表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/341

第110話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


いつもよりちょっと長くなってしまいました。

【前回まで】


白銀級冒険者アリステア=祖母のアリステア、という事を話すと決まりました。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


大人達が盛り上がっている(?)頃、そんな事は露とも知ないキースは、自分に割り当てられた部屋で読書に勤しんでいた。


冒険者達は、集合住宅の様な、2階建ての建物に個室を与えられており、そこで寝起きしている。


読んでいる本は、昼間、転移の魔法陣を実演した時に、エレジーアの部屋から持ってきた本だ。


たまたま目についたから手に取ったのだが、これがまた、実に興味深い本だった。


古代王国の共通語では無く、古代王国の『魔法語』で書かれているのだ。


『魔法語』は魔術師達が用いていた魔術専用の言語だ。


この魔法語で書かれた本や資料は、これまでも稀にだが発見されていた為、共通語との対応表も作成されており、それを使えば翻訳は可能である。


キースも全ては覚えていない為、対応表を見ながら読み進めている。


読み進めるペースはゆっくりだが、その書かれている内容に興奮し、頬はピンクに染まり目は輝いている。


(何だこの本・・・詩集なのかな?めちゃくちゃ格好良いのだけど)


今訳した一遍などは


(いにしえ)より舞い踊る


大いなる風の神の娘よ


我はここに其に願う


現世(ことよ)禍事(まがごと)打ち払う


風巻(しまき)の如き力手に


其と我らに仇なす者を


原初の塵へと返さん事を』


キースの厨二心をくすぐる、最高の本であった。


(た、堪らん。明日ニバリやラトゥールさんにも見せてみよう)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ニバリ、ラトゥールさん、ちょっとお時間いいですか?」


翌朝、朝食を終えたキースが二人に声を掛ける。


二人から了承をもらうと、早速昨日の本を広げる。


「昨日エレジーアの部屋から持ってきた本なのですが、珍しい事に魔法語で書かれているのです。内容も、何と言うか、詩集?なのかな?ちょっと見てもらえたらなと思いまして」


ニバリとラトゥールは顔を見合わせる。


「魔法語の本とは珍しいな・・・さすがはエレジーアの蔵書だ」


「・・・」(うんうん)


「一遍だけですが、対応表を使って訳したのがありますので、こちらも一緒にどうぞ」


二人が顔を寄せ合って本と訳文を読んでいると、何事かとマクリーンとフランも近づいてきた。


朝の挨拶を交わし、キースが説明すると、二人も興味を持ったらしく後ろから覗き込む。


「これはまたキースが好きそうな文章ね」


訳文を読んだフランが笑顔で指摘する。


「やっぱり解りますか?昨日の夜一人で興奮しちゃいました」


頭に手をやり「えへへ」と笑う。可愛い。


「何やら・・・祝詞の様にも読めますね。何か意味が込められているのでしょうか?」


マクリーンは訳文に目をやりながら呟く。


「祝詞・・・そう言われるとそんな気も・・・『風の神の娘に助力を願う』、という内容ですものね」


「お母さん、フラン、この『風の神』という存在について、何か聞いた事はありますか?古代王国期に信奉されていた神様なのでしょうか?」


フランとマクリーンが顔を見合わせ、お互いに首を傾げる。


「ちょっと聞いた事無いわね・・・」


現在、エストリアとその周辺国(=過去古代王国の領土だった国)では、智慧、(いくさ)、裁き、空、海、大地の6柱の大神が主に信仰されている。


商売や鍛治等の、自分の職業に合わせた眷属神を信仰している人達もいる。


「風だと・・・空、海、大地、どこにでも存在しますよね。それらの三柱より上位の存在でしょうか?」


「上位というか、それらを生み出した親というか、兄や姉の様な、三柱を守り助ける存在、みたいな感じかもしれませんね」


「あ、それ面白いですね・・・でも、そういった神を祀っていたという記録は、見たことも聞いたことも無いわねぇ」


「お二人でもご存知無いのなら、直接神を指すのでは無く、何か力のある存在を神に例えている、というのはどうだろうか?例えば・・・精霊とか」


ラトゥールが意見を述べお茶を一口啜る。


「ははぁ・・・精霊・・・そういう線もありそうですね。シリルにも見てもらおうかな。そうなるとちょっとこの一遍だけでは難しそうですね。まだ何遍か載っていますから、そちらも訳して読み比べたりしてみます。皆さんお時間いただきありがとうございました!」


