__ する事に決めさせられた
森の中、光の降り注ぐ少しひらけた場所で、少女が二人、仲むつまじく向かい合って座り談笑していた。
木々の狭間から見える青空と同じ色のモブカットの少女と、幹に踊る木漏れ日の色のセミロングの少女。青い髪の少女は膝に灰色縞模様の猫を抱いていた。
「最近うちさ、リフォームしてて落ち着かないんだよね。私はまだ我慢できるんだけど、スレッチが嫌がって逃げ出しちゃうんだよね……」
「猫だから、別にお出かけしてもいいんじゃないの?」
「そうなんだけど、ほら、さっきの奴等がうるさいんだよね。――何が気に入らないんだか知らないけど、スレッチに悪戯されたら嫌だから、なるべく外に出て欲しくなくて。――でも、本当は紐なんか付けたくなかったよ」
「猫さんもあんまり好きじゃないみたいね。あたりまえだけど。――でも、花憐、そんな顔することもないよ。スレッチさんもカレンの気持ちはよくわかってるみたいだから」
「そう……? ――ところで、なんで神恵はスレッチにさん付けするの?」
「あぁ、うん、スレッチさんは結構大人みたいだから。ていうか、お婆ちゃん? ちょっと頑固で気難しい感じ――私の好きな人とよく似てる」
『お婆ちゃん』――その言葉に反応して、スレッチが、みぁお、と不機嫌に鳴いた。
カレンは青い瞳を丸くした。
「カミエって、不思議。さっきから思ってたけどさ、スレッチと話しできるの?」
問われ、カミエは少しだけ笑顔を苦くした。
つ、とすぼめられた桜色の唇に、カレンは眼を奪われてしまう。――かわいい、と。
「…………」「あ、別に変とか、そう言う意味で言ったんじゃないから。だからさ、そんな顔しないでよ」
「――そんな顔しないで、か。さっき私も同じこと言った」
ぷ、と二人の少女が吹き出す。
さわさわと木々の葉が囁くなか、少女達は声を合わせて笑った。
「私、もうわかってると思うけど、ちょっと普通の人とは違うの」
「わかるわかる。――自分のことを人と違うって言うところからして、もう変人だよね」
「――もう! どうしてそういうこと言うかなっ?」
カミエが白い頬を膨らませた。
その綿飴のような甘いふくれっ面。カレンが自分が思っていた以上に笑ってしまったのは、カミエの表情が持つ心を和ませる不思議な魅力のせいだったのだろう。
「もう……笑いすぎっ」
「ははは……ごめん。でも、別に良いんじゃないの? 猫と話しできるなんてうらやましいし――スレッチを探してくれたのも、あんたのその、変わったところ、のおかげでしょ? ――だったら、私が嫌う必要もないわけじゃん」
その時、不意に日が翳った。
顔を俯かせて、カミエが言った。
「でも、それだけじゃないよ。さっきの男の子たちを追い払ったの、私の変なところ――私の怖い部分だよ」
カミエの言葉に、カレンはどきりとした。
先程の彼女の威圧感――それは忘れたくても忘れられるものではない。こうして親しく話して、彼女の愛らしい笑顔を見ていても、あの絶対的な威圧感は魂に刻みつけられたように拭いきれなかった。
怖い――確かに、怖い。だが、
―――ちちち……小鳥の声が聞こえた。
カレンはひきつりはじめた顔の力を抜いて、ゆっくりと微笑んだ。
「気にしないよ。――――かっこいいじゃない……!」
台詞の後半で、とくに声を励まして彼女は言った。
―――サァ、と陰っていた陽が戻ってきた。
見開いたカミエの瞳は、雨あがりの極上の空のように澄んだ青だった。
「私もあれだけ、気配だけで人をびびらせることが良いのにな。あいつらさ、はじめて私と会った時も絡んで来てさ、おどかしてもいなくならなくて、面倒くさいからぶちのめしてやったんだよね。そしたら、もうずっと私に付きまとって来るんだよ。本当、どうにかならないかな」
