳴っている。


机の脇のベッドに倒れ込む様に寝転ぶ。その振動で、枕元に置いてあった大きな熊のぬいぐるみが倒れ、うつ伏せになった。


(はぁ・・・ダメだ。ちょっと気分変えよう)


ベッドから起き上がり、机に置いてあった本を端に寄せ、フランが持たせてくれたバスケットを置く。その中からお茶のポットとサンドイッチを取り出し食べ始めた。


(この挟まっているソース、キャロルがよく作ってくれたのと同じ味だな。海の神の神殿に伝わるレシピなのかな?)


空腹感は感じていなかったがお腹は空いていたらしく、あっという間に食べてしまう。お茶も飲み干し、ポットとカップをバスケットの中に仕舞った。


大きく一つ息を吐くと、立ち上がって伸びをする。そのまま、凝り固まった身体を解すべくストレッチを行う。


最後に深呼吸を数回繰り返す。お腹が満たされ身体を動かした事で、ちょっと気分も軽くなった様な気がした。


(よし!きっと見つかる!もうちょっと頑張ろう!)


そう思った時、先程寄せた本が目についた。


(これ・・・さっき僕が置いたんじゃないよな?元々机の上に本なんてあったっけ?本棚にばかり気を取られていて、気が付かなかったのかな)


何とはなしに手に取り、表紙を見る。


次の瞬間、ただでさえくりくりぱっちりの目が、これ以上無い程に見開かれた。


(え・・・!?あ・・・これ・・・もしかして!?)


慌ててページをめくり、食い入る様に読み始める。


(これだ!あった!あった!やっぱりあった!)


そして、キースは、共通語に訳された他の『詩』を知ると共に、この『詩』が自分の予想通りのものである事を知った。


概ね読み終わり顔を上げたと同時に、5の鐘が聞こえてきた。


(ちょうど良いな。後は『あとがき』だけだし戻ろうか)


キースは本とバスケットを持ち、転移の魔法陣でエレジーアの部屋から戻る。


先程までキースが座っていた椅子を、ベッドに座る様に置かれた大きな熊のぬいぐるみが、じっと見つめていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


(久々に来た後、何を熱心に探しているのかと思いきや・・・そうかい、『あれ』の資料を探していたのかい)


(ここを見つけ、机の上の書き置きが読めたのだから、魔力量は私と同じかそれ以上はあるという事だね。まだ若そうなのに大したもんだ。それなら・・・いきなり発動は難しいだろうけど、慣れてくれば『長いの』でも10回、『短いの』なら30回ぐらいは問題無く使えるだろう)


(次に来た時に、どうだったかちょっと訊いてみようか。それにしても・・・)


(扉は開いていないのに、消えたり現れたりするのはどういう事なんだろうね?しかも部屋の隅で・・・もしかして、実用化されているとか?そこも訊かないとね。ふふ、楽しみが増えたよ)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「明日の朝食後、先日の『詩』に関する事で判明した事を発表します。ちょっとした実験もしますので、お暇な方、興味ある方はぜひお集まりください」


エレジーアの部屋から戻ったキースは、夕食の席で皆に告知した。


「という事は、探し物は見つかったんだな?」


「ええ、アーティ。大収穫でした!フランの『 一息入れて目線を変えろ』という言葉がピタリとハマりまして。解説書と他の『詩』、どちらも無事発見できました」


「あら!それはお役に立てて光栄ね」


フランも笑顔だ。


「そうか・・・では行く前に言っていた『 予想』は・・・」


アリステアが恐る恐る尋ねる。


「はい!大正解でした!」


キースはこれ以上無い笑顔で答えるが、アリステアは、これを公表した場合の、世間への影響の大きさに身震いした。『転移の魔法陣』に匹敵するぐらいはあるのではないだろうか。


少なくとも魔術師達が大混乱するのは間違い無い。


先日訳した『詩』について、一緒に考えてもらった4人は、 口々に「分かって良かったわね」とか「楽しみだな」などと、素直に嬉しそうにしている。


(お前達、あれがどういうものか知ったら、とてもそんな顔していられないからな)


すっかり食欲の無くなってしまったアリステアは、やっとの思いで食事を全部食べ終え、お茶を啜った。


(もったいない精神が身に付いている孤児院出身のおばあちゃんは、食べ物を残したりはしないのだ)



翌朝、発表には結局全員が参加する事となり、訓練等でも使用する広場に集まった。


「えー、皆さんお集まりいただきありがとうございます。まず『先日の詩』というのが何かご存知ない方もいらっしゃいますので、こちらをお読みください」


転写の魔法陣で作成した『詩』の訳文を皆に配る。


「エレジーアの部屋にあった魔法語の本に、この様な『詩』が載っていました。地水火風の4属性をテーマとしていまして、各属性毎に短いもの、長いものがあります。なので、4属性長短2種類ずつ、計8篇になります」


