クリスマス 2
……。
…………。
朝が来た。
自分の家。自分の部屋。
そして、自分の布団。
ここまではいい。
同じ布団の中に圭吾がいる……。
えーっと、記憶をたどってみよう。
確か、勝負は引き分けたのだ。
お互いにお腹が膨れて、もう入らなくなって、引き分けで了承したのだ。
ビールじゃあ、アルコール度数が低いよね、とか何とか言いながら。
それで私の車を代行で運転してもらって……。
そのあたりから記憶が曖昧だ。
いやべつに私も服を着ているし、彼も服を着ているから、何かあったわけではないのは解るが、一体何がどうした。
私がひとり布団の上で考える人になっていたら、圭吾も目が覚めたようだ。
すこし眠たげに目を開けて、ゆっくりと身体を起こす。
イケメンは寝ぼけていても絵になるね。
「あっ、あかりさん……おはようございます」
「うん、おはよう……すまない。状況が把握できない」
「あっ、そうですね、えーと。どこまで憶えていますか?」
「車に乗ったあたりまでかな?」
「あーなるほど。そこからですね」
圭吾も布団に座って話し始めようとしたが、ちょっと部屋が寒い。
なにはともあれ部屋の暖房を強くして、目覚めのためのコーヒーを淹れることにした。
ガスファンヒーターの設定を変更し、ネスプレッソの機械の電源を入れて、温かなコーヒーをふたつ用意する。
そこまでの過程で、私の心もすこし落ち着いてきた。
何もなかったと思うが、朝チュン、の経験のない私としてはどうしても不安がつのる。
「……はい。心の準備ができたので、教えて下さい」
「はい。いつものようにあかりさんの車に代行を呼んで運転してもらい、佐々木さんを送り届けました」
「うんうん」
「その後、いつもなら私の家なのですが、不安だったのでここに先に来てもらいました。いざとなったら歩いて帰ろうと」
「なるほど」
「あかりさんも良い感じに酔いつぶれ始めていたので、肩を貸して部屋まで連れて行って」
「うん」
「暖房をつけ、布団の上に転がし」
「うん」
「さて帰ろうかな、というところで『寝つくまでここにいろ』と」
Oh…
「…………続けてくれ」
「ベッドのかたわらにいたのですが、逃げないように袖をつかまれていまして」
「……ああ……読めた」
「寝ても離してくれなくて、私も睡魔と寒さに負けて……」
「……解った。よく解った」
恥ずかしい……まるで子供だ。
酔わせて本音を吐かせる予定が、私のほうがやってしまったのね。
私はすみやかに土下座した。
「私が悪かった」
「いえいえ、顔を上げてください。私の方こそ、変な噂が立ってしまったらごめんなさい」
圭吾も一緒になって土下座してくれた。
なんかもう、優しいな。
「いや、そのぐらいはまあいいよ。私が甘え過ぎだな……本当に悪かった」
「いえ、こちらこそ」
「……で、胸をもんだのか?」
「……はい?」
「いや、触りたそうだったから」
「……触っていませんよ」
「どうせ小さいからね」
「そんなこと! ないですよ……」
どう答えても地雷のせいか、最後の方は声が小さくなっていた。
「……その、布団に入らせてもらった時、すり寄ってこられた時はやばかったです」
「やばかった?」
「……理性が……」
「……私に、女を感じた?」
「……それは割といつも」
「……そうなんだ」
ふたりで頬を赤らめながら、それぞれのコーヒーをすすった。
何かね……これでも付き合っていないって、どこの青春マンガだろうね。
「いろいろと迷惑をかけた」
「いえ」
「親御さんも心配されているだろうから、気をつけて帰ってね」
「はい」
「タクシーを呼ぶよ」
「お願いします」
お互いに、あと一歩を踏むべきかどうか、きっと決断ができないでいる。
ただ甘えだと解っていても、私はこの距離がとても居心地が良かった。
彼にとってはどうか、私には解らないが……同じであって欲しいと願った。




