第105話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
なお、本日は17時にもう106話も投稿になります。
【前回まで】
南側の部隊も無事に退けたアリステア達と駐屯地の留守番担当達。そこにちょっと疲れた様子の、メルクス伯爵とライアルパーティが帰ってきました。盛りだくさんだった今日一日の、情報の共有化を図ります。
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デヘント達がテーブルと椅子の準備を整え終わると、ちょうどライアル達が入ってきた。
各自が椅子に座ったのを切っ掛けに、デヘントが口を開く。
「さて、そちらのお話は、あちらの担当者がドゥーゼール子爵から違う人物に交代していた、という事でよいですか?」
「そうだ。で、何でそれを知っているんだ?俺達が出て行ってから情報が入ってきた、と言っていたが・・・」
(うわぁ・・・お父さんの声だ・・・本物だ・・・)
久々に聞いた父の声に、キースは衝立の後ろで身震いする。
「ええ、それを含めて説明します」
(さて、どこまでこの話を信じるかな?)
午後になってから、アーレルジ王国所属の冒険者(身ぐるみを剥いでみると、元冒険者の冒険者くずれもいた)達が、駐屯地を襲撃してきた事。
援軍もあってそれを退け、こちらの被害は無し。40人程を生け捕りにし、倉庫に放り込んである事を説明した。
話を聞いたライアル達は逆に混乱した。
「デヘント達が弱いという訳では無いが、二方向から来る20人ずつ二部隊の冒険者を、全員生け捕りにしたのか?15人で?」
ライアルが眉間に皺を寄せる。
部隊の指揮を執る事が多いライアルは、まずそこが気になった様だ。
(やはりお父さんの視点はそこだよね。こんなの普通じゃないもの)
基本、戦いは人数である。
冒険者と一般兵ぐらい個人戦闘力が違えば別だが、冒険者同士で人数が倍の相手に勝つのはまず無理だ。ひっくり返すには圧倒的な何かが必要だろう。
「怪我人が出なかったのは何よりですが、その状況でどの様にすれば誰も怪我をせずにいられるのでしょう?」
首を傾げながらマクリーンが続く。
(お母さん、まずは怪我の心配か。お母さんらしいな)
「デヘント、話盛りすぎ。本当は5人ぐらいだったんでしょ」
冷たい目で睨みつけ、デヘントを嘘つき認定するのは、エルフのシリルだ。
(シリルは相変わらず容赦ないな)
「・・・?」
生真面目で無口な性格である魔術師のニバリは、その状況で何をどうしたら無傷で生け捕りする事が可能か、一生懸命考えている。
(ニバリ・・・熟考してそう)
「おいおい、皆さんよぉ、確かに自分で言っててもとんでもない話だとは思うよ。だからって、そんな頭イカれた奴を見るかの様な目はやめて欲しいぜ。事実、倉庫に行けば奴らが転がっているんだからな」
「そういえば、『援軍もあって』って言いましたよね?その援軍の方達はどちらにいるのですか?」
「さすがはマクリーンさん、よくお気づきになられました。初めから嘘つき呼ばわりのシリルさんとは訳が違う」
「嘘つきなんて言ってない。話盛り過ぎ、と言っただけ」
シリルがムキになって言い返す。こういう反応を返すから、デヘントが面白がるのだ。
だが、そこまで笑顔だったデヘントが真面目な顔になり、雰囲気が変わった。
様子が変わった事を感じシリルも口をつぐむ。
「正直、その援軍が無ければ、奴らの二方向からの奇襲は決まり、ここは焼き払われ、俺達は撤退していた。けが人は勿論、死者も出ていたかもしれねぇ。今無事に話しをしていられるのは、全て彼らのおかげだ。皆からも礼を言ってくれ。後・・・」
「ライアルさんとマクリーンさんは、礼もだが、頭を撫でくり回してそいつを褒めてやって欲しい。間違いなく一番の殊勲者だからな」
「おい、デヘント、それはどういうk」
「それではその援軍の皆さんに登場していただこう!どうぞ!」
デヘントはライアルの言葉を無視して、衝立の後ろに向けて声を掛けた。
