キミの赤い翼
登場人物
凛導 リンドウ
正義のヒーローのレッド。正義感が強く、誰よりも強い心を持っている、流生とは幼馴染み。
流生 リュウセイ
正義のヒーローのブルー。冷静で周りをよく見て突っ走らない。凛導とは幼馴染みで海生とは兄弟。
ティア
正義のヒーローのピンク。少し強気で人の痛みが分かる優しい異国の少女。 ギーラとは主従関係。
ギーラ
正義のヒーローのグリーン。喧嘩っ早く視野が広く気が利く少年。 ティアの召使い。
海生 カイセイ
先代ブルーで、現取締役。 流生の実の兄。
ミコン
羽を持った謎の生命体。
グレン
闇の王
ノバラ
ゴスロリ少女
ガイル
黒い狼
赤く燃え上がる炎、崩れるビル、割れる地面。
目の前には大きな広い背中、沢山の命を祈りを背負った強い背中。ボロボロなはずの体を動かして、優しく笑うその男の瞳は誰よりも強く輝いていて瞳の奥の炎がゆらめている。
「大丈夫だよ、さぁ逃げるんだ」
優しい声音と肩に乗せられた熱い掌、赤い色のマントをなびかせるその姿は正しく"正義の味方"だった。
熱い熱い炎の中、母親の呼び声の元へ走る、振り返るとそこには仲間と共に敵に立ち向かう勇敢な赤いヒーローの姿、無意識に手を伸ばす。だが、その姿は黒煙と共に消えていった。
「………これあと何体いるの?!」
「残り数体と言った所かなー」
「挟み撃ちはいかがでしょう、それなら広がりを抑えられるかと」
「そうだな、回り込むぞレッド」
「了解!一気に決める!」
赤いマントをひるがえし、流生と共に凛導は地面を強く蹴り上げる。
そのまま地を這うように動く影の上空を舞い、その行く手を阻むように立ち、持っていた剣を地面に突き立てる。
悲鳴にも似た声が響き、影が泥人形のような形になる。目は赤色で呻き声を放つ。
「泣いているわ……きっととても辛い事があったのでしょう」
「オレには呻き声にしか聞こえないですけどねーでもここで四の五の言ってられないですよ!」
「分かっていますわ!」
凛導の剣が赤く燃え上がる、それを合図に流生、ティア、ギーラも剣を構え同時に走りだし斬り掛かる。
グリーン、ピンク、ブルー、レッドの順に閃光が泥人形の体を切裂くと、パキッという音と共に泥人形は崩れ落ちる。
その中から男性が現れ、倒れた。4人は急いでその男性に駆け寄る。
「大丈夫ですわ。気を失っているだけのようです」
「……この人があの泥人形?」
「一応海生さんに連絡しとくか〜」
ティアは流生と共に、男性を介抱しつつ様子を見る。ギーラは端末を使い基地で待つ海生に連絡を取り始めた。
ふいに凛導は残った泥を拾う、それはもう乾ききっていて握ると砂のように手のひらから零れ落ちる。
誰かの気配を感じ凛導は咄嗟に顔を上げる、目線の先には沈む日を背にこちらを見つめる1人の少女の姿、ゴシック調な黒い服装をしていてフリルのついた黒い傘を差している、そして周りには何故か無数の蝶。
見間違いかと思い目を擦ると、その少女は姿を消していた。
「え……」
「凛導、どうした」
「いや…女の子が……」
「女の子?そんな子居ないぞ、それにここは危ないからと規制線が貼られていて誰も入って来れないはずだ」
「…見間違い……かな」
「ほら、帰るぞ」
凛導は流生の差し出した手を取り立ち上がる。
もう一度その少女が居た場所に目を向けるがそこには何も無くただ暗闇だけがあった。
瓦礫の陰で、少女は冷たい瞳を細めて口角をゆっくりと上げる。
闇の底から響くような声が少女に問いかける。
「ノバラ。いいのか」
「えぇ。構わないわ今日は新しいヒーローを見に来ただけだもの……またお会いしましょう……ひ弱なヒーローさん?」
闇の渦が上がり地の底から黒き狼が現れる。
少女は去りゆく凛導達の背を暫し見つめた後、狼の頭を人撫でし闇の中に歩いていった。
闇は重く深くなる。蝶たちが喜ぶように舞う。
赤く燃え上がる炎の火の粉に、恋焦がれるように周りを飛び回る蝶を指に止まらせキスをする男がいた。
その姿を目にした少女、ノバラはうっとりと見惚れたようになった後、跪き頭を下げる。
「ただいま戻りました、グレン様」
「おかえりノバラ」
重く深く耳に響く声、ノバラは顔を上げる。
目の前には先程の蝶をノバラの方に帰す男、グレンの姿がある。気品のある出で立ちとその瞳に見つめられれば屈服せざるを得ないような覇気と存在感。
