第108話
【更新について】
本日は2話更新、2話目は20時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
メルクス伯爵へ襲撃関係の報告と、今後のアーレルジ側の動きを予測し、自分達がどう動いていくかを相談しています。
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「ディエリ、その後何か分かった事はあるか?」
「はい、コルナゴス、ビアンケ、どちらの街でも襲撃に参加した者は発見できておりません。引き続きの捜索を指示しております。進展無く申し訳ございません」
フルーネウェーフェン子爵は、前回と変わらない部下の報告を聞き、小さく唸った。
彼は、正直なところ、今回の襲撃が失敗するとは考えていなかった。
(最大戦力であるライアル達は不在、冒険者くずれを含んでいるとはいえ、相手の留守部隊の倍の人数を用意し、さらに二方向からの奇襲だ。そのまま押せば十分に制圧できる)
(もし、こちらが知らぬ戦力が存在し、その力によって退けられたとしても、40人全員、誰一人として逃れられなかったなどという事が有るのだろうか?どんな状況なのだ、それは)
彼は間違いなく切れ者だったが、理詰めで突き詰めてゆく、至って真っ当な思考回路の持ち主だった。
まさか、目標の500m手前で感知され、魔法一発で拘束、挙句の果てに狼をけしかけられ散々齧られ、その隙に全員生け捕りになった、などという「とんでも」な展開は、考える事はもちろん想像すらできない。
「必要であれば捜索に当たる人数を増員しろ。失敗するにしても、理由が判らねば次にも活かせん」
「はい、承知致しました」
ディエリは頭を下げる。
「ダンジョンの方はどうだ?特に変わった事は無いか?」
「はい、そちらは順調に進んでおります。資材や工具の搬入も明日には終了し、明後日より各種施設の建設を開始できるとの事でございます」
「分かった。相手の駐屯地を焼き払い、混乱に陥らせるのはあくまでもついでだ。最優先はダンジョンだからな」
無能な前任者は、取り合う必要の無い抗議にまともに対応し、結果として4年もの年月を無駄にした。それだけあれば、どれだけの魔石を回収する事ができた事か。
(陛下も陛下だ。姻戚関係にあるからと身贔屓が過ぎたのだ。もっと早く切れば良かったものを)
(このダンジョンを速やかに稼働させ、まずは今までの諸費用の回収、そして完全黒字化を果たす。それを足掛かりに、俺はもっと上を目指す)
まともな野心家、アルベルト・フルーネウェーフェン子爵は、改めて心に誓うのであった。
夕食後、キースパーティの大人3人組、ライアルとデヘントパーティ全員(ビアンケの街にいるバルデを除く)、要するにキース以外のメンバーは、会議室に集まっていた。
用件はもちろん、アリステア達の正体の話である。
「皆もう薄々感づいてる様なのでさっさと話を進めるぞ。二人共、冒険者証を出して魔力を流せ」
アリステアが白銀級の冒険者証を服の中から取り出し、魔力を流して魔石を青く光らせる。さらに、下賜されたミスリル製の短剣をテーブルの上に置いた。
この短剣は、エストリアの冒険者であれば知らない者はいないと言っても良い、有名な逸話を持つ。
当時の国王アルトゥールが、アリステアに与える為に自ら宝物庫に出向いて選び、彼女が毒に侵された際は、その左脚を切り落とす為に使用した逸品だ。
キャロルとヒギンズも銀級の冒険者証に魔力を流す。
「皆久しぶりですね。元気そうな顔を見て安心しました。これまでの苦労を労い、これからの活躍を祈って祝福を贈ります」
キャロルは海の神の聖印を握り、皆に祝福を贈る。温かみのある黄色い光が漂い、それぞれの前で弾けた。
キャロルが海の神から直接授けられたこの聖印は、現代のものと比べると細かい意匠が違う為、すぐに彼女の物だと判る。
さらに、この聖印は、素材がはっきりしない。金属、陶器(焼き物)、鉱石類、いずれでも無いという。まさに神の御業と言えるだろう。冒険者証と同じぐらいの個人証明だ。
