忘年会 1
10月ごろより、病院の忘年会の話が出始めた。
ずいぶん早い話題だなぁ、と思ったがどうも「出し物」が恒例らしい。
その練習のために、毎年早めに動き始めていると。
どれだけ力が入っているんだ……。
「あかり先生。先生は、医局で出ます? 病棟で出ます? 外来で出ます?」
「出ることは確定しているのね。私の意見はどこらへんに反映されているのかな」
圭吾くんも、病院では「あかり先生」と呼んでいる。とはいえ、別に特別でもなく、けっこう最近はこう呼ばれる。中には「あーちゃん先生」とか、「ありちゃん」とかある。まあ、好きに呼んでくれたらいいさ。
「だいたい今まではどこから出ていることが多いの?」
「そうですね。病棟の看護師さんに手伝ってもらいながら、個人で出ている先生が多いかな」
「あー、解る。人が多いから、頼みやすいかな」
「そうですね。私達がお手伝いしてもいいですよ」
「……どちらに頼むのがより被害が少ないのか、悩むね」
「どっちも、どっちだと思います」
圭吾くんは、いつものイケメンスマイルで笑ってくれた。
結果として、圭吾くんや佐々木さんなど、いつもの仲良しメンバーがメインとなって手伝ってくれて、個人で出し物をすることとなった。
実は医師で出るのは少数派だと後で知らされ、
「やっぱりやめるー! 騙された!」
と言ったが、みんなニコニコしながら、話を進めていく。
拒否権はないらしい。
「みんな先生の姿を楽しみにしているんです。お願いします」
圭吾くんや佐々木さんにそう言われると、断りきれない。
結局、私はお人好しなんだと思う。
……そんなこんなで練習を重ね、忘年会当日。
田舎の忘年会を甘く見ていたよ。
参加者が200名以上……300はいないよね。
当直している人たち以外はほとんど来ているの? 何この仲良し集団。
あっ、お祭り好き……年に一回しかないから、気合が入る。
そうですか。
「よくこんな大広間があったね」
この人数が収容できる、畳の間。しかもちゃんと、舞台まである。
「この規模のところが2箇所あるんです。交互に利用しています」
「もう一つあるんだ。すごいね」
かろうじて院長先生のありがたい……かな? なんか「とにかくみんな飲めや!」とか言っていたような気がするが、それが終わったらもう大騒ぎだ。
話しているのか、飲んでいるのか、もうどんどん人が移動していて、何が何だか。
「先生! 飲んでる?」
「あっ、看護主任さん。飲んでますよ。今年はお世話になりました」
「こちらこそ! 来年もぜひ一緒にやりましょうね!」
いつもは、もっと「きりっ」とした人なんだけど、いきなりハイテンション。
「先生、このノリについていくには、飲むしかありません。どうせ飲まないとやってられないでしょ。出し物」
いつのまにか、圭吾くんが近くに来ていた。
守ってくれるかと思ったら、煽りに来たのね。
まあ、その通りだけど。
「確かに、そうかもね。飲むか」
「いつも思うけど、その小さい体のどこにお酒が入っていくんですか?」
「胃袋に決まっているだろう」
「年齢規制大丈夫ですよね」
「いつから28歳は未成年になった」
もう先生やら看護師さんやら、理学療法士さんや検査の人まで。
どんどん美味しそうなお酒をついでいくが、まともに受けていたら、たぶん潰れる。
「圭吾―、助けろー」
「了解です。こっちでゆっくり飲みましょう」
「だから、もう飲まないって」
「烏龍茶用意しました」
「でかした」
舞台ほど近いところに連れて行かれて、そこでようやくひと心地ついた。
どうも、出し物が多いためか、舞台近くはむしろ見る人や用意する人ばかりで、そんなに絡まれることはないようだ。
「先生の出番はまだ先ですから、ゆっくり見ましょう」
「そうだね」
そう言って、二人で並んで座った。
あらためて、不思議な関係だな、と思う。
最初は不慣れな私の案内役、と思っていたけれど、もうすっかりその域を超えている。
一部では付き合っていると思われているようだが、お互いにそれは否定している。
居心地がいいことは否定しない。つい頼ってしまうことも事実だ。
ただ、私にはまだ恋や愛はよく解らない。
28歳にもなって、と言われそうだが、事実なんだからしょうがない。
仕事が忙しいし、楽しいというのあるかも知れない。
彼は私のことを好きなのだろうか。
そうかも知れない。
でも、自分の容姿と年齢を考えると、考えすぎだろうとも思う。
実年齢は年上のくせに、並ぶとロリコンと言われてしまう。
そこに、「女」として見てもらっている要素はあるのか、はなはだ怪しい。
少なくとも友達としては居心地が良いし、とても仲がいいと思う。
いまは、たぶん、それでいい。




