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水の無い川  作者: 京夜
20/31

クリスマス 1


 飲んでばかりではない。

 ではないが、クリスマスの夜は1人者同士で飲もう! ということになった。

 考えてみると、医者になってからクリスマスの晩は飲み会か当直をしていたような気がする。

 おかげで寂しくはないが、結婚適齢期の女性としてこれはどうか、と思わないでもない。



 会場は、八海山泉ビール苑。

 日本酒で有名な八海山の蔵元が、何と地ビールのレストランを作ったという。

 木造の建物で、壁一面に広く窓ガラスが配置されている。

明るい雰囲気で、外の景色もとっても良い、雰囲気の良い店だ。


なのに……。


「あかりさん。今日こそ、どっちがビールをたくさん飲めるのか、はっきりさせましょう」


 と圭吾があおってくる。

 いや、確かに言いだしたのは私だよ。


「図体でかいくせに、私よりも飲めないよね」


 って、先に煽ったのは私だよ。

 でも、クリスマスイヴ。外は雪景色の雰囲気の良いレストランで飲み比べって……。


「あかり先生、がんばってー」


 彼氏が夜勤で今日もご一緒、私の嫁「佐々木さん」もすでに出来上がっているかのように楽しそうだ。

 彼女、酔っ払うとほんのり赤くなって、異様に色っぽいんだよね。

 応援されると、ついつい頑張ってしまうよ……。


「……女に二言はない。勝負は何杯飲めるか。トイレはいいけど、吐いたら負け。つぶれても負け。ギブアップの自己申告あり」

「それでいきましょう。つまみは適宜自分のペースで」


 圭吾は、図体が大きいだけではない。

 いつも、酔っ払う私の保護をしてくれたり、家まで送ってくれたりしているので、強いとは思うのだが、そんなに飲むこともない。

 いつも笑顔で冷静、というイメージと言うか。

 いつかつぶれるまで飲まして、本音を聞いてみたい、とは常々思っていたのだ。


 雰囲気の良いレストランではあるが、どちらかといえばビアホールのような喧騒もあり、少しぐらい騒いでもまったく問題がないのが幸いだった。

 アルトとかピルスナーなどの味の違うビールを頼んでいきながら、順調に杯を重ねていった。


「クリスマスなのに、飲みに付き合ってくれてありがとうねー」


 私としての本音であり、ちょっとした圭吾への軽いジャブを放つ。


「いやいや俺も1人でいるより、楽しいです」

「私も1人はいやー。今日は嬉しかったよー」


 と圭吾と佐々木さん。

 それにしても圭吾はイケメンのくせに女の影を、この一年聞いたことがない。

 男が趣味ということも無さそうだが、それにしてもそれまでの遍歴もあまり噂に聞いたことない。


「圭吾は、今まで女性とお付き合いしたことはあるの?」

「俺ですか。ないこともないですが、こんな田舎だと出会いが少なくて」

「やっぱりあるんだ。なんで別れたの?」

「……今日はきますね……何でなんでしょうね。たぶん俺があまり積極的でなかったからかな」

「そうなんだ。意外だ」


 私はソーセージにかぶりつき、ビールを飲む。この組み合わせって最強だよね。

 肉が今ひとつ身体につかないけど。


「いやまあ、あかりさんは放っておけないというか、危ないというか……。いや真面目に外で寝たら凍死しますよ」

「あったねー、そんなことも」


 そう、以前飲みすぎて道路で寝てしまったのだ。

 担いで、家まで送ってもらったらしいが、私に記憶はない。


「先生、そんなことあったの?」

「あったんだよ。記憶にないけど」

「記憶にないの? 送り狼された?」

「ん? 圭吾に? ないと思うけど」


 佐々木さんが、圭吾をジト目で睨む。


「ヘタレだー」

「うるさい。襲ったら犯罪でしょう」

「見た目の問題か、同意のない性交渉の問題か、念のため確認をしたいな」

「……どちらもでしょう」

「私は成人してるって!」


 やっぱり大人の色香は一年経っても出ていないか。


「そんなに、私って子供っぽい?」

「子供っぽいときと、大人っぽいときがありますね」

「そうそう。患者さんや家族と話している先生って、凄く落ち着いた大人に見えます」

「……落ち着いた大人だからね」

「落ち着いて……いますかね」

「……そこはあまり自信ないかな」


 ここはピザも美味しいんだ。

 形勢が不利になると、私は食い気や飲み気に走る。

 まあ、そんなところが子供っぽいのかな。


「でも先生、少しおっぱいが大きくなりません?」

「巨乳さんに言われても嬉しくない」

「いやだって」


 佐々木さんがおもむろに、両手でおっぱいを触ってきた。


「ほらっ」


 私ではなく、圭吾が軽くビールを吹き出す。


「ほらっ、じゃないって。……本当にささやかにね。ささやかに増えた」


 私もまさかこの歳で大きくなるとは思っていなかったが……まあ少し体重も増えたけれど。何もかもが美味しいし、お酒もうまいから、仕方ない。

 そう、仕方ないのだ。


「ほら、圭吾くんも触ってみてよ」

「何を言っているんだ。君は」

「こんな些細なもの、触っても嬉しくないでしょ」

「……いや、そんなことは……」


 圭吾は小さな声でつぶやく。

 うん、珍しく耳まで真っ赤だ。


「そっかー、こんなものでも触ってみたいんだ」


 私は自分で自分の胸を触る。今まで、意識したことも、役に立ったこともないなぁ。


「……あかりさん。飲みましょう」

「おぉ!」


 今日は飲むよ!

 今度こそはつぶしてやる!




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