第111話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
レアな魔法語の本から厨二っぽい詩?を見つけたり、ダンジョンを奪い取る作戦を立てたり。キースはちゃんと『おばあ様=白銀級冒険者のアリステア』だと気付いていました。さすが冒険者マニアだけの事はあります。
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「よくもまあ、そう突拍子も無い事を思い付くものだな・・・」
作戦の説明を聞いたアリステアの表情は、呆れと感心が半々といったところだ。
「彼は就任したばかりですから実績が欲しいですし、デキる男みたいですからプライドも高いでしょう。そういった人物は、『失敗は恥』という気持ちが特に強い傾向にあります。こちらの狙った状況にする事さえできれば、まず人任せにはしません。そこが狙い目です」
キースは笑顔で作戦の補足する。内容はデキる男の心理を刺激する、中々に悪辣な作戦だ。
「魔法を使って入り込む事も考えたのですが、その様な侵入者用に、探知用の魔法陣や結界を張っている事も考えられます。なので、やはりここは、デヘントさんの技術にお任せするのが安心だろうと思いまして」
(上手くこっちのやる気を引き出すじゃねぇか)
話を振られたデヘントは、唇の端を少し持ち上げニヤリとする。
「ふん、そこまで言われちゃあ行くしかねぇな。まぁ任せとけ。まずはビアンケでバルデと合流する。コルナゴスの街で募集がかかっている職種を確認して、それに合わせて準備をして応募するとしよう」
「承知しました。よろしくお願いします」
「で、基本はダンジョン内だな?」
「はい、階段から少しでも遠い方がありがたいです。もし難しければ、敷地内の人目に付かなそうな所でお願いします。工事現場ですから、死角は多いと思いますので」
「了解した。終わってビアンケに戻ったら遣いを出す」
敷地内から合図を出す、という手もあるが、こちらから見える合図は気付かれる可能性がある。直接伝えるのが一番安全である。
「募集職種の都合もあるから、入り込むまでに数日掛かる可能性もあるな・・・ちょうどいい職種に応募できたら、その時点で一旦報告するか。その方が備えやすいだろう」
「そうですね!ではそれでお願いします」
「分かった。じゃあ早速準備して行ってくるわ」
「はい!お気を付けて!」
デヘントは右手を上げてヒラヒラと振って会議室を出て行った。
「よし、では、何か質問がある人はいるか?大丈夫か?で取り敢えずデヘントの準備が整うまでは、全体としては大きな動きは無い。各自通常通りの対応で頼む。ではこれにて解散としよう」
ライアルがそう言うと、早速キースが動いた。
「では、僕はエレジーアの部屋に行って、ちょっと調べ物をしてきます」
「・・・夕方までには帰って来いよ?お前にとってあの部屋はバラ色の監獄みたいなものだからな」
アリステアは渋い顔だ。
「・・・大丈夫ですよアーティ何言ってるんですかははは」
「遠く見ながら棒読みになっているじゃないか!くれぐれも気を付ける事!」
「は~い」
「返事は『はい!』だ!」
「はい!行ってまいります!」
最後に「えへへ」と可愛く笑って会議室を出て行く。
「全く・・・誰に似たのやら・・・」
アリステアがその姿を見送りながら溜息をつく。
(誰かと言うならあなたじゃない?)
皆がそう思う中、ライアルは例の件について結果を伝える事にした。
「ちょうどキースもいなくなったので、昨日の夜の件の結果を伝えよう」
皆が驚いた顔でライアルを見る。
「おおっ!?もう訊いたのか!早いな!」
渋い顔だったアリステアの表情が、今度は驚きに変わる。
「先程、皆が集まるまで二人きりでしたので。結論から言いますと、お母さん、キースは、自分のおばあ様が白銀級冒険者のアリステアであると気が付いています。お母さんが話したがらない様だから話題にしないのだ、と」
驚きのあまり無表情になってしまった母親を見ながら、ライアルは先程のやり取りを、最後の部分を除いて説明した。
話を聞いた皆の、呆れ気味の視線がアリステアに集まる。
アリステア本人は、まさかバレているとは思っていなかった為、やり取りを聞かされても固まったままだ。
「お母さん、どうやらキースの冒険者に対する情熱を見誤っていた様ですね」
「ええ・・・どうやらその様ね・・・」
無表情のままポツリとこぼす。
「アリステア、ポンコツ過ぎ」
相変わらず遠慮しない言葉をかけるのはシリルだ。
「シリルも皆もごめんなさいね、無駄に気を遣わせてしまって・・・」
アリステアが俯いて謝る。かなり凹んでいる様だ。
「でも、これでつかえが取れたはず。良かった」
驚いたアリステアが顔を上げると、いつもより優しい目をしたシリルと視線が交わった。
「ええ、そうね・・・ありがとうシリル」
皆が部屋を出ていく中、ライアルはアリステアとフランを呼び止め、会議室には三人だけが残った。
「皆の前では敢えて言わなかったのですが、先程話したやり取りにはまだ続きがありまして」
「そうなの?」
不思議そうな顔をするアリステアに、ライアルはキースの決意を伝えた。
