第99話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
出発準備が整ったところで、部屋にやってきたのは奥棟の受付を担当しているエリーでした。「キースと会ってから大奥様が元気を取り戻し、体調も良くなっている」という話を聞いて、最後に何か思い出に残る事をしようと、不敬罪に怯えながらも実行します。
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近づいてくるキースに、リーゼロッテとエヴァンゼリンが少し不思議そうな顔をする。
貴族は「表情に感情を出すな」と教育されるが、それはあくまで相手も貴族の場合の様で、ここ数日は(相手がキースというのもあるだろうが)ほとんど気にしていない様である。
キースは二人の椅子の後ろに回りながら、後ろに控えるエリーと側仕えのハンナに目をやり頷く。そして、二人の座る椅子の間に立つと少し屈み、顔を寄せた。
(よし!いくぞ!)
キースは腹を括り、小声で二人に話し掛けた。
「リズ、エヴァ」
二人がビクッとした。
「ちょっと行ってくるからな。僕が戻るまで仲良く、元気にしてるんだぞ。特にエヴァ」
「・・・はい!」
「お前はあまり身体が強くないからな。夜更かしせずに睡眠を十分にとり、食事をきちんと食べる事。いいな?」
「はい!約束します!」
「その辺はリズ、よろしく頼む。皆もいるがやはりお前が一番頼りになる」
「はい!賜りました!」
「よし、いい子だ二人共。それじゃあな、可愛いお嬢さん達。・・・またな」
最後にトドメとして、二人の頭に手をやり頭ポンポンをし、片手を挙げてヒラヒラさせながら馬車に向かって歩き出した。
(ああ、もう、これ大丈夫か本当に)
キースは歩きながら身悶え(?)する。
恐ろしくてとても振り返れない。
走りたい衝動を懸命にこらえ、普段よりゆっくり歩く事を意識する。
馭者台までが果てしなく遠く感じたが、キースは何とか無事に辿り着いた。後ろからも声は掛からない。
「お待たせしました。それでは行きましょう」
クライブは馬に合図を出し、馬車は走り出した。
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キースが歩み去っていく後ろでは、リーゼロッテとエヴァンゼリンが、瞳を潤ませ、頬を染め、口を両手で覆いながら、様々な感情を込めた溜息をついていた。
「リズ、私は今心臓が止まりそうなぐらいドキドキしています」
「お母様、それはちゃんと動いているという事ですから大丈夫です。それに、元気にしていろと言われたではありませんか。ご指示を守らない気ですか?」
「いえ、そんなつもりはありません!おっしゃった事は絶対に守ります!お戻りになる迄!死んでも守ります!」
「ですからお母様、死んではダメなのです。戻られるまで元気に過ごすのです。それがあの方とのお約束ですから」
(キース、ありがとう。きっとお母様は、今の気持ちと『推し』であるあなたの言葉を糧に、これからも元気に過ごす事ができるでしょう。それにしても・・・はぁ・・・本気でゾクゾクしました)
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ベルナルとアンリは、エリーから「出発前にキースさんにお願いしている事がある。実行できるかは状況次第だが、もし何かしだしてもこちらからお願いした事だから、私が動かない限り止めに入ったりしないでほしい」と言われていた。
なので、キースが一人で戻ってきて、リーゼロッテとエヴァンゼリンの方に近寄って行ったのを見ても
(ははぁ、これが先ほど言っていたやつか。本当に色々申し訳ないな・・・)
と、そこまで気に留めていなかった。
二人はキースの事を事の他気に入っているし、キースが二人に危害を加える事もあり得ない。
だが、キースに声を掛けられた二人の様子、そして最後の頭ポンポンには流石に慌てた。
(キースさん、二人に何を言ったのですか?それに頭ポンポンって・・・)
後でエリーに問い質さなければと、心に誓う二人だった。
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(キースさん・・・凄い・・・まさかあそこまでやってくれるなんて・・・)
エリーは感謝しつつも心の底から驚愕していた。
エリーは今回の設定として「ちょっと憧れている親族(従兄弟ぐらいの間柄)のお兄さんに、子供扱いされる二人」というのを提案していた。
先月、リーゼロッテとエヴァンゼリンは、他家の仲の良いご夫人と観劇に行った。
エリーもお供したのだが、その帰り道に劇の感想を語り合う流れから、「どの様なシチュエーションに憧れるか」という話題になったのだ。その際に先程の設定の話が出た。
「なんと言うか・・・ちょっと歳上のお兄さんに雑に扱われたい、というか・・・」
「解りますわお母様!さすがに今となっては無理でしょうけど・・・」
「そうねぇ・・・私より歳上で、そんな事言ってくれそうな方なんてもう生きていませんし」
大貴族のお嬢様である二人は、産まれ落ちた瞬間から蝶よ花よともてはやされ、雑に扱われたり名前を呼び捨てにされた経験なんて無い。それ故憧れた。
(二人の大のお気に入りであるキースさんが、敬語も使わず呼び捨てにしたら、大変な破壊力があるのではないだろうか?)
