第110話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
いつもよりちょっと長くなってしまいました。
【前回まで】
白銀級冒険者アリステア=祖母のアリステア、という事を話すと決まりました。
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大人達が盛り上がっている(?)頃、そんな事は露とも知ないキースは、自分に割り当てられた部屋で読書に勤しんでいた。
冒険者達は、集合住宅の様な、2階建ての建物に個室を与えられており、そこで寝起きしている。
読んでいる本は、昼間、転移の魔法陣を実演した時に、エレジーアの部屋から持ってきた本だ。
たまたま目についたから手に取ったのだが、これがまた、実に興味深い本だった。
古代王国の共通語では無く、古代王国の『魔法語』で書かれているのだ。
『魔法語』は魔術師達が用いていた魔術専用の言語だ。
この魔法語で書かれた本や資料は、これまでも稀にだが発見されていた為、共通語との対応表も作成されており、それを使えば翻訳は可能である。
キースも全ては覚えていない為、対応表を見ながら読み進めている。
読み進めるペースはゆっくりだが、その書かれている内容に興奮し、頬はピンクに染まり目は輝いている。
(何だこの本・・・詩集なのかな?めちゃくちゃ格好良いのだけど)
今訳した一遍などは
『古より舞い踊る
大いなる風の神の娘よ
我はここに其に願う
現世の禍事打ち払う
風巻の如き力手に
其と我らに仇なす者を
原初の塵へと返さん事を』
キースの厨二心をくすぐる、最高の本であった。
(た、堪らん。明日ニバリやラトゥールさんにも見せてみよう)
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「ニバリ、ラトゥールさん、ちょっとお時間いいですか?」
翌朝、朝食を終えたキースが二人に声を掛ける。
二人から了承をもらうと、早速昨日の本を広げる。
「昨日エレジーアの部屋から持ってきた本なのですが、珍しい事に魔法語で書かれているのです。内容も、何と言うか、詩集?なのかな?ちょっと見てもらえたらなと思いまして」
ニバリとラトゥールは顔を見合わせる。
「魔法語の本とは珍しいな・・・さすがはエレジーアの蔵書だ」
「・・・」(うんうん)
「一遍だけですが、対応表を使って訳したのがありますので、こちらも一緒にどうぞ」
二人が顔を寄せ合って本と訳文を読んでいると、何事かとマクリーンとフランも近づいてきた。
朝の挨拶を交わし、キースが説明すると、二人も興味を持ったらしく後ろから覗き込む。
「これはまたキースが好きそうな文章ね」
訳文を読んだフランが笑顔で指摘する。
「やっぱり解りますか?昨日の夜一人で興奮しちゃいました」
頭に手をやり「えへへ」と笑う。可愛い。
「何やら・・・祝詞の様にも読めますね。何か意味が込められているのでしょうか?」
マクリーンは訳文に目をやりながら呟く。
「祝詞・・・そう言われるとそんな気も・・・『風の神の娘に助力を願う』、という内容ですものね」
「お母さん、フラン、この『風の神』という存在について、何か聞いた事はありますか?古代王国期に信奉されていた神様なのでしょうか?」
フランとマクリーンが顔を見合わせ、お互いに首を傾げる。
「ちょっと聞いた事無いわね・・・」
現在、エストリアとその周辺国(=過去古代王国の領土だった国)では、智慧、戦、裁き、空、海、大地の6柱の大神が主に信仰されている。
商売や鍛治等の、自分の職業に合わせた眷属神を信仰している人達もいる。
「風だと・・・空、海、大地、どこにでも存在しますよね。それらの三柱より上位の存在でしょうか?」
「上位というか、それらを生み出した親というか、兄や姉の様な、三柱を守り助ける存在、みたいな感じかもしれませんね」
「あ、それ面白いですね・・・でも、そういった神を祀っていたという記録は、見たことも聞いたことも無いわねぇ」
「お二人でもご存知無いのなら、直接神を指すのでは無く、何か力のある存在を神に例えている、というのはどうだろうか?例えば・・・精霊とか」
ラトゥールが意見を述べお茶を一口啜る。
「ははぁ・・・精霊・・・そういう線もありそうですね。シリルにも見てもらおうかな。そうなるとちょっとこの一遍だけでは難しそうですね。まだ何遍か載っていますから、そちらも訳して読み比べたりしてみます。皆さんお時間いただきありがとうございました!」
「また訳せたら見せてちょうだい。皆で考えましょう」
「人数が多い方が切っ掛けは見つかりやすいだろうからな」
「はい!よろしくお願いします!」
「・・・」
(魔法を発動させる前に言ったら、すごく格好良さそうだが・・・発動手順中には無理か。残念だ)
実はキースと同類であるニバリだった。
