第112話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
魔法語の詩について調べたり、アリステアが感激の余り泣いたり、ダンジョンを獲る為作戦が動き出しました。
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「それにしても、ちょうどいい募集がすぐ出て良かったですね」
バルデが大きな口を開けて、屋台で買った、肉と野菜とチーズを挟んであるバゲットを齧じる。
「あぁ。測量技師は、現場内ならどこに居ても違和感無いからな。他の作業員には何をしているか解らんし。観察しながら動き回るには最適だ」
デヘントは別の屋台で買った麺の入ったスープを啜る。
作戦開始から2日目の夕方、コルナゴスの街にある職業斡旋所で測量技師の募集が掛かり、二人はそれに応募した。
測量技師ならペアで作業を行う為、見知らぬ誰かと一緒に仕事をする事も無い。それに力仕事では無いのも大きい。小柄で細身なデヘントが力仕事では違和感があり目立ってしまう。
昨日の朝、冒険者ギルドの支部で支部長と話をした後、二人は散髪と染髪をし、さらにバルデは度の入っていない眼鏡を掛ける。
国境を挟むとはいえ両側に街があるのだから、商人等行き来する人間は多い。ほぼビアンケの街で活動し生活しているバルデの事を、見知っている人間がいるかもしれない。
可能な限り見た目は変えておいた方が良い、という判断だ。
朝食を終え、乗合馬車の停留所に向かう。工事現場行きの馬車に乗る為だ。
ダンジョン関連の工事が終わるまで、臨時で運行させる事になったという。しかも関係者は無料だ。
(交通手段の設置だけでなく無料とはね。こういう細かい所にも考えが行き届く。やはり奴は危険だ)
馬車に揺られながら、デヘントは改めて認識を深めた。
工事現場に到着した二人は、現場監督と挨拶を交わし、今日の作業工程を決めるべく打ち合わを行う。
「いや~前任者が病気になっちまったみたいでなぁ・・・代わりがすぐ見つかって助かったぜ。新しい担当官様は厳しい方らしいからよ、着任早々目を付けられるのはな・・・」
「前任者には悪いですが、こちらも働き口がすぐ見つかって助かりました。よろしくお願いします」
「あぁ、頼んだぜ。既に測ってあるのがこんな感じだ。まだ終わっていない部分は、優先順位の番号が振ってあるから、それを見て取り掛かってくれ」
現場責任者は、全体の図面に測量した数値が書き込まれたものを広げ説明した後、デヘントに渡す。
「承知しました。では早速始めます」
「おう、よろしくな!」
デヘントとバルデは、図面と測量道具を手に全体をざっと一周し、どこに何を建てる予定なのかを把握し、今日の予定箇所に取り掛かり始めた。
(ダンジョンの入口前には・・・衛兵一人きりか。昼間だし、ここが敷地の中心だからか?)
「あ、作業はちゃんと行うんですね?適当に時間を潰すのかと思ったんですが」
「さすがに昼間からは動けんしな。暇つぶしと現場の様子や雰囲気を把握しておこう。それに・・・」
デヘントはそこまで言うと意地悪そうにニヤリと笑う。
「どうせここは俺達のものになるんだ。今ちゃんと測っておけば、建てる時にもう測らなくてもいいだろ」
「なるほど・・・」
(さすがは俺達のリーダー、油断も隙も無ぇ)
バルデは内心舌を巻いた。
夕方になり、工事現場全体で作業が終わる。
衛兵等一部を除けば、皆乗合馬車に乗ってコルナゴスの街に帰るのだが、デヘントとバルデは終了の報告をした後、背負い袋を背負いさりげなく馬車乗り場から離れてゆく。
そして、昼間の間に見つけておいた、建築資材と工具類が仕舞ってある倉庫に潜んだ。
上下黒の、侵入時に用いる衣服に着替え夜中になるのを待つ。この服は、身体にピッタリとしつつも動きを妨げず、衣擦れの音がしない。当然背負い袋も同じ色だ。
夜中の一の鐘の音が聞こえた頃、二人は倉庫から出た。かがり火が焚かれている中を、物陰と暗がりを伝いながらダンジョンの入口の方へ向かう。
幸いにして、昼間と同様、ダンジョンの入口前には衛兵が一人配置しているだけだった。すぐ近くに置かれたかがり火が爆ぜ、パチパチと音を立てている。