「ぶちのめした? ふ……ふふふ……あははは……、カレンもかっこいいね」
ためらいつつも、カミエは笑い始めた。
その笑顔に、不可思議なくらいの幸福感をカレンは感じた。――無条件に人を恐怖させることのできる彼女は、無条件に人を幸福にできるのだと、カレンは思い、そして彼女と声をあわせて笑った。
そうして、ひとしきり笑った後、カミエは草を払いながら立ち上がった。
「――じゃ、そろそろ帰るね。今日はありがとう」
「もう行っちゃうの? まだ昼は長いよ。――うちに来ない? 改築中で落ち着かないかもしれないけど」
「うーん、どうしようかな?」
――カミエが思うのは、ただ一人の少年。不機嫌で、不器用で、心優しい騎士。
「でも、少し一人にしてあげた方が良いのかな……?」
「え? 何か言った?」
「ううん、独り言。――じゃあ、もう少し遊んじゃおうかな?」
○
「はぁ……あいつ、いったい何だったんだ?」
先程、カレンに絡んでいた少年たちだ。
カミエの前から逃げ出し、その恐怖が抜けるまで彼らは森の中を宛てもなく走り回っていた。
彼らが走り、そして立ち止まった森の中は、まだ恐怖で薄暗くなっているような気がした。――迷っては、いなかった。山間の村の中で、とくに腕白な彼らは、その周囲の森のことも隅々まで知っていた。
「ちっ……あの女、次あったらただじゃおかねぇ」
少年の一人が、すぐ近くに落ちていた丈夫そうな木の枝を拾いながら言った。
「でも、あいつ絶対やべぇよ。――関わらない方が良い」
「そうだ。旅人だって言ってたし、放っておけばすぐいなくなるぜ」
「ふざけんなよ……舐められっぱなしで済ませるかよ。あの女も、カレンも、絶対俺達の前で這いつくばらせてやる」
ぐじぐじと少年たちは話しあった。
――がさ、と不意に藪が鳴った。
思わず身を竦ませる彼ら。だが、すぐにそれが何者かの接近を知らせるものであることを知る。
「――誰だ!」
その何者かは答えず、ただ黙したまま姿を現した。
肩に飾りのついた軍服の様な、窮屈そうなローアンバーの衣装に身を包んだ痩躯の男。年は二十代後半くらいでまだ若さが感じられるが、形の良い太めの眉は気難しそうな印象のあり、白い肌も神経質そうな感じをもっていた。髪の色は重々しい藍色。背にはなめし皮のマントをつけていた。手に持った銀色の杖は先端に、液体を入れられる様な小さなカップ状の蒼い宝石がついていた。
薄めた毒のような、異様な気配がした。――先程の女もやばかったが、こいつからもやばい気配がすると、少年たちは直観的に悟った。
だが、そこで下がる彼らではない。先刻カミエに追い払われた鬱憤をこの異様な男にぶつけるべく、彼らは喰ってかかった。
「なんだてめぇ……! 余所者が偉そうに突っ立ってんじゃねぇよ!」
「そのへんな格好はあんだよ!」
「しゃーべーれーよ! 口ねえのか!」
なまじっかカミエのような絶対的な威圧感がない故に、無知な少年たちの勢いは止まらない。今にも男に掴みかかりそうな気色だった。
だが、世の中には剥き出しの剃刀よりも危険なものがある。つまり、威圧感は凄まじいまでも、実際には手を出してこなかったカミエより、恐るべき人間はもちろんいるということ、少年たちはそれを知っておくべきだった――――が、山間の村から出たことのない井の中の蛙がそのようなことを知る由もなかった。
「騒がしいぞ……駄犬が」
ばさばさ……鳥の羽ばたきが騒がしく森に響いた。
ぎり、と少年の一人が奥歯を食いしばる。眼は狂犬の如く紅くギラギラと光り、
唸り声をあげ、男に向かって突進した。
「……!」
男はマントを翻しながら少年の突進をかわした。
だが、残りの二人も男に向かって殴りかかった。
男の薄い紺色の瞳が、鈍く輝いた。
「赤き水よ、その束縛から逃れるがいい」