「さすがは歴史上唯一人の白銀級冒険者ですね、お母さん。息子だけでは無く、ちゃんと孫にも尊敬されていますよ。良かったですね」
ライアルは、感激の余り子供の様に声を上げて泣くアリステアと、それを抱きしめ好きに泣かせているフランを残して会議室を出た。
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祖母が大変な事になっている頃、その孫はエレジーアの部屋で戦っていた。
相手は多過ぎる蔵書だ。
本は多ければ多い程良いが、部屋の三面、床から天井まで全部本棚だ。
しかも、隙間など無くびっしり詰まっている。これだけの本の中から自分の欲しい情報を探し出すのは、至難の業である。
(とりあえず魔法語で書かれている本を別に避けておこう)
(僕の見立てが合っていれば・・・あれは今までの魔法体系がひっくり返るぐらいの、とんでもない発見になる。それを裏付ける、詳しく書かれた資料を見つけたい)
キースは背表紙のタイトルを見て当たりをつけながら、ページをめくり続けた。
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ビアンケの街に着いたデヘントは、バルデと合流し、冒険者ギルドの支部へ来ていた。
ドゥーゼール子爵からフルーネウェーヘン子爵に交代した件が、なぜ自分達のところに伝わって来なかったのかを確認する為だ。単純な人為的ミスにしても、はっきりさせて注意させないと、再発する可能性がある。
「バルデ、お前も聞いてなかったんだよな?」
「ええ、閣下が先方と会ってしまってから知りました」
「単純な伝達ミスなら気を付けようもあるが、どこかで話が意図的に止められていた可能性もあるからな・・・」
支部長に面会を求めるとすぐに案内された。「非常に重要な事で」と付け加えたのが効果あった様だ。
デヘントは挨拶もそこそこに切り出した。
「先日のアーレルジ側の担当者交代の件、昨日までこっちに伝わっていなかったんだが、何か心当たりあるか?」
支部長のポートは驚きに目を見開きバルデを見た。
(この表情が演技なら大したもんだ)
デヘントは、冷静にポートの様子を伺っている。敢えて伝えなかったのがポートである可能性もあるのだ。だが、デヘントの『経験と勘』は、ポートは絡んでいないとも告げていた。
ポートはバルデの顔を見ながら口を開く。
「アルから聞いてないのか?この話が入ってきた時、あいつが『この後バルデに会う予定があるから、自分が伝える』と言うから任せたのだが」
「支部長、俺はあいつとはもう半月は会ってねぇし、会う約束もしてねぇよ」
「何だと・・・じゃあ昨日の会議は、閣下は担当者が交代していたのを知らずに会っちまったのか!何てこった・・・」
ポートは顔面蒼白だ。
初めて会う相手の情報がきちんと入っていたのに、それを伝えられなかった。
この事が、交渉に臨む伯爵にどれだけの不利をもたらしてしまったのか、それが解らない男ではない。
「幸い閣下の方は大事無かった。だが、駐屯地の方がヤバかった」
デヘントは、対応の詳細は省きながら襲撃があった事を説明した。
「交代した人物が、国王の元指導担当官の孫、と聞いた時、すぐに『これは何か動きがあるのではないか? 』という話になった。そして、その話が終わらねぇうちに襲ってきた。何とかなったから良かったものの、事前に分かっていればもっと楽に対応できた事は間違いねぇ」
「大変申し訳なかった。俺が自分で連絡するべきだった。戻られた閣下はどんな様子だった?」
ポートは深々と頭を下げ謝る。
「少しお疲れの様子ではあったが、まぁ、謝罪までは必要無いだろう。ただ・・・」
そこまで言ったデヘントの雰囲気と表情ががらりと変わる。
「アルの野郎からは話を訊かなきゃならねぇな」
光の届かない井戸の底の様な、暗くて湿った様な空気感。それを感じたバルデは、自分に向けられたものでも無いのに身震いした。
「そういや・・・あいつを最後に見掛けたのは・・・3日前だな」ポートが指を折りながら数える。
「おい・・・野郎、アーレルジ側に取り込まれているんじゃねぇか?だからあんな事言ってバルデに伝えなかったんだろう」
「・・・」
ポートは自分の部下だけに否定したいが、それだけの材料が無い。というか、この状況では完全に『黒』だ。
「俺とバルデは、これからコルナゴス経由でダンジョンの整備工事の現場に潜り込んで来る。まぁ、こんな近くにいつまでもいるとは思えねぇが、もし野郎を見つけた時には、こちらで直接確認するぞ。それは承知しておいてくれ」
「分かった。こちらでも探させる。居場所がわかった時には駐屯地にも連絡しよう」
「あぁ、よろしく頼む。・・・他の部下の身辺も一度洗った方がいいんじゃねぇか?借金とか女とか」
「そうだな。すぐに取り掛かる。ライアルさん達には、こちらから説明して謝罪しておく」
「その辺は任せる。それじゃあまたな」
「ああ、気を付けてな」
デヘントとバルデが執務室を出てゆくと、ポートは大きく溜息をつき、部下達の素行調査の段取りを立てるべく執務机に向かった。
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