(俺だったらせめて夜だけでも複数人立たせるが・・・まぁこちらは助かる)
入口に一番近い資材の影に潜んだまま、自分達とは反対側に小さい石を投げた。
高い放物線を描いた石が地面に落ち、その音に反応した衛兵がそちらを見た瞬間、デヘントとバルデは音も無く影から飛び出した。
音がした辺りに衛兵が移動するのを横目に、ダンジョンの入口に辿り着き階段を降りる。
ダンジョンは、一定期間及びフロア毎に景色が変わるが、今回は「森林」だった。
「ふむ・・・目的には願ったり叶ったりだな」
「そうですね・・・不意打ちもし放題です」
魔物の気配を探りながら森林を少し歩き回る。
「おっ、あそこの岩肌に穴が開いてるな。洞窟か?」
100m程先、木々の間から洞穴の入口が見えた。
「階段からは・・・15分ぐらいですね。位置的にもちょうど良いです。中を確認しましょう」
バルデが先頭に立って進む。
バルデには「目が良い」という特性が出ていた。「遠くがよく見える」という効果もあるが、どちらかというと、「暗い所でも人より見える」という、所謂「夜目が利く」という方向に強く出た。
暗闇を見通し気配を探りながら進むと、曲がり角でバルデが手を上げ止まり、曲がった先を指さす。
(奥に何かいるか)
角からそっと覗き込む。
そこは少し広い部屋になっており、ゴブリン数匹とそれより身体が大きなホブゴブリンが一匹いた。
完全に寝ている様で、寝息といびきが入り交じり部屋に響いている。
二人は目を合わせ片付ける意志を確認し合うと、音と気配を殺しながら部屋の中に入っていった。
まずは、この中では一番強いホブゴブリンだ。
デヘントが首の脇に屈みこみ、静かに首に短刀を滑り込ませるのと同時に、口を押える。
ホブゴブリンは、一瞬目を見開いて身動ぎしたが、その目はすぐに光を失い動かなくなった。自分が死んだ事すら解らなかっただろう。
5匹いるゴブリンも同様に処理してゆく。
何事も無く処理が終わり、一応部屋の中を確認する。食べカスや排泄物等も無く、問題無さそうだった。
(まぁ、長時間ここに滞在する訳じゃねぇからな、そこまで神経質にならなくても大丈夫だろう)
「大丈夫そうだな。ここにするか」
「そうですね、いいんじゃないでしょうか」
デヘントとバルデは荷物を解いた。
夜中の活動を終え、ビアンケの街まで戻った二人は、冒険者ギルドの支部に向かう。裏口の扉の脇に付いている魔石に魔力を流すと、緊急時用に備えている宿直担当者が出てきて、二人を中に入れる。
「朝になったら、これを駐屯地のライアルさんに届けてくれ」
デヘントは書類筒を渡す。
「承知しました」
担当者は頷き書類筒を受け取った。
「俺達は朝になったらまた工事現場に向かう。それまでちょっと仮眠させてくれ」
「わかりました。仮眠室を使ってください。今身体を拭く布とお湯をお持ちします」
「助かる。ありがとう」
二人は身体を拭いてベッドに横になると、あっという間に寝息を立て始めた。
翌朝、二人はやっとの思いで起き、朝食を買うと乗合馬車に乗り工事現場に戻った。
「眠いですね・・・」
「眠いな・・・少し昼休憩を長くとろう。それまで何とか頑張れ」
二人だけで作業をしていると、こういう融通がきくのも利点である。
スッキリしない眠気の中、何とかこの日の作業を終え、翌日も同様に作業を始める。自分達の作業は今日の午後には終わる。最後に現場の様子をよく確認しておかなければならない。
全ての測量(と図面の複製。自分達用だ)を終え、二人は現場監督に図面を提出した。
「おうお疲れさん!結果的に、前の奴らよりお前さん達の方が作業も丁寧だし早かったな!給金には少し色を付けてあるからよ!それで美味いもんでも食べてくれ!」
「ありがとうございます。私達はアーレルジ東部とエストリア西部を中心に現場を回っていますので、もしまたご縁があれよろしくお願いします」
「あぁ分かった!気を付けてな!ありがとよ!」
二人は荷物を持って乗合馬車に乗った。
(さて、あいつらはどうなっているかな?もう入っているのか?)
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