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水の無い川  作者: 京夜
24/31

スキー 2



 スキーを終えて、すぐに大浴場で汗を流し、すぐに大広間で夕食。

 今度は我慢することなく、乾杯の後にすぐに生ビールを一気に飲んだ。


「かぁー! 運動の後のビールはうまいなぁ」

「……この見かけとのギャップのある言動。私達は慣れましたけど、公共の場では控えたほうがいいような気もします。何か捕まりそうで」

「捕まらないよ……」


 いい加減慣れたけど、いつまでたっても言われるね。少しは見かけも成長したはずだけど、今は化粧もすべて落として、髪も洗った後だしなぁ……。


「先生、明日を楽しみにしてくださいね」


 語りかけてきたのは、右斜め前に座る幹事の関さんだ。彼は、ほぼ休憩せずに滑り込んでいた。本当にガチのスキーヤーだ。


「楽しみって?」

「さっき雪が降り始めていたじゃないですか」

「あっ、そうですね」

「明日は新雪を楽しめますよ」

「はい」

「リフトを一番にのりましょう。ぜひ先生にも、あの新雪の滑りを体験して欲しい」

「……わかりました」


 関さんのテンションの高さがわからない。確かに、新雪を滑った経験はそうはないが、それでもスキー場で雪が降っていたことはあるし、一部に新雪が残っていて踏み込んだこともある。

 柔らかいなぁ、と思ったけど、それほどのものかなぁ。

 まあ、明日の楽しみにしようか。


「うーん、でも久しぶりの運動で、筋肉痛になりそう。明日滑れるかなぁ」


 見かけはどうであれ、身体は嘘つけない。

 それほど最近は運動をしている身体でもないしね。


「あっ、よければマッサージしましょうか」

 そう言ってくれたのは、横に座る圭吾だ。


「あっ、やってやって! ……あっ、でも圭吾も疲れてない?」

「大丈夫ですよ。得意なんで任せてください」


 美味しい店を知っていて、運動もできて、フォローもできて、お酒も飲めて、イケメンで、高いところの物も取れて、マッサージまでできるのか……。


「一家に一人欲しいなぁ」

「私ですか?」

「うん」

「……まあ、そう言ってもらえるのは嬉しいです」


 そう言って、彼はいつもの笑顔を浮かべてくれた。



 寝てしまってもいいように、とマッサージは私の部屋でやってくれることに。

 4人部屋だけど、他の部屋員たちは再度お風呂にでかけたり、もう少し飲みに他の部屋にでかけたりして、圭吾と二人っきりになってしまった。

 まあ、もはや気にする間柄でもないが。


「じゃああかりさん。うつ伏せになってもらっていいですか?」

「はいよー。手はどうしたらいい?」

「好きな体勢でいいですけど、腕もほぐしますので、できればやや下の方に」

「了解」

「ごめんなさい、上に乗らせてもらいますね」


 うつ伏せになった私の上に圭吾が乗ってきた。とはいえ、ほとんど体重はかけてきていないので、体勢的にきつくないかな、と心配にはなったが。


「最初は首からいきますね」


 そう言いながら、大きくて柔らかな手が後頭部に近い、首の付根をゆっくりとほぐし始めた。

 やってもらうと解るけれど、このあたりはほぐしてもらえると凄く気持ちがいい。医学的にも肩の筋肉が最終的に付着している部分で、実はこりやすい場所なのだ。


「あっ……気持ちいい……」

「それは良かったです……ただあまり色っぽい声で言われると……」

「外で聞いている人がいたら、勘違いしそうか」

「はい」

「でも、上手。気持ちいー」


 圭吾もこんどはクスっと笑ってくれた。

 首から肩にかけてゆっくりともみほぐすと、今度は背中から腰の筋肉をほぐしていく。


「あ゛ぁ……そこ、いいわ……」

「こってますね。やっぱり身体は年齢相応と言うか」

「うるさい」


 そう言いながら、圭吾は丁寧に揉みほぐしてくれた。

 なんか温かい手に気持ちまでゆっくり解けていくようだ。


「寝てもいいですからね」

「……寝てしまいそう。もし寝ちゃったらごめんね」

「いえいえ、どうぞ」

「寝ちゃったら、ちょっとぐらいなら襲ってもいいから」

「……これで十分です」

「……いま、私、襲われているの?」

「絶対に違いますけどね」


 人の手って不思議だ。

 「手当て」という言葉がある。

 医療でも、ちょっとした傷の処置をしたりする時に「手当てをする」と言ったりするが、まさに「手を当てる」ことが医療なのだ。

 人のぬくもりが、身体を心を癒やしてくれる。


 そして、それはもしかしたら、手を当ててる方もまた、同じ癒やしがあるのかも知れない。


「……あの、もしかしてブラしていないのですか?」

「今ごろ気づいたか。お風呂出たら、Tシャツにパンツに浴衣よ」

「…………」

「ささやかだから、誰も気づいていないって。今だって背中を触ってようやく気づいたんでしょ」

「まあ……そうですが」

「仰向けになって、胸をマッサージする時は言ってね」

「……やりませんよ」

「かろうじて、洗濯するようにはならないと思うよ」

「言いながら泣かないでください」

「うるさい」


 当たり前だけど、異性にマッサージしてもらうのは初めてだ。

 こんな軽口を叩いているが、私は処女だし、胸を触られたこともない。

 なんだろう、信頼なのかな……。


 圭吾は腕から指先まで、足も付け根から足の指先まで、丁寧にほぐしてくれた。

 たぶん、40分ぐらいか、それ以上かけてくれたと思う。


「終わりましたよ」

「……ありがとう。本当に楽になった」

「それは良かったです」

「お返しにマッサージをしてあげたかたけど、もう無理そう。寝ていい?」

「もちろん」


 圭吾はにっこり笑って、布団をかけてくれた。


「電気は皆さんが帰ってくると思うので、そのままでもいいですか?」

「大丈夫。ありがとうね」

「どういたしまして」


 そう言って、圭吾は静かに出ていった。

 ありがたくて、申し訳ない。

 何かを返してあげたい、と思いつつ、私は疲れもあってそのまま眠りについてしまった。




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