そこからこの設定は生まれたのだが、これはかなりの勇気が必要だ。
なにせ、あの二人相手にいきなり呼び捨て&タメ口である。
しかしエリーは、キースならイケると確信していた。
根拠は無い。
敢えて言うなら「二人との長年の付き合いからの勘」だ。
しかしそれは予想以上に上手くいった。ずっぽしハマった。それもまさかの頭ポンポン付きだ。
(これは数年程度では消えないぐらい、深く大奥様の心に刻まれたでしょうね)
間違いなくそう感じたエリーだった。
(なんだキースは・・・どうしたんだ?)
クライブは馭者台で隣に座るキースの様子に違和感を覚えていた。
ヴァンガーデレン家の屋敷を出てから、後ろを気にして落ち着きがない。眉間にシワも寄っている。
(一度降りて、戻ってきてからだな・・・何かあったのか?)
「キース、どうした?後ろから何か来るのか?」
「あっ!はいっ!ええっと・・・なんと言いますか・・・」
「言ってしまえ、アーティとフランには内緒にしておくから」
その言葉を聞いたキースの表情が少し緩む。
クライブは何となく、あの二人には知らせない方が良いのでは?と思って言ってみたが、功を奏した。
「はい・・・実はですね・・・」
キースがエリーとのやり取りから一連の流れを説明する。
「これはアーティとフランには言えんな。それにしてもあの二人にタメ口&呼び捨てからの頭ポンポンか・・・キース、お前本当に凄いな・・・」
「ポンポンの後、とても後ろを見る事はできませんでした。馬車まで走らずに歩くだけで精一杯で・・・」
「まぁそうだろうな。だが、誰も来てないから大丈夫だ。安心しろ。それに・・・」
「もしお二人が激怒したとしても、そもそも頼んできたのはあちらだ。向こうで対応してくれるだろうし、するべき事だ。エリーさんも根回しはしているのだろうしな。気に病むことは無い」
「そうですよね・・・ありがとうございますクライブ」
「いやいや、気にするな。これからも何かあれば、一人で悩まず相談しろよ。他人に意見を求めると意外とあっさり解決したりする事もある。特に女性には相談しづらい話題などもあるしな」
「はい!よろしくお願いします!」
(あの二人には内緒のお悩み相談・・・馭者台最高だな!)
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北国境のダンジョンでの魔物暴走に端を発し、大貴族の情報漏洩問題、新たな「キース担」の誕生、銅級冒険者認定と、様々なあれこれを乗り越えて、遂に王都近郊から旅立ったキース、アリステア、フラン、クライブ。
次回からは、キースの両親に会うべく、アーレルジ王国との北西国境に向かいます。
これからもご贔屓よろしくお願いします(´∀`*)
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