その瞬間、赤い花が咲く。
森の閑けさが切り裂かれた。
赤い花が咲いたのは、少年たちの足の上。それは、血液――血飛沫という流体の華だった。
「少年よ、身の程を思い知れ。お前たちは所詮、この世界を構成する元素によってつくられている存在にしか過ぎない。時が来れば元素の結びつきは解け、死する運命。ならばその時まで、慎ましげに生きるのが良いとは思わないか?」
三人の少年がそれぞれ片脚を血で濡らし、悶えている光景を冷然と見おろしながらその男は言った。
「何か答えろ」
「……」
「おい……!」
「う、グゥゥゥゥゥ――――」
獣のように呻いた一人の少年。血管の破裂した片足が急速に再生され、その感覚に悶えたのだった。
「さぁ――」
「……なに、いってんのか、わかんねぇよ…………」
「ふん……分からないか。――要するに、更生しろと言っているんだ。お前たちはそうやって少なくない者達を困らせてきたのではないか? これを機に、身の程をわきまえた生き方をしろと言っているんだ。――答えは?」
「……畜生…………」
「私は寛大だ。だが、更生もできない駄犬を野放しにするほどではない。『悪に対して向けられる関大は、犯罪である』――聞き入れぬのなら、その身を万物の源である水に還してやろう」
そして男は、低く、何事かを呟く。
少年たちの足が癒され、ほどなくして彼らは立ち上がる。――もはや、そこに凶暴な光はない。
かさかさと風が吹く中、弱弱しい視線を向けてくる少年たちに男は言った。
去れ、と。
少年たちは静かに家路へとついた。彼らの背中が視界から消えるまで、男はそれを見送った。
そして、言った。
「しまった。道を聞けば良かった……あるいは、彼らについて行けば良かったか」
○
カレンの家は大きかった。周りの家に比べて抜きんでていた。材質は周囲と同じ木造だが、丸太をぜいたくに使った頑強な作りで、ドーム型の屋根はつやつやと輝いていた。――半分は。
屋根の半分は壊されて造りなおされている。その作業には四人の男達が取りついていて、
「あ、ソウジー!」
ねじり鉢巻きをつけた織深・奏治もそれに混ざっていた。
神恵が家のしたに駆けつけると、ソウジは二階分の高さがある屋根の上から軽快な動きで飛び降りた。
「よう、カミエ。どうしてここに?」
「ん? 私はこの村の子――ここの家の子に遊んでて、招待されたの。ね、花憐」
「うん。――あ、こんにちは」
褐色の肌の長身の青年にカレンは頭をさげた。
「どうも。リフォームはもう少しで終わるらしいぜ。家の半分は使える。――あんたの親父さんはあそこにいるけど」
「知ってます。お父さんのことも。――カミエ、行こう」
「うん。ソウジ、あとでね」
家の中は、白檀にも似たしっとりした木の香りに満ちていた。改築のせいで、家の中はおが屑が空気に舞っている状態でもあったが。
素敵な家、とカミエは言った。黒い木の家具はどれもデザインに優れていて可愛らしかった。リフォームしていれば散らかっていそうなものなのに、家の中は埃っぽいだけで整理整頓はよくされていた。くつろげる雰囲気がカレンの家にはあった。
「私とお母さんがちゃんと片付けしてるから」
その言い方には棘があった。
そう言えばリフォームにしてもあまりいい感じには言わなかったし、さっき家の外を見ていた時も不機嫌そうな顔つきだった。――そんなことをカミエは振り返りつつ、訊ねてみた。
すると、カレンが答えるには、
「お父さんは見栄っ張りなんだよ。別にリフォームする必要なんてないのにさ、こんなうるさくしちゃって。――しかも、家族だってお祖母ちゃんとお祖父ちゃんがいるだけでそんなに多くないのに、こんな大きな家にしちゃって、恥ずかしいったらないよ」