光の無い瞳は暗き闇を宿し全てを食らいつくさんとしているのが分かる、ノバラはグレンを見つめ離さない。
「どうだった」
「はい。新たなヒーローが4人集まっておりました」
「そうかでは明日、仕掛ける。試せ奴らの力をどんな手を使おうと構わない壊せ、全てを」
「はい、グレン様」
ノバラは再び頭を下げる。
グレンは窓の外から真っ赤に染った月を見る、この空間に朝など来ない、陽など差すことはない。
どこまでも闇のみが広がっている世界。ここに訪れた人間はその心を簡単に差し出し命の灯火はたちまち消え去る。
全てはグレンの思うがままに動く、それがこの闇の空間だった。
「幻想に魅入られし悲しき子供達よ。眠ってしまえ」
「ーーっ?!」
「なんだ凛導、急に俺の腕なんか掴んで……大丈夫か?すごい汗だぞ……」
「あ……いや、変な夢……見た」
基地の中央にある大きな机に突っ伏して寝ていた凛導は、隣で本を読んでいた流生の腕を力強く握る。
その額にはじんわりと汗が滲んでいて顔面蒼白だった。
その話が聞こえたティアとギーラ、海生が、ホワイトボードから目を離し凛導を見る。
「凛導、大丈夫か?」
「大丈夫……です」
「闇の気配!リンドウ掴まれた?」
「え?!!って誰?!」
凛導が顔に手を当て俯いた時、視界の端をぬいぐるみが浮遊する姿を見て思わず大きな声を上げ椅子から転がり落ちる。
そのぬいぐるみには羽が生えており白い天使のような羽だった。
グルグルと回るぬいぐるみを海生が抱きかかえ机に下ろす。
「すまない。紹介がまだだったな、彼女はミコン。この基地の番人のようなものだ、そしてこの戦隊の核でもある」
「へぇ……初めまして、ミコン」
「リンドウ、掴まれた?」
「え?掴まれたって、なんのこと?」
「夢で」
ミコンの言葉に凛導は首を横に振る。
「確かに手が伸びてきて掴まれそうになったけど、その前に逃げたから」
「……リンドウ。気をつけろそれは闇だ、オマエを探してる」
「俺を?」
半信半疑な凛導は不思議そうに首を傾げる。
ミコンはふわりと浮かぶと凛導の顔に近づく、思わず後ろに下がった凛導の顔をミコンは小さな手で掴む。
「先代のレッドも見た。ソレ掴まれたら最後、戻れない」
「戻れない?」
「闇は光を好む、1番強い光、炎。赤い炎。だからほしい、闇は光を奪う。……だからリンドウ、気をつけろ」
ミコンの言葉に凛導は黙り込む。
夢で見た重く深く伸し掛るような、息が詰まり呼吸が上手く出来なくなる感覚。
その闇の中から伸ばされた手は確実に凛導の首を掴もうと伸ばされていた。咄嗟に避け凛導は走って逃げたのだ、光の差す炎の揺らめきを頼りに差し出された手を掴んで目が覚めた。
ミコンの言葉が正しければ凛導は狙われている。得体の知れない何かに。
「すまない、その話は先代だけだと思っていたんだ。凛導、キミにも伝えておくべきだったようだ」
「いえ、大丈夫です。それって掴まれなければいいんだよね?ミコン」
「そうだ!」
「じゃあ、逃げ切る。絶対俺は勝つ!」
「凛導……」
凛導は真っ直ぐな瞳で不安そうな海生を見つめる。
海生は静かに頷き優しく頭を撫でてやる、凛導は嬉しそうに笑み爽やかな笑顔を向ける。その笑顔はまるで太陽のようだと海生は感じる。
4人が寝静まった時間に海生はミコンと共にバルコニーに出ると、昔最後の決戦の地となった野原を見つめる。
そこは以前戦いの末焼け野原となっていたが、いまは緑が茂り立ち入りが禁じられている。誰も近付こうとはせず誰もがその地を恐れた、その場には多くの血と涙が流れた地でもある。
「海生」
「ミコン、俺はまた間違ったのか」
「違う。それは違う、海生貴方は強い、だからそんな顔しないでほしい」
「ミコン……どうしても紅蓮と凛導を重ねてしまうんだ、とても似ていると思わないか?」
「とても似ているとも。同じ炎の戦士なのだからあの勇気と希望の赤い翼は同じだだから、レッドになれた……海生、痛むのか」
海生はしゃがみ込む。
自分の愚かさに後悔に追い詰められ目に見えない不安が痛みとなって彼を襲う。
ミコンは光に身を包むと先程までのぬいぐるみの姿とは打って変わった、儚げな巫女服の少女が姿になり、しゃがみ込む海生を優しく抱き締める。
「大丈夫だ、海生。妾がいる……大丈夫」
「……違うんだ。痛いんじゃないんだ…違うんだよミコン……」
か細い声は風と共に空に消える。
ミコンはただ海生の傍に居続けた、痛みが苦しみが消えるまで。