「また訳せたら見せてちょうだい。皆で考えましょう」


「人数が多い方が切っ掛けは見つかりやすいだろうからな」


「はい!よろしくお願いします!」


「・・・」


(魔法を発動させる前に言ったら、すごく格好良さそうだが・・・発動手順中には無理か。残念だ)


実はキースと同類であるニバリだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ライアルとデヘントは、駐屯地からダンジョンの入口周辺を見下ろしていた。


駐屯地がここに作られた理由の一つとして、エドゥー川を挟んで、ダンジョンの入口を高台の上から見渡せる、という点がある。


相手にわざと姿を見せ、「監視しているぞ」とプレッシャーを掛ける為だ。


所有権で揉めているにも関わらず、相手に見られながら整備を進める、というのは中々できることでは無い。


実際、これまでは(メルクス伯の手腕も勿論だが)一定の効果があり、アーレルジ側は、担当者が詰める事務所や警備の為の兵舎といった、必要最低限の施設しか建設できていない。


魔石は下層~深層の方が量も多く、大きい物が産出されるし、魔物の体内からも同様だ(その分強くはなるが)


その為、エストリアの『北国境のダンジョン』の様に、冒険者ギルド支部や武具を含む消耗品を扱う店、宿屋、食堂等、長期滞在を可能とする施設が無いと、効率的な魔石の回収ができない。


今は、冒険者達がコルナゴスの街から派遣され、魔物が溢れない様に主に上層~中層に掛けて討伐し、その魔石を回収しているだけである。


だが、下層~深層に行く事ができないのでは、本来の産出量とは比較にもならない程度しか採れない。


だが、アーレルジ側は「もう交渉はしない。整備を進める」と明言した。


そして、それは間違い無い様で、資材や工具類を載せた荷車や、工事に携わる人足風の男達が以前よりかなり増えている。


「やはり、今度こそ本気で進めるみたいですね・・・」


「あぁ、間違い無いな。交渉の席にはもう出てこないだろうし、工事を邪魔してやるにしても、力づくでは国際問題になるし、警戒もしているだろうからな。だからといって、このまま手をこまねいているのもな・・・」


「お父さん、デヘントさん、おはようございます」


後ろから近付いてきたキースが声を掛ける。


「ちょっとダンジョンの対応についてご提案がありまして」


「ほう!よし、会議室へ行こう」


3人で連れ立って会議室へ入る。


「で、どんな話なんだ?」


席に座るなりライアルが促す。現在は手詰まりに近い状態だ。事態解決に向けた提案は大歓迎である。


「はい、こちら書いてきましたのでまず読んでください」


キースは書類筒から起案書を取り出し、ライアルとデヘントの前に置く。


二人は頭を寄せ読み始める。


読み始めてすぐ、二人は眉間に皺を寄せ始める。


「何ともはや・・・大丈夫ですかね?」


「ちょっと危険すぎやしないか?これでは中で何かあっても、こちらからは救援できんぞ?」


「大丈夫ですよ。予想外の事態にも十分対応できます。直接的攻撃は無いとは思いますが、お父さん達とデヘントさんのパーティがここからいなくなるのはまずいです。それに、先程の様に姿を晒してダンジョンを毎日監視していますよね?あれは向こうからも見られているはずです。急にその姿が見えなくなったら怪しまれますよ?」


「その点僕達は元々員数外ですから、遊撃的に動いても問題ありません。それに今なら、増員された兵士、冒険者、工事の為の人足と多数の人間が出入りしています。スッと入れるのではないでしょうか?いかがですか?」


「うーん・・・」


「まぁ確かに、問題無いでしょうな」


ライアルはまだ渋っているが、デヘントはイケると考えた様だ。


「大丈夫かデヘント?」


「そこはお任せください」


「分かった。よし、これでやってみよう。だが、閣下にご報告して許可がいただけたら、だ」


「分かりました。その辺りはお任せします」


「よし、早速行くか。ご都合が良ければそのまま説明してくる」


ライアルとデヘントは、会議室を出て伯爵の居館へ向かった。


(さて、どうなるかな・・・)


キースは、鞄から例の魔法語の本と対応表を取り出し、読み始めた。


(お、今度は・・・えーと、土の・・・巨人だって!好き・・・)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ライアルは鐘半分程で戻ってきた。


