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水の無い川  作者: 京夜
17/31

忘年会 1


 10月ごろより、病院の忘年会の話が出始めた。

 ずいぶん早い話題だなぁ、と思ったがどうも「出し物」が恒例らしい。

 その練習のために、毎年早めに動き始めていると。

 どれだけ力が入っているんだ……。


「あかり先生。先生は、医局で出ます? 病棟で出ます? 外来で出ます?」

「出ることは確定しているのね。私の意見はどこらへんに反映されているのかな」


 圭吾くんも、病院では「あかり先生」と呼んでいる。とはいえ、別に特別でもなく、けっこう最近はこう呼ばれる。中には「あーちゃん先生」とか、「ありちゃん」とかある。まあ、好きに呼んでくれたらいいさ。


「だいたい今まではどこから出ていることが多いの?」

「そうですね。病棟の看護師さんに手伝ってもらいながら、個人で出ている先生が多いかな」

「あー、解る。人が多いから、頼みやすいかな」

「そうですね。私達がお手伝いしてもいいですよ」

「……どちらに頼むのがより被害が少ないのか、悩むね」

「どっちも、どっちだと思います」


 圭吾くんは、いつものイケメンスマイルで笑ってくれた。


 結果として、圭吾くんや佐々木さんなど、いつもの仲良しメンバーがメインとなって手伝ってくれて、個人で出し物をすることとなった。

 実は医師で出るのは少数派だと後で知らされ、


「やっぱりやめるー! 騙された!」


 と言ったが、みんなニコニコしながら、話を進めていく。

 拒否権はないらしい。


「みんな先生の姿を楽しみにしているんです。お願いします」


 圭吾くんや佐々木さんにそう言われると、断りきれない。

 結局、私はお人好しなんだと思う。



 ……そんなこんなで練習を重ね、忘年会当日。


 田舎の忘年会を甘く見ていたよ。

 参加者が200名以上……300はいないよね。

 当直している人たち以外はほとんど来ているの? 何この仲良し集団。

 あっ、お祭り好き……年に一回しかないから、気合が入る。

 そうですか。


「よくこんな大広間があったね」


 この人数が収容できる、畳の間。しかもちゃんと、舞台まである。


「この規模のところが2箇所あるんです。交互に利用しています」

「もう一つあるんだ。すごいね」


 かろうじて院長先生のありがたい……かな? なんか「とにかくみんな飲めや!」とか言っていたような気がするが、それが終わったらもう大騒ぎだ。

 話しているのか、飲んでいるのか、もうどんどん人が移動していて、何が何だか。


「先生! 飲んでる?」

「あっ、看護主任さん。飲んでますよ。今年はお世話になりました」

「こちらこそ! 来年もぜひ一緒にやりましょうね!」


 いつもは、もっと「きりっ」とした人なんだけど、いきなりハイテンション。


「先生、このノリについていくには、飲むしかありません。どうせ飲まないとやってられないでしょ。出し物」


 いつのまにか、圭吾くんが近くに来ていた。

 守ってくれるかと思ったら、煽りに来たのね。

 まあ、その通りだけど。


「確かに、そうかもね。飲むか」

「いつも思うけど、その小さい体のどこにお酒が入っていくんですか?」

「胃袋に決まっているだろう」

「年齢規制大丈夫ですよね」

「いつから28歳は未成年になった」


 もう先生やら看護師さんやら、理学療法士さんや検査の人まで。

 どんどん美味しそうなお酒をついでいくが、まともに受けていたら、たぶん潰れる。


「圭吾―、助けろー」

「了解です。こっちでゆっくり飲みましょう」

「だから、もう飲まないって」

「烏龍茶用意しました」

「でかした」


 舞台ほど近いところに連れて行かれて、そこでようやくひと心地ついた。

 どうも、出し物が多いためか、舞台近くはむしろ見る人や用意する人ばかりで、そんなに絡まれることはないようだ。


「先生の出番はまだ先ですから、ゆっくり見ましょう」

「そうだね」


 そう言って、二人で並んで座った。

 あらためて、不思議な関係だな、と思う。

 最初は不慣れな私の案内役、と思っていたけれど、もうすっかりその域を超えている。

 一部では付き合っていると思われているようだが、お互いにそれは否定している。

 居心地がいいことは否定しない。つい頼ってしまうことも事実だ。

 ただ、私にはまだ恋や愛はよく解らない。

 28歳にもなって、と言われそうだが、事実なんだからしょうがない。

 仕事が忙しいし、楽しいというのあるかも知れない。


 彼は私のことを好きなのだろうか。

 そうかも知れない。

 でも、自分の容姿と年齢を考えると、考えすぎだろうとも思う。

 実年齢は年上のくせに、並ぶとロリコンと言われてしまう。

 そこに、「女」として見てもらっている要素はあるのか、はなはだ怪しい。


 少なくとも友達としては居心地が良いし、とても仲がいいと思う。

 いまは、たぶん、それでいい。



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