第100話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
エリーの要望に応え、リーゼロッテとエヴァンゼリン相手に精一杯頑張ったキース。ヴァンガーデレン家の私兵も追いかけてこない様で、一安心です。
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アリステア達を乗せた馬車は、王都の西門から出て、西街道進む。
王都エストリオは、エストリア国内の北東の隅にある為、西街道、南街道、南西街道が主要街道であり、特に幅が広く作られている。
先日まではまだ初夏といった日差しだったが、ここ数日でだいぶ強くなってきた。
馭者台の屋根に付けられた、普段は折りたたまれている日除けを広げ、直射日光が当たらない様にする。
その日は、街道から少し外れた所に見えた、小さな湖の畔で野営する事にした。
アンリ経由で、ヴァンガーデレン家の厨房から提供してもらった食材で食事を作る。
食材の質が非常に高いだけあって、料理自体はシンプルでも野営とは思えないぐらいの美味しさだ。
「クライブ、ちょっと荷物を下ろすのを手伝ってもらえますか?」
「お、分かった」
食事とその片付けを終えたところで、キースがクライブに声をかけた。
馬車の荷台から下ろしたのは、布の掛かっている長方形の箱?の様な物と、布に骨組が付いて折りたたまれている物だ。
それを馬車を挟んで反対側に置いて布を取る。
「後はこれを周りに立てて目隠しにして、汲み置きの水を入れれば・・・はい設置完了です!」
「凄いな!風呂じゃないか!」
「浴槽が載ってるなんて全然気が付かなかったわ」
「衝立はどこから持ってきたんだ?随分立派だが・・・」
「衝立は、ハンナさんに相談したら、下げ渡し予定だから持っていって良いとの事で・・・有り難くいただいちゃいました」
(布も綺麗だしほつれも無いのに、なんでこれが下げ渡し予定なんだ?)
「側面に発熱の魔法陣と冷却の魔法陣が貼ってありますので、各自調整してください」
野営では、せいぜい水浴びができれば御の字で、大抵は濡らした布で身体を拭くぐらいである。
お湯をふんだんに使って身体を洗い、満天の星空を眺めながら手足を伸ばして温まる。
最高である。
「お風呂に入れるなら、ずっと野営でも良いわね」
「今日みたいに水場が近くならそれも有りかと」
皆サッパリし、浴槽と衝立を片付け、結界の魔法陣を設置する。
焚き火台を中心に個人用のテントを建て、早めに横になる。枕元で小さい照明の魔道具を点け、エヴァンゼリンお手製の研究書の写本を読む。
(お屋敷も良いけど、やっぱり僕はこっちの方が気を遣わなくて良いかな)
翌朝、朝食と片付けを終え準備が整ったところで、馬車の下から出てきたキースが、大人3人を集める。
「王都から離れて交通量もだいぶ減りましたので、ここからはちょっと速度を上げて進みたいと思います。フラン、馬達に< 身 体 強 化 >のバフをお願いします」
「わかったわ」
「僕は馭者台で、空気抵抗を減らす為に空気の壁を作ります。三角にするより、覆い包む様な流線型がより効果的なのだそうです。馭者台が受ける風も防げるくらいの大きさで作ってみますね」
「あ、あぁ・・・」
(本当に日々進化しているな・・・そのうちこの間の噂話みたいに空も飛ぶんじゃないか?)
「よし、それでは出発しましょう!」
キースの掛け声でクライブが馬に合図を出す。
魔法陣による馬車全体の軽量化、馬へのバフもあいまって、馬車はみるみる速度を上げてゆく。クライブは速度が上がり過ぎないように、必死に馬を制御する。
道行く他の通行者は、皆口を開けてポカーンとしている。そりゃそうである。普通の感覚なら暴走と言ってもよい速さだ。
お昼休憩に鐘1つ分使い、4の鐘が鳴る頃、西街道の主要な街の一つである「メリダ」に入る。
馬車を降り、街の門で冒険者証を魔導具にあてる。冒険者証と読取の魔導具、両方が青く光れば登録完了の印だ。
「こ、これも他の街でやるの初めてなんですよね・・・おお~ちゃんと光った!良かった・・・」
「良かったなキース!」
「おめでとう!」
「何でも初めては感慨深いものだ」
その様子を、門の中で立哨している衛兵が眺めている。
(冒険者証を登録するだけで何やってんだ?それにどう見ても子供なのに、銅級の冒険者証?どういう事だ・・・?)
