第9話
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「で、ではだいたいこんなところでしょうか?それで、皆が一斉に意識を移してしまうと、何かあっても対応ができません。とりあえず一人だけ先にやってみてはと思いますが・・・」
女性陣は何かを期待している目でじっとヒギンズを見つめる。
「あー・・・言い出したのは私ですからね、私がやりますよ・・・」
「「よろしくね!」」
「もうひとつ、今の体を保管しておきませんと、最終的に戻ることができません。それに、体を床に寝かせたままではあちこち痛めそうですので、各自のベッドの上が良いかと思います」
キャロルの分も含めて二体持ち、自室へ運ぶ。
魔導具を箱から出し、全体を綺麗に拭いてからベッドに置く。そしてヒギンズがその左側に横になる。
「それでは、開始します」
ヒギンズは、右手を魔道具の左手首の魔石の上に置き、魔力を流し始める。
ヒギンズと魔導具が青白く光りだし全身を包み込む。
光は更に強くなり、眩しくて目を開けていられず、思わず目を閉じる。
一際光が強くなった後、光が収まったのを感じそっと目を開ける。
そこには、ベッドに横たわるヒギンズ本人と、見慣れない容姿の男性が上半身を起こして、自分の手を見つめていた。
「あなた・・・どう? 大丈夫?」
キャロルが恐る恐る尋ねる。
「ああ、特にどこかが痛いとか、違和感があるということはないな・・・」
顔や体を触りながらヒギンズが答える。
「ちょっと動いてみますね」
ベッドから降り部屋の中を歩き回る。さらに準備運動や、その場でジャンプをしてみたりする。
「特に問題はなさそうです。というか、間違いなく元の体より快調ですね、これは」
「ではアーティ、私達もやってみましょう」
普段は落ち着いているキャロルのテンションも上がり気味だ。
「そうね、ヒギンズがうまくいって、ちょっと安心したら楽しみでドキドキしてきたわ。現金なものね」
少しバツが悪そうなアリステアだ。
「アーティ、先に部屋でお待ちください。魔導具をお持ちします」
「ありがとう、ヒギンズ」
先程と同様、全身を拭いて綺麗にしてからベッドに置く。
「では、私は部屋の外でお待ちしておりますので、何かあればお声掛けください」
「私の方はいいから、キャロルのところに行ってあげなさいな。終わったらリビングに集合ね。」
「・・・かしこまりました。ありがとうございます」
「あ、新しい姿になったら呼ぶ時も新しい名前でね。意識して変えていかないと」
アリステアはベッドに横になり、魔導具の魔石の上に手を置く。
まさかこんな、70歳にもなろうというのに冒険者に復帰するなんて、夢にも思っていなかった。
もちろんキースの補助のためではあるのだが、沸き立つ心を抑えられない自分も感じていた。
そんな事を考えながらアリステアは光に包まれる。
アリステアがリビングに行くと、既にキャロルとヒギンズも来ていた。
キャロルはアリステアを見て目を輝かせる。
「アーティ!格好いいですね・・・姿もですが、気配が凄いです!体が大きくなった分、現役時代より増しているかもしれません!」
キャロルがここまで興奮するのは珍しい。
「ありがとうキャr・・・フラン。あなたも子犬みたいで可愛いわよ」
上から下まで、前後左右遠慮なく眺め
(これが良いスタイルか・・・色々大きいわね)
少しニヤつきながら言う。
フランは、もちろん視線には気が付いているが無視である。
「倉庫から装備品を出してこようと思いますが、アーティはどうします? 」
「そうねぇ・・・ちょっと自分で選びたいから一緒に行くわ」
「では皆で行きましょう」
地下の倉庫へ入り、武器と防具を見繕う。
といっても、フラン(キャロル)とクライブ(ヒギンズ)は現役時代と同じだ。
フランの身長が低くなり、良いスタイル(笑)になった為、神官の法衣の手直しをするぐらいである。
