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水の無い川  作者: 京夜
23/31

スキー 1

 病院にはいくつかクラブ活動がある。

 義務は何もなく、ただ好きな活動を好きな人達が集まってやっているだけのもの。

 私はせっかく新潟に来ているのだからと「スキー部」に入った。

 学生の頃にスキーにのめり込んで、検定で2級までいただいている。これだけスキー場に隣接しているのだから、時間があればスキー場には行きたいと思っていた。


 そんな時、スキー部で合宿があるというので、


「うん、解った。参加する!」


 と返事したのだが、「ん? 合宿? この近辺に腐るほどスキー場あるけど……」と疑問が浮かんだ。

 疑問を抱えたまま参加したのだが、貸し切られたバスの中でこう説明された。


「新潟の雪は湿って重たい。スキーをするなら北海道とか東北とか、今回行くような所の方がいいんです」


 ……いいんでしょうか、越後湯沢や苗場という超有名なスキー場を抱えている新潟でそんな事を言って……。

 まあ確かに重たいかな、と思うけど、十分に楽しいよ! 温泉もあるし、私は十分満足している。


 今回は、長野県にある栂池高原のスキー場に向かっていた。3時間もバスに揺られて少し疲れてしまったが、みんな本格的に滑ろうと考えているのかビールも飲まない。

 ちょっとお酒の飲むの楽しみにしていたのにな。

 今回の参加人数は、18名。幹事はリハビリの関さん。50歳ぐらいと年齢はいっているが、誰よりもスキー好きで、スキーに対してストイックな人だ。

 理学療法士という職業もあって、筋肉質の体は年齢を感じさせない。


「あかり先生、大丈夫ですか? ちょっと酔いました?」


 圭吾はいつものように一緒に参加してくれている。

 保護者のように世話を焼いてくれるが、煩わしさはない。むしろ甘えさせてもらって申し訳なくも感じるけど、彼もそれが楽しいという言葉を信じることにしている。


「ちょっと酔ったかな。どうせならビールで酔いたかった」

「夜にはビールが出ますから、それまでは我慢してくださいね」


 そう言って笑ってくれる彼の笑顔が眩しかった。



 ホテルに着いたら荷物を預けて、すぐにスキー場に向かう。

 思っていた以上にガチなクラブ活動だ。

 とは言っても、スキー場に着いたらそれぞれに合ったレベルの場所で好きなように滑るだけ。教えてもらうこともできるけど、楽しんで滑ることが一番だ。

 麓で十分に体をほぐしたら、私は幹事の関さんたちとともに、頂上までゴンドラやリフトを用いて上がる。

 今日は曇り空でさすがに寒いけど、その分確かに雪質はいい。

 踏み込むと、きゅっ、という雪が心地よい。

 吐く息が白く水蒸気になって、氷のようにきらめいていく。


「さあ、じゃあいきましょうか。怪我だけはしないように」


 関さんの言葉の後、私達は滑り始めた。


 さすがに雪国の人たち。みんな上手だ。

 まあ頂上まで一緒に来る人は、当然上手か。

 私もみんなの後を追って、滑り始めた。


 確かに雪深いし、雪質がいいと滑りやすい。

 ターンがしやすいし、腰や膝にかかってくる負担が少ない。

 冷たい風が、火照った肌を過ぎていくのまで心地よい。


「先生、上手ですね」

「ありがとう。みんなも上手だね」

「小さい頃からやっていますからね」


 声をかけてくれたのは、病棟看護師の桃田さんだ。

 まだ結婚前の若い女性の看護師さんで、スキーが大好きという。


「やっぱり小さいときからみんなやっているんだ」

「学校の授業でもやるんです。スキーと言うより、カントリースキーでしたけど」

「歩くの?」

「けっこう歩きますよ。でもそれで、スキー板に乗ることは慣れましたけど」


 県民性を感じる。

 みんながみんなスキーをするわけではないけれど、スキーをやっている人はやっぱり多いと思う。


「あかり先生はいつやっていたんですか?」


 いつの間にか隣まで滑ってきていた圭吾が、ゴーグルを上げつつ聞いてきた。ちなみに彼も当然のように上手だった。


「私は高校から。それまではテニス漬けの毎日だったんだけど、肘を痛めちゃって辞めたら、暇で暇で。冬はスキーにはまってしまった」


 テニスはよくやったなぁ……いろいろな大会で優勝したりして、けっこうのめり込んでいたけれど。肘を痛めて、これ以上は目指せないな、と解ったら何か他の競技もやってみたくなったのだ。


「高校からでそんなに上手なんですね」

「ありがとう。検定2級程度だけどね」

「十分上手です」


 そう言われると嬉しいね。


「よし、もっと滑ろう!」

「はい」


 私達は夜が暮れるまで滑り倒した。




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