衛兵はアリステア達に近づき話しかけた。
「皆さんこんにちは、メリダへようこそ。こちらは初めてですか?」
「メリダ!?ここはメリダですか?」
アリステアとフランは街の名前を聞いて仰天した。
「そ、そうですけど・・・どうされました?」
「あ、ああ、いえ大丈夫です。そうですか、メリダですか・・・」
(全然大丈夫じゃなさそうだが・・・)
「彼は冒険者になったばかりなので、王都以外の街に出入りするのが初めてなのです。それもあってちょっと気持ちが高ぶってしまったのですよ。お騒がせしました」
アリステアとフランが呆然としているの事もあり、クライブが答える。
「はぁ・・・そうだったのですか・・・」
(それなのに銅級冒険者なのか?見た感じ育ちも良さそうだし、こりゃあれか、箔付けの為に寄付金でも積んで認定されたくちか?)
実際には、寄付金を積んで認定されたという者は存在せず、都市伝説的なものか、認定されたくてもされない者がやっかんで流したデマである。
冒険者達の間では実績など丸わかりなので、金で認定されても、白い目で見られるだけと解っているからだ。
ギルド側も、こういった話を受けてしまっては、他の冒険者達との信頼関係も損なわれる為、寄付の有無と認定は関係無い。
冒険者ではないこの衛兵には分からない事だが。
「ときに、馬車も止められる大きめな宿屋は近くにありますか?」
「あ、ああ、それなら、次の十字路を左に曲がってすぐの所にありますよ」
「左ですね・・・分かりました。ありがとうございます」
「はい、お気をつけて・・・」
(なんか・・・変な一団だな)
再度馬車に乗り込み、教えられた十字路を左に曲がり「白狐亭」という宿に入る。
馬車を預け手続きをし、男女に分かれて部屋に入る。荷物を下ろすとすぐに部屋の扉がノックされた。
キース達が返事をする間もなくアリステアとフランが入ってくる。
「キース!メリダってどういう事だ!」
「王都からだと400km以上あるはずよ?昨日の場所からでも300km以上になるんじゃないの?一日で着ける距離じゃないでしょう?」
キースとクライブはキョトンとしている。
馭者台にいた二人は、馬車がどれくらいの速さで走っていたか知っている。なので二人の言っている事がピンと来ないのだ。
「アーティ、私達の馬車は、昨日よりの3倍程の速さで走っていたのですぞ?そりゃ走行距離も3倍です」
昨日も今日も、8の鐘から4の鐘のまで走行した。お昼休憩に鐘1つ分使った為、鐘7つ分走った事になる。
昨日は鐘1つ辺り15kmで走り105km、今日は馬にバフをかけ、空気抵抗を減らした結果、鐘1つ辺り45kmの速さで進み、315km進んでいたのだ。
速度を教えられたアリステアとフランが唖然とする。
「確かに速度を上げるとは言っていたが、まさかそんなに出ているとは・・・だって全然揺れていなかったじゃないか!今思えば、それもあって気付かなかったんだ!どうなっているんだ?」
フランも頷いている。
クライブもハッとした。馬車の制御に必死で、揺れが無い事まで思い至らなかったのだ。
大人3人がキースをじっと見る。
心無しか得意気な顔に見える。
「では皆さん、食事に出る時にご説明しますので、準備を整えて馬車で合流しましょう」
準備を整えた皆が馬車の前に集まる。
「先日『コーンズフレーバー』に寄った時、イネスさんが、『長い距離馬車に乗ってるとお尻とか腰が痛くなりそう』と言っていたのを憶えていますか?」
「あぁ、言ってたな」
「ただでさえ痛いのに、速度を上げたらもっと痛い訳です。これは何とかするしかないだろうと思いまして、あの日お店から戻って作ったのがこの『反発する魔法陣』です。馭者台の下を見てください」
皆で勢いよく覗き込む。
「浮いてる・・・」
馭者台の席が、馬車の骨組みに接していないのだ。
「そうです。二枚一組の魔法陣が、お互いの魔力に反発し合って浮いているのです。なので衝撃は伝わりません。ちなみに、反発はしていますが、魔力自体は結びついているので、ズレたりもしません」
「これが馭者台に2箇所、箱部分と車軸の接点4箇所、荷台と車軸の接点2箇所に貼ってあります。これでこの馬車はもう一生揺れや突き上げと無縁です」
どうです?凄いでしょう?と言わんばかりの表情のキースに、アリステアとフランが近づく。
左からアリステア、右からフランがキースを挟む様に勢いよく抱きつき、頭を撫でる。
(ちょっ、うわっ、待ってなんか色々と・・・大変なんだけど)
「キース、これは最高だ!本当にありがたい!」
「素晴らしいわキース。助かります。ありがとう」
「馬車旅は衝撃との戦いだからな・・・それが無くなったのは大きいぞ」
「喜んでもらえて良かったです。さぁ、お腹も空きましたし、食事に行きましょう」
「「「了解!」」」
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