(確かこの箱よね・・・あ、あったあった)
箱から中身を取り出す。
それは籠手と脛当てが一組づつと、胸当てであった。
フランシスとクライブは息を飲んだ。
「アーティ、これは・・・黒鋼ですか?」
クライブは箱の中身を見ながら思わず唸る。
「防具自体のデキも凄いですが、かなり高度な魔力付与がされてますね・・・」
フランも籠手の片方を持ちながら目を瞠る。
「まさかこれを装備できる日がくるなんてねぇ・・・」
アリステアは感慨深けだ。
黒鋼はミスリル程では無いが、硬く軽く魔力をよく通す高級素材だ。
古代王国の遺跡で見つけ、質も素晴らしいし格好良いしでぜひ装備したかったのだが、成人男性用サイズだった為どうにも身体に合わず使えなかった。
「武器は・・・確か壁に掛けてある中に・・・あぁ、これだわ」
二振りのショートソードを手に取る。デザインからして対なのであろう。青白い光に包まれている。
「これ、ミスリル製ですね?綺麗だわ・・・」
「この二振りで幾らするのでしょうね・・・恐ろしいですな」
先程から二人は感嘆の声しか出ない。
アリステアが現役時代にどれだけのお宝を発見・回収したかのか、とても想像できない。
「キースの為ですからね、もう自重しないわよ。双剣使いの、回避型の前衛でいくわ」
(坊ちゃま関係で自重したことなんてあったかな・・・?)
大人は余計な事は口に出さない。
各自装備品を持ってリビングに戻る。
「アーティ、先に法衣の手直しをしてしまってもよろしいですか?」
フランは海の神の神官の法衣と裁縫箱を手にしている。
「えぇ、もちろん」
「では、部屋で直してきますね」
「私は、その間に、敷地の四隅に結界の魔導具を設置してきます。終わったらそのまま外で馬車の準備をしております」
「よろしくね。では私は、各寝室とキースの部屋の窓と扉に、保護と施錠の魔法陣を貼ってくるわ」
留守にしている間に、身体に危害が加えられる訳にはいかないのだ。
魔法陣が書かれた紙を扉や窓に貼りつけ、魔力を流しながら「起動」と発動語を唱える。
これを繰り返してゆく。
「いけない、忘れるところだったわ」
左のショートソードの脇、腰と背中の間辺りに、予備の短剣を差す。
これは大事なお守りなのだ。
アリステアがリビングに戻ると、ちょうどフランもやってきた。
「お待たせしました、できあがりました」
「ちょっと色々きつそうに見えるけど・・・」
「丈が長いのはいくらでも詰められるのですが・・・王都に行ったら、神殿で相談してきます」
「あと、ディックに今から出発すると連絡を入れておきました。合わせて、宿の確保をお願いしてあります」
クライブも外から戻ってきた。
「馬車の準備ができました。王都までは鐘6つ程ですので、食べ物や水はそれ程必要ないかとは思いますが、一応積んであります」
「しばらく戻れないでしょうからね、悪くなってしまいます」
年寄りは食べ物を無駄にする様なもったいない事はしないのだ。
「あとね2人とも、私の口調なんだけど・・・」
「はい、なんでしょう?」
「せっかく身体が若いのにこの喋り方だと年寄りくさいというかおばちゃんっぽいというか・・・髪も短いし、いっその事男口調で話してみようかと思うのだけど」
「良いのではありませんか? 全く雰囲気も変わりますし」
「どのような感じになるか楽しみですな」
「よし、じゃあそういう事でよろしく頼む」
「「はい!」」
最後に玄関の扉に保護と施錠の魔法陣を貼り起動させる。
準備は整った。出発である。
「待ってろよキース・・・勝手に出て行った悪い子にはお仕置だ!おしりペンペンしてやるからな!」
「アーティ・・・お手柔らかに・・・」
まだ小さい子供の頃の、ぷりぷりのキースのお尻を思い出しながら、3人は馬車に乗り込み王都へ向け出発した。
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