第109話
【更新について】
本日2話目となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
フルーネウェーフェン子爵は、まともな野心家なので、失敗した原因を知り、次回に活かしたいと調査中。キース抜きで集まり、3人の正体をはっきりさせました。『祖母アリステア=白銀級冒険者のアリステア』をキースに伝えるのかどうかを皆で考えます。
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「だいたい、なんでそういう話になったの?普通に言えば良かったのに」
引き続き、シリルがど真ん中ストレートに尋ねる。
「お、おいシリル!」
「なんで?だって原因はそこでしょ?理由が知りたい」
またライアルが声を掛けたが、先程同様、この場にいる全員が腹の中では(そうだそうだ!)と思っている。
アリステアは(特にキースが絡むと)ポンコツな面もあるが、この国の冒険者達にとっては、雲の上の存在だ。
エストリア王国650年間で、国王に認定された唯一の白銀級冒険者。
そして重要なのは、全ての冒険者(もしかしたら国民も)が「あの人こそ白銀級に相応しい」と心から思っている事だ。
・『未知の魔導具や資料、研究書、魔法陣の発見と国への提供』
・『新規ダンジョンの発見と確保』
・『新人冒険者への支援制度の立ち上げ』
王都ではほとんど知られていないが、バーソルトの街への支援も続けられている。
ざっと、彼女の偉業を挙げただけでも、これだけあるのだ。冒険者として活動してみると、これがどれだけ凄い事なのかよく解る。
こんな人相手に、気軽にツッコミ混じりの質問など、恐れ多くて無理である。
しかし、シリルはこの国出身では無い。
子供の頃から、白銀級冒険者アリステアの昔話に慣れ親しんでいる訳でも無いし、支援制度のお世話になった事も無い。初めてアリステアに会った時には、既にキース大好きおばちゃんだったのも大きい。
種族も違うし、性格的なものもあり、疑問に思った事は遠慮無しにどんどん尋ねる。
「まぁ・・・何と言うか・・・言葉のあやというか・・・タイミング?」
アリステアは、今でもはっきり憶えている、小さいキースとのやり取りを思い出す。
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その日も、ソファーに並んで座り、お茶とおやつを楽しみながら、冒険者が活躍する昔話をしていたのだ。
「・・・デズモンドは無事王都に戻り、王様からたくさんのご褒美を貰い、皆もすごいすごいとほめてくれました。めでたしめでたし。はい、おしまい」
「はぁ、ありがとうございました、おばあさま。やはりデズモンドはかっこいいですね!僕も彼みたいな魔術師になりたいです!」
「どういたしまして。そうね、キースならきっとなれますよ。私が保証します」
お茶を一口飲み喉を潤す。
「おばあさま・・・訊いてもいいですか?」
「ええ、なあに?」
キースの頭を撫でながら促す。
「白銀級冒険者のアリステアは、おばあさまなのですか?」
「えっ!?あっ!?ち、違うけど・・・」
余りにも予想外な質問に不意を突かれ、思わず「違う」と言ってしまった。
「あ、違うのですね。そうですか・・・」
キースは少し残念そうにした。
「な、なぜそう思ったのかしら?」
「だって、お名前も同じですし、お歳も同じぐらいですよね?それに・・・」
キースは隣に座っているアリステアの左脚をさする。
「・・・そうね。でも、あの人と私は違う人よ。私はただのギルドの職員だから。歳が近いから仲良くはしていたけどね。この足も生まれつきですしね」
「そうなのですね。分かりました!ありがとうございます。あ、クッキーもう少し食べても良いですか?」
「ええ、どうぞ」
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「それが理由?はぁ・・・しょうもない」
投手シリルのビーンボールが打者アリステアを襲い直撃した。
「お、おいシリル!」
「なんで?しょうもないでしょ。みんなだってそう思っている癖に」
三度ライアルが声を掛けたが、先程同様、この場にいる全員が腹の中では(しょうもない)と思っている。
だが、(自分達を巻き込むのはやめろ)とも思っている。
「そうなのよ、一瞬タイミングが悪かっただけなのよね。しょうもない事なの」
ちょっと寂しそうな顔でアリステアが認める。
「あの時、『そうですよキース、私が白銀級冒険者アリステアなのです』と言って、冒険者証や下賜された短剣を見せていれば、きっとキースからキラキラの眼差しで見つめられて、『おばあさますごい!ぼくそんけいします!』 なんて言われていたのだろうな、なんて考えると、その機会を失った事が残念で・・・」
「アホくさ」
今度は打者シリルのバットが、投手アリステアに向けて投げつけられた。ここまできたら乱闘である。
ライアルも今度は声を掛けない。
「シリル!あなたには、キースから尊敬の眼差しで見つめられる事が、どれだけ大変でどれだけ重要な事か分かっていないのです!長い事生きているのでしょうに、まだまだ人生経験が足りていない様ね!」
「そんなのわからないし興味無い。私は尊敬されるより友達でいたいから」
その言葉を聞いたアリステアは、寂しそうに笑う。
「私は、祖母だから友人としては接してもらえないし、孤児で学も無いから、魔術師のキース相手では尊敬してもらえないもの・・・正直、尊敬されて目標だって言われたライアルが羨ましい」
(何だ、このしんみりした様な微妙な空気は・・・どうしてこうなった?俺は悪くないよな?)