「閣下からよろしく頼む、とのお返事をいただいた。これから詳細をつめよう。デヘントが説明が必要なメンバーを集めに行っているから、ちょっと待っていてくれ」


「承知しました」


ここで、ライアルは昨日の夜皆で決めた「キースの祖母のアリステア=白銀級冒険者のアリステアである」という話を振ってみる事にした。


「これでこの作戦が上手くいってダンジョンが確保できたら、俺達はお母さんの様に金級に、キース達は、二階級特進は流石に無いだろうが、銀級には認定されるんじゃないか?実質他国の国土にあって、既に確保されてしまっているダンジョンだからな。確保の難易度は、中立地帯だったお母さんの時より上だろう」


軽い感じでサラッと言ったつもりだが、内心はかなりドキドキしている。


(さあ、どうだ?)


「あぁ、お父さん達は元々名高いですし、ここに4年も縛り付けられていますから、それのお詫びも込めて金級も有り得そうですね。でも、僕達はこの間銅級冒険者になったばかりですし、どうかな・・・」


(驚かんな。聞き逃したのか?いや、話の流れからそんな感じでは無いが・・・)


「でも、一緒に確保に動いたお父さん達が上がって、それ以下のクラスの僕達が上がらない、というのもまずいか・・・それにダンジョンを確保したのに昇級しないとなると、冒険者全体からの反発も考えられますね。『夢が無い』とかそういう話になりそうです。あ、そういえば・・・」


「おばあ様が金級に上がった時は、王城で報奨の授与式が予定されていたのですよね?柄じゃない、と言ってお断りなられたそうですが。もしそうなったら、お父さん達はどうします?」


(やはり知っているのか!間違い無いだろうが、念の為もう一つ)


「あぁ、その話は聞いた事があるな。俺は・・・どんなものなのか、ちょっと興味あるな。お母さんは白銀級に認定される時も、最初は断ろうとしていたらしい。だが、当時のギルドマスターから『王命を二回も断れる訳ないだろ』と怒られて諦めたそうだ」


「そうなんですね!それは知らなかったです!でも、授与式とか嫌がるのはおばあ様らしいですね。控えめな方ですし」


(何を持って控えめと判断しているのかは知らんが、これは間違いなく知っているな。いつから知っているんだ?)


「そういえばキース。前は、お前のおばあ様=白銀級冒険者のアリステア、という事は知らなかったよな?誰に聞いたんだ?」


「あぁ、小さい頃はそうでしたね。でも、僕は、冒険者になりたくてなりたくて仕方がなかったのですよ?そんな子供が、『王国の歴史上唯一の白銀級冒険者アリステア』の事を根掘り葉掘り調べない訳が無いじゃないですか。年齢・身長・体重・特性・出身地・髪色・瞳の色はもちろん、左脚が無くなる位置だって同じなんですから。特性が4つ出ているだけで大変な事なのに、それが全部同じなんですよ?一致点が多過ぎて、これが別人なんてあり得ませんよ」


キースは笑顔で続ける。ちなみに、特性が4つ出るのは5000人に一人程と言われている。さらに特性の内容まで被ったら、その確率は天文学的な数字になるだろう。


「それに、おばあ様がしてくれた昔話の中で、アリステアの業績とされている事を話してくれた時、『それ本人でないと知らないよね?』という内容が幾つかでてきていましたので」


(バレバレじゃないか・・・脇が甘すぎるだろ・・・)


「でも、お母さんは、キースが気がついているという事を知らないのでは無いのか?俺がここに来る前にそんな事を言っていたと思うが」


「うーん、理由は解りませんが、ご自分が仰らないのですから、何か僕に知られたくない理由でもあるのかなと。ですので、僕からおばあ様にこの話をする事はありません。でも・・・」


キースは真面目な顔でライアルの顔を正面から見つめる。


「白銀級冒険者アリステアは、お父さんと並ぶ僕の目標であり尊敬の対象ですからね!一生かけてでも、並んで乗り越えてみせますよ!」


右手を頭にやり「えへへ」と照れくさそうに笑う。流石に面と向かって言うのは恥ずかしかったらしい。


「ふ、ふふん、それはどうかな。追いつかれる前に、俺が白銀級になってお母さんに追いついてやる!お前には負けん!」


ライアルはキースの横に回る。


「だが、よくここまで来たな。大したもんだ。お前はもう立派な冒険者だよ」


目尻から溢れる涙を見られたくなかったライアルは、キースの頭をくしゃくしゃと撫でくり回した。


ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