ヒギンズは、冒険者証以外の特別な物は持っていないが、アリステア、キャロルと並んで立っている事自体が証明とも言える。まさに「神の娘の盾」だ。
3人とは若干絡みが少ない、ラトゥールとローハンは驚いているが、ライアルパーティの4人は、皆それぞれに「やはり」という顔をしている。
「まぁ・・・親子ですので」
「キャロルの溢れる神気は隠せません」
「最初からおかしいと思ってた。っていうか隠す気無いでしょ?」
「・・・」(うんうん)
「で、お母さん、その身体は魔導具ですね?家にあったものですか?」
「そうだ。古代王国の遺跡で回収して、地下の倉庫に放り込んであった」
アリステアは、魔導具の取扱説明書に書かれていた内容を説明した。
「倉庫に、人形が入っている箱が3つ置いてあったのは記憶にありますね。あれがこんなとんでもない品物だったとは・・・特性も反映するというのがまた凄い」
「身体が魔導具という事は、実質不老という事になりますよね?作成した意図は今となっては分かりませんが、神官としては業が深い魔導具と感じてしまいます」
(あの時は必死だったし、今もすっかり当たり前になっているけど、確かにそうね・・・)
マクリーンの言葉を聞いたフランは、そこまで考えていなかった事にちょっと気まずくなった。
「こんな魔導具、エルフにも伝わってない。すごい」
「・・・?」
「で、キースが冒険者になりたい余りに家出をしてしまった為、その魔導具を使い追いかけた、という事ですか」
「そういう事だ」
「お義母さん、キャロル、ヒギンズ、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。あの子にはよく言っておきますので」
マクリーンが3人に向けて頭を下げ謝罪する。
「マクリーン、謝らないでちょうだい。私も悪いのです。ちゃんと話を聞かずに、頭ごなしに反対ばかりしていたのですから」
この姿で元の話し方はとても違和感がある様で、皆微妙な顔つきになる。
「もちろん、あなた達から預かっているのに何かあっては、という気持ちもありました。ですが、一番の理由は、キースが行ってしまうのが寂しかっただけなのですから」
(随分と素直というか、しおらしいというか・・・何かあったのか?)
この場にいるアリステアをよく知る者達は、心の中で首を傾げる。
「アリステアどうしたの?何か悪い物でも食べた?素直過ぎて変」
遠慮もしないし空気も読まないシリルが指摘する。
「お、おいシリル!」
さすがにライアルが声を掛けたが、彼も含めこの場にいる全員が、腹の中では(よく言った!)と思っている。
「シリルあなたねぇ・・・私だって素直に反省する事もあるのですよ!たまにですけど・・・」
「たまに、という自覚はあるんだ」
「ワタクシ、そもそもそんなに反省しなければならない事なんてありませんから」
先程のしおらしさは、もうどこかへ飛んで行ってしまった様だ。
「あ、後ですねお母さん、もう一点確認したい事がありまして・・・」
「何かしら?」
「白銀級冒険者アリステア=自分の祖母、という事は、いつバラすのか、という事なのですが」
「あ~そうね・・・」
キースが冒険者になっていなければ問題無かったのだろう。
だが、この先冒険者として活動を続けていれば、必ず「ライアルさんの息子さん?では、あの白銀級冒険者アリステアさんの孫なんですね!」という場面が必ず来る。容易に想像できる。
というか、そういった事は既に起こっている。
北国境のダンジョンでベルナルと話をした時は「ア」まで出ていた。ベルナルが何とか誤魔化してくれたのだ。
キースがヴァンガーデレン家の認識プレートを貰った時も、アンリがエリー経由で気を回して対応してくれた。周囲に隠す事を付き合わせ、気を遣わせる事になっており、さすがにもう限界である。
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