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水の無い川  作者: 京夜
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骨と出産


 医師は変わった人が多いというのは、残念ながら事実だと思う。

 やはり一芸に秀でる人というのは、何かが欠けているのは仕方のないことだとは思う。


 この病院の整形外科の部長さんも、変わっている。私はとても好きなのだが。


「3度の飯より骨が好き」


 本人がそう言ったかは解らないが、その先生を評して表現される言葉だ。

 整形外科として素晴らしいことであると思うし、患者さんからも慕われているが……。


 まず、時間のほとんどを病院で過ごされている。

 朝は早くに来て、病棟を全部回って指示を出していく。

 午前は外来をこなすが、いつも終わるのは午後2-3時で、時に夕方までかかったりする。

その後に手術を行う。

この手術がまた全ての手術に顔を出しているので、終わるのが夜の9時とか10時になる。

 それから病棟を回診する。

 患者さんが寝ていても、起こして診察するらしい。

 家に帰っているかどうかも解らないし、土日も関係がない。


 当然、結婚していないし、自分の恰好も気にすることがない。

 ……実は患者さんのことも、骨以外は見ていないときもある……。

 まあそれでも、骨のことは熱心に見るし、当然手術も上手なので人気と信頼は厚い。


 私が同じことをやれと言われても、たぶんできないと思う。

 だからこそ尊敬をする。

 もし自分が骨折をしたら、この先生にかかろうとは思う。


 ただ、その先生についている部下の先生は少しばかり同情してしまう。

 事前に情報があるのか、意欲の高い人が来てくれている様子であるが、想像と現実とは違うようで、だいたい1-2年で燃え尽きて帰ってしまう……。


 医師の確保に奔走する院長先生には同情するが、この病院が成り立っている、彼は間違いない柱のひとりだと思う。



 もう一人、いや二人の産婦人科の先生。

 二人とも40前後の若めの先生で、体型まで似ていてちょっと太めのとても明るい先生。

 科が違うのに、しょっちゅう


「飲みに行こう!」


 と声をかけてくれる、仲の良い先生だ。


 ただ彼らから、地域の産婦人科医の過酷さを教えられた。


 365日、24時間。生じる出産をすべて二人で診ているのだ。

 つまり、二人のうちどちらかが、夜も呼ばれる可能性があってすぐに出られるように待機している。

 当然、出産であるから、誰もが母子ともに健全に産まれてくるものと思っている。

つまり、何かあったら訴訟になる。

その緊張感を、ほぼ一時も忘れられずに生活をしないといけないのだ。


さっきの骨の先生ではないが、これも労働としてどうか。

 あきらかにブラック企業と言えると思う。


 飲み会の時に、こんエピソードを教えてくれた。


「この前、手術が終わって夜の10時頃に疲れ切って家に帰ったんだ。それで、食事してお風呂に入って、ベッドに入って寝入りかけたところに病院から電話がかかってきてね……俺さ、その時はどうしても行きたくなくて」

「ウンウン、解ります」

「つい、ね、『……おかけになった電話番号は現在使われておりません』って言っちゃったんだ」


 と言って、彼は笑ったのだが、私は笑えなかった。

 いや、それは確かに行くのつらいよね……。


「でも、そうしたら電話口でさー、看護師さん泣き出しちゃってさ……ぐす、ぐす、って……」


 電話した看護さんも解っていたのだ。

 先生がどれだけ働いてようやく帰ったばかりだということを。

でも産気づいてしまって、どうしても呼ばないといけない。


「俺、思わず、『あっ、ごめん、ごめん。今から行きます!』って言って、飛び起きちゃったよ」


 と彼はまた明るく大笑いした。


 優しい先生なのだ。


 地域医療って、こうして支えられている、と私はあらためて深く、深く感じた。


 こんな先生たちが、これからも地域を支えてくれることを、深く願った。



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