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ライアルとデヘントは、駐屯地からダンジョンの入口周辺を見下ろしていた。
駐屯地がここに作られた理由の一つとして、エドゥー川を挟んで、ダンジョンの入口を高台の上から見渡せる、という点がある。
相手にわざと姿を見せ、「監視しているぞ」とプレッシャーを掛ける為だ。
所有権で揉めているにも関わらず、相手に見られながら整備を進める、というのは中々できることでは無い。
実際、これまでは(メルクス伯の手腕も勿論だが)一定の効果があり、アーレルジ側は、担当者が詰める事務所や警備の為の兵舎といった、必要最低限の施設しか建設できていない。
魔石は下層~深層の方が量も多く、大きい物が産出されるし、魔物の体内からも同様だ(その分強くはなるが)
その為、エストリアの『北国境のダンジョン』の様に、冒険者ギルド支部や武具を含む消耗品を扱う店、宿屋、食堂等、長期滞在を可能とする施設が無いと、効率的な魔石の回収ができない。
今は、冒険者達がコルナゴスの街から派遣され、魔物が溢れない様に主に上層~中層に掛けて討伐し、その魔石を回収しているだけである。
だが、下層~深層に行く事ができないのでは、本来の産出量とは比較にもならない程度しか採れない。
だが、アーレルジ側は「もう交渉はしない。整備を進める」と明言した。
そして、それは間違い無い様で、資材や工具類を載せた荷車や、工事に携わる人足風の男達が以前よりかなり増えている。
「やはり、今度こそ本気で進めるみたいですね・・・」
「あぁ、間違い無いな。交渉の席にはもう出てこないだろうし、工事を邪魔してやるにしても、力づくでは国際問題になるし、警戒もしているだろうからな。だからといって、このまま手をこまねいているのもな・・・」
「お父さん、デヘントさん、おはようございます」
後ろから近付いてきたキースが声を掛ける。
「ちょっとダンジョンの対応についてご提案がありまして」
「ほう!よし、会議室へ行こう」
3人で連れ立って会議室へ入る。
「で、どんな話なんだ?」
席に座るなりライアルが促す。現在は手詰まりに近い状態だ。事態解決に向けた提案は大歓迎である。
「はい、こちら書いてきましたのでまず読んでください」
キースは書類筒から起案書を取り出し、ライアルとデヘントの前に置く。
二人は頭を寄せ読み始める。
読み始めてすぐ、二人は眉間に皺を寄せ始める。
「何ともはや・・・大丈夫ですかね?」
「ちょっと危険すぎやしないか?これでは中で何かあっても、こちらからは救援できんぞ?」
「大丈夫ですよ。予想外の事態にも十分対応できます。直接的攻撃は無いとは思いますが、お父さん達とデヘントさんのパーティがここからいなくなるのはまずいです。それに、先程の様に姿を晒してダンジョンを毎日監視していますよね?あれは向こうからも見られているはずです。急にその姿が見えなくなったら怪しまれますよ?」
「その点僕達は元々員数外ですから、遊撃的に動いても問題ありません。それに今なら、増員された兵士、冒険者、工事の為の人足と多数の人間が出入りしています。スッと入れるのではないでしょうか?いかがですか?」
「うーん・・・」
「まぁ確かに、問題無いでしょうな」
ライアルはまだ渋っているが、デヘントはイケると考えた様だ。
「大丈夫かデヘント?」
「そこはお任せください」
「分かった。よし、これでやってみよう。だが、閣下にご報告して許可がいただけたら、だ」
「分かりました。その辺りはお任せします」
「よし、早速行くか。ご都合が良ければそのまま説明してくる」
ライアルとデヘントは、会議室を出て伯爵の居館へ向かった。
(さて、どうなるかな・・・)
キースは、鞄から例の魔法語の本と対応表を取り出し、読み始めた。
(お、今度は・・・えーと、土の・・・巨人だって!好き・・・)
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ライアルは鐘半分程で戻ってきた。
「閣下からよろしく頼む、とのお返事をいただいた。これから詳細をつめよう。デヘントが説明が必要なメンバーを集めに行っているから、ちょっと待っていてくれ」
「承知しました」
ここで、ライアルは昨日の夜皆で決めた「キースの祖母のアリステア=白銀級冒険者のアリステアである」という話を振ってみる事にした。
「これでこの作戦が上手くいってダンジョンが確保できたら、俺達はお母さんの様に金級に、キース達は、二階級特進は流石に無いだろうが、銀級には認定されるんじゃないか?実質他国の国土にあって、既に確保されてしまっているダンジョンだからな。確保の難易度は、中立地帯だったお母さんの時より上だろう」
軽い感じでサラッと言ったつもりだが、内心はかなりドキドキしている。
(さあ、どうだ?)
