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水の無い川  作者: 京夜
21/31

クリスマス 2



 ……。

 …………。


 朝が来た。

 自分の家。自分の部屋。

 そして、自分の布団。

 ここまではいい。


 同じ布団の中に圭吾がいる……。


 えーっと、記憶をたどってみよう。


 確か、勝負は引き分けたのだ。

 お互いにお腹が膨れて、もう入らなくなって、引き分けで了承したのだ。

 ビールじゃあ、アルコール度数が低いよね、とか何とか言いながら。


 それで私の車を代行で運転してもらって……。

 そのあたりから記憶が曖昧だ。


 いやべつに私も服を着ているし、彼も服を着ているから、何かあったわけではないのは解るが、一体何がどうした。


 私がひとり布団の上で考える人になっていたら、圭吾も目が覚めたようだ。

 すこし眠たげに目を開けて、ゆっくりと身体を起こす。

 イケメンは寝ぼけていても絵になるね。


「あっ、あかりさん……おはようございます」

「うん、おはよう……すまない。状況が把握できない」

「あっ、そうですね、えーと。どこまで憶えていますか?」

「車に乗ったあたりまでかな?」

「あーなるほど。そこからですね」


 圭吾も布団に座って話し始めようとしたが、ちょっと部屋が寒い。

 なにはともあれ部屋の暖房を強くして、目覚めのためのコーヒーを淹れることにした。

 ガスファンヒーターの設定を変更し、ネスプレッソの機械の電源を入れて、温かなコーヒーをふたつ用意する。

 そこまでの過程で、私の心もすこし落ち着いてきた。

 何もなかったと思うが、朝チュン、の経験のない私としてはどうしても不安がつのる。


「……はい。心の準備ができたので、教えて下さい」

「はい。いつものようにあかりさんの車に代行を呼んで運転してもらい、佐々木さんを送り届けました」

「うんうん」

「その後、いつもなら私の家なのですが、不安だったのでここに先に来てもらいました。いざとなったら歩いて帰ろうと」

「なるほど」

「あかりさんも良い感じに酔いつぶれ始めていたので、肩を貸して部屋まで連れて行って」

「うん」

「暖房をつけ、布団の上に転がし」

「うん」

「さて帰ろうかな、というところで『寝つくまでここにいろ』と」


 Oh…


「…………続けてくれ」

「ベッドのかたわらにいたのですが、逃げないように袖をつかまれていまして」

「……ああ……読めた」

「寝ても離してくれなくて、私も睡魔と寒さに負けて……」

「……解った。よく解った」


 恥ずかしい……まるで子供だ。

 酔わせて本音を吐かせる予定が、私のほうがやってしまったのね。


 私はすみやかに土下座した。


「私が悪かった」

「いえいえ、顔を上げてください。私の方こそ、変な噂が立ってしまったらごめんなさい」


 圭吾も一緒になって土下座してくれた。

 なんかもう、優しいな。


「いや、そのぐらいはまあいいよ。私が甘え過ぎだな……本当に悪かった」

「いえ、こちらこそ」

「……で、胸をもんだのか?」

「……はい?」

「いや、触りたそうだったから」

「……触っていませんよ」

「どうせ小さいからね」

「そんなこと! ないですよ……」


 どう答えても地雷のせいか、最後の方は声が小さくなっていた。


「……その、布団に入らせてもらった時、すり寄ってこられた時はやばかったです」

「やばかった?」

「……理性が……」

「……私に、女を感じた?」

「……それは割といつも」

「……そうなんだ」


 ふたりで頬を赤らめながら、それぞれのコーヒーをすすった。


 何かね……これでも付き合っていないって、どこの青春マンガだろうね。


「いろいろと迷惑をかけた」

「いえ」

「親御さんも心配されているだろうから、気をつけて帰ってね」

「はい」

「タクシーを呼ぶよ」

「お願いします」


 お互いに、あと一歩を踏むべきかどうか、きっと決断ができないでいる。

 ただ甘えだと解っていても、私はこの距離がとても居心地が良かった。

 彼にとってはどうか、私には解らないが……同じであって欲しいと願った。





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