「ふーん。私はこの家好きだけどな。大きいのだって、悪くないと思うけど。ま、それはいいや。――お祖父ちゃんとお祖母ちゃんがいるの? 他に家族は?」
「この家に住んでるのは、お父さんとお母さん、お父さんの方のお祖父ちゃんとお祖母ちゃん、それと私と弟。弟は……どっかで遊んでるんじゃないかな? お母さんも家がうるさいからあんまりいないし。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんも出かけるか、部屋に立てこもってるか、どっちか」
「――家族、いっぱいいるんだね」
少ない方だ、とカレンは思う。村という人口の少ない集団では、家族が多く集まって暮らすのが普通で、働き手を増やすために子供は多いのも普通。だがカレンには弟が一人いるだけだし、母方の祖父母とは家を別にしている。
父親に抗議してリフォームの手から逃れた自分の部屋に、彼女はカミエを招いた。
部屋に入ったカミエは、遠慮しない様子できょろきょろと部屋の中を見回し、これかわいいー、とカレンがあまり気にいっていない木彫りの熊を取り上げ愛で始めた。
ドアを閉め、愛猫スレッチをベットの上に降ろして、カレンははしゃぐ自分が連れてきた少女を冷静な目で観察した。――こうしていれば、ただ凄く可愛いだけの女の子なのに、と。だが、彼女の運命に落とされた影をカレンは感じ始めていた。
「あんたは? 家族いないの? ――ていうか、どうして旅してるの?」
「――聞きたい?」
そう問い返されたとき、カレンは聞いてはならないことなのだと薄く悟った。だが、ここで止めるのも不自然で、彼女にとっては慣れないことだった。
だから、聞いてしまう。
「でも、旅の理由は教えないよ。――聞いたら、ショックだと思うし。――家族はね、もともとお母さんしかいなくて、私が旅に出る前に死んじゃったよ。お母さんは優しく、頑張り屋さんな人だった。お父さんは頭のいい人だったって聞いてるよ」
「そう…………やっぱり、聞かない方が良かったね」
「気にしないで。――本当に聞かないほうがいいと思うことは話してないし」
そう言って、カミエはにこりと笑う。
――急に、空が掻き曇ってきた。
空模様と同じくらい、読むことのできないカミエの表情。――カレンは途方に暮れ、何も言うことができなくなった。
「……ねぇ、何かしない? お話ししてもいいし――私、チェスとか好きだよ。お父さんが得意だったらしくって、お母さんに教えられたの。カレンのお父さんは細工とか好きそうだから、チェスの駒もあるんじゃないの?」
「あ……そうね。私はあまり強くないけど。――そういえば、まだお茶とかも出してなかったね。お菓子とかあった方が良いし、外歩いたからおやつも欲しいし。――ちょっと、台所行ってくる」
「あ、私も行ってもいいかな」
少女二人、連れ立って台所へ向かう。――部屋を出るときは、しっかりドアを閉めて猫は出さないようにした。
台所もまた素敵だと、カミエの目には映った。調理台は広く、調味料や器具のおかれる棚は大きくしっかりしている。竈も見た目が美しく、使いやすそうでもあった。
「カレンはお父さんのこと、あんまり好きじゃないのね」
「……カミエはお父さんがいないから、私のことが理解しづらいんだよね」
思わず、そんな卑屈な言葉が口をついた。
はっとしてカミエを見ると、しかし彼女は特に気にした様子もなくただ不思議そうにカレンのことを見ていた。
「分からなくはないよ。――多分。でもそれは別にして、せっかく家族がいるんだから、好きでいてあげなきゃ可哀そうだと私は思うな。――この家の家具も、この家自体も、とっても使う人のことを考えられて作られてる。作ったのはお父さんでしょ? こういう物を作れる人なら、きっと良い人なんだなぁって私は思うんだけど」
