始まりの炎
正義のヒーローなんてテレビの中だけのものだと思っていた。
ずっと憧れていたヒーローにいつかなれるとそう、信じていた、あの日が来るまでは。
炎があちこちに燃え上がり、悲鳴と怒号が飛び交う中鉄壁に守られた施設の中で少年は1人モニターを見つめる。
モニターには『正義のヒーロー』と呼ばれる4人組がボロボロの体で炎と瓦礫の中をひたすらに走っていく。
1人、1人が支え合いながら何度も立ち上がり、各々の正義の心を振りかざす。
「負けるな!ヒーロー!」
少年は叫ぶ。その声はモニター越しで届くはずもないだが、少年は憧れていた。赤いスーツに身を包み正義の心を熱く燃やす赤いヒーローに少年は憧れていた。
この世界を揺るがす存在を悪としその悪から人々を守るのがヒーローそれは必然の出来事で当たり前の事だった。
少女は思う。
「どうして……誰も守ってなんてくれないのに」
ヒーローは自らの命を懸けて悪と戦う。
それは正義であり勇気だ。何度も何度も立ち上がり抗う、その姿はとても勇ましく逞しい、そして誰もがそれを美しいと呼ぶのだ。
そしてその犠牲の上で成り立つのがこの世界だ。
あれから、数年後少年は大きくなった。
それでも幼い頃から変わらない正義の心を持つ者としてとある機関からヒーローに任命されたのだ。そして今日この日少年、凛導は幼馴染みである流生と共にとある拠点に赴いた。
「ここか?」
「凛導、本当にヒーローなんてものになるつもりなのか?」
「当たり前だろ!ずっと憧れていたんだ!それにこの手で皆の命を守れるなんてかっこいいじゃん!」
「はぁ……凛導、あまりヒーローを甘く見ないほうが……」
「あ!開いたぞ、早く行こう!流生」
凛導は流生の言葉を聞く前に扉を開けた。
そこには小さな浮遊するぬいぐるみと、紺色のスーツを着た青年が立っていた。
流生の顔が曇る、そんな流生とは裏腹に凛導は目を輝かせ中に入っていく。
「よく来たな。ようこそヒーローの拠点へ歓迎するよ新生ヒーローの諸君」
「兄さん……」
「え?流生の兄ちゃん?!」
「あぁ、久しぶりだ凛導、会ったことがあるのは小さな時だから覚えていないのは無理もないだろう。俺の名は海生先代ブルーだ」
「うおおおお!かっけぇ!流生の兄ちゃんってあのブルーだったんだな!てことは、流生は次のブルーになるのか?!」
凛導のウキウキした目と言葉に海生は微笑む。
流生は目を逸らしあまり海生と目を合わせようともせずどことなく不機嫌だった。
「そうだ。流生は俺の次のブルーを継いでもらう。そして凛導、キミにはこのチームの先頭を立って歩くレッドを継いでもらう」
「俺が……レッド!高鳴るぜ、俺頑張る!」
「ああ。この国を守ってくれ」
「頑張ろうな!流生」
「いや、俺はまだなるなんて…っ」
「お前が居てくれれば俺はすっごい心強い!一緒にこの国を、世界を守っていこう!」
流生は無理矢理肩を引き寄せた凛導を押し退けるようにするが馬鹿力の凛導はびくともしない。半ば諦めたように流生はため息をついた。
そんな様子を見た、海生は俯き加減で目を細める。
「似ているな……レッドに」
「海生さん、どうしたんですか?」
「いや。なんでもない、これから引き継ぎの儀を行う。心の準備は出来ているか?」
「はい!」
凛導は元気よく頷く。流生も次はしっかりと海生の目を見つめ覚悟を決めたようだった。
海生は2人を見たあと、勾玉を差し出した。それは赤と青の勾玉でそれには先代のレッドとブルーの力が込められているという。
それを手に取ると、光が瞬き腕にブレスレットとして勾玉が変化する。
「え……これは」
「それは、自らの内なる力を最大限に高めてくれる石だ。それさえあれば人間を超えるヒーローの力を発揮出来る。これからはお前達ヒーロー4人でこの世界を守り抜け」
「はい!!……って4人?!てことは俺たち以外にあと2人…あ!ピンクとグリーンが足りない!」
その言葉を口にした瞬間、扉が大きな音を立てて開く。
逆行を浴び、人影が2つ。3人の前に現れる。
「分かりずらい地図を残すなど……全く言語道断ですわ!」
「お嬢様が地図の読み方を間違って挙句迷子になりかけただけでしょーが、お邪魔しますよ〜ここって先代ヒーローの拠点であってますー?」
「アンタ達、一体」
凛導が、驚いた様子で2人に声を掛ける。
少しスリットが入った大人びたドレスを着た少女と、まるで何処かおとぎ話に出てきそうな騎士の様な服装をした少年はどちらも驚く程美形だ。
海生が前に立つ。
「紹介しよう凛導、流生。こちらは先代ピンクとグリーンの意志を受け継ぐ者、異国の姫君ティア様と、その従者ギーラだ」
「ご挨拶が遅れましたことお詫び申し上げますわ。どうか気軽にティアとこれからはチームとして共に闘うと聞いております。よろしくお願いしますわ」
「ご丁寧にどうも……」
「オレは、ティア様に仕える……まあ守護者?みたいなもん。こっちの世界ではなんて言うんだ?まぁいいや。とりあえずオレの事も気軽にギーラって呼んでくれや。堅苦しいのはどうも苦手なんだオレも姫様も」
「じゃあ。ティアにギーラ、これからよろしく」
凛導の差し出した手をティアは優しく握り返す。
ようやく4人が揃った。各々の片手首にはそれぞれが宿す色の光が輝く勾玉のブレスレットがある。
それは破壊と悪事の波動を感じ取ると、光り輝き知らせてくれる。
ヒーローの必需品と言ったものである。
いま新たに、集うは未来に希望を抱く強き者たち。
その中心には太陽のように輝く炎の戦士、それは例え大きな闇であろうとも切り裂き、未来を切り開く力を持つ者であろう。
だが、4人が揃ったいま闇も同様に禍々しい邪気を纏い蠢く。