チャット#3
「あー、ずっと山続き……(ジル)」
「ジルちゃん山嫌いなの?(神恵)」
「山の音は嫌いじゃないけど……、山を歩くのは面倒くさい。ねぇ、ジュンお兄ちゃん、そろそろ休憩しない?」
「……(盾)」
「ジルコニア、おぶってやろうか? ――って、蹴るな蹴るなっ。子供あつかいしてすみませんでした!(奏治)」
「あーあ、お兄ちゃんがつまらないこと言うからもっと疲れちゃった。なんかお話しない? ナナお姉ちゃん」
「そうだね。……じゃあさ、魔法について教えてよ」
「あたしが話す系? まあいいや」
「魔法――魔術っていうのは一口に言ってもたくさんの種類があるよね。そもそもの働きとしては『思ったことをその思考する力で、つまり精神力で実現させる』技術のことだね。もう少し言うと、肉体の力だけでは達成できない目標を、精神から汲みあげる力で足りない分を補って目標を果たすための技術。
「魔法のための力は人の精神から来るみたいに言ったけど、必要な力を全部精神から汲みあげたらあっという間に人間はだめになっちゃうよ。だから他のところからもらったり、節約したりする。その方法で魔術の種類は分かれるね。
「魔術の分類は力の使い方だけじゃなくて、発動までの細かい原理でも分類されるよ。具体的にいうと、力を直接相手にぶつけるか、それとも他の何か、精霊とか魔獣とかを操るのか。そのための命令文は言葉か、音楽か魔法陣みたいな図かそれともテレパシーか。
「この間の魔法使いさん、キキョウを例にとると、力は節約して自前のを使って、操るのは五大元素、命令法は言葉と簡単な図。五大元素っていうのは自然現象を構成する根本的な要素で、火・水・風(空気)・土、それに加えて光の伝搬とか目に見えづらい現象を司る元素エーテルを合わせた五つのこと。ていっても五大元素は絶対的に存在するものじゃなくて、ただ単に現象を分かりやすくとらえて操作しやすくする論理で、だから四大元素論とか陰陽五行論とかも存在する。キキョウのは火・風・土は水から生じるから水の術式で四大元素論の魔術を全部まとめつつ、エーテルの元素も使って足りない部分を補ってるって感じ。
「次の例はジュンお兄ちゃん。ジュンお兄ちゃんの使う魔術は特別に『聖霊魔術』っていうね。パワーソースは上位存在からの信仰を条件とした供給。送られてくる力が大きいから力そのものをぶつけている感じで、そのための命令は言葉――聖句と、寓意絵。聖符を使うと術の発動までの手順を省略できるよ。キキョウの使う魔法って言うのは自分で理論の細かいところまで理解しつつ、自分で命令文を作らないといけないんだけど、聖符っていうのは偉い信徒達が作った魔術を彼らを讃えることでそっくりそのまま発動できるようにしたもので、ある程度魔術のことを知っていて信仰さえ深ければ簡単に使えるの。
「それと聖霊っていうのは、一神教でいう三位一体、父と子と聖霊のことだね。聖霊は『言葉によって与えられる愛』、これを言い換えると『神から与えられる力』であり、聖霊もまた五大元素と同様、実際に存在するものではなく概念として考えられるものでエネルギーそのものっていうふうにも考えられるね。エーテルの元素に対応するとも考えられるけど、聖霊は信仰の強い人に従うようになっているから」
「ナナお姉ちゃんのは命令文も術式もあったものじゃなくて、ただ単に力をぶつけるだけだよね。しかも、その力は自分の中から来てる。そういうところは全然人間ばなれしてるんだよね」
「父、子、精霊……、『子』ってなにかな、ジュン?(神恵)」
「知らん。そもそも『三位一体』は一般的な教義には含まれていない。魔術師の使う啓典『ヘルメス』にしか書かれていないしな」
「じゃあ、どうやってジュン達は魔法を使うの?」
「信仰が力になる、それだけで充分だろ」
「ふーん。――ソウジは魔法の勉強したりしないの?」
「あれ難しんだぜ? 術式を覚えるだけじゃなくて、道具を揃えて、魔力を操作するための回路を身体と精神に刻まないといけないんだよ」
「やろうとしたんだ(神恵)」
「そりゃ、強くなりたかったからな。ま、でも槍一本でもなんとかなったし、今はジルコニアがいるからな」
「吟遊詩人の『音楽』? あれはどういうものなの?」
「んー、その話はまた今度、あたしがいっぱい活躍したら教えてあげる」
奏治君の影が薄いです。