「……カミエの言う通りだけど、お父さんは結局、自己満足にこういうものを作るのよ。お父さんの作った物が便利だって喜んでくれる人は結構いるけど、それと同じくらいで、お父さんの偉そうな態度が気に入らないって、お父さんと私たち家族を嫌う人がいる。――見てるようで、見てなくて、だから私は嫌。私達に気を使ってくれるなら、スレッチやお母さんが家から出ようとはしないでしょ」
「不器用なんだね、お父さん。口や態度にすることができなくて、だから一生懸命ものを作るんだよ」
とても優しく、甘くカミエはほほえんでいた。まるで愛を説く伝道師のようで、カレンは胸の中に渦巻いていた濁った思いと共に言葉を失った。
片方が沈黙すると、もう一方も喋らなくなり、トントンと屋根を叩く作業の音と、お菓子を求めて自分たちが戸棚を漁る音しか聞こえなくなった。
空がいよいよ雲に覆われ、柔らかい薄闇が灯りをつけていない台所を包みこんだ。
湿っぽい空気が……とカレンは思う。――だが、心の中にある思いと向き合うには持って来いの雰囲気でもあった。
そうして、しばらく二人は黙々と戸棚を探していた。
「うーん……無いみたいだ」
少し長い時間のあと、カレンが静かに言った。
「そうなんだ。まあ、私は別に良いけどね」
「…………」
その時、ぐるぅぅぅぅぅぅ、と獣の唸り声のような音が聞こえた。
といっても、敵の気配に敏感なカミエは、それが危険なものだとは感じない。ただ、何だろう、と首をひねるだけ。
そしてカレンはと言うと、恥ずかしげにお腹を抱えていた。
「――作ろうか?」
すべてを理解したカミエが言った。
「材料はあるみたいだし、竈やオーブンは使えそうだし、クッキーくらいならすぐできるよね」
「よし……乗った! やろう!」
薄闇に包まれた台所に、少女二人の活気が放たれた。
「それでね、とりあえず作ってみたんだけど、微妙に炭になっちゃっておいしくなかったの。やっぱり人のオーブンだと使い勝手がわからないんだよね。はい、これ、一つだけあげる」
「お、サンキュ。――これは良く焼けているみたいだな」
「そりゃ、人にあげるのに真っ黒の奴とかは出さないよ。でも、黒くてもとりあえず小腹を満たすには十分だったよ」
「そらそうだぜ。食いものには違いないんだから」
宿の前のルーフで、カミエとソウジの二人が束の間の談笑をしていた。
ルーフの外は雨。降り始めた空の下、二人は揃って、須藤・花憐の家から宿まで走って帰ってきたのだった。
「楽しかったか? ちらっとしか見てないけど、ずいぶん仲良くなったみたいだな」
「うん。久しぶりに、まともに女の子と話したってかんじ。――いや、ジルちゃんと毎日話してるけどね」
「どんな話ししたんだ? ――いや、別に良いか」
ソウジが思うのは、彼女が『黒き月の独り子』ということ。――自分たちの明るくも、暗い運命の旅のこと。だが自分が聞くべきことではないと思い、取り消そうとする。
しかしカミエはそれに答えた。
「別に、大した話はしてないよ。だって、話したってしょうがないことが、私には多すぎるし。――可哀そうじゃない? 私だって、それくらいの心はまだ持ってるから」
「……そうだな」
――その台詞が、一番聞きたくなかった。
ソウジは苦々しく思った。だがカミエは、気鬱な雨模様も吹き飛ばすような楽しげな笑いで彼の顔をみるだけだった。
「でも、私が普通じゃないってことぐらいは教えたよ。けどカレンは気にしないって言ってくれたんだ」
「そうか……! よかったな」
本当に良かった。それは純粋に思った。
「明日も行くよな?」
「もちろん。約束しちゃったもん。――何するかは、秘密ね。ソウジには教えてもいいけど、ジュンに秘密だから」
「そうかい。じゃ、そろそろそのジュン君に会うか」
バトルファンタジーのはずなのに戦闘が無い……