しかし、母の気持ちも(何となく)解るし、ここは俺がとライアルが口を開こうとした時、意外な人物が一歩前に出た。
無口で生真面目なニバリだった。
「何を言っているのですか、アーティ。あなたはキースに十分尊敬されているではありませんか」
そう言われたアリステアは、ニバリから話し掛けられた意外さもあって、キョトンとしている。
「そ、そうなのかしら・・・」
「キースはいつも言っておりましたよ。『おばあ様の編み物は凄い。あれだけの作品は、王都の高級衣料品店にしか売ってない。同じ様な作品はどれも大変な値段が付いている。しかも、それをもの凄い速さで編む。人の技とも思えない』と」
(あ、そっちなんだ)
皆心の中で突っ込んだ。アリステアの編み物の腕前は、プロレベルという話は有名だ。
「今、『編み物か』と思われましたね?それはそうですよ。『自分が白銀級冒険者のアリステアだ』と言っていないのですから。冒険者として尊敬される事はありません。ですが・・・」
「キースの友達はたくさんおりますが、『キースの祖母』という立場は、アーティ、あなただけなのですよ?この世で唯一、あなただけが『キースの祖母』を名乗れるのです。まさかそこに気づいていらっしゃらないのですか?」
『キースの祖母はこの世で唯一自分だけ』
この言葉がアリステアの中で消化されるにつれ、アリステアの顔はキョトンとした顔から、徐々に笑みに変わってゆく。
「そ、そうよね。キースの祖母は私だけなのですものね・・・」
「そうです。何を引け目を感じる事があるのですか!さあアーティ、顔を上げて胸を張りましょう!キースの祖母として、堂々と生きてゆくのです!」
「ええっ!そうね!ありがとうニバリ!」
「いえいえ、とんでもありません!お気になさらず」
「あ、もういい?で、キースに白銀級冒険者アリステアは祖母だ、と伝えるという事でいいのね?それはいつ誰が言うの?」
シリルがおかしな空気をあっさりと元に戻す。
「うん、それは私が話をしよう。改めて告げるというより、普通に話の流れの中で『お前知らなかったのか?』ぐらいの感じで言ってみる事にする。明日中にはいけるだろう。結果は皆にも伝える様にするから」
少々疲れた感じでライアルが言う。
「悪いわね。よろしくお願いね」
息子に対してはあっさりである。遠慮も無い。
「では、お母さん、後は何かありますか?キース抜きで集まれるのはそう多くないでしょうから、何かあれば今のうちですよ?」
「3人の中身がカルージュの3人だ、というのは言わないの?」
またもシリルが尋ねる。
「それは言わない。キースと一緒に一生旅をする訳では無いから。エストリアを一周し終わった頃には別れる事になると思う。もし言うとしたらそのタイミングだろうけど、その時も言うつもりは無いわ」
アリステアが、先程までのウジウジした態度などまるで感じさせない、きっぱりとした口調で答えた。
(本当に、お母さんはキースが絡むと・・・はぁ)
ライアルは小さくため息を吐いた。
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