「当初は『この格好いい文章好き』、というだけだったのですが、本の『まえがき』を訳した時に、ちょっと考えが変わりました」


「そこには、『以降の内容をよく理解し実践する事で、魔法の効果は増しより良い成果が得られるであろう。くれぐれも精進を怠らない事』と書いてあるのです」


「僕はこれを『この詩を唱えて魔法を発動すれば、魔法の効果が増すから頑張って修行しなさい』という風に受け取りました」


魔術師であるニバリとラトゥールが唸る。


(古代王国の頃は、俺達の知らない手順で魔法を使っていたという事なのか?そんな話聞いた事無いぞ・・・)


「魔法の発動手順は、皆さんご存知の通り、集中→魔力操作→発動をイメージ→発動語を発する、というものです。では、どの段階でこの『詩』を唱えれば良いのか?それを解説している本がある筈だと、エレジーアの部屋で二日間みっちり探しました」


「解説書は昨日の午後無事見つかりました。何と本棚では無く机の上にありました。それがこちらです」


皆に見える様に、両手に持って胸の前に掲げる。その表紙にはこう書かれていた。


『誰にでもできるやさしい魔法 初めてでも解りやすい入門書の決定版! 未来の大魔術師は君だ!』


(ええ・・・何それ・・・)

(本当に大丈夫なのか?)

(あやしすぎ)


「タイトルについて思うところはあるでしょうが、内容はバッチリです、多分。この『詩』は『呪文』というもので、『呪文』を唱える事を『詠唱』と言うのだそうです。古代王国の魔術師達は、詠唱してから発動語(ワード)を発声し、魔法を発動させていたのです」


余りに衝撃的な内容と、ふざけたタイトルとのギャップに、皆息を呑む。


「魔法は、呪文を唱える事によって発動しやすくなり、威力・範囲を高めつつ魔力消費を抑える事ができるそうです。効率が良くなるという事ですね」


「なお、今私達が使っている魔法は、正確には『無詠唱魔法』というもので、技術的には呪文を唱えるより難しいものなのだそうです。ご存知の通り、魔法を使う事が相手にバレにくく発動までが速いという利点があります。ですが、詠唱した時と比べると、魔力消費が増え発動もしづらく、効果が下がると書いてあります」


「そうすると、俺達は、一生懸命非効率的な手段で魔法を使っていたのか・・・」


ラトゥールが残念そうに呟く。


「ラトゥールさん、それは一概には言えないと思います。僕は、詠唱する魔法、無詠唱魔法、どちらも一長一短だと考えます。どちらも使えれば、状況によって使い分ける事ができるではありませんか」


とっさの状況では、長々と呪文を唱えている暇がある方が少ないだろう。両方できれば、無詠唱魔法を使って急場を凌ぎ、その後時間を掛けて呪文を唱え大きな魔法を使う、という事も可能だ。


「唱えるタイミングは、魔力操作の後、イメージをしながらの様です。そこでこれから、呪文を詠唱する手順で< 炎 の 矢 >の魔法を発動させてみたいと思います」


< 炎 の 矢 >の魔法は、長さ50cm程の炎の矢を、10本作成できれば一流と言われている。矢の本数と大きさで比較しやすい為、力を測る場合に使われる事もある。


「ちなみに僕は、普段は1mぐらいの矢が20本程発動します。今回はどうなるのかな・・・楽しみです」


(それ矢じゃなくて投擲用の槍だろ・・・)


皆が心の中だけで突っ込む。


「あ、呪文は『短いもの』を唱えます。『長いもの』の方が効果は大きいと思いますが、どういう状況になるか解らないので」


そう言うと、キースは手に持っていた呪文書をニバリに預け、発動の準備に入った。


集中→魔力操作の部分は、キースなら瞬間的に終わる筈だが、初の手順という事で、わざとゆっくり丁寧に行っている。


しかし、それも10秒程で、いよいよ詠唱が始まった。


一欠片(ひとかけ)の光も届かぬ牢獄に繋がれた炎の騎士よ


万物(よろず)を焼き尽くす炎に包まれた その誇り高き(つるぎ)もて


今こそ解き放て !屈辱に塗れた積年の怨讐(おんしゅう)を !


< 炎 の 矢 (ファイヤー・アロー)>!!」


詠唱が高らかに響き渡り、キースの口から発動語が発せられた瞬間、皆の視界が炎の赤に染まった。


ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)ポチット

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