衝立の向こうから、アリステア、フラン、クライブが出てくる。
ライアル達は、出てきた3人に視線を向ける。
その視線には、仲間の窮地を救ってくれた人達に対する感謝と同時に、純粋な興味が込められている。
人数は倍、さらに二方向から攻めてきた相手を退けたのである。どれだけの強者なのか、冒険者としてとても興味深い。
ライアルはいかにも「前衛の火力担当」という出で立ちの、アリステアに注目した。
やはり、パーティ内で同じ役割を担っている者の事は特に気になる。
(女性にしては高い身長、程よくついた筋肉、俺達の前に出てきても臆する事も無い、自信に溢れた気の強そうな表情。ショートソード2本と胸当て、籠手、脛当て・・・回避重視の双剣使い、といったところか。防具は・・・黒鋼製か?かなり良い物だな)
マクリーンも同じ理由でフランに注目した。
(この方は・・・本当に人なのかしら?王都の司教様より強い神気・・・まるでキャロルさんみたい。他にもこんな方がいるなんて)
エルフのシリルは、3人全員に違和感を覚えていた。
(この3人、見てるとあの3人の顔が浮かんでくる。不思議)
シャバネルは、まだ衝立の後ろにいる4人目の魔力を感知した瞬間首を捻った。
(・・・ここで感じるはずが無い。おかしい。どうなっている?)
各自がそれぞれ注目して分析していたが、衝立の影からキースが出てきた瞬間、4人は呆然として目を見開いた。
予想外過ぎて言葉が出ない。ニバリはキースの魔力を感知していたが、何かの間違いと思っていたので、やはり同様の反応だ。
キースは皆の方を向いて、右手を頭に添えながら、ちょっと照れ臭そうに「えへへ」と笑う。
最初に動いたのは意外にもマクリーンだった。
彼女は椅子から立ち上がると、机に足を掛け、法衣の裾を翻しながら一気に机を飛び越えた。そして、そのままの勢いでキースに抱きついた。
勢いがあり過ぎてそのまま床に転がるが、マクリーンはキースを抱きしめたまま離れない。
無言で力強く抱きしめ、頭を撫でながら頬を寄せる。
目には涙が浮かび、あっという間に溢れる。
(お、おかあさん・・・苦しい・・・でも・・・いいかも)
戦の神「エヴェネプール」の神官であるマクリーンは、王都の神殿の責任者である司教クラスの力の持ち主だ。フランの様に特性がある訳では無いが、常に冷静沈着で慌てふためく事などまず無い。
(こんなマクリーンさん初めて見たわ・・・)
デヘントも、そのパーティメンバーのラトゥール、ローハンも目を丸くしている。
妻が大変な事になってしまった分、ライアルは逆に落ち着いていた。
「マクリーン、マクリーン、ちょっと落ち着きなさい。キースは逃げやしないから。ほら、キースも苦しそうだぞ。一旦離して席に着きなさい」
妻と息子の脇に移動し背中を撫でながら宥める。
「あ・・・そ、そうね。ごめんなさいね。ちょっとびっくりしたものだから・・・」
「マクリーンの気持ちは解る。マクリーンが飛んでいなかったら私が飛んでたもの」
キースが生まれた頃から可愛がり世話をしていたシリルが、マクリーンの意見に賛同する。普段は表情がほとんど変わらない彼女だが、今は少し口角が上がっている。非常に珍しい。
ちょうど厨房の職員がお茶の用意を運んできた。
「後はこちらで淹れますから大丈夫です」
フランが声を掛けてお茶を淹れ始める。
(援軍の方にお茶淹れさせるの気まずい・・・)
皆そう思ったが、その流れる様な手付きと、広がり始めた芳しいお茶の香りに包まれた途端、任せる事にした。
「で、キース、どこから説明してもらえるんだ?魔術学院はちゃんと卒業したのだよな?」
お茶が全員に行き渡ったのを切っ掛けに、ライアルが切り出す。
「はい、学院は無事首席で卒業しました。ざっくりとまとめながら話しますので、疑問に思った事は質問してください」
キースは学院を卒業してから起きた出来事を順に話し始めた。
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