「あぁ、お父さん達は元々名高いですし、ここに4年も縛り付けられていますから、それのお詫びも込めて金級も有り得そうですね。でも、僕達はこの間銅級冒険者になったばかりですし、どうかな・・・」
(驚かんな。聞き逃したのか?いや、話の流れからそんな感じでは無いが・・・)
「でも、一緒に確保に動いたお父さん達が上がって、それ以下のクラスの僕達が上がらない、というのもまずいか・・・それにダンジョンを確保したのに昇級しないとなると、冒険者全体からの反発も考えられますね。『夢が無い』とかそういう話になりそうです。あ、そういえば・・・」
「おばあ様が金級に上がった時は、王城で報奨の授与式が予定されていたのですよね?柄じゃない、と言ってお断りなられたそうですが。もしそうなったら、お父さん達はどうします?」
(やはり知っているのか!間違い無いだろうが、念の為もう一つ)
「あぁ、その話は聞いた事があるな。俺は・・・どんなものなのか、ちょっと興味あるな。お母さんは白銀級に認定される時も、最初は断ろうとしていたらしい。だが、当時のギルドマスターから『王命を二回も断れる訳ないだろ』と怒られて諦めたそうだ」
「そうなんですね!それは知らなかったです!でも、授与式とか嫌がるのはおばあ様らしいですね。控えめな方ですし」
(何を持って控えめと判断しているのかは知らんが、これは間違いなく知っているな。いつから知っているんだ?)
「そういえばキース。前は、お前のおばあ様=白銀級冒険者のアリステア、という事は知らなかったよな?誰に聞いたんだ?」
「あぁ、小さい頃はそうでしたね。でも、僕は、冒険者になりたくてなりたくて仕方がなかったのですよ?そんな子供が、『王国の歴史上唯一の白銀級冒険者アリステア』の事を根掘り葉掘り調べない訳が無いじゃないですか。年齢・身長・体重・特性・出身地・髪色・瞳の色はもちろん、左脚が無くなる位置だって同じなんですから。特性が4つ出ているだけで大変な事なのに、それが全部同じなんですよ?一致点が多過ぎて、これが別人なんてあり得ませんよ」
キースは笑顔で続ける。ちなみに、特性が4つ出るのは5000人に一人程と言われている。さらに特性の内容まで被ったら、その確率は天文学的な数字になるだろう。
「それに、おばあ様がしてくれた昔話の中で、アリステアの業績とされている事を話してくれた時、『それ本人でないと知らないよね?』という内容が幾つかでてきていましたので」
(バレバレじゃないか・・・脇が甘すぎるだろ・・・)
「でも、お母さんは、キースが気がついているという事を知らないのでは無いのか?俺がここに来る前にそんな事を言っていたと思うが」
「うーん、理由は解りませんが、ご自分が仰らないのですから、何か僕に知られたくない理由でもあるのかなと。ですので、僕からおばあ様にこの話をする事はありません。でも・・・」
キースは真面目な顔でライアルの顔を正面から見つめる。
「白銀級冒険者アリステアは、お父さんと並ぶ僕の目標であり尊敬の対象ですからね!一生かけてでも、並んで乗り越えてみせますよ!」
右手を頭にやり「えへへ」と照れくさそうに笑う。流石に面と向かって言うのは恥ずかしかったらしい。
「ふ、ふふん、それはどうかな。追いつかれる前に、俺が白銀級になってお母さんに追いついてやる!お前には負けん!」
ライアルはキースの横に回る。
「だが、よくここまで来たな。大したもんだ。お前はもう立派な冒険者だよ」
目尻から溢れる涙を見られたくなかったライアルは、キースの頭をくしゃくしゃと撫でくり回した。
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