表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

マッチョ売りの少女

作者: 江保場狂壱

2020年。10月4日。修正しました。母親の件を追加しております。

「マッチョ、マッチョはいりませんか」


 大晦日の夜、一人の少女がマッチョを売っていました。少女は夜空の下、鍛え上げ小麦色に焼けた肌を晒しています。雪が降っているのに身に着けているのはマイクロビキニのみで、サンダルだけを履いていました。それでも少女は寒がるそぶりを見せません。

 彼女は体を鍛えているからです。にっこりと笑顔を浮かべていました。日に焼けているので目と歯の白さがくっきりと浮かびます。


「マッチョ、マッチョはいりませんか」


 少女の右腕にはマッチが詰まったバスケットがありました。少女は拳を握り、フロント・ダブルバイセップスのポーズを取ります。

 ですが通行人はちらりと彼女を見ただけで、そそくさと歩いていきました。まるで関わってはいけないと言わんばかりに早足になりました。


「ああ、どうしましょう。ちっともマッチョが売れないわ。やっぱり女の身でありながら、男のように握りこぶしを作るのが癪に障るのかしら。女は指を広げて華麗さを示さないといけないのかしら」


 少女は嘆きました。家にはマッチ職人の父親がいますが、マッチョを売らないと叱られてしまうのです。もっとも父親は少女よりも貧弱で、喧嘩になれば圧倒的に勝利することは可能でした。

 母親は体を鍛えすぎて、体脂肪を減らしすぎて天国に旅立ちました。ちなみに父親は婿養子で少女と二人暮らしでも、立場は変わりませんでした。


「雪が降ってきたわ。はやくおうちに帰りたい。道端でプッシュアップやクランチをすると迷惑になるからね。仕方ないからスクワットで我慢しましょう」


 少女は道の片隅でスクワットを始めました。ただし片足を木箱に置き、片足だけでスクワットを始めたのです。

 これはブルガリアンスクワットと言って片足だけでランジを行うトレーニングです。主に大腿四頭筋やハムストリングス、大臀筋にふくらはぎが鍛えられます。少女の場合、散々スクワットを行ったので普通のスクワットでは刺激が足りないのでした。


「ふぅ、脚がきついわ。脚のトレーニングはとっても大変だけど、達成感が半端ではないからね。次は懸垂にしましょうか」


 少女は街路樹に縄をひっかけました。そして腕は肩幅より少し開き、肘を少し曲げて縄を掴みます。次に脚を前にずらしていき、腕を伸ばして体を落とし、顔は上を向けます。そして体をまっすぐに保ち、床からの角度は20~45度くらいにしました。次につま先を上げて、かかとは地面につけ、広背筋を意識して体を縄に引き寄せます。腕を伸ばして体を降ろし、

10回を1セットして、3セット行いました。

 街路樹に直接ぶら下がると枝を折ってしまう可能性が高いため、斜め懸垂を行うことにしたのです。

 さらに逆手でやれば上腕二頭筋に負荷がかかります。


「ふぅ、いい汗をかいたわ。でもマッチョが売れないのは変わらない。このままではおばあちゃんに顔向けできないわ」


 少女は亡くなった祖母を思い出しました。祖母はとても優しく、とても体を鍛えておりました。

 僧帽筋はまるで鎧を着ているようで、腕はまるで足のように太かった。大胸筋をピクピク動かしては少女を喜ばせていたのです。

 トレーニングもスクワットは軽く2時間を超え、プッシュアップやクランチも1千回は余裕でした。そんな彼女も最後は拳を握ってフロント・ダブルバイセップスのポーズを取って天国に旅立ちました。


「今の私ではおばあちゃんを超えてすらいない……。こんな未熟者の私なんて受け入れてくれるはずがないわ。だからなんとしてでもマッチョを売らないと」


 トレーニングを終えた少女は再びマッチョを売り始めました。フロント・ダブルバイセップスのポーズから、サイド・チェスト。バック・ダブルバイセップスにサイド・トライセップスのポーズを取りました。ですがマッチョは売れません。

 そうこうしているうちに一人の老紳士が声を掛けました。


「お嬢さん。なんでバスケットに入っているマッチを売らないのかね。それならわたしがすべて買い取ってあげるよ」


 こうして少女はマッチを売ったお金でプロテインバーを買うことができました。家に戻ると父親は顔をしかめましたが、黙ってプロテインバーをかじりました。

 少女は食事の前にもう一度トレーニングを始めます。今度は腹筋を重点に鍛えることにしました。


「今度こそマッチョを売って見せるわ」


 少女はそう心に誓います。彼女の言うマッチョを売ることは自分の肉体を買ってほしいという意味でした。亡くなったおばあちゃんの教えを多くの人に教えたかったのです。

 後日、マッチを買ってくれた老紳士がそれを聞くと「それならスポーツジムに就職したまえ、私の知人にジムを経営している人がいるから」と教えてもらい、そのジムのトレーナーになれました。少女は祖母から筋肉の名称に加え、筋肉の鍛え方も詳しく教えられていたからです。


 こうしてマッチョ売りの少女は自分のマッチョを売ることができたのです。

 めでたし、めでたし。

 マッチョ売りの少女はなろう内でも7篇ほどありました。

 どちらにも被らないように気を付けています。

 

 今までありま氷炎様の企画では暗い作品が多かったので、明るい話にしてみました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  とりあえず女の子が死なない(死にそうにない)ことと、筋トレもやり過ぎたら心身のバランス崩すよねって教訓。しかし2代とも筋トレで死ぬのは学んでない! [気になる点]   お母さんはOLとも…
[良い点] ぶふぅっ!!(モンスター噴いた) た、炭酸は鼻に来るぅ…… その籠のマッチ売れよ!! マッチョは売れねえよ!! 少女に話しかける紳士が常識人に見えるって?! 死ぬほど体脂肪率おとすって、…
[一言] ありま氷炎様の「月餅企画」から拝読させていただきました。 逆境にあってめげない。 そのことが幸運を招く。 ポジティブシンキングのためには筋トレは非常に有効だということが良く分かりました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