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水の無い川  作者: 京夜
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裸押合大祭 1


 3月に入った最初の日曜日、雪解けは始まったもののまだまだ雪が残る浦佐でお祭りが行われる。


 越後浦佐毘沙門堂裸押合大祭。


 1200年前、坂上田村麻呂が毘沙門堂を建立した際に、祝いの場で歌い踊ったのが始まりと言われる、由緒あるお祭りだ。

 正月の御開帳に、誰よりも早く参拝しようと押し合う熱さと、身を清める水行をおこなうことから、しだいに裸で行う人が多くなり、現在の裸押合まつりになったという。



「こんな寒くて雪深いのに裸って、信じられない」

「それがやっている人達はそれほど寒く感じないそうですよ」


 私の素朴な感想に、ころころと上品に笑いながら答えてくれたのは、まさに主催となる毘沙門堂の奥様、翠さんだ。

 往診の時に、


「先生、ご存知ですか?」


 と言って、説明してくれた。

 かなり大規模な祭りで、ふだんは静かな浦佐の街が、その日だけは熱気でうまるという。


「それは見てみたいですね。私も参加できるのですか?」

「先生、裸押合ですから、男性だけですよ」

「そりゃあ、そうか」

「はい」


 裸と言っても、下は履いているよな……と邪なことを考えていると、


「白いふんどし姿で、大きなろうそくを持って浦佐の街を練り歩くんです。堂内に入ると、そこの池に飛びこんで身を清め、お堂に向かって押し合います」


 と説明を加えてくれた。

 ふんどし一丁の男性の大群が、お互いに押し合う姿を想像する。

 うーん、見てみたいような、見たくないような。


「御本尊様も開帳しますので、盛り上がると思いますよ」

「いつもは開帳しないのですか?」

「恐れ多いですからね、本来は扉の向こうにいらっしゃるだけです。開帳はしていても、直接見てはいけないとも言われています。たどり着いても、頭を垂れてお祈りするだけですよ」


 毘沙門様か……たしか仏教における仏神で、四天王の一人だ。

 今まではあまり知らなかったが、この街にいると「毘沙門様」と言われ、本当に根付いた信仰を感じる。


「それは凄いですね。私も見てみたいな」

「先生ならいいですよ、お見せしましょうか」

「……いえ、ありがとうございます。遠くから拝ませていただきます」

「先生も浦佐の人になってきましたね」


 翠さんはそう言って、また穏やかに笑った。



 街の人にとってこの祭りは本当に大切なようで、お祭りが近くなると空気が変わってくるのを感じた。

 地元から離れていた男衆も、この日だけは帰ってきて必ず祭りに参加するのだという。

 圭吾も当然、参加するという。


「出るんだ」

「出ますよ。ここに住む男なら、出ないという選択肢はありません。心が沸き立ちます」

「そこまで」

「そこまでです」


 いつにない、真剣な顔だ。

 イケメンがきりっとした顔をすると、どきっとするなぁ。

 やばい、顔が赤くなっていないか心配だ。


「先生もぜひ、見に来てください」

「見に行く、見に行く。楽しみ」




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