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水の無い川  作者: 京夜
18/31

忘年会 2



 舞台の出し物は、ほとんどは劇か歌か。

 たまに、どうやら恒例のかくし芸をやる人がいたりする。

 私もいつの間にか、この病院で働く人の大半は知り合いとなってしまった。

 だから、とってもその舞台を楽しめた。


「でも自分の番となるとなぁ……」

「そろそろですね。用意しましょう」

「ふぁい……」


 私達は用意のために別室に向かった。


 やると決めたからには真剣にやる。

 楽しんでもらうために全力を尽くす。


 そう考えているが、心が折れそうになるよ。


「先生、やっぱり肌がきれー。普段もっとお化粧しないの?」

「ツインテール似合いすぎ。先生、これは反則」

「服、服。みんなで隠すから着替えて!」


 看護師の女の子たちが寄ってたかって私の用意を進めていく。


 何をやるかって?

 解るだろ。


 ツインテールにして、ランドセルを背負って「マル・マル・モリ・モリ!」だよ。

芦田愛菜ちゃんだよ!

28歳に何やらせているんだよ!


「先生、ランドセル違和感なさすぎ」

「可愛い!!」

「うっさい!!」


 心の何かがガリガリ削られている感触がする。

 最後まで心が持つか、あるいは明日になって正気でいられるか、自信がなくなってきた。


「先生っ! 用意できましか? そろそろ出番…………大変よく似合ってますよ」

「圭吾、言うな」

「いや本当に」

「……今は何も言わないで。お願い」


 ちなみにお相手の福ちゃんは、長谷部さんの息子さん。本当の小学生だ。

 横に並んでも、身長が同じだったりして……。


「あかりちゃん。よろしくね」

「……よろしく」


 クラスメートと勘違いしてないか。

 こちとら、倍以上生きてるって!


「先生、出番です! よろしくお願いします!」

「ああ、もう行ってやる!」


 舞台に出ると、歓声に、カメラのフラッシュに、大変なことになっていた。

 狂わんばかりの騒ぎ。何だこのテンションは。


 わずかにしか聞こえない、バックミュージックに従って、一生懸命おぼえた踊りを踊っていく。

 終始笑顔を保ったが、引きつっていただけとも言える。


 心のなかでは、「すべての画像と動画を消してやる……」と心のなかで繰り返していた。


 えぇぃ! 盛り上がりすぎだ! 何がそんなに楽しい!


「先生! 可愛い!」

「似合いすぎ!」


 こらっ、そこっ! 腹を抱えて笑うな!


 あーーー、もう!


 私の心とは裏腹に、私の芸は大盛況のなか幕を閉じた。



 舞台が終わった私は、部屋の片隅で体育座りをしていじけていた。


「……死にたい」

「先生、最高でした。ほらいじけてないで、飲んで笑い話にしましょう!」

「……明日起きた時に、うつになりそう」

「その時は、明日も飲みましょう!」

「私も付き合いますよー!」

「…………あー、解った! 飲もう!」


 そうだな。

 まさかこの年になって、こんな馬鹿騒ぎができるとは思わなかった。

 それはそれで、楽しい。

 みんなが愛しい。


 私は夜が明けるまで、一緒に飲み明かした。



 翌朝、落ち込むことはなかったが、二日酔いには苦しんだよ……。



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